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銀河戦國史 (アウター“ファング” 閃く)  作者: 歳越 宇宙 (ときごえ そら)
第5章  包囲
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第74話 瞬殺・圧殺・鏖殺

「何だ?罠・・なのか?出ては、行かんのか?」

 マッカリの、がっかりしたような声が聞こえて来た。「やっと出番だと思ったのに、まだ、しばらくお預けなのか?」

「でも、万が一陽動じゃ無かったら、この方面は窮地に陥る事になるぜ。これだけ大きなタキオントンネルを検出して、何もしない、というわけには・・。軍を分けるか?2手に分かれて迎撃する・・か?」

「そ・・そうだ。」

 ジャールナガラの意見で、マッカリの声が元気を取り戻す。「やはり、出るべきなのだろう。予が出なければ、どうにもならないのであろう?」

「卿は、ただ出たいだけで、申されておるな。しかし、陽動の可能性が高いのに、出すわけには・・・。無闇に戦力を分散するのも、数的に劣勢なこちらとしては、得策とは・・・」

「どうなんだ?出て良いのか?いかぬのか?」

 迷うイシュヴァラを、駄々っ子のようなマッカリの声が責め立てる。

「出て良いぜ、マッカリ卿よ。全軍で出撃だ。俺達も出る。」

「はぁ?おいおい、カイクハルド。」

 珍しく取り乱すイシュヴァラ。「陽動だ、と確信しているのではなかったのか?本隊は他の場所を目指し、ここには小数部部隊しか来ない。お前は、そう思ってるのだろう。」

「ああ、そうだ。俺達が向かう先には、陽動の為の少数部隊しか来ねえ。」

「だったら、行ったらいかんだろう!敵の本隊に、別方面からの進出を許してしまうぞ。何を考えているんだ。」

「いや」

 ニヤリ、とカイクハルドは口角を上げた。「本隊には、先には進ませねえ。大丈夫だ。陽動にまんまと引っかかってやった上で、本隊の方も止めてやるさ。」

「なんじゃ?そんな魔法のような事が、可能なのか?・・が、お前がそう言うなら、そうなのだろうな。」

 疑問を顔に貼り付けたままだが、ジャールナガラは受け入れた。

「そ、そうだな。こと戦争に関しては、私達より、こやつの方が知悉(ちしつ)しておるな。ここは、任せるとするか。」

「どうなのだ?出て良いのか?ダメなのか?」

 マッカリは、甲高い声で問い続けている。

「良いぜ!出て、存分に暴れろ。ただ、俺達が先行する。それに、あんたのところに配してある戦闘艇部隊の1つ、『第1艦隊第1戦闘艇部隊』を、俺達が借りて行く。」

 その部隊とは、当然ジャールナガラの運んで来た新鋭戦闘艇より成る部隊だ。パイロットも「ファング」根拠地から送られた、強化された身体を持つ者達だ。初対面の連中ばかりだが、カイクハルドには信頼が置ける。

「おほほほ、そうか。出て良いのか。そうか。」

 それだけで大喜びのマッカリは、カイクハルドの要望は全て受け入れたようだ。

 カイクハルドは、不安気なイシュヴァラやジャールナガラの顔と、甲高く響くマッカリの馬鹿笑いを振り切るように、指令室を飛び出した。無重力の通路を移動補助用のポールを蹴っ飛ばしながら突き進み、「シュヴァルツヴァール」に帰り着いた。


 「シュヴァルツヴァール」は、敵部隊進路の前方でタキオントンネルから飛び出した。十分距離を置いて、飛び出した直後を狙わせないようにしたし、未だ敵は通過しておらず、こちらの無人探査機が大量に飛び回っていて厳重な監視ができている宙域でもあるので、「シュヴァルツヴァール」は安全だ。

 タキオントンネル離脱と同時に、情報も入る。予想通り、敵は大きなサイズのタキオントンネルで、小規模部隊を送って来ていた。20艦余りの部隊で、先行部隊と合流して約30艦で「オンボート」を目指していた。

 その敵部隊からは離れて行く軌道で「シュヴァルツヴァール」は航行しているので、戦闘に巻き込まれる可能性も極めて少ない。その「シュヴァルツヴァール」と共に、マッカリ部隊から拝借した空母2艦も付いて来ており、それらからも戦闘艇が射出された。「ファング」も含めた、総勢300隻の戦闘艇部隊だ。

 電磁式カタパルトで射出された戦闘艇は、母艦とは逆方向に進み、敵への接近軌道をとる。それほど強い加速は実施しなかったので、相対速度の小さい会敵になるはずだ。密集隊形もとっておらず、いつものような弾丸突撃はしない。

 「ファング」は、マッカリからの“借りもの部隊”と共に、20隻ごとの集団に別れて、広く展開した形で敵へと迫って行った。「ファング」には従来の戦隊ごとの行動だし、根拠地から来たパイロットも皆、4隻で1単位、20隻で1戦隊という編成には慣れているので、“借りもの部隊”をその形で行動させるのに手間はかからなかった。

 「ファング」と“借りもの部隊”は、端のものほど先行し、中央のものは遅らせる事でロート状となり、その内側に敵を飲み込む形勢だ。時代が時代なら、鶴翼の陣で敵を取り囲む、とでも表現したい形勢だが、2次元ではなく3次元でのこの陣構えは、鶴翼よりロートの方が実態に合った比喩だ。

 それとほぼ時を同じくして、マッカリの戦闘艦部隊は敵進路の前方、つまり「ファング」の後方に飛び出し、待ち構える形で隊列を整えていた。30ほどの彼の戦闘艦部隊は、艦数では敵と同等だった。陽動に引っかかった上に、敵の陽動部隊と戦力が同等という形では、敵本隊は、心置きなく標的に向かえる気分でいるだろう。敵は、勝利を確信していても不思議では無い。

 「ファング」と“借りもの部隊”は、敵との距離を保ちながらランダムに飛び回った。ロード状から更に、敵を球状に包み込む形に遷移して、20隻一組で、敵を中心にした球面上を縦横に乱舞している。

 敵部隊は、幾つかの小型戦闘艦が艦隊の外側にせり出して来て、「ファング」等への迎撃を担当していた。間もなく同数の艦隊との正面衝突だから、多くの艦は、遠くを飛び回る戦闘艇群になど、構ってはいられなかった。幾つかの小型戦闘艦に任せ切りにするよりなかったし、それで十分だと思っているだろう。大型や中型、そして戦闘艇を満載しているであろう空母などの、艦隊の核となる戦力は、マッカリ艦隊との対決に専念する構えだ。

 “借りもの部隊”の戦闘艇は、「ファング」よりは旧式だが「グレイガルディア」においては新鋭で通るものだ。それらが距離を置いてランダムに飛び回れば、敵の攻撃はなかなか命中しない。散開弾の展開範囲内に、なかなか戦闘艇を捕えられない。幾つかの小型戦闘艦だけで対処しているから、あまり濃密で広範な攻撃にもならない。撃っても撃っても、横から回り込んで回避される。

 そうしている間に敵も、近付いて来ないのなら脅威は無い、と判断したものか、散開弾の発射数も減って来る。恐らく、正面の艦隊とぶつかった直後に接近して来るのだと判断し、その時に備えてミサイルを温存する計算をしているのだろう。散発的な要撃しか、繰り出して来なくなった。

 が、敵の迎撃圧力の低下を見計らって、幾つかの戦闘艇群が、突如、爆発的な加速を見せた。たいていの「グレイガルディア」の人間ならば、絶対にパイロットは即死したはずだ、と信じて疑わないような加速度で、敵艦隊へと急接近を見せる。

 もちろん、突撃を仕掛けたのは全て「ファング」の戦闘艇だ。敵の周囲を飛び回っていた内の、3分の1にあたる「ファング」戦闘艇のみが、それまでと打って変わった直線的な接近に動きを切り替えた。緩慢な横の動きから、素早い縦の動きへのフェイントだ。

 敵は、慌てふためいて散開弾攻撃を実施。そして、いつも通りの「ファング」の突破。だが「ファング」は、攻撃して来た小型戦闘艦ではなく、その向こう側、敵艦隊中央付近でマッカリの戦闘艦部隊との接触を待ち構えている中型や大型の戦闘艦を目指して、駆け抜けて行った。

 戦闘艇群への対処を一任されていた小型戦闘艦は、何としても「ファング」の行く手を妨げなければならないところだが、周囲に残っていた3分の2の戦闘艇から散開弾攻撃を仕掛けられ、その機を得られなかった。散開弾攻撃自体は、爆圧弾の発射で簡単に防御できたが、散開弾に妨害された索敵態勢では、「ファング」を攻撃できるほど正確に位置や運動量が把握できない。

 敵艦隊中央部の艦群も「ファング」の接近に気付き、要撃した。が、遅かった。小型艦が撃ち漏らす事も予想外だし、「ファング」の加速も規格外だったから、間に合う要撃などできるはずがなかった。広がり切る前の散開弾をヒョイと躱し、「ファング」は無慈悲な攻撃を繰り出した。

 敵戦闘艦が「ココスパルメ」の青白い光球に食い付かれ、お約束の清々しい地獄絵図がまたも虚空を色づけて躍る。各単位が別々の艦を狙ったから、25個の戦闘艦が「ココスパルメ」という飾り付けを施される。

「イヤッホー」

 カビルが思わず雄叫びを上げるのを、カイクハルドは耳にする。第1戦隊の「ヴァイザーハイ」5隻を見事に統率してミサイル攻撃を成功させた手柄は、彼にある。

 まもなく始まる予定のミサイル戦に備えて、敵艦の表面付近は可燃物だらけだったので、被弾の影響は深刻だった。マッカリ艦隊が攻撃を開始した時、応戦できた敵艦は、一つも無かった。攻撃どころでは無く、艦内は吹き荒れる殺人的な熱風で大混乱だった。強磁場の影響で、電子機器も多くが使えないという絶望的状況も重なっている。ミサイル攻撃を指揮したカビルも、さぞ満足しているだろう。

 敵艦隊の混乱が最高潮に達している正にその時、マッカリ部隊の放ったミサイルが続々と着弾した。もちろん、偶然そうなったのではなく、「ファング」とマッカリ軍が予め示し合わせて、絶好のタイミングで着弾するように図っていた。

 普通、艦隊同士のミサイル戦というのは、散開弾の応酬から始まる。いきなり徹甲弾を撃っても、簡単に迎撃されてしまうから。だが、「ファング」の描き出した混乱に付け込む予定だったマッカリ部隊のミサイル攻撃は、最初から全弾、徹甲弾だった。遅ればせながらの敵の対応で、1割ほどの徹甲弾は迎撃されたが、9割は着弾し、巨大な艦の分厚い装甲が、穴だらけとなる。

 自立誘導で標的を真正面に捕えると、ズドンッとロケット噴射で激烈な加速を見せ、敵艦に突き刺さって行く。迎撃は、この最終段階の加速より前にしかできない。最終加速行程に入ってしまえば、もう手の施しようは無い。それが徹甲弾だった。

 「ファング」の「ココスパルメ」で既に損傷を負っていた敵の艦体に、徹甲弾はより深くにまで突き刺さり、そこから噴き出された爆風も、より広範囲に、より凶暴に吹き荒れ、艦内設備共々、数多の人命を焼き焦がした。

 第1派のミサイル攻撃で、3割が大破から崩壊に至った。真っ二つにへし折れた艦、四分五裂に砕かれた艦等が続出した。反物質動力炉が誘爆した艦は、灼熱の巨大光球に飲み込まれて(あくた)も残さず消滅した。

 更に半数が中破以上の損害を被り、小破をすら被らなかった艦は皆無だった。マッカリ部隊に向かって反撃を繰り出せた艦も、1艦とて無く、一方的に打ちのめされるのみだった。

 「ファング」等を蹴散らす役割だった小型戦闘艦群は、全て小破で済んでいた。「ココスパルメ」の洗礼を受けていなかったので、ある程度の対処ができていた。とはいえ、「ファング」が突入した際に残りの戦闘艇部隊による散開弾攻撃を受けていた影響で、小破を避ける事はできなかった。

 その小型戦闘艦群は、味方の大打撃を受けての対応が別れた。味方の援護に駆け付けようとする艦と、引き続き戦闘艇部隊を蹴散らす任務を継続する艦の、2通りがあった。

 カイクハルドは、「ファング」には敵艦隊中心部に居る大型や中型の艦群への反復攻撃を下令する一方で、“借りもの部隊”へも指示を出していた。彼等への応戦を継続している3個の小型戦闘艦に攻撃を集中せよ、との指示だ。3艦に、200隻の戦闘艇が群がり上下左右前後から、立体的な包囲攻撃を繰り出す。「ファング」のように、迎撃の散開弾を突破して一挙に肉薄する攻め方はしなかったが、遠目から球状に取り囲んでの一斉散開弾攻撃で、じわりじわりと継戦能力を削ぎ落した。

 そこへ、マッカリ艦隊から第2派のミサイル攻撃が飛来する。今度は、小破では済まないだろう。金属片群に滅多打ちにされた直後の小型戦闘艦は、レーダーもレーザーも使いものにならない。サンドバック状態でマッカリ艦隊のミサイルを受ける事になるだろう。

「突っ込めっ!」

 カイクハルドは、「ファング」全艇に鬼気迫る拍車をかける。「最短距離で、許容限界加速で、各戦隊の標的に切り込め!」

 マッカリ艦隊の第2派攻撃は、敵部隊の全戦闘艦に万遍なく差し向けられており、「ファング」が手を出さなくても全滅は間違いなさそうだ。が、

「倒すだけじゃ、ダメなんだ!一刻も早く、少しでも速やかに、可能な限り鮮やかに、劇的に殲滅しなきゃ意味がねえ。少々無理してでも、一気に突っ込めっ!」

 叫びながら、彼自身も激烈な加速重力に痛めつけられている。全身を強加速でいじめ抜きながら、赤い光に心も痛めつけられる。無理な突撃は、「ファング」の命も削っていた。

 マッカリ艦隊には反撃の手を上げられなかった敵も、至近距離を飛び回る「ファング」には要撃を加えて来る。複数の戦闘艦が、複数の方角から、1つの戦隊を目がけて散開弾を撃ち込んで来る。それを躱したり突破したりしながら、艦からのレーザー照射も掻い潜りながらの反復攻撃だ。短時間で仕留めようと図れば、損害は免れない。

 2回3回と、赤い光がカイクハルドをのみ込んだが、彼は「ファング」に拍車を駆け続けた。

「何度も突っ込め!何隻やられても突っ込め!やられてもやられても、ひるまずに突っこめ!敵を全滅させるまで、突撃し続けろ!」

 敵から降伏の申し入れが、通信で寄せられる。

「聞くな!受けるな!全員殺せ!」

 逃亡を図る敵も出て来た。

「逃すな。一人も生きて帰すな。皆殺しだぁっ!」

 非武装のシャトルで脱出を図っている敵兵もいる。

「構わねえ。無抵抗な相手も()っちまえ!」

 敵艦からの通信は、ひっかいたような、悲痛な金切声を届けて来る。

「止めてくれ!助けてくれ!もう抵抗しない。降参する。命だけは助けてくれ!」

 声を枯らしての命乞いは、黙殺された。

 赤い光。「ファング」に犠牲が。でも突っ込む。

「このシャトルには、非戦闘員の女ばっかりが乗っているのよ!お願いだから、攻撃しないで。何でもするから、助けてぇっ!」

 悲鳴に近い主張には筋が通っていたが、無視された。

 また赤い光、「ファング」に死が広がる。それでも突っ込む。

「許してくれぇ!無理やり連れて来られただけなんだ!嫌々戦っていたんだ!戦争なんかしたくなかったんだ!」

 赤い光・・・

「故郷で家族が待ってるんだ!生まれたばかりの子供もいるんだ!俺が帰らなきゃ、故郷のみんなが路頭に迷うんだ!」

 赤い光・・・

「捕虜になる!奴隷にされても構わない!だから、殺すのだけは止めてくれぇっ!」

「いやぁっ!怖いわ、死にたくないわ、許して、許して、許して・・・」

「お願いします・・お願いします・・お願いします。どうか・・助けて・・・」

 赤い光、赤い光、赤い光・・・

 何を言っても、無駄だった。仲間が何人死んでも、途絶えなかった。執拗に、徹底的に、文字通り一人残らず、敵は皆殺しにされた。普段の「ファング」には見られないし、ほとんどの盗賊等にもあり得ない程の残忍さを、この戦いでの彼らは露わにしていた。

 マッカリ艦隊は、損害が無いどころか1発のミサイルの飛来も検知しなかった。たった5回のミサイルの一斉射撃で、敵部隊を全滅に至らしめた。即席で烏合の衆でもある兵による精度の低い射撃だったが、問題にならなかった。3千余りの人命が、たった10分と少しで、綺麗さっぱり消滅した。30以上の巨大な金属の艦も、ことごとく小破片以下にまで砕かれた。

 「ファング」の、仲間の命も顧みない強引な突撃の連続が、もともと同程度の艦数の対決だった戦いにおける、鮮やか過ぎる殲滅劇を演出した。

「こっちは片付いたぜ。」

 カイクハルドの報告は「シュヴァルツヴァール」を中継として、超光速のタキオン通信でイシュヴァラ達に届けられた。

「す・・凄まじい戦いだったな・・、けど、そっちは良いが、敵の本隊はどうするんだ?7千の兵を乗せた50以上の戦闘艦が、別方向から『オンボート』を目指して進行中だぞ。ギヤス殿には、とても手に負えない。このままでは、皇帝陛下を守り切れないぞ。」

「本当にそうか?敵部隊の様子、じっくり観察していろよ。」

「か・・観察・・だと・・?観察は、ずっと、しているが・・・うん?こ・・これは・・・・・。おおっ、敵本隊から、ちらほらと、逃亡を図る艦が、出て来ているように見えるな。」

「だろうな。」

 カイクハルドは、自信と納得に満ちた声で応じた。「そのまま、しっかりと観察を続けていろよ。おもしれえもんが、見られると思うからよ。」

 敵陽動部隊の全滅を確認した後、「ファング」は「シュヴァルツヴァール」に帰投した。戦闘より、母艦に帰投する作業の方に、長く時間がかかったくらいだ。殲滅劇の30分後、カイクハルドは「シュヴァルツヴァール」の航宙指揮室で体をリラックスさせた。

「よう、イシュヴァラ」

 改めて、「バルイキ」星系の臨時拠点と連絡を取る。「敵本隊の動きはどうだ。」

「か・・カイクハルドか?・・・いやいや、驚きの光景を、目撃させられているよ。この30分の間に、敵本隊から逃亡を企てる兵が、どんどん増えて行き、敵の勢力は見る見る削られて行った。いつの間にか、逃げている艦の方が多いのじゃないか、と思えるようになってしまったぞ。今となっては、『オンボート』に向かっている艦は、ほんの僅か・・・いや、それどころでは・・ない・・か?・・・おっとっと、あれあれ・・うわっ!・・・おお、気が付けば、あと2艦だけ・・ああ?・・こいつらは皇帝側への参陣を申し出やがって、敵じゃなくなった・・・ということは、もう、責めて来る敵は、1艦も無くなった。敵の全戦闘艦が、逃走軌道に入っておる。隊列も何もなくなって、全艦がひたすらに逃げるだけになっている。潰走だ、もうこれは。戦闘が始まってもいない内から、7千もの陣容を誇った大部隊が、潰走に至ってしまった。な・・何だ?何なんだ・・これは?」

「カイクハルドよ。」

 イシュヴァラに続き、ジャールナガラも喘ぐような声を届けて来る。「い・・いったい、どんな魔法を・・使ったんだ、お前は?いや、『ファング』か?」

「魔法なんぞ、使ってるかよ、俺も『ファング』も。もし、おかしな力を使った奴がいるとしたら、それは皇帝だ。これは、皇帝の神通力のなせる業、ってところだ。」

「皇帝の?」

「どいういう事だ?」

 拠点の2人が、相次いで疑問の声を上げる。

「皇帝に弓引くって事を、敵兵がどれだけ恐ろしく感じていたか、って事だ。それはもう、肝が縮み上がるくらいに、ビビりまくってたんだろうよ。そこへ、陽動部隊全滅の報が届いた。マッカリ部隊を引き付ける為の陽動部隊だとはいえ、艦数は同じ位で、それなりに時間を稼いで釘付けにするはずの部隊だったんだ。それが、予想もしないほどの短時間で全滅させられちまったもんだから、敵兵の皇帝への畏怖の念が、大爆発したのさ。」

「そういう事か!陽動部隊を、敵が驚き、恐怖するくらいにあっさりと、鮮やかに殲滅する事で、敵の皇帝を恐れる気持ちに火をつけたのか。」

 ジャールナガラは、やや腑に落ちた言い草だ。

「そうさ。考えても見ろ、元から嫌々に戦場へと連れて来られた連中だぜ、敵兵は。」

 カイクハルドは説明を続けた。「もうとっくに信頼も忠誠も失ってる軍事政権が、武力で脅したり人質を取って迫ったりして、無理矢理に戦場に引きずり出して来た兵達だ。それも、未だ皇帝への敬愛を心中に託ってる連中も少なからずいるし、敬愛まではしなくても、皇帝に弓引く事を恐れねえ奴なんて、『グレイガルディア』には滅多にいねえ。」

「ちょっとしたきっかけで、逃亡兵が続出して当然の軍勢だったんだな、軍政の討伐部隊は。」

 イシュヴァラの声も、納得を示すものだ。「特に、お前達の今回の残忍さや情け容赦の無さも、敵の恐怖心を大いに掻き立てたのだろうな。」

「ああ、敵本隊の兵達を確実に恐怖させる為に、可能な限り速やかに、鮮やかに、そして、徹底して残忍に、執拗に皆殺しを実施する必要があった。今回ばかりは、降伏も逃亡も、許してやるわけには行かなかった。女であっても、見逃すわけにいかなかった。皇帝に歯向かった者には命はねえって、敵に思い知らせなきゃいけなかったからな。」

 「ファング」に犠牲を出してでも、涙ながらの命乞いを無視してでも、権力者の箱入り娘獲得のチャンスを棒に振ってでも、短時間での殲滅劇を展開する事が、この戦いでは重要だった。

「3千の兵が皆殺しになったが、敵の本隊とギヤスの手勢がぶつかり合っていたら、犠牲者はもっと多かっただろう。単純な数比べで評価できる事じゃねえが、それでも犠牲者数が少なくて済むなら、それに越したことはねえだろ?」

「う・・うむ。」

 カイクハルドの意見に、イシュヴァラは重い頷きで応えた。「単純な数比べで人命を評価しなければならんのが、戦争だな。だからこそ戦争は恐ろしい、と言えるのだろうが、始まってしまったからには、死者数を少なくする策を、取らねばならないな。」

 できるだけ平和裏な解決を望むイシュヴァラを気遣った、カイクハルドの言葉だ。それはイシュヴァラも強く感じ取っている。死者数を少なくする為に、残酷な、命乞いをも無視した皆殺しを、カイクハルドは「ファング」に命じた。仲間の命を失ってまでも。自分の命を危険に曝してでも。

「だが、やはり驚きだな。陽動部隊を殲滅する事で、本隊である大兵力を、戦わずして壊滅・・いや、消滅させるなどという策は、私などには考えもつかないぞ。」

「ああ、陽動と分かっているのに、陽動部隊の方に飛んで行った時には、気でも触れたかと思ったぞ。」

 ジャールナガラとイシュヴァラの感想に、

「お前らくらいビビらせられねえ策じゃ、敵を出し抜けねえだろう。」

と軽口で受けたカイクハルドだった。彼の脳裏には、この戦いで失ったパイロットへの想いも(わだかま)っている、と気付いているイシュヴァラには、痛々しくも感じられる軽口だった。


 皇帝の玉体を取り戻し、皇帝を連れ去った逆賊を誅滅(ちゅうめつ)する、という目的で掻き集められた1万の軍勢は、跡形も無く雲散霧消してしまった。敵の拠点には引き上げて来る兵も無く、数百の守備隊が残るのみだ。もはや、意に介する必要のない、存在感の欠片も無い拠点となり果てた。

 一方で皇帝のもとに馳せ参じる兵は、防衛戦の勝利を皮切りに、俄然多くなった。

 以前から馳せ参じる意思を持ちながら、軍政部隊に睨まれて身動きが取れなかった者達も、こうなっては誰(はばか)る事無く本意に従って行動できる。

 日和見だった者達の大半も、この戦いの後には帝政に組した方が上策と判断し、軍政打倒の旗を掲げて皇帝のもとを目指した。

 これまで軍政に忠誠を誓っていた軍閥等の中にも、この戦いを機に態度を翻す者共が続出した。

 それら全てが合わさった結果、皇帝の周囲に集う兵の数は、爆発的な増加を見せた。

 皇帝を取り戻す為の、「オンボート」への進軍に参加していた軍閥が、そのままダイレクトに皇帝軍へ馳せ参じる行動に転じる、というケースもあったくらいだ。軍勢の雲散霧消を見届けるや否や、皇帝奪還から軍政打倒に看板を掛け換える瞬間を、イシュヴァラ達も目の当たりにしていた。

 宇宙要塞「オンボート」を固めるカームネーの手勢が、向かって来るのが敵の進軍なのか味方の参陣なのかの判断に戸惑う程に、彼らの動きには節操が無かった。危うく味方にミサイルを撃ち込みそうだったのを、寸前で取りやめ、角度を変えて歓迎の祝砲として発射し、プラズマ弾の青白い光球を花火代わりに虚空に咲かせた、という珍事まで起こった。

「毎日1万のペースで、兵が膨らんでいる。防衛戦が終わってから10日が過ぎたが、全く勢いは衰えない。軽々と、十万の大台を越えてしまった。」

 イシュヴァラが戸惑いがちに、カイクハルドに報じた。円筒形宙空建造物内の、深緑の森を一望できるギヤスの城館の一室に、彼等はいた。

「陛下がここにおいでになられてから、20日以上経っても4千程しか集まらんかったのと比べると、隔世の感があるぞ。こんな辺境に、こんなにも人が居たのかと驚く程だ。」

 ギヤスに供された、羊羹(ようかん)とかいう名前のスィーツを頬張りながら、ジャールナガラも目を白黒させている。生物由来食材(バイオオリジンフード)から、それも海洋性生物を含んだ材料からそれを作ったという事実が、この施設内の人工の自然の豊かさを示している。

「辺境の住民だけが、集まってるわけじゃねえだろう。『グレイガルディア』の全ての宙域から、ここを目指して参陣希望者が押し寄せているさ。皇帝の神通力恐るべし、ってところか。こんな円筒形建造物っていう収容力の高い施設を、作っておいて良かったな。」

「ああ」

 ジャールナガラが大きく頷く。「この施設を建造し始めた時には、いくらなんでも大規模過ぎるものを作った、と思ったものだ。が、ギヤスの奴は、陛下をお迎えするとすれば、これくらいのものは必要になるはずだ、と言い張って聞かんかった。今にして思えば、あやつは皇帝権威の凄さを、正確に見極めておったのだな。」

「密貿易で大儲けした財産を、ほぼ全てこの施設の建造と軍隊装備の確保に当てたのだったな。皇帝への敬愛と帝政復活への意志の強さが、しのばれるというものだ。」

 銀河連邦の高度な技術力を、ギヤスの潤沢な財力で導入したこの施設は、兵員の収容力だけでなく、食料や資材の生産力も並大抵ではない。

「集まった兵達を腹いっぱい食わせた上に、十分な装備を施してもやれるんだろ?」

「うむ。」

 カイクハルドの問いに、ジャールナガラが大きく頷いた。「まともな装備など何一つ持たぬ『アウトサイダー』の傭兵連中も、新鋭の戦闘艇に乗せてやれる。軍閥などの装備も、新鋭に劣らぬ性能にグレードアップしてやれる。寄せ集めとは言え、かなりの戦力になるはずだぞ。」

 ジャールナガラは胸を反り返らせた。ギヤスの手柄は、当然の如く自分の手柄でもある、と信じて疑わぬ面構えだ。

今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 '19/6/29 です。

作中に時々食べ物が出てきますが、作者としてはここに、物語の世界観をぎっしり詰め込んでいるつもりなのです。読者様には、どのように受け止められているでしょうか?あまり意に介しておられない方もおられるとは思いますが、作中でくどくど説明するのも無粋かと思い、控えているのです。ピザに小麦粉が使われているなんか、現代人である読者様にはあたりまえでしょうが、宇宙時代のカイクハルドにはさっぱり分からないとか、皇帝から知識を伝授されている貴族の出身だからこそ、ラーニーにはそれが作れるとか、そういったあたりからこの時代の雰囲気みたいなものを感じて頂けていれば、作者としては望外の喜びなのですが。羊羹も、寒天が使われていることやそれがテングサという海洋性生物から作られるという現代人の常識から、ギヤス・カームネーの持つ円筒形宙空建造物のすごさを実感してもらうために、そして、小惑星をくりぬいた施設などに住んでいる庶民との格差の大きさにも思いを巡らせてもらいたくて、登場させているのです。まあ、ご興味がなければ、そんなことはすっ飛ばして読んで頂いても、まったく問題はないのですが・・。陽動部隊を速やかに殲滅することで本体を戦わずして消滅させる、なんていう戦略構成以上に、そういった所に作者が気を使っていることを、もしよければ心に留めて頂ければ、なんて思ったり・・。ちなみに、陽動部隊を殲滅して云々の戦略は作者が案出したのではなく、どこかで見たものです。どこで見たのかよく覚えてなくて、「兵法三十六計」にあったかな、と思って調べてみたけど、なさそうです。いずれにしろ、しょせん借り物のアイディアにすぎない戦略構成よりも、羊羹の方が作者の思い入れは強いのです。というわけで、

次回 第75話 皇帝直轄軍の出陣 です。

第5章「包囲」が今回で終わり、次回からは第6章に突入します。「ファング」が「レベジン」領域で戦っている間も続いていた「シックエブ」への包囲状態から、次の局面に進む時が来たわけです。いよいよ攻め落とすか?しかし、そんなに順調に進んだのでは、面白くないですよね。どうでしょうか?

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