表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第六章 それぞれの過去に
100/266

TSヒロイン・転生……

2019/04/26・28に投稿した『師の願い』『進化の儀』を結合しました。『進化の儀』の内容はまるごと変わっております。

変わりすぎて誤字や表現にバグがあったらごめんなさい(爆)

 こ、こえぇぇ……

 怖さはわかっていたつもりだけど、ほんの少し怒られただけで辺りの空気がひりついたぞ。

 いくらアル君の事でキレたからって、よくそんな人を殴ったよな……

 ……まぁ、オレの拳の方が痛かったけどさ。


 それはそうと、あの真っ白い氷みたいな炎はなんだ?


「アルフレッド、覚えているか? 私がかつて生きようと思う気持ちは死を覚悟する気持ちより遙かに強いと言ったのを」

「覚えています。『安易なる死など受け入れるな。格好悪くとも生にしがみつけ』、とも教えて頂きました」


 あの尖った性格のアル君が、カーズさんの前では相変わらず借りてきた猫みたいに大人しくなる。

 いや、それも当たり前か。

 尊敬とか怖いとか、全部ひっくるめた感情の上にカーズさんが居るんだもんな。


「そうだ。そして、その言葉には私が考えるもう一つの思いがある」

「先生が考える思い、ですか」

「アルフレッドよ。あの時のお前の覚悟、恋人に命を分け与えるという行為、それは一見すれば尊く美しい、深い愛であろう。だが、あのままお前が死ねば、残された者には孤独と助けられたという後悔だけが残る」

「……はい」

「それはどんなに深い自己犠牲であろうと、独りよがりの愛だ……真に助けたいと願うなら共に歩める道を研鑽しなければならない。いずれ来るであろう、時が導く別れの日まで」

「……」

「お前はあの時、全身を引き裂かれるような痛みの中でよくぞ発狂せずにリョウを救った」

「い、いや、あの……」


 アル君が照れたような視線をオレに向けてくる。

 いや、うん、救ってくれた事には感謝しているし、勿論アル君の愛情を感じています。

 だけど、それを改めて言われると照れもあるし、だけど、それ以上にアル君の寿命を奪ってしまった申し訳なさがある。

 アル君は皆の前で、と言うかオレの前で言われて照れてるんだろうけど、正直、オレは今どんな顔をして良いのかわからない。


「アルフレッド、私にも正直に言えば迷いはあった。お前の深いところに刺さった心の闇が解放される日が来るのか、刺さった棘が抜けた痕を埋める事が出来るのか……穏やかとはほど遠い短な一生であっても、そのまま閉じさせるのがお前にとって最良なのではないのか、と」

「先生……」

「結局、私自身も答えが出せぬままお前達二人を見守り育てる事にした。だがそれは、お前にとっては何よりも愛情と言うものを知った時であり、同時に、何より苦しんだ時でもあったな」

「ボ、ボクは……ボクはッ! ボク、は…………苦しかった、です」


 アル君の言葉が、ズクンと俺に刺さる。

 その苦しみを与えたのは、オレだ……


「すまなかった……本来なら、この老体がお前を何よりも救わねばならんと言うのに、救うという行為から目を背けてしまった」

「違います! 先生が、先生が居て……くれたから……ボクは……」

「アルフレッド……」

「それに、ボクは……何より幸せでした。リョウに愛され、リョウと過ごし、先生に再び教えて貰えた日々は、ボクにとって、今までの人生で一番満たされた時でもありました」

「アル君……」

「アルフレッド……」


 刹那、穏やかな空気を纏った沈黙が流れた。


「……そこに賭けてみるとするか」

「賭け、ですか?」

「アルフレッド、私がかつてお前に守りたいものがあると言ったな。覚えているか?」

「えっと……確か、『残された思いの世界』と『ともがらの最後を』と仰ってたと思います」

「ふふ、相変わらず記憶力が良いな」

「先生の言葉ですから」

「私の言葉、か……言葉は覚えていても、思いはなかなか汲み取ってはくれなかったようだがな」

「せせ、先生! そ、それとこれとは!」

「冗談だ、お前はその年でよく研鑽し頑張っている」

「……ッ!」


 手のひらの上で転がされるように扱われ、真っ赤に染まる。

 うん、諦めた方がいいよ。

 端から勝てる相手じゃ無いのはもうわかってるんだし。

 ……ただ、アル君にあんな表情をさせられるのがカーズさんだけなのは、ちょっと面白くないけどさ。


「ともがらとはかつて私に師事したメルリカとイプシロン、そしてこの変わり果てた我が最後の盟友ブルーソウルの魂だ」


 そう言って、アル君の前にかざした真っ白い炎。

 そうか、全く気が付いてなかったけど、アレはオレが浄化したソウルドレイクの魂だったんだ。


「汚染されたこの魂が浄化される事は最早二度とは無いと思っていた。故に、やがて来る終わりの時まで、魂が朽ち果てるその時まで共に歩み続けるつもりでいた」


 魂が朽ち果てるその時……

 悠久を生きるであろう竜という存在。

 その魂が朽ち果てる時って、果たしてどれほどの時間なのだろう?

 一万年を超えてこの世界のために生き続けた男。

 その男が、かつての盟友のために全てが忘却の彼方に消え去るまでを生きようとする……


 ヤバい、腹立てた相手のはずなのに、やっぱりこの人の話を聞いていると泣きそうになる。

 だけど、アル君と約束したんだ。

 この人の思いを少し知ったぐらいで泣いちゃだめだって。


 チラリと横を見ると、感受性の強い父さんはドヤ顔で腕を組んだまま声を押し殺して号泣していた。

 そして、モンジロウはそんな父さんの腰をポンポンと叩いて慰めていた。


 何か良いコンビだな、あの二人。


「リョウ」

「は、はい! 何でしょうか!」


 突然呼ばれ声がうわずるオレに、カーズさんが優しく微笑んでくれた。

 ?

 なんかやったかな。


「よくブルーソウルの穢れた魂を解放してくれた。感謝するぞ」

「え? あ、いえ! オ、オレは自分のやれる事やっただけです、押忍!」


 何故か緊張して空手部みたいな語尾になってしまった。


「ふふ、謙遜するな。私にさえ出来無かった竜の魂の浄化を成し遂げたのだ。それは、何よりもお前自身の魂の気高さと成長を意味する」

「は、はい……」


 何か、ここまで素直に褒められると照れを通り越して緊張する。

 ぶっちゃけブルーソウルを浄化出来たのも、今は何故か物静かだけど沈黙しているあの変態バカエルフのチートのおかげだからなぁ。


「胸を張るが良い。お前の成長こそがアルフレッドに第二の人生を与える事が出来るのだ」

「え? 俺の成長が?」

「このブルーソウルの魂。これと融合を果たせばアルフレッド、お前は新たなる生を得る可能性がある」

「ボクが、竜皇ブルーソウルと融合? そんな事が出来るのですか!?」

「お前の肉体にはラースタイラントの血が混ざっている。ラースタイラントはブルーソウルと『刻喰らい』の力の余波で産まれた存在だ。お前の肉体はブルーソウルの魂との相性は良いはずだ」


 カーズさんはそう告げると、薄く微笑みブルーソウルの魂をアル君に手渡した。


「冷たくて熱い……」


 燃え盛る白を前に、アル君がポツリと呟く。


「先生、本当にボクが、ボクがこの偉大なる王のソウルを頂いてよろしいのですか?」

「上位の竜種は下位種とはその生態を大きく異にする。繁殖を行わず、永劫を生き、傷ついた肉体は【この世の彼方の時の海】と呼ばれる星の最果てで、傷ついた肉体が癒えるその時まで眠りにつくという」

「【この世の彼方の時の海】……」

「しかし、ブルーソウルは【刻喰らい】との戦いで、その肉体と魂に暗い呪いを刻んでしまった。最早回帰する場所も無く、このままでは人の世の記憶から忘れ去られ星々が眠りにつこうとも永劫を彷徨わねばならぬ身に成り果てた」


 誰に気が付かれる事も無く、誰に振り向いてももらえず、永遠を彷徨う……

 それは、何て残酷な呪いだろう。

 愛した者も、親も、兄弟も、友達さえも失って、終いには視線を向けてくれる者さえ無くなって……


 でも、それってカーズさんも同じなんじゃないのか?

 盟友と呼ばれるブルーソウルとの別れはカーズさんにとって最後の友との別れだ。


「待たせて済まなかったな、友よ」


 ――ずっと解放されないでこの世界を彷徨っている人さ――


 あのイプシとかって自称先祖やメルリカとかって魔女が本当に救いたかったのは、この世界なんかじゃ無くて、この人だったんだろうな……


「恐るべき悪霊となってこの世界に仇なす事を望まず、自らの魂をこの塔に縛り付けたその気高き誇り。やっとだ……やっと取り戻す事が出来た。友よ……その気高き魂を取り戻してくれたこの未来ある若者達に、どうかそなたの加護を授けてあげてほしい」


 カーズさんの厳かな声音に反応したみたいに、白い炎はゴオッと音を立てて燃え盛る。

 冷たくて熱いって言ったアル君の言葉、ここからでもその意味がわかる。


 まるで本物の炎を突きつけられたみたいな熱。

 それとは相反する冷気。


 その二つが混ざり合ったみたいな不可思議な感覚が、まるで俺の魂を直接撫でているみたいだった。


「アルフレッド……喩えこの魂を受け入れようと、一度失われた寿命が戻る事はない。だが、不滅なる魂と同化する事で、お前の命に終わりが訪れた時、お前は竜の加護により傷ついたその魂を復活させる事が出来るであろう……」

「竜の加護……」

「竜王の力とは人の身を遙かに超える力だ。それは同時に、お前の中で不安定に揺れる魔王の悪しき力をも浄化するだろう。それはある意味で今までのアルフレッドとは違うアルフレッドへの進化となる」

「違う、ボクへの進化……」


 違うアル君……

 その言葉に、オレの心臓が小さな悲鳴を上げた。


「崩壊を目前としているお前の肉体に新たな命を吹き込むとはそう言う事だ。それは或いは転生の奇跡とも言える力……」

「転生……せ、先生、それじゃボクは……ボクのままで、居られるんですか?」


 転生――

 近頃の日本だとありふれた言葉だけど、それって本当に起きるものなのか?

 前世の自分とは違う自分、記憶は? 思いは? 声は?

 全てを失ったら、それは最早赤の他人じゃないのか?


 何時の間にか噛みしめていた下唇。

 口の中に、苦い鉄の味が広がる……


「それは誰にもわからぬ。生まれ変わる命が何時花開くのか、その時、隣に愛する者が居るのか、それさえもな。遙か彼方の星々の瞬きがこの地に届くほどの時がかかるかも知れぬし、或いは、生まれた幼子が大人になるほどの時なのかも知れぬし……花が蕾を付け枯れ落ちるまでの時かも知れぬ」


 それを、奇跡と呼ぶにはあまりに残酷な選択肢……


「それでも、それでも……万が一はその奇跡の中にあるんですよね?」

「空から降り注ぐ流れ星の小さな一かけをその手に掴み取るほどの奇跡だが……未来を変え奇跡を起こすのは、いかなる時でも諦めぬ人の心だ」


 目の前が暗闇に染まりそうなほどの絶望と沈黙。


 だけど、だけどアル君は力強く笑うとその白い炎を抱きしめた。


「奇跡……起こしてみせます」

「アル君……」

「リョウ、奇跡なんてあやふやな物を信じるようなボクじゃない。だけどさ、必ず、キミとの未来は掴んでみせるから……」

「……うん、うん」


 言葉なんか続ける事は出来なくて、オレはただ声を絞り出して頷いた。


「さあアルフレッド、覚悟は良いか? 竜王の魂を受け入れる事は今までの自分とは違う進化だ。リョウに寿命を分け与えた時のように、恐ろしい激痛がお前を襲うだろ。それがどれほど続くかは……お前次第だ」

「あの痛みが……」


 アル君の顔がサッと青ざめる。

 オレに命を譲渡した時の拷問のような苦痛。

 アル君の記憶を見たから僅かだけど知っている。

 オレのせいで、アル君をまたあんな苦痛に晒さないといけないというのか……


「アルくん……」

「リョウ、そんな顔しないで。ちゃちゃっとブルーソウルと仲良くなって帰ってくるからさ」


 自信に満ち溢れた笑顔。

 あの嵐のような苦痛を知っているアル君が出来るはずも無い笑顔。


 ……ほんと、君はどこまでいっても極上の強がりだよね。

 だけど、それが……


 それこそが、君だから……


 オレはいっぱいの思いを込めてアル君にお願いする。

 

「うん、アル君といっぱい話したい事が……お礼を言いたい事や謝りたい事がいっぱい、いっぱいあるから! だから……早く、早く戻ってきてね!」

「うん」


「始めるぞ……」

「はい!」

「うむ、魂と心を解放せよ。恐れるな、信じよ。ブルーソウルはお前の味方だ」

「お願いします!」


「では、いくぞ……この世で最も気高き竜の王よ! その魂の輝きを今ここに!!」


 目映い光が視界の全てを包み込む。

 それはまるで、世界の全てを包み込む陽光にも似た光。

 やがて光が収束するとともに視界は徐々に回復し、

 そこには――


「あ……」


 まるで何事も無かったみたいに立っているアル君が居た。

 良か……った。


「アル、グェッ!!」


 アル君に駆け寄ろうとしたオレの首根っこを、いつの間にか背後に回っていた父さんに鷲掴みにされた。


「殺す気か!!」

「そんな気は無い!」


 まぁ、『家族命』な父さんがそんなことするとは思っていないが、人を一瞬でも窒息させかけたくせに、その否定方法はいかがなものか……

 ってか、アンタさっきまで号泣してただろ。そのままフェードアウトすれば良いのに。


「父さん、アル君のところに行くの邪魔しないでよ」

「ダメだ!」

「何でさ!」

「良、アルフレッド君への試練はこれからだ……信じて、見守ってあげなさい」

「え?」


 それは、当たり前のことだった。

 何事も無く終わる――


 そんなはずは無かったのである。


「がああぁぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 それは、塔を震わす竜の咆哮にも似た絶叫。


 絶える事の無いその絶叫は、何時終わるとも無く続いたのだった……

今回辺りから徐々の変化が大きくなります。

引き続きお付き合い頂けたなら幸いでございます。


何か要望等ありましたら、コメ欄にでも頂けましたら幸いでございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ