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銀河戦國史 (アウター“ファング” 閃く)  作者: 歳越 宇宙 (ときごえ そら)
第6章  攻略
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第83話 撃滅・沈黙・制圧

 シヴァース部隊の損害を、トゥグルクが緊迫感を漲らせて伝えて来た。赤い光も、何度もコックピットに満ちている。「ファング」を始め、味方の命が次々に散っている。殺したくないと感じ始めた敵でも、殺すしかない。持てる力を振り絞って、可能な限り速やかに、殺し尽くさなくてはいけない。

「第1戦隊、ランスヘッド。あの大型戦闘艦に突っ込むぜっ!」

 標的を定めたカイクハルド。何度も被弾し、傷だらけの艦体を曝しながらも、最もシヴァース部隊の火力の集中する宙域に踏ん張っている艦があった。一身に攻撃を引き付ける事で、味方の損害を減らし戦況を有利に導こう、という意図が感じられる。

 位置取りが勇敢であるだけでなく、闘い振りも見事だった。射撃目標の選定も合理的で、射撃の正確さも一級品だった。レーダーが十分機能していると思えない損傷状態でのそれは、神がかり的と言って良い。

 眼前の敵に尊敬の念を覚えつつ、その敵を虐殺すべく、己が身を凶器と化した「ファング」が、悪鬼の如くに渾身の突撃に打って出た。

(散開弾を、複数方向からクロスさせて撃ち込んで来る。)

 カイクハルドは読んだ。初対面ではあってもこの敵は、「ファング」の突破能力を事前に推測し、対策を立てて来るはずだ、と。

 鬼気迫る程の凄まじい連続旋回を「ファング」が見せた。並の人間なら、爆発的な重力や遠心力で百回以上死んでいるはずの、あり得ない加減速と急転進が何度も繰り返される。1秒未満の失神が、第1戦隊の幾つもの戦闘艇から伝えられて来る。パイロット達も、死神に頬を撫でられながら、死の一歩手前で辛うじて踏みとどまりつつ、奮闘している。苦痛への呻きや悲鳴も、それぞれのコックピットに轟き渡っているはずだ。

 それでも密集隊形は、僅かにも崩れない。硬質な鋼の槍先となって虚空を切り裂く。

 クロスファイア・ゾーンは、絶望的に強力な攻撃圧力が加えられる空間だが、狭く限られた1点にしか生じないから、そこを外しさえすれば恐れるに足りない。散開弾を交差させてクロスファイア・ゾーンに「ファング」を捕える事で、彼等の突破力をねじ伏せて打ち倒そう、という敵の意図は、「ファング」の常軌を逸した滅茶苦茶な連続旋回で無効化された。

 1方向からのみの金属片群を突破し、その他は躱し切る。それを繰り返す。2重3重に、且つ、あっちからもこっちからも押し寄せる金属片群の壁。3回連続の突破を余儀なくされたが、常に1方向からだけしか金属片を浴びなかった。20個近くもの金属片群の絶壁を造り出した、敵の渾身の迎撃は、「ファング」に通用しなかった。

 しかも散開弾の壁は、敵に「ファング」の正確な位置を見失わせた。沢山壁を作ったから、その向こうの「ファング」を捕えるのは至難の業だ。他の戦闘艦や戦闘艇などからの観測データーを送信してもらう事で、何とか位置の把握を図った形跡はあったが、それも無駄だった。滅茶苦茶な動きを見せる「ファング」の動きを、20近い金属片群の壁の中で捕え続けるなど、不可能だった。

 敵に位置を見失わせたまま、「ファング」は肉薄した。敵艦からは、レーザーのシャワーが凄まじい勢いで放たれているが、全て見当違いの方向だ。「ファング」の接近には気付いても、おおよその位置は掴めていても、正確な位置と運動状態が捕えられない。

 が、やはりこの敵は、ただ者では無かった。見当違いの方向に注がれていたレーザーのシャワーが、見る間に「ファング」へと吸い寄せられて来た。「ファング」を見つけつつある、という事だ。レーダーシステムだけに頼っている者には、そんな業は成し得ないはずだ。

 敵艦の司令官が、限られた情報から「ファング」の動きを先読みしたのだろう。レーダーで捕え切れない分を読みで補う事で、敵レーザーが驚くべき速さで「ファング」を捕えようとしている。

 だが、カイクハルドは、それも読んでいた。読みが読まれるのを読んでいた。こちらの読みを見切った敵の読みの、更に先を行く読みを繰り出していた。「ファング」は突如の5分割。花火の如く、放射線状に飛び散る。敵レーザーの照射方向は、またしても見当違いなものとなった。1個の飛翔体と認識していたものが不意に5つに分かれると、コンピューターは誤作動を起こす。5つの内、どれを狙った良いか、自分では判断できないから。

 当たらないレーザーを掠め飛び、ズイッとにじり寄り、十分に距離を詰めた上での1撃が、「ファング」の各単位から放たれる。各単位の「ヴァイザーハイ」が、一瞬、「ナースホルン」の流体艇首の傘の背後から飛び出し、「ココスパル」が残っていたものはそれを、既に撃ち尽くしていたものは「ヴァルヌス」を発射した。

 敵艦は、ミサイルでの迎撃も試みていた。至近距離に迫った「ファング」に対して、ミサイルを大きく迂回させての散開弾攻撃だった。それがドンピシャのタイミングで「ファング」に迫ってくるのも、敵司令官の読みが正鵠を射ていたと証立てている。だが、それをも先読みしていたカイクハルドは、「ヴァンダーファルケ」に素早い対応を指示していた。

 「ファング」の攻撃は全て成功し、敵戦闘艦の攻撃は全て、失敗に終わった。3つの青白い光球と2つの小さく短い閃光が、苦悩と殺戮のみをもたらす装飾を敵艦に施す。

 敵艦は、沈黙に陥った。打撃による損傷に加え、プラズマ弾の磁場によって電気系統がイカれてしまったらしい。

 が、それは一時的なものだ。直ぐに回復して、この戦闘艦は戦いに復帰するはずだ。大型戦闘艦は、ミサイルの5発くらいで無効化できるものでは無い。しかし、「ファング」の攻撃にタイミングを合わせて、シヴァースの部隊からもミサイルが撃ち込まれていた。カイクハルドが事前に要請していたから。つまり、突撃開始前から、シヴァース部隊からのミサイル着弾のベストなタイミングを読み切っていた、という事だ。

 「ファング」の攻撃で一時的に沈黙状態となり無抵抗な敵に、10発もの凶暴な徹甲弾が撃ち込まれる。20秒早くても遅くても、迎撃されたはずのミサイルが続々と敵艦に射込まれた。ほんの数十秒だけ無防備になる隙を、狙いすました攻撃だった。

 蜂の巣だった。穴だらけにさせられた。さっきまで戦闘艦だったことすら信じられないような、無残この上無い惨めな姿が曝された。が、それも数秒だった。

 火を噴く。あちらこちらから。ミサイルによって開けられた穴からも、それ以外の亀裂などからも。更に、無傷と思われた箇所からも火は噴き上げられ、新たな穴を穿つ。巨大な艦体から、百にも及ぼうかという炎の噴出が、あらゆる角度で虚空を突き刺した。

 と、突如、敵から通信を求める信号がある、とカイクハルドはディスプレに知らされる。

 通信回線を開く。

「見事なお手前・・・」

 その一言を最後に、発言の主は焼滅したらしい。ジュッ、と聞こえたのは、人肉が瞬時に燃え尽きる音だったか。

「あんたもな。」

 清々しいまでの武者ぶりだ、と感じた。滅びゆく政府の要塞を背中に守りながら、逃げる事なく、怯む事もなく、敢然と戦い抜いて散って行った敵司令官に、カイクハルドは敬意を覚えた。

「え?お、終わりか・・」

「何だよ、ヴァルダナ。気付いてなかったのか?」

 カビルが得意気な声を上げた。「今の大型が最後になるって、俺は分かってたぜ。かしらもだろ?」

「ああ。だいぶ前から、タキオントンネルによる敵の出現も無くなっていた。こちらに送って来る余裕は、もう完全に無いんだろうぜ。」

「親父から、連絡があった。」

 シヴァースも、通信を彼等の会話に滑り込ませて来た。「敵の迎撃部隊は、全てこちらに包囲されている状態だそうだ。『レドパイネ』の4つの部隊も、『ベネフット』も、迎え撃っていた敵を球状に包囲して、完全な優勢を手にしているらしい。降伏か全滅かに至るのは時間の問題だろう、って親父の言葉だ。」

 シヴァース指揮下の部隊は、未だに「シックエブ」からパラパラと飛んでくるミサイルに対処しているが、敵戦闘艦がいなくなってしまえば、大した脅威ではないのだろう。無人攻撃機も姿を消した今となっては、司令官は何もしなくても、部下に任せ切りにしておいて十分らしい。

「おい、カイクハルド。」

 トゥグルクまで、通信で割り込んで来る。「多数の飛翔体が、『シックエブ』の俺達が攻め込んでいるのとは反対側から、続々と飛び出して、飛び去って行ってるぜ。多分、『シックエブ』の将兵が、逃亡を企ててやがるんだろう。どうする?追いかけて、ひっ捕らえるなりぶっ殺すなりするか?」

 沸々と、怒りがカイクハルドの胸中には湧き上がっていた。

「いや、逃げる奴なぞ、放っておけ。」

 そう言いながらも、今さっき戦い抜いて散って行った勇敢な敵将を、想わずにはいられない。卑怯にもコソコソと逃げ出すような奴等の為に、彼はあんな壮絶な戦いと死を演じたのか。

「逃亡している船の識別信号や集団の規模を見ると、逃げているのはシャハン・ノースラインとその取り巻きだぞ。『ノースライン』ファミリーの一派で、『シックエブ』の要塞総司令の官職にあった奴だ。逃がすと、厄介な事になるかもしれねえぞ。」

「いやぁ、ならねえよ。それより、『シックエブ』内部での残党刈りだ。戦闘艦がいなくなったから難しい作業じゃねえが、油断はできねえぞ。小惑星に据え付けられた動かねえ標的とは言え、レーザーもミサイルも装備してるんだからな。端から順番に、潰して行こう。」

 「ファング」は一旦「シュヴァルツヴァール」に戻り、噴射剤や弾薬の補給を受けた。シヴァース部隊にも、「ヒルエジ」から補給部隊が送られて来た。輸送路は既に安全だった。敵は未だ残っていて戦闘を継続しているが、「レドパイネ」や「ベネフット」に包囲されている。補給部隊を襲う余裕など、有るはずがなかった。

 「レドパイネ」も「ベネフット」も、無理して早急にケリを付けようとはせず、遠くからのミサイル攻撃などだけを実施しているらしい。囲んでいる側はいくらでも補給が可能だが、囲まれている側はそうでは無い。いずれは弾薬が尽きて降参するだろう。命懸けで戦う局面は既に終わっている、と言って良かった。

 シヴァース部隊と「ファング」は、小惑星に築かれた敵施設を、順に潰して回る。半分ほどの有人施設は、要塞総司令官の逃亡や防衛部隊の絶望的な戦況を知らされると、直ぐにも降伏を受け入れた。非武装のシャトルで離脱した上での施設の自爆を確認して、次の施設を潰しに向かう、という作業が繰り返された。

「退屈だな、こういうのは。もっと派手に抵抗してくれた方が、やりがいがあるってもんだぜ。」

 口ではそう言ったカビルだが、散々殺し合いを演じ、仲間も多く失っている今、戦闘に至らずに済んだ方がありがたいと感じているのは、声の質だけでも十分に分かった。

 が、カビルには幸か不幸か、抵抗を試みる施設もあった。無人の自動防衛施設は、当然自動的に抵抗して来るし、有人施設にも、あきらめの悪いのは幾つもあった。それらには遠方から、散開弾で滅多打ちにして抵抗力を削いだ上で、徹甲弾を見舞って行った。動けない施設は、戦闘艦などの支援が無ければ、有効な戦力にはなり得ない。こちらの安全を確保しつつ、敵設備を破壊して行く事は可能だった。

 補給も、こちらはいくらでも受けられるが、敵は受けられない。抵抗は、長くは続けられない。無人施設は、表面施設が完全に破壊されるか弾薬が尽きるかして、沈黙に至る。有人施設はほとんどが、損傷がある程度大きくなった時点で降参した。

 「シックエブ」も「バーニークリフ」同様に、幾つかのセクションに別れていて、中心にセクションの司令部が置かれていた。端の方にある施設を潰し終えると、今度はセクション司令部の攻略に移る。ここからは事前の取り決め通り、「ファング」が前面に出て実施する事になった。

 指令部ともなると、人の数も俄然多くなる。要塞総司令官を始めとして、逃げる手段を確保できた者は既に全員逃げ去っていたので、この時点で残っている連中は、逃げる手段も無くしてしまっていた。全滅するか降参するかしか、選択肢が無かった。全滅させるにしても捕虜にするにしても、実施した者は軍政側で生き残った人々の恨みを買う可能性が高い。それを全て背負う役を、「ファング」は押し付けられている。

 「ノヴゴラード」第5惑星の衛星軌道上にある都市に住んでいた、要塞要員の家族なども、「レドパイネ」の進攻を受けてからは多くが避難の為に要塞へと移動して来ていたから、兵ではない老若男女も大量に、そこにいた。彼等への処遇は、場合によっては非難の的になりかねない。盗賊兼傭兵の「ファング」がそれほど気にする事でもなさそうだし、だからこそ彼等がこの役を負ったのだが、できるだけ穏便に済ませるに越した事は無い。

 司令部においても、誰かが乗り込んで行く、という事はしなかった。相手の施設に入り込んで行くのは、どんな罠が仕掛けてあるかも分からないから、危険だ。降参するまでは攻撃を続け、降参したら非武装のシャトルで出て来るように命じ、最後は施設を自爆させて始末をつける。攻撃を散開弾だけに限定すれば、表面構造物は破壊しても人的被害はほとんど無いはずだ。

 最初に攻略に着手したセクション司令部は抵抗を見せたが、十発ほども散開弾を撃ち込むとあっさり降参を表明した。この段階では自決を選ばれる可能性もあり、そうなると攻めた側は、恨みの的になっただろう。「ファング」には大した問題ではないのだが、買わずに済む恨みは買いたくないものだ。敵の降参は「ファング」にも朗報だった。

 一つのセクション司令部が陥落すると、後はほぼ無抵抗だった。全て降参してくれて、自決を選ぶセクション司令部は無かった。先に降参した者達が酷い扱いを受けていない現実を示せたのが、功を奏した。大量に出た捕虜は、とりあえず一旦「ノヴゴラード」第5惑星の衛星軌道上を巡っている都市に連れて行き、後ほど処遇を考える事にした。「シュヴァルツヴァール」はピストン輸送を強いられ、大忙しだ。シヴァースの部隊にも手伝わせたが、表向きは「ファング」の捕虜という扱いだった。

 10個程あったセクション司令部を全て片付けると、最後の仕上げとして、L5-ラグランジュ点中央付近に所在している要塞総司令部の攻略に乗り出す。それだけはリング状の建造物で、回転による疑似重力が提供されている、軍事目的にしては豪華な施設だった。民衆から搾り取った税でこういう贅沢をしていたら、反発を受けるのも当然だ、とカイクハルドは内心で毒づいた。

 そこには、「シックエブ」配下の軍閥達を管理したり指揮したりする為の情報や機能も詰まっている。それらを使いこなせるスタッフも含め、「ベネフット」ファミリーが皇帝親政において軍政配下だった軍閥を統括して行くのならば、絶対に手に入れたい人材や情報や機器だ。カイクハルドは、より慎重に事を運んだ。

 総司令部に残っていた者達も、降伏勧告にはあっさり応じて来た。将兵共はさっさと逃げ去り、残っていたのは、女子供がほとんどを占める一般人ばかりだったらしい。自決でもされたら、必用な情報なども失われると危惧していたカイクハルドだったが、自爆のやり方すら知らない者しか残っていなかった。

 ここにおいても、乗り込んで制圧するのは危険だし人手のかかる作業だから、「ファング」の背負うべき仕事ではない。後で「ベネフット」にやらせる事にした。彼等は、要塞に残っていた者達に非武装のシャトルで離脱させた上で、主要な者を「シュヴァルツヴァール」の航宙指揮室に連行し、捕虜とした。

「私達を、軍事政権幹部の家族と知っているなら、無礼な振る舞いは慎むように勧告しておきます。」

 要塞総司令官だったシャハン・ノースラインの妻で、ルカイヤと名乗る女が、上質な青紫の衣をこれ見よがしにヒラヒラと舞わせながら、高圧的な顔付きで言い放った。(とが)り気味の鼻と顎を、今が絶好の使いどころだと言わんばかりに付き出している。

 機械だらけの殺風景な指揮室に佇む、上等な身形(みなり)(いろどり)のある女というのは、カイクハルドに一つの記憶を想起させるものだった。

 皇帝の御座船のエアロック近くで初めて目にしたラーニーの姿を、彼は瞼の裏に描いていた。「ファング」の捕虜になろうとしている場面、というのも共通している。身分や家柄を武器として、無防備な姿で武骨な男達を相手に、自分と身内を守る戦いに挑む姿も同じだ。

「軍事政権の幹部、って肩書を名乗っておけば、俺達を怯ませられるとでも思っているのか?」

 自分の受け答えも、あの時のラーニーに対するものとそっくりだな、と思うと、カイクハルドは余り気分が良くなかった。

「要塞を一つ陥落させたくらいで、軍事政権を甘く見ない方が宜しいですわ。今、我が夫が『エッジャウス』に援軍を求めに向かっております。近いうちに、あなた方の軍など簡単に蹴散らしてしまえるほどの強力な大規模軍団が、ここへ攻め寄せて来るでしょう。軍政幹部の一族に手荒な仕打ちなどをしたら、あなた方には壮絶に悲惨な最期が待っているでしょう。」

 また、どっかで聞いたような言葉だった。

「あのなあ、俺達は盗賊兼傭兵なんだぜ。壮絶に悲惨な最期を迎える事くらい、言われなくても最初から分かってるってんだ。そんなもん恐れるより、悲惨な最期が来るまでに、イイ女を一人でも多く囲いてえんだよ。なあ、カビル。」

「へっへへへへ、そうさ。女って褒美があるから、苦しい命懸けの戦いをやってんだ、俺達は。」

 カビルまで、いつかと同じような返答。

「な、何を言います。戦いの中での死などより、もっと恐ろしい、もっと苦痛に満ちた死が、きっとあなた達を・・・」

「うるせえな。そんなんでビビるかよ。俺達なんかより、お前達こそ、民衆の真ん中に放り出してやったら、どんな凄惨な殺され方をするかな。ちょっと、代表者の意見を聞いてみようか?」

 カイクハルドがコンソールを操作すると、モニターに一団の兵が映し出された。向うからも、こちらの様子が見えるようになったらしい。

「そ・・そいつか!そいつが、『シックエブ』の親玉の嫁か!」

 叫んだ男は、歯を剥きだした鬼の形相だ。「良い服、着ていやがるな。俺達から搾り取った税で、そんな煌びやかな服を着やがって。その為に、俺の家族が、どんな悲惨な境遇の中で、憐れに死んでいったか、お前はわかっているのか!」

 カイクハルドが通信を繋いだのは、シヴァース配下の兵達だった。「アウトサイダー」出身で、数年前からジャラールが寄せ集めて鍛えて来た兵だ。軍事政権の圧政のもとで「アウトサイダー」に身を落さざるを得なかった者達にとっては、軍政幹部の家族など、悪の権化も同然だった。

「何を言っているのです。」

 ルカイヤは反論した。「わたくしたち軍事政権がこの国を治めているから、あなた方の生活は成り立っているのですよ。あなた達がわたくしたちの生活の糧になるのは、当然ではありませんか。」

「ふ・・ふざけるな!お前らが食う食材も、煌びやかな服や建物の材料も全部、庶民が死ぬほど苦労して資源を集めて生産したものだろ!その俺達が食うや食わずの貧しい生活をしてるのに、なぜお前らにそんな裕福な生活を楽しむ権利があるんだ。」

「そ、そうだぁっ!」

 近くにいた別の男も、唾を撒き散らして絶叫する。「俺の故郷の集落も、お前達軍政が押し付けて来た阿呆な管理者のせいで、資源採取も物資生産も滅茶苦茶になっちまったんだぞ。ほとんどの集落民は飢えや事故で死んじまって、最期には集落自体も壊滅しちまったんだ。いっぱい死んで、生き残った連中も散り散りになっちまって、俺も『アウトサイダー』に身を落としたし、妻や娘が娼婦で体を汚し涙を飲んで稼いだ金で、辛うじて食い繋いで・・・うっ・・糞っ・・ううっ!お前達なぞ、殺したくらいじゃ、飽き足らねえぞ。」

「俺のいた集落も、他所の軍閥の侵略を受けたのに、その軍閥から賄賂を受けていたお前達軍政は、奴等の掠奪や誘拐を見て見ぬ振りしやがったんだ。おかげで、家族も、財産も、みんな持って行かれちまったんだぞ!」

「俺の大事な一人息子は、軍政の施設建設に駆り出されたっきり、帰って来なかった。同じように、俺のいた集落の若者はみんな、軍政に分捕られた。若者無くして集落が存続できると思うか?残された年寄りも、全員が飢えで死に絶えちまうって結末だ。俺の集落も、お前ら軍政が潰したようなもんだぁっ!」

「俺の居た集落は・・・」

「俺の家族は・・・」

「俺の親は・・・」

「俺の愛娘は・・・」

「俺のところは・・・」

「俺のところは・・・」

「俺のところも・・・」

「おうおう、続々と出て来るな。」

 無機質な視線を、カイクハルドは浴びせかけていた。「お前達軍政への恨み節は、留まるところを知らねえぞ。こんな民衆の中に、もし、お前達の身柄を投げ込んだら、どうなるかなぁ。お前とシャハンの間に出来た子供も、大変な目に会うだろうなぁ。」

「こ・・子供は関係ないでしょうっ!それだけは・・それだけは許しません!あの子は未だ3歳なのですよっ!」

「俺の子供も、3歳で殺されたぜ。お前ら軍政の派遣した徴税部隊のイカれた司令官が、ただの気晴らしだとかぬかして、俺の大事な息子を家ごと焼きやがったんだ。」

「俺の子は2歳で飢え死にした。お前らの強引な税の取り立てが無ければ、元気に育ったはずのあの子が、お前らの我儘や贅沢のせいで無残に果てちまったんだ!」

「軍政のせいで命を落とした3歳未満の子供なんぞ」

 カイクハルドの声は低くて重いものだ。「この『グレイガルディア』には何千人もいるだろうな。下手すりゃ、万に達するかもな。」

「そ、それは、私達だけの責任ではないでしょう。配下の軍閥などが、私達の知らぬところで勝手にやった事・・・」

「良く言うぜ。そんな上等な服をもっと沢山着たいとか、もっと豪華で希少な食材を味わいたいとか言って、軍閥に税の催促をした事がねえって言うのか?税を払えないのなら、所領を減らすとか取り上げるとかって、脅しをかけた覚えはねえか?」

 アジタ等を通じて、カイクハルドはそういった事例の明確な証拠を、幾つも掴んでいる。彼の視線の中にある確信に気付くと、ルカイヤも否定はできなかった。

「うっ・・でも、まさかそのせいで、子供の命まで・・・」

「子供も含めて、多くの集落民が飢餓で苦しみ、次々と死んで行ってるって報告を受けた事も、あったはずだよなぁ。それなのに支援の手を差し伸べるどころか、一切税の免除はまかりならぬと撥ね付けた事だってあっただろう。集落の1つや2つ潰してでも、要求した税は耳を揃えて払えってお前が厳命した件も、俺の耳には届いてるぜ。」

「あ・・う・・・」

 泳いだ目が、身に覚えがある心中を露呈していた。

「殺されても文句言えねえ立場を、理解できたか?お前も、お前の子供も、お前の親兄弟も、それ以外の家族も家臣も、お前に連なる一族郎党全員だ。」

「や・・やめて・・お願いします。わ・・私はともかく・・・こ・・子供だけは・・・」

「ふざけるなぁっ!」

 モニターの中で、シヴァースの手勢が憤怒の声を上げる。

「殺せぇっ!そいつも、そいつの子も、そいつの周囲の誰も彼も、皆殺しだぁっ!」

()れぇっ!殺っちまえぇっ!ノースラインの血を、一滴もこの世に残すなぁっ!」

「女でも、構うもんか!子供でも、知ったことか!そんな奴等に、情けをかけるな!」

「俺達で、八つ裂きにしてやる。目の前で、ガキの身体を細切れに引き裂いて、その上で、そいつも火炙りにしてやる。そいつらの身柄を、こっちに廻せ!」

 震え始めた体が、ようやく自身への恨みの頑強さを、思い知ったと告げていた。

「こいつらなんて、ほんの一部だぜ、お前達に恨みを持っている者達の。この数百、数千倍の連中が、お前ら一族を百回皆殺しにしたって収まらねえくらいに、(はらわた)を煮えくり返らせてんだ。お前達『ノースライン』ファミリーは、『グレイガルディア』中で恨まれてる。権力の座って鎧が剥ぎ取られたら、国中の庶民に寄って集って全身を食い破られると思っておいて、間違いねえぜ。」

 ゾッ、としたように身をよじり、改めてモニターに映る憤怒の形相の数々に、ルカイヤは目を向けた。全身の震えは、エスカレートの一途だ。ガチガチと歯は鳴るし、涙をためた目は瞳孔が全開になってしまっている印象だ。

「さて、それで、俺達はお前達の身柄を、どう扱ったものかな。『レドパイネ』にも『ベネフット』にも、お前達の扱いは一任されてんだ。あいつらの手でお前らを手荒く扱ったら、今度はあいつらが恨みの的になるからな。かといって、甘い処罰じゃ納得しねえ奴等が大勢出て来るのも、ご覧の通りさ。扱いが難しいんだ、あんたらの身柄ってのは。だからジャラールもアウラングーゼも、世間体など問題じゃねえ盗賊兼傭兵の俺達に押し付けて来やがるんだ。」

「・・あ、ああ、あなた達も」

 震える声で、どうにか主張を絞り出そうとする。「私達に酷い事をすれば、ただではすみません。我が夫が必ず、あなた方が想像もできない恐ろしい報復で、あなた達を攻め滅ぼすでしょう。」

 どこまで効果を期待しているのかは不明だが、今はそれが、彼女には唯一の便(よすが)だ。

「反軍政の部隊を蹴散らせるほどの援軍なぞ、お前だって本気で期待はしてねえだろ?見え透いた強がりだぜ。だが、援軍以前に、お前の夫は『エッジャウス』にすら、たどり着けねえと思うぜ。」

「な・・何ですって?そんなはずは、ありません。自力で『エッジャウス』にまでたどり着けなかったとしても、我等に協力して下さる軍閥は、『グレイガルディア』中のあちこちにおられるのです。その方々の助力で必ずや『エッジャウス』にたどり着き、そこから強力な援軍を伴って・・・」

 言い切る前に、言葉は力を失って消え入った。

「自信がねえんなら、言い返すなよな。まあ良いさ。現実をしっかり思い知らせた上で、もう一度話をする事にするぜ。多分近い内に、お前に現実を思い知らせるような情報が入ると思うからよ。」

「そ・・そんな・・、まさか、そんなはずは・・・」

 カイクハルドがどんな情報を示唆しているのか、彼女にも察しは付いているだろう。彼女の唯一の希望を打ち砕く報せ。そんなものは来るはずが無い、と己に言い聞かせているのだろうが、カイクハルドの自信に満ちた目には、彼女の希望を掻き消す力があるようだ。


 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は  '19/8/31  です。

 軍事政権への民衆の恨みというのを、ものすごく限られた人々だけで表現してしまった感じになりました。軍事政権代表として、「シックエブ」の要塞総司令官の妻のルカイヤを登場させ、民衆代表としてはシヴァースの手勢としました。初めて登場してきたルカイヤ一人に、いきなり全部の恨みを背負わせるのも不自然な感じもしましたが、多人数に負わせたらイメージが湧きにくいのじゃないかとも思い、悩んだ末にルカイヤに一人で背負ってもらいました。軍事政権への恨みや反抗にしても、よく考えればその主戦力は軍閥たちであり、一般の民衆は、恨むとしたら自分の所領の領主となるのが普通なのかな、とも思いましたが、やはり軍政側の代表者1人と民衆という図式の方が、こういう場合にはイメージし易いだろうとの作者の思い込みで、民衆に責められるルカイヤというシーンになりました。シヴァースの手勢が民衆の代表っていうのも、突飛な感じがするかもしれませんが、この場面に居合わせた「アウトサイダー」となると、「ファング」かジャラールが数年前から鍛えて来た戦力しかいないわけで、やはりこの形しか選択肢がなかった・・・。などなど、言い訳を並べつつ、これまで全く描かれてこなかった者達同士のやり取りで、これまでの戦いの結末を描く形になったことを正当化しておきます。というわけで、

次回  第84話 栄華と惨劇  です。

 「シックエブ」は陥落しましたが、「エッジャウス」に援軍を求めに行った要塞総司令官のシャハン・ノースラインと、捕虜になっているルカイヤについては、決着がついていません。シヴァースの手勢が代表する民衆の怒りや、アウラングーゼと約束している「シックエブ」の管理体制への移行など、行く末を注目すべきことは幾つもあるはずなので、是非次回もお見逃しなく!

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