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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第六章 それぞれの過去に
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TSヒロイン・お互いの気持ち

2019/04/29・5/1に投稿した『娘』『奇跡より、当たり前』の2話を結合し、表現を中心に改稿しました。

 ――蜃気楼の塔 59階層――


 オレ達はカーズさんの転移魔法で、本来ならソウルドレイクが居るはずだった塔の中の荒野に転移した。

 理由は……


「があ……ぁああぁぁ……っ!!」


 充血した目、全身に浮き出た血管、発狂するんじゃないかと思うほど繰り返される絶叫。

 そして、アル君の中から決壊したダムの如く溢れ出す濃密な魔素。

 それは白と黒の色を纏い、お互いの色が触れあう度に爆発を起こしていた。


「凄まじい気だな……」

「気じゃ無くて魔素」

「あ、ああ、魔素か。あれほどの力があの狭い迷宮内で暴れていたら、えらい事になっていたな」


 そう、58階からの転移の理由はそれだ。

 いま無意識に振り回しているそれは、魔王化したアル君をさえも圧倒的に凌ぐ力。

 それを制御出来ずに、苦しみのたうち回る今のアル君は、ある意味ソウルドレイクよりも危険な存在になっていた。


「もう、すでに一晩は経つ。あとどれぐらいかかるだろうな」

「わかんない……わかんないけど。あの強がりで見栄っ張りなアル君だもん。そんな時間なんか掛けて戻ってはこないよ」

「……そうか。なぁ、父さんがアルフレッド君をしばらく見ていてあげるから少し休んで来たらどうだ? あのソウルドレイク(ばけもの)と戦って、良も疲労で限界だろ」

「大丈夫、疲れてるのはアル君だって一緒だよ」

「魔法少女に変身してるんだ。しかも疲れるのがお約束な多段変身まで」

「それは忘れろ! 良いから、父さんこそ休んで。もう若くないんだから」

「お、お父さんまだアラフォーだい! 漢字で荒ぶるを四個書いてアラフォーッ!! まだまだ元気!!」

「父さん、五月蠅い」

「……はい」

「身体持て余してるなら、カーズさんと戦ってくれば?」

「二度はごめんだ」

「二度?」

「すでに一度ボコボコにされた」

「……あっそ。いつの間に。それなら、モンジロウの散歩お願い」

「モンジロウならあの岩からアルフレッド君を見守ってるよ」


 父さんが示すそこは、辺りを一望出来る小高い岩山の上。

 幼女が腕組みしている絵面はあれだが、あのりりしい眼差しはアル君に危険が及ばないか辺りを監視しているのだろう。

 幼女の姿になって忘れがちだけど、モンジロウは柴犬だ。

 オレ達家族の前じゃアホの子だけど、警戒心が強く、基本他人にはなびかない。

 そんなモンジロウがアル君を心配して廻りを警戒までしてくれている。


 ねぇアル君……

 早く目を覚ましてよ。

 キミのこと心配している人が一杯居るよ。

 一人じゃ無いんだよ……

 


 それから、塔の中の荒野に二度目の夜が訪れた。


 もう二晩も苦しみ続けている……


「良、休みなさい。今晩は父さんが見ていてあげるから」

「大丈夫!」

「良! お前まで倒れたら!」

「それでも! アル君が目を覚ます時には隣に居てあげたいんだ……」

「そうか、見守る優しさか。そういう所は綾さんにソックリだな……良はちゃんと女の子だったんだな」

「ん、何か言った?」

「いや、何も。そしたら、父さんはあそこでずっと仁王立ちしているモンジロウにご飯やって寝かしつけてくるから」

「うん、お願い」

「その、あ~、あれだ……」

「何?」

「りょ……あ~、倒れたらアルフレッド君も罪悪感を覚えるからな」


 ん? 何だろう、今の父さんのしどろもどろな感じ。

 ま、良いか。


「ん、わかったよ。倒れない程度に無理するから、お休みなさい」

「お、おう!」


 ??

 何であんなよそよそしかったんだ?


 そんな事を思っていたら、いつの間にか三日目の夜が来た……


「あ、あぁぁぁ……」


 弱々しいアル君の呻き声。

 濁流のように溢れ出ていた魔素も枯渇しかけているのか、アル君の中から感じるのは、枯れかけの川みたいに僅かな力だけ。


「アル君……」


 そっと抱き上げると、全身の水分を出し切ったみたいに汗で濡れている。

 火照っているのか、冷たいのかもわからない。

 一瞬、頭をもたげた『死』の一文字。

 慌てて頭を振る。


 そんなはずはない。

 そんな事あるもんか。


 アル君は絶対に帰ってくる。


 オレは水筒の水を口移しでアル君に飲ませ、自分の膝の上に寝かせる。

 アル君の額に浮かぶ大粒の汗。自分の服の綺麗なところでアル君の額の汗を拭ってあげる。


「早く……帰ってきてよ……」


 ヤバい、泣きそうだ。

 バカか!

 こんな無駄水流すとか、まるでアル君が助からないみたいじゃないか!

 アル君は帰ってくる!

 帰ってくるもん!!


 ……早く、目を覚ましてよ。

 お願い、だよ……

 声を聞かせて、呻き声ばかりじゃ怖いよ……


「アル君、早く、オレの名前呼んで……」


「覚悟は決まった……良ちゃん!!」

 

「あん?」


 誰だよ、アル君以外でオレを馴れ馴れしく呼ぶヤツは。

 オレをそんな呼び方するのは、この世で母さんと姉貴ぐら……いや、もう一人居たな。

 一部でオレのケツを狙っていると噂があった、ツレの悟がオレと二人で居る時だけちゃん付けで呼んでたな。

 

 ありったけの心当たりを思い浮かべると、だが、そこに居たのは父さんだった。


 いや、まぁ、そりゃそうだよな。

 カーズさんは年齢不詳で中性的な声音だ。っていうか、そもそも『ちゃん』付けでは呼ばない。万が一にでも呼ばれようものなら、何か怒らせたんじゃないかとゾッとする。

 あんな『たらしイケボ』(父さんは中身は残念過ぎるほどに残念だが、無駄にイケボだ。男の時から甲高い声だったオレとは大違い)、父さんしか居ないのだ。


 って言うか、じゃあ、何で今まで呼び捨てだった父さんが突然オレを『ちゃん』付けで呼ぶんだ?


 そんな事を考えていると、よく見りゃそこには目尻に涙をためた『鬱陶しいモード』の父さんが居た。


「え……っと、どうしたの?」

「いや、もう三日も寝てないから……父さん心配で心配で……」

「大丈夫だよ……」

「いや、大丈夫なはずはない!」

「勝手に断言しないで! 大丈夫だから、アル君が戦ってるんだから、オレも頑張れるから!」

「うぅ……誰に似てそんなに強情なんだか……」

「父さんだと思うよ」

「と、父さん? 父さん、竹のようにしなやかで柳のように柔軟な男!」

「いや、まぁ……そう言う一面もあるけどさ。確かに父さん無駄な言動も山ほど有るけど、オレ達家族のためならアホみたいに強情……強情って言うか、凶暴じゃん? 昔、姉貴が夜中暴走族のバイクの音で泣いたら、『オレの愛ちゃん泣かすな』とか叫んで、バイク運転してるアホにドロップキックしてたよね」

「そのような記憶はございません」

「オレ、家の二階の窓から見てたよ。ああ、父さんは家族のためなら戦う人なんだなって子供ながらに思ったさ。まぁ、ちょっと……あ、いや、ちょっとどころじゃなくやり方は間違っていたかも知れないけど」

「そうか、良ちゃんは父さんの事そう思っていてくれたのか……」

「いや、まぁ父さんは残念な所は多いけど、それなりに尊敬してる……って言うか、さっきからその『ちゃん』付け何さ?」

「娘よ!!」

「ぐぇっ!?」


 ????

 一体何事ですか?

 突然抱きしめられたのですが。

 って言うか、恐らくこっちに来てからは剃っていないだろう無精髭がジョリジョリして痛い。

 あと、膝枕で寝てるアル君が転がり落ちたら困るから離せ!

 …………ん?

 あれ?

 え?

 って言うか、今、娘よって呼んだ?

 どう言うこと!?


「父さん、良ちゃんが寝不足で倒れないか心配なんだよ-!!」

「わかった、わかったから……鬱陶しい……」

「鬱陶しいって言うなぁ……嫁ぎ先の夫が心配なのもわかるが、父親としては娘の身を案じてだなぁ……」

「えっと……ん? さっきから……」

「娘よっ!!」

「ぐぇっ!」


 あ、あぁ、そうか……

 何が切っ掛けかはわからないけど、どうやら父さんの中でオレは息子から娘へとジョブチェンジしたらしい。

 いや、まぁ息子の頃から平等に可愛がって貰ってた記憶はあるけどさ、ある程度大きくなってからはこんなウザ絡みはさすがにされた事がない。

 家族ラブな父さんだけど、意外にも父さんの座右の銘は『男は理性と教養有る野生児であれ』とか言う訳のわからないモノがあり、それが教育方針でもあったからだ。

 ……まぁ、意外でも何でも無いか。

 それって、まんま父さんだもんな。

 でもそうか、姉貴がたまに困ったみたいに父さんを持て余していた心境が今ならわかる。

 と言うか、姉貴がオレにかまうやり方の父親バージョンか。


 ……どっちにしろウザいな。


「邪魔」

「がが~ん! たった二文字での拒絶。父親って悲しい存在だなぁ……」

「『がが~ん』とかオノマトペを叫ぶ暇があるなら離してくれ」

「良ちゃんにパパの愛が伝わらない……」

「わかった、わかったからパパとか言うな」


 いつも扱いにくい父さんだけど、今日はまた一段と扱いにくい。


 ……ん?


 何だろ、このウザ絡みの扱いにくさ。

 自分もアル君にやってそうで一瞬寒気がしたぞ。

 

 ……いやいや、気のせいだ。

 オレ、こんな絡み方アル君にしてないよ、ね? ね!?


「父さんの良ちゃんが倒れないか心配なんだよ!」

「いやいや、何時から『父さんの良ちゃん』になったのさ!」


 やだぞ、そんな『TSエルフ転生したら、母親に瓜二つなオレは父親に求婚されました』とか……

 どこぞの有料エロ同人販売サイトとかに有りそうな展開は望んでないからな。

 あ、い、一応言っておくが、オ、オレはそんなサイトは、そんなに(・・・・)徘徊したこと無いからな!


 ※この作品のメインヒロイン(笑)は18歳未満です。向こうの世界では健全なサイトしか徘徊しておりません。あしからず……


 ふ……そう言う事だから安心してくれ。

 ちな、こっちじゃ15歳で成人だからな!

 怒られたら、こっちの世界に来て18歳になったとか修正するからな!


 って、オレは誰に説明してんだ?


「と、とりあえず、父さんの良じゃないから」

「じゃ、じゃあ誰の良ちゃんなんだ!?」

「誰のって……」


「リョウはボクの、ボクだけのリョウだよ……」


「え……?」


 不意に聞こえたその声は、オレが何よりも待ち望んでいた人の声。

 オレは視線を落とすと、膝の上で寝ていたアル君が、憔悴こそしているけど、いつもの優しい笑顔で微笑みかけていた。



 アル君はベッドの上で、静かに眠っていた。

 あの一瞬目が覚めたと思ったら、崩れ落ちるみたいにしてまた意識を失い眠りについてしまった。


 自分自身との壮絶な戦い。

 それは、ブルーソウルの魂を受け入れた事だけじゃない。


 アル君が抱え続けた闇……


 それは他人からすればくだらないモノなのかも知れない。、男のくだらない見栄だったのかも知れない……あるいは、大人からすればガキのただの独りよがり……と、言われるのかもしれない。

 でも、他人からすればつまらないモノかも知れないが、アルフレッドという孤独な少年にはそれが全てだったんだ。


 それが、全部だった……


 オレと出会う(・・・・・・)までの、全部だったんだ……


 そして、その闇を……

 膨らみ続け何時弾けてもおかしくなかった闇に、針の一刺しをしたのが……オレだった。

 あんなに守り助けてくれて、愛してくれたはずなのに……


「ごめんね、アル君……」


 アル君を取り巻いてきた環境や世情、それらがキャッキャウフフだけが許されるようなものでない事ぐらい、オレだってわかっていたのに。

 わかっていたはずなのに……


 自分だけが苦しんでいたつもりで、アル君を追い詰めてしまった……


「アル君……」


 名前を呼んで握りしめた手。

 同じ歳の頃の自分と比べても、決して大きいとは言えない手。

 だけど、この手はこの世界に生きる人間の未来を変え、亜人の未来を歪め、オレ達の世界で戦争に疲弊した子供達を助けた手だ……


「アル君、早くオレの名前呼んでよ……」


 寝ているアル君の髪を撫でる。


「アル君……ごめんね……」


 頭を抱きしめると、その髪は酷く冷たい汗で濡れていた。

 ギュ……っと、ゆっくり締め付けてくる万力みたいに、オレの心が軋んでいく。

 泣いちゃダメだ、自分のせいなんだから……

 そう、わかっていながら頬が冷たくなるのがわかる。


「アル君……オレ、アル君の事が好きなんだ、大好きなんだよ……誰よりも……」


「愛じゃ無いの?」


「愛してるに決まってるじゃん! 大好きで、愛してて……頭ん中グチャグチャになって訳わからなくぐらい、大切で……」

「……うん。ボクもリョウの事が誰よりも大切なんだって、今さらだけど気が付かされた」

「オレの方がアル君を大切だって、大好きだっておも……え?」


 顔を上げると、そこには、優しく微笑んでくれるアル君が居た。


「アル君……」

「心配かけてごめん」

「ほんと、だよ……目を覚ましたと思ったら、また倒れちゃうから心配したんだよ」

「三日三晩ブルーソウルと戦ってたからね。疲れ過ぎて、眠っちゃったよ」

「う~、そんな簡単に眠ったとか言うな……遅いよ。寝ぼすけ過ぎるじゃん……」

「ごめん、これでも急いで目を覚ましたつもりなんだけどさ、竜王のヤツがえらく執念深くてね。あの執念深さはドラゴンって言うより蛇だね」


 何時もの軽口みたいなアル君のノリ。


「完全復活、だね」

「もちろんさ……それで、さ」

「うん……」

「起き抜けにする話じゃないかもだけど……」

「ううん、アル君が話したいこと、ちゃんと受け止めるから。だから、」


 それは、まるで息を合わせたかのように、ハモった瞬間だった。


「「お互いの気持ち、ちゃんと話そう」」

全体改稿中で既存の読者様にはご迷惑をおかけしております。

まもなく新章の準備が終わります、今しばしお待ち頂ければと思います。

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