星喰い②
2019/05/20 ストーリー修正中。
2019/06/30 ストーリー再編完了
ーータクミが負けたのか・・・?
暗部を片付け、ユキナやイリヤとタクミのところへ向かう。改めて見ると、タクミはボロボロで、一言で言うなれば惨敗で決着がついていた。
「タクミ!」
「・・・それで終わりか?愚息よ。」
「まだだ・・・!まだ終われない・・・!ぐっ・・・。」
(ビャクヤ、体力の限界だよ。白夜状態を解く。)
「お前の力だけで勝てるのか!?」
(大丈夫・・・考えがある。)
「・・・お前、なに考えてやがる?うわっ」
(状態解除!)
ビャクヤの意識が引っ込んだのか、顔付きが優しくなる。けれど、その顔は複雑な顔色を浮かべていた。
少しだけうつむき、そして意を決したように一人で頷くと、ヒョウドウを見やる。
「まだ、終わらないよ、父さん。」
「星喰いもどきを使っても勝てなかったお前が、攻撃状態すら解いて、何をするつもりだ?」
「父さんに勝つことはたぶん出来ないかな。父さんは色々な人の命を糧に、その力を日増しに強くしたんでしょう。」
ーー奪った命がそのまま戦闘力になる?
「タクミ!星喰いとはそういう能力なのか!?」
タクミはこちらに振り返ることなく、ヒョウドウを見据えたままゆっくり頷く。
「そうでしょ?父さん・・・。」
「愚息と侮っていたが、なるほど少しはその能力を自分なりに研究したようだな。その通りだ。その為のやむを得ない犠牲だよ。」
ここに来て、常にタクミを馬鹿にするように話していたヒョウドウが、初めてタクミを誉めるように話している。
「やむを得ない犠牲・・・。昔みたいに色々誉めてくれる優しい父さんは、もういないんだね。」
タクミが悲しそうな声で、言葉を紡ぐ。身体は既に満身創痍だけれど、何故か全身に力が入っていくのが分かる。
ーー待てよ、命を糧に強くなる星喰い・・・まさか!?
「待て!タクミ!」
タクミはこちらを振り向いて、いつもの困ったような笑顔を見せる。
「カズマくん、僕に出来るのはもう、これくらい。そして、ユキナちゃんと二人仲良くね。イリヤとミキもお願い・・・。」
「タクミくん!待って、そんなお別れみたいなこと言わないで!」
「・・・タクミきゅん!」
タクミはにっこり笑い、ヒョウドウを睨む。
「今度こそ僕たちが勝つよ。」
「・・・貴様一つの命で儂の500人分のパワーに対抗できるとは思えんが、やってみるがいい。」
「・・・ビャクヤ・・・、僕の命を君に・・・!」
タクミの全身が激しく光る。眩しくてタクミが見えなくなる。突然の出来事に、別れを上手く伝えることすら出来ない。止めるべきだったことなのに止められない。
ーーオレは何をやっているんだ・・・。
ユキナと、イリヤの泣き声が聞こえてくる。
「タクミきゅん・・・タクミさま・・・、ごめんなさい・・・、私、あなたを守りたいって・・・お約束したのに・・・。」
「イリヤさん・・・」
使用人の頃の口調なのか、やはりあれが本来の喋り方というのを信じてはいなかったが、彼女なりの過去へのけじめだったのかもしれない。
ーー駄目だ。
タクミは知り合ってそんなに時間が経ったわけではない。
ーーダメだ。
そして、これまで共に過ごしてきた龍族の民でもない。
ーーオレは。
それでも、龍族の仲間になりたいと笑顔で言ってくれた、外界の初めての友達だ。
ならば、オレがやることは一つ。そうだ、たった一つのシンプルな答えだ。
「・・・やらせない。オレは認めない。あんたはあんただろう!タクミ!!」
オレは光を放つタクミに突っ込む。ユキナとイリヤがこちらを驚くような顔で見ていたのが一瞬視界に入る。それでもイリヤの消え入るような声だけは微かに耳に入った。
「お願い・・・。」
オレはタクミに近付き、左腕を掴む。
「くっ・・・!」
その瞬間、バチバチと音を立てながら、掴んだ右手からまるで身体の力が無くなっていくような感覚に襲われる。
ーーこれが星喰いの力か・・・!
命を吸って強くなる。命を燃料にどこまでも強くなる。けれど、それでもタクミを消させるわけにはいかない。
「くそっ・・・ビャクヤ!聞こえるか!?あんたの力でタクミを止めることは出来ないのか!?」
(・・・うるせえ!やってるよ!けれど、こいつの意志が強くて逆らえないんだ!)
ビャクヤの声がどこからか聞こえてくる。
「何とかしろ!」
(外部から何か刺激を与えれば、その隙になんとかする!)
ーー刺激を・・・考えろ、刺激、刺激・・・。
「・・・ダメだ。思いつかない。後ろの二人に聞いてみる!」
ーー領域解放!!
周囲に領域を展開する。光に慣れてきたのか、ヒョウドウが領域に気付く。
「貴様、その力まさか・・・。」
「あとでゆっくり話してやるよ。但しその頃には、あんたは参ったと降参しているだろうけどな。」
オレは笑って見せてから、タクミを抱えてユキナとイリヤの場所に移動する。いきなり現れたオレとタクミに二人がまた驚くが、悩んでいる暇はない。
「タクミの意識を一瞬でいいから、戻したい!何か知恵を貸してくれ!」
突然のオレの言葉に、更に驚く二人。ユキナは、驚きながらも何かを考えているような表情をしている。イリヤは、驚いたあと、なにかを決心したように頷く。
「私が、何とかします。」
「・・・ふっ。口調が、素に戻ってるぞ?」
「今はそれどころではないでしょう!?」
「はいはい。何かいい案あるのか?」
少し怒った表情のイリヤは、真剣な顔付きに戻り、再び頷く。
「はい。タクミ様の顔をこちらに向けてください。」
「はいよ。」
オレがイリヤに向けてタクミの向きを変える。すると、イリヤは光るタクミの顔に両手を添える。その瞬間、バチっと感電するような音が響く。
「何やってんだ!腕じゃなくても、タクミ自身と一緒に、触れているものは魂を持っていかれるぞ・・・。」
オレの言葉かまイリヤに届いているのか分からない。イリヤは苦しそうに、けれどタクミの顔を見てにっこりと精一杯笑っている。光の加減か頬が紅潮しているように見えるイリヤは、そのまま自信の顔を近付ける。
「・・・帰ってきて。」
そう呟いて、ゆっくりと唇を重ねた。
「・・・っ!!」
その瞬間、タクミの目が見開かれ、そして光が一瞬強く爆発するように輝いたあと、ゆっくりとタクミの身体から光が消えていく。
(イリヤとかいうやつ、よくやった!タクミの星喰いの力を強制解除させた。オレは疲れたから暫く眠ると、タクミに伝えておいてくれ。)
「分かった。」
タクミを改めて見ると、タクミの意識は戻ってるように見える。イリヤは口付けをしたままで、タクミは状況があまり理解出来ていないのか、顔を真っ赤にして手だけジタバタしている。ユキナは、マジマジと二人の姿を見ている。
「むむむーむ。」
タクミが唇を重ねたまま何か言っている。イリヤがそっと唇を離すと、その瞳から涙がこぼれている。
「・・・タクミ様・・・よかったです。」
「・・・イリヤ・・・僕は・・・。」
ドッ!
鈍い音と共に、鮮血が視界に広がる。タクミの目の前で、吐血してばたんと倒れるイリヤ。腹部に何かが貫通したような穴があり、血が溢れてくる。
「イリヤさん!」
「イリヤ!」
ユキナとオレが同時に叫ぶ。今この瞬間の出来事についていけないタクミは、瞳孔が開き、わなわなとイリヤを見やる。
「イ・・・イリヤ・・・?」
「くそっ!」
オレはヒョウドウを睨む。ヒョウドウが、遠くで人差し指をこちらに向けていることに気付く。無意識にオレは叫んでいた。
「ヒョウドォォォ!」
「愚息の力がどれ程上がるか楽しみにしておったのに。邪魔をしよって。本当に最後まで使えぬ使用人よ。」
下らない話しをしているヒョウドウを無視してイリヤを見ると、血が止まらなず、どんどん顔色が悪くなっており、苦しそうにうめき声をあげる。
「うっ・・・ゴホッ。」
「イリヤさん・・・っ。」
ユキナが心配そうに声をかけて、その後すぐに傷口を睨むと、傷口辺りに手をかざす。
「可能性はある・・・、私の力で・・・!」
ーーユキナの秘術は、龍族の技を無効化する。
「ユキナ、ヒョウドウの力も無効化することは可能なのか?」
「分からない・・・、けれど何かしないと、イリヤさんが・・・!」
「分かった。頼む。」
イリヤが秘術を発動する。身体から薄く赤いオーラが現れ、瞳が紅に染まっていく。
「”夢見”・・・お願い!」
身体から現れたオーラが、翼を持った女性のシルエットへと変わっていく。天使のような、ユキナが大人っぽくなったような、どこか懐かしく感じるその背後霊のような存在は、優しくイリヤの傷口に手を当てる。
その手からオーラのような光が傷口を包むと、みるみるうちに傷口が塞がっていく。
ーーこれがユキナの秘術・・・!?
「ユキナ・・・これは・・・。」
「黙って・・・集中しているから・・・。」
「すまない。少し・・・というかかなり驚いてな。」
ユキナはこちらをちらりと見ると、軽くため息をついて視線をイリヤの傷口に戻すと、ゆっくりと口を開く。
「・・・私の瞳と、私と瞳を共有する守護霊ユメミ。特訓しているときは、ここまでの力は発動出来なかった・・・。ちゃんと制御出来るか分からないけれど、命が掛かっているから、私も出来るだけのことはする。」
ユキナは少し焦りも混じったような、けれど真剣な面持ちでこちらを向いて不適に笑う。
「だから、あなたに出来ることをやって!」
「・・・分かった。」
オレはまだ放心しているタクミに、ゆっくり向き直る。大切な人が目の前でキズ付けられ、自分が何も出来ないの悔しさ、十年前のオレ自身とどこか重なる。
「タクミ・・・。ユキナとイリヤとを頼んだぞ。」
返事はないが、タクミはそんなにヤワな性格じゃないことをオレは知っている。
オレはタクミの方を向いたまま、ヒョウドウの方向へ右手を構える。
既に展開した漆黒の領域から、構えた先の位置に刀身を上にして刀を召喚する。
その瞬間、キィン!と空気を切る甲高い音が響き、タクミがビクっとなる。
タクミに向き直ったときに感じた殺意。先程までは、ヒョウドウは暫く手を出さないと、何の根拠もなく思っていた、油断していた、自分が歯がゆい。だから今度は様々な感情に紛れていたこの殺意を、ヒョウドウが飛ばしていた空気の塊を、視界に入れることなく刀で斬り裂く。もう、二度とお前の思い通りにはさせない。そう、無言で訴えるために。
イリヤと、タクミと、ユキナをもう一度見てから、歯を食い縛り、そしてヒョウドウを睨み付ける。
ヒョウドウは顎に蓄えた髭を右手で撫でながらこちらを見下すように笑っているを
「ほう?儂の動きを読んだのか?なかなか感の・・・」
「黙れ。」
「・・なかなか感の鋭いやつだ。」
人の話しを聞くことなく、自分の言いたいことを言うヒョウドウ。
「もういい。」
ゆっくりと先程攻撃を防いだ刀に向かって歩いていき、そして掴む。
「もう、終わりにする。」
その昔、鵺という化け物を退治したと言われる妖刀。
「獅子王刀。」
ゆっくりと歩き、ヒョウドウに近付く。
「なあ、あんた。タクミの妹はどこだ?」
ヒョウドウは、先程までの自信に満ちた表情ではなく、これまでとは違う、どこか悲しそうな顔で答える。
「あれは、ミキは、儂の可愛い、カワイイ、娘だ。誰にも渡さん。ちゃんと、大切に使っているよ。こんなにも愛している儂を嫌う、悪い子だがな。」
「大切に・・・"使っている"?それは、つまり道具としてってことか?」
「ん?あっはっはっは!娘は娘であろう?死んだ家内によく似た、かわいい娘よ。使えない愚息に代わる、新たな"サンプル"でもあるしなあ。」
自分でも刀を握っている拳に力が入っていくのを感じる。
「"サンプル"・・・かい?自分の・・・たった二人の子供だってのに・・・。」
「二人?もう一人だよ。一人はそこで脱け殻になっとるしな。それに、いないのであれば、また作れば良かろう?そこにサンプルを作る使用人がいたのだが、もう使えそうにないからな。まぁ・・・」
ヒョウドウは、イリヤを介抱しているユキナの方へ視線を移すような仕草をすると、ニヤっと笑ってから卑し気に言う。
「そこにも、子供を産める女はおるからのう?フハハハ!」
ーー下衆が。
ヒョウドウの言葉を聞くと同時に、心の中が怒りの炎で満たされていく。
「まぁ良いわ!愚息とお前を殺した後に、じっくり料理してやるわい。手取り足取り腰取りなあ?」
オレは、怒りの炎を確かに宿した心の中に、いつもと違う何かを感じながらも、その挑発も含め、全ての答えを、冷静なふりをしてヒョウドウにぶつける。
「そうかい。じゃあ、あんたを倒して、それで終わりだ。そして、"星見ヶ丘"も、この町の在り方も、全てな。」
その言葉を聞いて、ヒョウドウはまた笑う。けれど、少し怒りが混じった表情を浮かべているようにも見える。
「ふん・・・、餓鬼が。儂の崇高な夢と、これまでの苦労が分からぬか?それを終わらせる?下らんな。実に下らん。お前のような餓鬼が、この儂の夢を・・・。」
「下らない?オレたちのセリフだっての。苦労?人を殺す苦労か?だったら、そんな苦労は今すぐやめちまいな。」
「貴様のような餓鬼には分かるまいて。この儂の崇高な目的はな。」
「あぁ、分からなくて結構だ。」
「残念だよ。」
ーー何も残念でなはい。そうだ、一つ言い忘れていた。
「あと、貰っていくぜ。ミキちゃんをな。なーに、心配すんな。タクミが代わりに、ちゃんと養ってくれるさ。少なくとも、あんたよりな。」
ヒョウドウは、更に呆れた様な顔で言う。
「人の話しを聞かないやつじゃ。まぁ、よいわ。さっさと殺してくれるわ!」
その言葉と同時にヒョウドウがこちらに向かって突撃してくる。その速さを自慢したいのか、途中でいきなり方向転換し、オレの周りを移動する。
殺気はこちらに向いているから、少なくともユキナたちを突然襲うことは無さそうだが、それでも油断は出来ない。
ーー領域解放状態のオレと同じくらいの速さか?
移動しているヒョウドウは、巨体とは思えない程の速さでよく動く。
「儂の動きを捉えられまい?餓鬼めが!」
ヒョウドウは叫んだと思うと、タクミのような禍々しい黒い獣のような左腕を突き出してくる。
「獅子王刀!」
右手で持っている刀でヒョウドウの左腕の攻撃を受ける。
ーー剣よ!
左手に新たな武器を召喚する。
「七星剣!」
剣を持ってから、獅子王刀を支えるようにクロスに武器を構える。そして、力を入れて一気にヒョウドウの左腕を弾き飛ばす。
「ぬっ・・・!小癪な!」
「うおぉぉぉぉ!」
態勢を崩したヒョウドウに、一気に飛び掛かる。
「龍技・蛟龍雲雨!」
空に構えていた両手の武器を斬り下ろし、左右の武器で順番に、斬り上げ、斬り下ろし、また斬り上げる。
ヒョウドウは、その全てを受け止めることはしておらず、腕や足の一部にダメージはあるはずだが、顔色を一つ変えていない。最後の一撃でまた斬り上げ、その一撃を振り切ってヒョウドウを斬り飛ばす。
ドームの端まで吹っ飛んだヒョウドウは、壁に激突し、破壊音と共に壁にめり込んで、破壊された壁が崩れ落ちて埃が広がる。
右手の刀を肩に置いて、軽くため息をつきながら、オレは着地してその様子を見る。
「あれで終わってくれるとありがたいが、手応えはなかったな・・・。」
そう思ったのも束の間、ヒョウドウはめり込んだ壁を更に破壊して、埃を巻き上げながらこちらに戻ってくる。
戻ってきたヒョウドウを改めて見ると、攻撃した箇所は服が破れてはいるが、皮膚にダメージを与えている感じはなかった。ヒョウドウの皮膚で止まっている。ーーあの星喰いは皮膚の硬質化も出来るのか?
人間を光に変え、その力を自信に蓄える。その結果、強靭な肉体になったとでもいうのか。
「最初にタクミを移動させたときにもしやと思ってはいたが、七星剣とやらを出したときに確信した。餓鬼よ、お主は龍族だな?」
ーーこれだけ堂々と使っていれば、流石に気付かれるか・・・。
「・・・隠しても無駄だろうから肯定しておいてやるさ。そういうあんたの力も龍族の力なのかい?」
「・・・ふっ。まぁいい、教えてやろう。そうだお主と同じ・・・な。」
ーーやはり龍族か・・・。
「けれど、あんたは龍族じゃない。」
「そう。儂は、授かったのだよ。誰かは言わんがな。そして、それをちゃんとした力とするために、タクミを使った。その結果、今のようにほぼ完璧に使えるようにはなったが、まだだ。そのためにも、まだサンプルは必要だ。」
そう言って、ヒョウドウはまた左手に波紋を作り出す。
「その必要はないさ。」
オレはそう言って、不敵に笑って見せる。
「儂を人間と甘く見らぬほうが良いぞ、龍族の餓鬼よ。」
ヒョウドウが空気の弾丸を飛ばす。指の数の五発。後方に飛びながら両手の武器で二発の空気の塊を斬り裂く。着地したところで更に飛んでくる二発も斬る。
「魔爪弾だけだと思うな、儂も行くぞ!」
斬ったところで上空からヒョウドウが襲ってくる。ヒョウドウは左腕を突き刺すように上空から襲ってくる。ヒョウドウ曰く魔爪弾も追加五発が上から飛んでくる。
ーーどうかわす?
地上の魔爪弾を斬り払い、上空からの魔爪弾も二発は斬る。
「ヒョウドウの攻撃まで間に合わない・・・!」
ヒョウドウの空からの攻撃に対応が出来ないと感じたとき、心の奥の扉のイメージが浮かぶ。
ーークダケ・・・。
扉の向こうの黒い影は静かにこちらに言う。
ーーココロヲクダケ・・・。
「はっ!」
ふと我に返ると目の前にヒョウドウの姿がある。けれどいつの間にか視界が紅に染まっていて、手足からも赤いオーラが出ている。
ーー身体が軽い!
オレはその場で素早く一周して武器に勢いをつけ、回って戻ってきた遠心力の力とオーラの力で武器の振ると、ヒョウドウと魔爪弾ごと全てを斬り裂いて吹き飛ばす。
「ぬぐっ・・・!なんだ、先程と動きが違う!?」
空に飛ばし返したヒョウドウを睨み付ける。
ーーチデチヲコバメ。
いつもより視界が紅い。扉の奥の影が話しかけてくるような感覚に、身を委ねるほど力が涌き出てくる。
ヒョウドウは上空で態勢を立て直し、また魔爪弾を飛ばしてきている。
自分が自分で無くなるような嫌な感じを堪えつつ、漆黒の領域から五本の剣を出す。
「魔爪弾を斬り裂け。」
五本の剣を空から降ってくる魔爪弾へ向かって飛ばす。空に飛ばした無銘の剣は魔爪弾を全て斬り裂き貫通し、そのままドームの天井に突き刺さる。
オレが剣を飛ばしたのが意外だったのか、ヒョウドウは舌打ちをしながらも、空中で移動して一気に着地すると、そこからまた左腕を突き刺すようにこちらに襲いかかる。
「はぁぁ!!」
ヒョウドウは叫びながら先程より力強く左腕を振り下ろしてくる。今度は視界を無意識に紅くならないよう、力を制御してヒョウドウの攻撃を受ける。
ガギィン!と星喰いの腕とこちらの剣がぶつかり鈍い音を立てる。けれど、先程の力を使わないと決めたからなのか、ヒョウドウの力に負けてしまい、薙ぎ払われたままに横に弾き飛ばされた。
「ぐっ・・・!」
なんとか、態勢を立て直して地面に剣を突き刺して勢いを殺す。
距離が出来たので、領域での高速移動を使ってヒョウドウにこちらから攻める。剣を突き刺すように突撃すると、ヒョウドウはその剣を軽く星喰いの腕で掴む。
「な、何!?」
「この程度か?」
ヒョウドウが笑っている。余裕の笑みというやつだろうか。
ーーチデチヲコバメ。
この心の奥の扉から聞こえてくる影。
ーーその力で勝てるなら、オレはその通りにしてやるよ。
心でそう答え、オレはヒョウドウに不敵に笑う。
「まさか。見せてやるよ。」
お互い、高速で攻防を繰り返す。ヒョウドウの左腕とオレの武器がぶつかり合い、甲高い音が鳴り響く。
何度も。
何度も。
何度も。
ーーチデチヲコバメ。
「よく分からないが、何でもやってやる!」
心臓の鼓動が大きく一度ドクンと聞こえた。
「わけの分からん一人言を。」
オレの唐突な台詞を聞いたヒョウドウが笑っている。
ーーココロデココロヲクダケ。
扉の向こうの影に、誘われるように、差し伸べられた手に触れる。その瞬間、視界が極限まで紅に染まる。
「ぐっ・・・!」
全身から赤いオーラを感じる。視界が紅いなら、瞳も限界まで紅に染まっているだろう。
「むっ!貴様、なんだその変化は!?」
ヒョウドウが少し驚いている。当然だろう、オレ自身もこの変化に驚いている。そして、力がみなぎってくる。
「もう十分だろう。あんたとのお遊びは終わりだ。」
「貴様、何をした!?なんだその力は!?」
「オレもよく分からんさ。」
オレはヒョウドウと会話をしながらも、お互いギリギリを攻め続ける。領域内での高速移動に余裕でついてくるヒョウドウだったが、赤いオーラを纏った状態だと更に速く移動出来るようになり、ヒョウドウに対して優位になるのを感じる。
ーー何だろう。闘いの最中に、走馬灯のように思い出す。
この戦いは、きっと始まりに過ぎない。星見るための旅に出たオレとユキナ。そして辿り着いた星見ケ丘。外界で出会ったタクミ、イリヤ。これは偶然なんかじゃ、きっとない。こういうふうに出来ていたんだ、運命は。
だとすれば、運命とは本当に稀有なものだと感じてしまう。運命に対して、オレたちは、とてもちっぽけで、真っ暗な世界ではどこにいても誰も何も見えない。そんな中で出会ったんだ。運命だって、そう、悪くない。
だから、ここでヒョウドウに負けるわけにはいかない。
「貴様がどれだけ色々な技を持っていようが、儂には効かんぞ!」
一秒にも満たない、走馬灯。
運命。
負けられない。
ーーユメナドソンザイシナイ。
負けられないが、赤いオーラの力に心が砕かれそうになるが堪える。
「もう星見ケ丘のような、朝明村のような悲劇を!これ以上繰り返させない!あんたの夢はもう終わらせる!」
「儂の夢は終わらんさ!」
「終わらせるさ!あんたがオレに言った通りな。・・・今のオレの制御しきれないこの力にぴったりの名前だ・・・!」
「なんだと!?」
ヒョウドウを弾き飛ばして少しだけ距離を取る。着地して、七星剣を投げ捨てる。
「武器を捨ててどうする?バカめ。」
制御しきれない力。けれど、今は言うことを聞いてもらう。あとで、オレの魂でもなんでも持って行け。それでも今は譲れない。
ーーアラガウカ!!
「”悪夢”!!」
心の奥の扉を解放するイメージ。全身からこれまでにない量で紅のオーラが立ち込める。それと同時に、漆黒の領域が自分を中心にドーム型のこの部屋全てに広がり、ヒョウドウを中心に夢無の扉の向こう側の武器が無数に現れる。
ヒョウドウは呆れたような口ぶりで吐き捨てる。
「何度も言わせるな。貴様がどれだけ色々な技を持っていようが、儂には効かん!武器を並べたところで同じなのだよ!」
「そうかい!本当に効かないかどうか、これから自分で決めろ。但しその頃には、あんたは参ったと言っているだろうけどな。」
そこから、自身の残像が見えるくらい高速で移動する。武器を拾って攻撃しては捨て、また取って攻撃して捨てる。
また武器へワープ移動もしつつ、掴んだ剣でまた斬って、掴んだ刀で斬って、斬って、そしてまた斬って。
そこから斬って、斬って、斬って。斬って。斬って、斬って、斬って、斬って、斬って。
そして、斬るーー。
「全部!全部!!全部!!!全部持って行けぇぇぇ!!!」
「くそ、バカな・・・この儂が 手も足も出せなくなるとは、おのれぇぇぇ!!」
ヒョウドウが叫んでも、オレは攻撃を止ない。言葉通り、全部、武器を出し切り、使い切る。
未使用武器である剣が残り六本、ヒョウドウを斬り上げ、ジャンプして追いかける。
六本の剣をヒョウドウの周囲に飛ばして、空中でワープ移動して武器を持って、次の武器へ移動するように攻撃し、また次の武器へ。
五本目で斬り始めの位置に戻り、最後の一本はヒョウドウより更に高い頭上にあり、そこに移動する。五本で斬った紅の残像が星型に刻まれ、それを一刀両断するように、空から思いっきり切り下ろす。
切り下ろしてもヒョウドウは硬く、気絶している程度に見えたが、左肩にまっすぐ振り下ろした剣に誘われるように、オレと一緒に地面に落下した。
ーー決着だ。
倒れたを確認するが、死んではいない。完全に意識を失ってはいる様子だった。
オレは荒い息を整えながら、ヒョウドウを睨む。
「もう、あんたの夢は終わった・・・。いや、最初から夢なんて無かったんだ・・・。」