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銀河戦國史 (アウター“ファング” 閃く)  作者: 歳越 宇宙 (ときごえ そら)
第4章  激突
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第56話 捨身・死守・永訣

「バラーンの部隊が、敵後方から奇襲を仕掛けたってことか?」

 データー解析を終えたトゥグルクの報告に、カイクハルドが問い返した。

「いや、あれだけの規模の部隊だから、後方にもちゃんと索敵の目はあった。奇襲と呼べるほど、不意を突いた攻撃にもなっていないと思うぜ。」

「それにしては、敵は慌てた動きを見せたな。包囲を完全に解いて、こっちに脱出の隙を与えちまったほどだぜ。奇襲が成功してねえなら、バラーンの部隊程度にあの大部隊が、そんなに慌てる事はねえだろうにな。」

「それがな」

 トゥグルクは声を一段落した。「バラーンの奴は、捕虜にした軍閥棟梁の識別信号を使って、上手くそいつに成りすましたんだ。そして敵に、バラーンの部隊にカジャも同行しているかのような偽情報を掴ませたらしい。」

「つまり敵は、カジャの居る部隊に攻撃を受けた、と信じ込んで、そっちに全戦力を投入したって事か。敵の狙いは始めからカジャ一人だから、カジャの座乗艦に攻撃を仕掛けられたのだと思い込めば、そうなるのも当然か。」

「そういう事だな。」

「つまり」

 カイクハルドの声も低くなる。「あいつは、死ぬつもりだな。自分の方に敵の全戦力を引き付けて、己の命を的にする事で、カジャに脱出の余裕を与えたってわけだ。」

「何だと!」

 落ち延びて行く「シュヴァルツヴァール」に、カジャの姿もあった。「バラーンの奴は、予の身代わりになって死ぬつもりなのか?」

 悲壮感を張り付けた顔で、声を荒げた。彼自身の、配下への管理不行き届きが、長年付き従って来た忠臣の命を奪う結果になったのだから、無理もない。

「まあ、そうでもしなきゃ、この局面は切り抜けられなかったよな。バラーンがどうやって、敵の隠し集落への襲撃を知ったのかは分からんが、あいつの部下には『第14集落』の出身者が多いって話だったからな。裏切者の発生を察知した住民の誰かが、バラーンの部下に何かを知らせたのかも知れねえな。」

「ち・・畜生っ!」

 カジャは、吐き捨てた。「なぜ、何もかもが裏目に出るのだ。あいつの部下に出身者が多い集落を救ってやろうとした行為が、結局、あいつを殺す結果になってしまうなんて。隠し集落が見つかってしまっては、集落の住民達を救う事も、もうできぬ。何もかもが無駄になってしまう。予は、初めから何もしない方が、良かったという事なのか?」

(だから、寄せ集めの兵で、あれこれ動き回らねえで欲しかったんだよな。俄かに馳せ参じた奴等なんか、動かさずに軍政への牽制だけに徹しているのがベストだったんだ。)

 内心ではそう呟いたカイクハルドだったが、哀れを絵に描いたようなカジャの姿を前に、それを口に出す気にはなれなかった。

 手元にいる大兵力を有効に役立てたいとか、忠臣の為に何かをしてやりたいとか、人としては自然な感情だ。だが、大きな権力を持つ者が感情に従っただけの行動を起こしていたら、周囲に様々な迷惑を撒き散らす。場合によっては、多くの人の命を危険に曝し、一国の命運すら怪しくさせる。感情を制御した、論理的かつ冷徹な判断を求められるのが、統治者や権力の座にある者だ。

「住民の一部も女子供(おんなこども)を中心に、かなりの人数が隠し集落から脱出したみたいだが、一体どこへ向かうつもりなんだ?当てはあるのか?宇宙船に積み込んだ食料だけじゃ、1か月も持たずに食い潰してしまうだろうな。隠し集落に残った連中のこの先も、征伐部隊によるなぶり殺しとかっていう、暗澹(あんたん)たるものになりそうだが、逃げ延びた方も、明るい未来は待ってはいねえだろうな。」

 トゥグルクの問いかけに、カジャが顔を上げた。

「そ、そうか。脱出した住民の行き先も、考えねばならんのか。予の建造した要塞『ウェラリア』にでも連れて行くか。しかし、民間の宇宙船をそんなに大量に『ウェラリア』にまで輸送するとなると、かなり時間がかかってしまうな。小型のタキオントンネルターミナルしか、用意していないからな。カイクハルドよ、何とかならないか?『ファング』の力で、何とかできないか?」

「結局、そうなるのかよ。脱出するのに行き先も考えてないなんてな。それで、盗賊兼傭兵を頼るしかなくなるなんて、皇太子の名が廃るぜ。」

「・・お前の言う通りだ。面目ない限りだ。だが、もう予には、住民達を救ってやる手立てがない。お前達に頼る以外、どうする事も・・」

「全く、厄介なもんだな、皇太子ってのは。だがまあ、そんな事だろうと思っていたから、『ファング』と提携している集落が建造した隠し集落に、受け入れ可能かどうかを打診しておいたぜ。うちのパイロットのドゥンドゥーを派遣して、交渉に当たらせている。返事は未だだから断定的な事は言えねえが、同じ惑星の軌道上に暮らす者同士だから、まあ、受け入れてくれるんじゃねえかな。」

 その返事を待つ間にも、幾つか配置してある無人探査機からのデーターが色々と送られて来る。それを解析した結果が、トゥグルクから続々と報告される。

「バラーンの部隊は、完全に包囲されちまったな。10倍以上の戦力に囲まれちまったから、全滅も時間の問題だ。降伏でもすれば命は助かるかもしれねえが、あいつは、そんなつもりはねえだろう。1秒でも長く敵を引き付けるべく、最後まで奮戦するだろう。まず、命はねえな。」

 報告を受け、(すが)るような視線をカイクハルドに向けたカジャに、カイクハルドは機先を制して言葉を投げた。

「俺達を当てにするなよ。あっちもこっちも何とかしろったって、そんな虫の良い話はねえんだぜ。」

 実際、今「シュヴァルツヴァール」には2個戦隊しか残っておらず、第2戦隊の隊長も、彼の単位を引き連れて「第22集落」の隠し集落に、交渉に向かっている。第2戦隊の残りを第1戦隊に編入して戦う事はできるが、バラーンを包囲している敵をどうにかできる戦力には、到底ならない。だいたい、今彼らのいる位置からでは、バラーンが戦っている宙域に、間に合うように駆けつける事もできない。

 その他の第3から5戦隊は、シヴァースに預けてあって詳細な居場所は分からない。バラーン・アッビレッジを救う手立ては、皆無だった。

「自ら死を受け入れて、あんたの命を救う覚悟を固めたんだ、バラーンの奴は。なら、助ける事より、あんたが確実に生き延びる事を考えるべきじゃねえか?」

 トゥグルクにそう諭されて、カジャは力なく頷いた。

 更に少し時間が立つと、新たな連絡が入る。

「お、ドゥンドゥーからだ。女子供を乗せて脱出した宇宙船くらいなら、受け入れてもらえる方向で、話は決まったそうだぜ。事が治まった後、余裕が出来たら、いくらかでも代償を支払って欲しいって要望は出されたらしいがな。」

「そりゃそうだろう。受け入れるからには、食料の提供も避けられねえ。苦労して生産した食料を分けてやるんだから、後で余裕ができたら、ちょっとくらい利子を上乗せして返すのが筋ってもんだからな。」

「分かった。その線で、脱出した者達と話しをしよう。」

 そう言ってカジャは、コンソールに取り付いて通信機を操作した。幾つかの無人探査機を中継する事で、脱出組の宇宙船と「シュヴァルツヴァール」は、秘匿性の高い通信が可能だった。普通に電波を拡散させてしまったら、敵に傍受されて見つけられてしまう。「シュヴァルツヴァール」も脱出組の宇宙船も、今は敵に見つかるわけには行かない。収束性の高い電磁波やニュートリノビームを必要最小限の出力で照射する形で、敵に見つからない通信を可能にしていた。

 脱出組の行き先の確保が一段落して、カジャもほっと一息ついた時、ついに恐れていた訃報が届けられる。

「バラーンの死が、確認された。座乗艦ごと大爆発して、虚空に散って行ったらしいな。戦闘の途中で、カジャは居ないって事に気付いて、生け捕りを狙う必要もなくなった敵が、バラーンの座乗艦を蜂の巣にしたみたいだ。バラーン配下の他の艦も残らず撃破され、全滅した。」

「・・っく、うぅっ、・・ゆ、許せ。許してくれ、バラーンよ。お前の為を想って、お前の部下を安心させようとして、した事なのだ。それが全て裏目に出て、お前も、お前の部下も、全て死なせる事になってしまった。」

「許すも何もねえだろうよ。」

 項垂(うなだれる)れるカジャに、カイクハルドは声をかける。「奴はあんたの生存や勝利を望んで、命を投げ出したんだろ。許しを乞うより、あいつの望みを叶える努力をしろよ。大兵力で軍事政権を牽制する活動に徹してくれりゃ良いんだ。大きな戦果を上げようとかせずに、じっとしてるだけで良いんだ。何かするにしても、せいぜい時々『シックエブ』に繰り出す動きを見せるくらいで良い。」

 優しさより、厳しさの立った声だ。俯いたまま、返事もしないカジャにカイクハルドはたたみ掛けた。

「そんなんじゃ、軍事政権打倒後に皇帝親政が復活しねえんじゃねえか、って心配もあるんだろうが、皇帝一族に権威ってもんがあるなら、あんたが手柄を上げなくても皇帝一族に統治の実権は返ってくるだろうし、権威がねえんなら、もう皇帝親政は諦めるべきだんだ。」

「・・そうだな。もう予は、あれこれ動くのは止めにしよう。それよりも、配下の寄せ集めの兵共がおかしなことを仕出かさないように、厳重に監視する事に、手間暇を惜しまぬようにしよう。手柄を上げるより、悪事を犯させないようにする方が重要だと、今回の件で思い知ったぞ。」

 バラーンの戦力が全滅したのは、小さからぬ損失ではあったが、それでカジャがおとなしくしてくれるなら、その損失を補って余りある成果だ、とカイクハルドは思った。後は、彼の死を無駄にしない闘いを、自分達がするだけだ、と。

 そんな想いに耽っている時に、シヴァースからも連絡が入る。

「バラーンの死と奴の部隊の全滅は、こちらも連絡を受けた。残念だが、それでカジャ様をお守りできたのなら、今はそれで良しとするしかないだろう。こちらは、更にもう1つの軍閥部隊を壊滅する戦果を上げられた。途中でバラーンが、部下から気になる報告を受けたとか言って部隊を引き連れて離脱して行ったが、あんたが預けてくれた『ファング』の3個戦隊の活躍で、こちらはほとんど無傷の状態で敵を壊滅できた。」

「そうか。」

 カイクハルドは短く答えた。その軍閥撃破にどれだけの戦略的価値があるのだろう、と疑問に思う気持ちがあった。が、その彼の疑問を否定する報告が、トゥグルクからもたらされた。

「隠し集落周辺に出没していた敵も、撤収の動きを見せている。隠し集落に向かう動きの敵艦は、一つもない。一斉に撤収している。敵の通信も傍受して、まだ解析は部分的なのだが、どうやら軍政首脳が、『ピラツェルクバ』から手を引き『ギガファスト』攻略の方に全戦力を投入するように、直々に命令を下したらしいな。『ピラツェルクバ』で4個もの軍閥が壊滅した事実を知らされて、そう判断したんだろう。」

「そうか。プラタープの旦那が征伐隊にちょっかいをかけるタイミングも良かったのだろうが、俺達やシヴァースやバラーンが敵部隊を個別に撃破して回った事も、敵の撤収に繋がったんだな。このまま撤収して行ってくれれば、バラーンの多くの部下が出身だった『第14集落』の住民達にも、平穏な生活が戻って来る。バラーン達の命と引き換えにした戦いも、報われるってもんだな。」

 脱出組を、「ファング」と提携している隠し集落に受け入れてもらう必要も無くなった。脱出できなかった人々にも、不幸が訪れる事は無さそうだ。「シュヴァルツヴァール」の航宙指揮室に安心感が満ちていた。小さからぬ悲しみを抱えつつではあっても、穏やかな時間がしばらく流れた。

 が、脱出組の輸送船の不用意な行動が、また新たな危機を招いた。トゥグルクの切迫した声が報告した。

「敵の一部が、突如進路を変更した。・・こ、この軌道は・・。や、やべえぞ、カイクハルド、これは、脱出組の船を目指す軌道だ。」

「何だと!? どういう事だ。なぜ、あの船の位置座標が、敵に漏れたんだ?」

「脱出組の宇宙船が、集落民の多くが居残った隠し集落に向けて、不用意な通信電波を出しちまったらしい。自分達の受け入れ先が見つかった事を、残った家族に伝えようとしたんだろうが、敵の傍受を防ぐ手立てを全く講じていない通信電波を出しちまったから、それを敵に捕らえられたんだ。敵のごく一部にではあるが、脱出組の船が襲撃されるかもしれない。」

 無人探査機を経由して、収束性の高い電磁波を最低出力でやり取りすれば、敵に見つからずにメッセージを伝える事もできる。だが、女子供ばかりを詰め込んだ宇宙船に、そんな軍事的な気配りを求めるのも酷だろう。愚かな過ちに見える行動だが、家族に無事を伝えたい心情も無理からぬものだし、軍事的な知識供与も訓練も受けてない者に、傍受への対策など期待できない。

「ドゥンドゥーから、敵の迎撃に向かう旨の連絡が入ったぜ。」

 トゥグルクの報告に、カイクハルドは歯ぎしりで応じた。

「たった1個単位で、何をするつもりなんだ、ドゥンドゥーの奴は。」

 そうは言ったが、「第22集落」には、ドゥンドゥーが大切に守り続けて来た一家が住んでいる。命に代えても、征伐隊に隠し集落を見つけさせるわけには行かない、と彼は考えるだろう。

「隠し集落そのものが、見つかったわけじゃねえんだろ?そこに向かっている・・というか、向かおうとしていたが、もう向かう必要すらなくなった脱出組の輸送船が、見つかっただけじゃねえか。」

と疑問を挟んだカビルに、カイクハルドが答えた。

「ああ。だが、その輸送船の航行支援コンピューターには、隠し集落の座標がインプットしてあるだろうぜ。それを敵に見られちまったら、隠し集落の方も見つかって、ドゥンドゥーが御執心の家族も無事では済まねえ。奴は命に代えても、それを阻止しにかかるだろうよ。」

「しかし、隠し集落の襲撃を止めにして『ギガファスト』に向かうように、敵は命令を受けているはずなのであろう?」

「はねっかえり者は、どの部隊にでもいるさ。」

 カジャにも、カイクハルドは答えてやった。「あんたの作った隠し集落を襲ったら、上官に見つかっちまうが、他のなら大丈夫だ、って考える奴も居るだろう。」

「そういう連中が、輸送船からの情報をもとに『ファング』の作った方のを、襲うということか・・」

 呟くカジャをよそに、カイクハルドはトゥグルクに問いかけた。

「脱出組の輸送船に向かった、敵の戦力は分かるか?」

「小型戦闘艦が2艦だ。向かったのは、ほんのごく一部だったってわけだが、それにしても一個単位では、どうにもならねえぜ。」

「今から俺達が向かって、間に合いそうか?」

「さあ、微妙なところだな。やってみる価値はありそうだが。」

「とにかく、行ってくるぜ。」

 カイクハルドは、「シュヴァルツヴァール」にいたパイロットに緊急招集をかけた。第1戦隊と、第2戦隊のドゥンドゥーの単位以外のパイロットが、即座に発進態勢になる。隊長不在の第2戦隊は、とりあえずカイクハルドの指揮下に入る事とした。どんな緊急時でも、役割分担や命令系統を曖昧にしないのは、「ファング」の流儀だった。

 数十分に渡る、電磁式カタパルトとビームセイリングでの強力な加速に耐え、1時間ほどの等速直線飛翔の後、また数十分かけて減速する、という行程の末にカイクハルドの率いる戦隊は、目的宙域に到達した。かなり危険を伴う移動だった。「ナースホルン」の流体艇首で防御しているとはいえ、この速度で何かしらの天体に衝突すれば、無事で済むとは限らない。

 衝突対象の材質や形状等によっては、、戦闘艇の大破や爆散という事態もあり得る。事前に無人探査機などで、経路上の安全が確認できている宙域なら良かったが、今回はそうでは無い。小惑星帯の中なので、天体の密度も比較的高い。

 移動するだけでも命懸け、と言える速度で、彼らはそこへ駆けつけた。小型戦闘艦2艦が、彼らのレーダーに捕捉される。

「あっちも、こっちに気付いてるだろうが、突っ込むぞ。お前ら、腹を括れよ。」

 2個戦隊に満たない戦力で、全く奇襲が成功しているわけでもない状態で、小型戦闘艦2艦に挑んで行く、というのは「ファング」にとっても、やや荷の重い戦いと言えた。だが、カイクハルドには、ある確信があった。

「あいつらは多分、ドゥンドゥー達の仇だ。」

 既に、ドゥンドゥー達の死を彼は覚悟していた。ドゥンドゥーが迎撃に向かう、と宣言したからには、彼らがドゥンドゥーの単位と出くわさなかったはずがない。そして、戦闘艦2艦は健在で、周囲に戦闘艇がいるようには見受けられない。ドゥンドゥー達が撃破された、と考えるしかない。

 仲間の戦闘艇の状態が、レーダーや通信で確認できている状況ならあば、撃破された瞬間に赤い光がそれを告げる。「ファング」の全ての戦闘艇のコックピットで、幾つもあるディスプレイの縁の部分が赤く光り、それを伝える。だが、ドゥンドゥーの単位はあまりにも遠く離れた位置にあったので、撃破されてもその事は伝わらない状態だ。無事か否かを、確認する術が無かった。

 敵の、小型戦闘艦2艦の動きは、直線的だ。どこかを目指してひた走っている感じだ。恐らく、不用意な電波を出してしまった脱出組の輸送船を追いかけているのだろう。ドゥンドゥー達の妨害によって中断された、輸送船への襲撃を再開した、と考えるのが自然だ。

「ドゥンドゥー達の復讐と、ドゥンドゥーが命を散らしてまで守ろうとしたものを守り抜く為だ。お前ら、気合い入れろよ。」

 敵戦闘艦に近付くと、輸送船の方もレーダーに捕えられた。危うい距離だ。数分でも到着が遅れていたら、敵艦の攻撃に曝されていただろう。航行不能に陥れられた上で、隠し集落の座標を送信するように命じられれば、それに従うしか無かったはずだ。

 隠し集落の座標が知られれば、この2艦は仲間の部隊にそれを転送し、大規模な掠奪部隊が隠し集落へと送り込まれて来るかも知れない。そうなれば、「ファング」やカジャの戦力が総がかりでも、防ぎ切れるとは限らない。ドゥンドゥーが命を懸けて守ろうとした一家も、結局は敵の手に堕ちてしまうかもしれない。

「あの2艦には絶対に、隠し集落の座標情報を入手させるわけにいかねえ。意地でも潰すぜ!」

 更に近付くと、敵艦の様子が詳細に分かって来る。艦の表面を覆う装甲が、見苦しく歪んでいる事も、通常航行では発生するはずがないくらいの熱を帯びている事も、レーダーや赤外線での探知で分かって来る。何発かの攻撃を食らい、損傷を被っているのが歴然だ。

 ドゥンドゥー達の、死を賭した戦果の名残だ。あの打撃を与える事で、輸送船が襲われるまでの時間を稼いだのだ。その甲斐あって、カイクハルドの部隊は間に合った。「ファング」の一個戦隊を任せ、長らく共に戦って来た戦友が、命と引き換えに稼いだ時間を無駄にするわけには行かなかった。

 カイクハルドの指がキーボードを駆け抜ける。戦術の指示が、各艇に伝えられる。

 そこまでは全艇が減速を実施し続けており、進行方向にメインスラスターを向けた飛翔をしていたが、第1戦隊第1単位だけが、減速を止めた。敵に前方を向け直し、ナースホルンを先頭にして突っ込んで行く。減速し続ける仲間達からは、どんどん距離が開いていく。

 敵が散開弾攻撃を仕掛けて来たのを、カイクハルドはレーダー用ディスプレイで見て取った。展開のタイミングから、後ろに残した仲間を狙ったものだと判断した。一部が突出している事に敵が気付いたかどうかは不明だが、散開弾が、突出した彼らでは無く、後ろの連中を標的にしているのは間違いないようだ。そしてそれは、カイクハルドの読み通りだ。

 敵艦と後ろに残した部隊の直線上に、カイクハルドの単位はいるので、レーダーで探知している敵からは、2つの反射物が重なっている。正確な位置関係の検出が、難しくなる。突出しているカイクハルドの単位(ユニット)に、気付いていない可能性もあるが、気付いていたとしても、やはり数の多い方が本隊であると判断して、敵はそちらを狙うだろう、と彼は読んでいたのだ。

 カイクハルドの単位が散開弾のばら撒いた金属片群とすれ違う時、それは未だ十分に広がり切っていなかった。横から回り込んですれ違うこともできたが、カイクハルドは「ヴァルヌス」で穴を開けて、金属片群の中央付近を通った。すれ違う直前に少し軌道を変え、敵の目を眩ます動きも見せた。

 金属片群を突破した直後、カイクハルドは別のミサイルを数発、レーダー上に発見する。散開弾攻撃の突破を予測した敵が、第2派攻撃を繰り出していた。恐らく、ドゥンドゥーの単位にも突破されたのだろう。敵艦に見られる傷跡は、ドゥンドゥー達に散開弾を突破され、「ココスパルメ」を見舞われた為と見て良い。

 それによって学習した敵は、今回も散開弾攻撃を突破されると予測して、第2派の攻撃を仕掛けて来ていたのだろう。が、それを、カイクハルドの方も予測していた。第1派の攻撃も第2派の攻撃も、後ろに残した仲間を狙うものになる、との予測も適中していた。だから今、展開前の散開弾が彼の眼前にあった。

 散開弾は、展開していなければ脅威では無い。「ヴァンダーファルケ」がレーザーで、あっさり始末した。第2派の散開弾は、3方向から交差させる形での包囲攻撃を企図したものだったようだが、1方向からのミサイルが全て撃滅された。1角が崩れてしまえば、この攻撃には効果が無い。後ろに残した連中も、カイクハルドの開けた穴を通って第1派をやり過ごし、カイクハルドが崩した包囲攻撃の一角に向けて転進する事で、第2派目も食らわずに済む。

 「ヴァンダーファルケ」がミサイルの始末をしている間に、カビルの「ヴァイザーハイ」は「ヒビスクス」を発射していた。2派に渡る散開弾攻撃を突破されたのが意外だったのか、敵は「ヒビスクス」に何の対処もできなかった。

 展開範囲を重視した「ヒビスクス」の撒き散らした金属片は、敵の1艦の表面を覆い尽くして衝突して行ったが、密度がやや薄い弾種でもあるので、表面装備をことごとく薙ぎ払う、という程の徹底した攻撃では無い。

 だが、「ヒビスクス」の作った金属片群には、後続のミサイルを敵のレーダーシステムから遮蔽する効果もあった。後ろに残した連中も、第1・2派の散開弾攻撃を躱しながらミサイルを発射していた。敵の2艦は両方共が、このミサイルを迎撃できなかった。

 2艦の敵が、2つずつの青白い光球を身に纏い、華やかな装いを楽しんでいるかのように見える。が、外見上でどう思われようが、艦の内部は地獄絵図に違いないのだ。

 それでも、敵はまだ反撃して来た。ドゥンドゥー達から受けた攻撃と今の分とで、ミサイル発射の能力も相当削られたはずだが、それでも2艦が遮二無二にミサイルを放った。それらを撃破するのには、「ヴァンダーファルケ」18隻が大車輪で働かねばならなかった。長時間スラスターを使用して減速した彼等には、噴射剤も残りわずかだ。「ヴァンダーファルケ」以外は、それほど縦横無尽には動き回れない。

 2個戦隊に満たない戦力で、長距離を移動した上でという条件では、やはり少し荷の重い相手だった。

「よし、一旦距離を置こう。噴射剤が底を付いたら、もう戦えねえ。ここで『シュヴァルツヴァール』を待とう。」

 完全に撃破したわけではないが、今の「ファング」の装備では戦闘艦の完全撃破はかなり無理があったので、彼らは敵艦から離れた。既に自立航行は不可能な状態だったので、このままなら敵は、漂流するハメになるだろう。助けが来なければ、彼等は救われない。ドゥンドゥー達の仇討ちも達成されるだろう。だが、

「新たな敵艦が、そっちに向かっているぞ。」

と、無人探査機からの情報を解析したトゥグルクが、報告を入れて来る。「シュヴァルツヴァール」からの通信も、無人探査機によって中継されている。

「くそっ!多分、ドゥンドゥーに攻撃された時点で、応援を呼んでやがったな。全艇、パワーをダウンしろ!」

 もう戦えないとなれば、後は、敵に見つからないようにするしかない。電波や熱源の放出を極力少なくする為にパワーをダウンしてしまう、というのが最善の策となる。

 通信やレーダー波を受信する事はできるが、こちらから周囲の様子を探る事も、助けを呼ぶ事も、もうできない。

「新たな敵艦は、半壊状態の小型戦闘艦2艦を目指している。中型1、小型2だ。」

 トゥグルクが届けてくる報告を、聞くことはできても、返事一つできはしない。

(見つかったら、一瞬でお陀仏だな。)

 敵艦からは、ある程度距離を置いた。広い宇宙空間では一旦索敵圏から外れれば、こちらから電波でも出さない限り、そうそう見つかるものでは無い。そうは思いつつも、何もできずに明りの消えた狭いコックピットの中に納まっているだけの時間は、不安が募るものだった。

 うっかり時計のパワーもダウンしてしまったカイクハルドには、時間の経過も分からなかった。暇つぶしに、最後にミームを抱いた時の事でも思い出そうとしたら、ラーニーを抱き損ねた時の事を思い出してしまって、むしゃくしゃしただけだった。

 闇のなかで、時間だけを過ごした。ずいぶん長い時間が経った気もするが、大して長くもなかったかもしれない。

 受信だけは可能な状態の通信機から、突如、声が漏れた。

「かしら、救援に来たぜ。」

 第5戦隊隊長、カウダの声だ。

「敵は、俺達の突撃とシヴァース部隊のミサイル攻撃に叩きのめされて、尻尾を丸めて逃げ帰って行ったぜ。」

と、第3戦隊隊長パクダの声も、威勢よく響く。

「かしら達が半壊状態にした小型2艦も、念の為に、俺達でとどめを刺しておいた。放っておいても害はなかったかもしれねえが、ドゥンドゥーの仇かも知れねえなら、俺達の手できっちりと血祭りに上げとかねえとな。」

 第4戦隊隊長テヴェも、低く力の籠った報告を寄せる。

「間もなく『シュヴァルツヴァール』もそこに駆け付ける。母艦に帰投するのに必要最小限の噴射剤は残してあるんだろ?」

 トゥグルクからも連絡が来た。「もう、脱出組の輸送船に向かう敵もいねえようだ。その輸送船も、征伐隊の撤収の報を受けて、本来の集落に向けて転進したようだ。もう、どの集落にも、何の危険も無くなったと見て良さそうだぜ。」

 そんな報告に安心感を膨らませた途端、別の通信が入る。

「俺だ。ドゥンドゥーだ。聞こえるか、かしら。」

「お、おおっ!ドゥンドゥー!お前、生きていやがったか!」

「いや・・、死んだ。」

「・・・・・!ちっ、悪魔の軌道か。」

 落胆と苛立ちに満ちた、カイクハルドの呟きが漏れた。

今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は、 '19/2/23 です。

「悪魔の軌道」が、久しぶりに出てきました。覚えておいででしょうか?自力では動けなくなった乗り物が、誰にも助けてもらえそうにない方向へと飛んでいる状態です。広すぎる宇宙では、仲間に位置や運動状態を知られない状況で噴射剤が尽きてしまえば、そうなってしまうわけです。宇宙を舞台にした物語にはよくある展開ともいえるわけですが、宇宙という環境の顕著な特徴を表しているとも思うので、描かないわけにもいかない、との気持ちもありました。地球上の海で漂流するより、はるかに絶望的な状況でしょう。食べ物の入手も不可能どころか、酸素もなくなるし、絶対零度の宇宙空間で電源が失われれば凍死からも逃れられない。想像するだけで背筋の寒くなるような境遇です。読者様に宇宙という環境を、リアルに感じとって頂けるシーンになっているといいなあ、と切に願っています。というわけで、

次回 第57話 「ギガファスト」発動 です。

前回の「悪魔の軌道」の場面では、トーぺーが拳銃自殺をしました。何も自殺しなくても、との感想もあろうかと思いますが、長々と宇宙を漂流して苦しむのは嫌だし、仲間にさっさと踏ん切りをつけて次に進んで行ってもらうためでもあるわけです。ドゥンドゥーは、どうするでしょうか?そして、上記のタイトル。プロローグで描かれた場面が、ようやく訪れます。といっても、本編はカイクハルド達を描くものなので、詳述はしませんが。もしよろしければ、プロローグを今一度読み返して頂けたりしたら、ありがたく思ったりするのですが、読み返さなくても、ストーリーを見失うわけではないです。

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