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銀河戦國史 (アウター“ファング” 閃く)  作者: 歳越 宇宙 (ときごえ そら)
第4章  激突
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第53話 皇太子築造の集落

 シヴァースの説明に、ヴァルダナは前のめりになって問いかけた。

「岩石惑星から、資源を採取しているのか?」

「まあ、高層域の大気から、水素や酸素や炭素や窒素といった、大量に必要な主要元素は得ているな。」

 元素レベルで言えば、その4元素で人の体の99%近くを占める。それらを確保する事が、人が暮らして行く上で何としても必要な条件になる。

「岩石惑星の地上にある物質は」

 シヴァースの説明は続いた。「さすがに、持ち上げては来られないんだ。サイズのでかい岩石惑星だから、重力が強すぎるんだな。有用な資源はたっぷりあるんだろうが、強大な重力に打ち勝って大量の物資を、安定的かつ継続的に運び上げる手段はねえからな。ダストデビルなんていう、大気上層にまで地上の砂塵が巻き上げられる現象が利用できることもあるらしいが、十分な量を安定的に手に入れる手段にはならないって話だ。」

 シヴァースの言った理由で、岩石惑星というのはこの時代の「グレイガルディア」においては、資源採取先としては、あまり利用されない。ガス惑星の方が、重力は強くても、楕円軌道の人工衛星に濃密なガス雲に飛び込ませる事で、効率よく資源を採取できる。岩石惑星の高層大気とでは、有用資源の比率も密度も圧倒的に好条件なのが、ガス惑星だ。

「岩石惑星の高層大気からじゃ、必要量の資源を確保するのは難しいだろうな。」

「それ以外は、衛星から採取している。20個程の衛星があるんだが、サイズも組成も色々なものがあって、それらを上手く利用すれば、必要な元素はすべてそろう。そこそこ裕福な生活ができる資源量だ。領主による搾取が無ければな。」

「ドゥンドゥーが、帝政貴族をやってた頃に領民だった一家を、連れて来てかくまっているのってここの集落じゃ無かったっけな?」

 カビルが、意味深な視線を話題の主に送った。

「う・・うむ。」

 少し照れくさそうに、小さな声でドゥンドゥーは応えた。「この『ポロギ』星系の、第22集落と呼ばれるリング状建造物に、あの者達には住んでもらっている。」

「この『ピラツェルクバ』領域じゃ数少ない、『ファング』の根拠地と提携している集落だったな。ドゥンドゥーがこの領域の根拠地に、あの一家を連れて流れ着いた時に、その集落に連れて行くよう手配がされた、って聞いた覚えがあるな。」

 カイクハルドは、古い記憶を手繰り寄せるように目を泳がせた。

「そうそう。その一家の母親だか長女だかと、ドゥンドゥーがしっぽり行ってる、って話は俺も聞いたぜ。」

「そ、その噂は、嘘だっ!そんな関係では、無い。」

 いつもは冷静沈着なドゥンドゥーが、珍しく顔を真っ赤にして叫んだ。カビルはそれが楽しくて仕方ないらしい。

「なんだよ。照れなくても良いじゃねえか。帝政貴族が、自分の領民の気に入った女を我がモノにする、なんて大して珍しくもねえ話なんだ。」

「お、俺はそんなんとは違うわ!我がモノにしたりも、何らかの手出しをしたりも、しておらんわ!」

「確かその一家は」

 トゥグルクも、手繰り寄せた記憶の断片を紐解き始めた。「領主の過酷な使役で、大黒柱である父親が命を落としたんだったっけな。それで、働き手がいなくなったところへ、税を厳しく取り立てられた。耳を揃えて支払えぬのなら、娘達を売り払え、と領主に命じられて、途方に暮れておったんじゃろ?」

「なんだよ。領主って、ドゥンドゥーじゃねえのかよ。」

「俺の父親だった男だ、正式な領主はな。俺もその当時は無分別でな、自分の一族がそんな圧政を領民に課していたなど、知りもしなかった。その一家だけでなく、苦しい立場の者達が領内に、驚くほど沢山居た事にようやく気付いたのは、30歳を目前にした頃だった。」

「それで、その一家も含めた、圧政下で苦しんでる領民を連れて、一族の所領から逃げ出して来たってわけか。」

 納得顔で頷くカイクハルドの隣で、ヴァルダナは神妙な顔だ。彼には、他人事では無い話だ。思わず身を乗り出した。

「貴族としての生活を捨てたわけか、領民を助ける為に。父親を説得して、圧政を止める事はできなかったのか?」

「何度も説得したさ。だが、親父は一度も、領民の暮らしをその目で見ようとはしなかった。現地の管理者に任せきりにして、知らん顔をしておった。実際に自分の目で見てみないと、自分のやっている事の残酷さには気付かないものだ。何とか、領民の惨状をその目に触れさせよう、と努力してみたのだが、管理者共の狡猾な妨害もあって、実現できなかった。そんな折、父親を亡くしたあの家族の母親が病に倒れ、一刻の猶予も無い状況になった。」

「それで、止む無く逃亡に及んだのか。俺達『ハロフィルド』の所領と、同じようなものだな。管理者に任じていた家宰が、領主一族の知らないところで、領民からの搾取を(ほしいまま)にしていてた。俺のとこでは、領民の反乱という結末を迎えたが、その方が良かったような気もする。」

「どうだかな。最終的な結果は、似たようなものだ。」

 ドゥンドゥーは自嘲気味に笑った。「俺も、『ファング』の根拠地に関する情報は得ていて、逃げ出した後、そこに案内してもらえる手筈は整っていた。だから、連れ出した領民は、根拠地が提携していた集落等に、別れて住む事になった。『ハロフィルド』の領民達も、『ファング』の根拠地からの支援で、集落の暮らしを再建しているのだろう?」

「なんだか、聞けば聞く程、『ファング』やその根拠地ってのは、手広く活動しているのだな。あちこちの圧政に苦しむ庶民を、『ファング』が救って回ってるんだな。」

とシヴァースは、探る目になってカイクハルドを覗き込む。彼は何度か「ファング」の実態に迫ろうと努めていたが、納得のできる答えには行き着いていないようだ。

「別に、救ってるわけじゃねえさ。『ファング』はただの盗賊団兼傭兵団だ。その活動にとって有利な状況を作ろう、としているだけだ。あっちこっちの集落に恩を売ったり、しっかりと資源採取や生産の活動をしている根拠地を営んだりしておいた方が、神出鬼没に活動できるだろう。今回の『シェルデフカ』のゲリラ戦だって、恩を売っておいた集落や根拠地との連携が、どれだけ役に立っているか。」

「確かに役には立っているが、利用する為だけの活動、とも思えんぞ。」

 バラーンも、シヴァースと顔を並べて追及して来た。

「結果的に、そうなってるってだけだ。『ファング』を作った連中は、そういう効果も狙ってたかもしれねえが、実際に活動している俺達には、人助けの意識なんかねえさ。誰が何と言おうが、『ファング』は盗賊団兼傭兵団でしかねえ。」

 実は、銀河連邦の支援活動の一環で「ファング」が誕生した、などとはカイクハルドは、あまり軽はずみには言うわけにはいかなかった。銀河連邦の内部でさえ、広く承認を得た活動では無い。連邦の一部の者が、独断で実施しているのが、「ファング」を使った荒療治的な支援活動だった。連邦と「ファング」の繋がりが、余り多くの者に対して明るみに出てしまえば、「ファング」は存続が危ぶまれてしまう。

 建前としては、加盟国が自律的に作り上げた政治体制を通じて、法の支配や人権尊重に則った統治をその国に実現して行く、というのが銀河連邦の活動方針だった。「グレイガルディア」で自律的に出来上がった統治形態である軍事政権に、秘密にした形での支援は、その方針から逸脱している。

 軍事政権の悪政ぶりや民衆の生活の困窮ぶりを、連邦本部に(つぶさ)に報告できれば、もっと強い勧告などを軍事政権に発する事もできるが、往復するだけで1年を要する連邦本部と「グレイガルディア」の距離が、それも難しくさせている。

 そんな中で軍事政権に悪政への反省を促したり、もっとましな政権の自律的な成立に導いたりする為の、苦肉の策として出来上がったのが、荒療治的かつ秘密裏の「ファング」という存在だった。

 だからカイクハルドは、「ファング」が盗賊団兼傭兵団だ、という建前を崩す事はできない。彼自身は連邦のエージェントではないから、盗賊団兼傭兵団としての活動以上の成果を、銀河連邦の為にや達成してやる義理は感じていないが、「ファング」が存続し得なくなるような事はできるはずはなかった。

「それで、カジャが小惑星帯に建造している隠し集落っていうのも、この『ポロギ』星系第2惑星の集落の為のものなんだな。征伐隊が糧秣や兵員の徴発に来た時に、物資や住民を避難させる為の隠し集落なんだろ?」

「ああ。『ファング』が『シェルデフカ』でやってる事を参考にして、カジャ様が始められたのだ。」

 シヴァースの説明に、バラーンが続いた。

「俺の率いる部隊に、この惑星軌道上にある『ポロギ星系第14集落』の出身者が大勢いるのをお聞き及びになって、兵達が安心して戦えるように、とお心を砕いて下さったのだ。」

 目の前にカジャの姿を思い浮かべて、拝んでいるかのようなバラーンの言い草だ。

「でも、その為にカジャがこの集落に出入りしたから、征伐隊がここに向かって来る事になったんじゃねえか。何もしないでじっとしててくれれば、集落に何の危険も及ばなかったんじゃねえのか?」

「だから、それを言ってくれるな。結果的に裏目に出てしまっただけだ。カジャ様のお優しい心遣いを、無下にせんでくれ。」

「その『第14』とかいう集落だけでなく、同じ惑星の軌道上にある他の集落にも、迷惑がかかるかもしれねえよな。征伐隊が、他の集落に何のちょっかいもかけない、とは思えねえぜ。ドゥンドゥーとしっぽり行ってる家族ってのも、危ねえんじゃねえか。娘ってのが年頃なんだったら、征伐隊の盛りの付いた兵共にどんな酷い目にあわされるか、知れたもんじゃねえぜ。」

 権力者の箱入り娘に酷い事をしまくっているカビルが、自分の事を棚に上げて、いけしゃあしゃあと他人の盛りを評した。

「しっぽり、とは何だ!そういう関係じゃないと言っておるだろう!・・あの者達ならば大丈夫だ。『ファング』の根拠地と提携している集落に住まわしてあるから、隠し集落くらい、ずっと前から用意できておる。もう、とっくの昔に、避難も完了しているはずだ。3年間くらい籠りっ切りでも、食うに困らんくらいの備蓄も常にある。」

「そうなのか。そういう話なら、その家族の安全に関しては納得だが、しっぽり行っていないなんてのは、納得できねえな。その家族の誰としっぽり行ってるんだ?ドゥンドゥー。それとも、もしかして、その家族全員と・・」

「あ、阿呆かっ!カビル!お前、いい加減に・・」

「カハハハ、顔が真っ赤だぜ、ドゥンドゥー、動揺しすぎだ、カハハ・・・・・」

 彼等が航宙指揮室で議論を戦わせている間に、「シュヴァルツヴァール」は、カジャが小惑星帯に建造している隠し集落に到着した。

 港湾施設などという気の利いたものは出来上がっていないらしく、内部が集落になっている小惑星に横付けする形で、「シュヴァルツヴァール」は停泊した。小惑星の中でも、サイズの小さい方だ。

「済まないな、カイクハルド。良かれと思ってやった事が、ことごとく裏目に出る。輸送部隊への襲撃も、隠し集落の建造も、全てお前達の手を煩わせる結果になってしまった。」

 「ファング」のパイロット達やシヴァースやバラーンには、すぐにでも出撃できる態勢で待機させておいて、カイクハルドは単身でカジャのもとにやって来た。岩塊の内部で、直径千mくらいの円軌道を走り回る施設が稼働しており、遠心力による疑似重力のもとでソファーに腰を降ろし、茶を飲みながら話ができる環境だった。四囲は愛想の欠片も無い、金属が剥き出しの殺風景な壁だけの部屋であり、唯一の装飾は天井に描かれた若獅子の紋章だった。

 ヘルメットは被っていないが、宇宙服姿で、カジャはその場に陣取っていた。彼の肩の辺りにも、皇帝一族の象徴である若獅子の紋章があしらってある。プラタープと同じデザインの宇宙服だ。獅子(ライオン)という動物を知らずとも、それに皇帝の権威を感じない者は、「グレイガルディア」には居ない。

「本当だぜ、全く。要塞に籠ってじっとしててくれるのが、ありがてえんだぜ。」

「ああ。良く分かった。分かったから、これまでの事は大目に見てくれ。」

 皇帝一族を崇拝する気持ちなどは、カイクハルドには無かったが、それでも皇太子ともあろう立場の人間にこれだけ素直に謝られると、それ以上の苦言を呈する気にはならなかった。

「これからは、おとなしくしていてくれるんなら、ここまでの事はもう、何も言わねえよ。」

 顔には「やれやれ」という言葉が張り付いていたが、カイクハルドは鉾を収める。

「で、これからどう動けば良い?カイクハルドよ。わしはもう、お前の指示に従う事にする。自分で考えて動いても、ロクな事にならないからな。」

「おいおい。皇太子ともあろうものが、『アウトサイダー』の指示に従ってて良いのか?」

「お前がただの『アウトサイダー』だというのも、大いに疑わしく思っているぞ。どうせ、いずれかの強力な背後関係があるんだろうよ。」

 銀河連邦の介入にも、カジャは薄々感づいているかもしれない、とカイクハルドは思ったが、そこに深入りした発言などするわけがない。

「それに、指示とか言われても、この星系に向かっているという征伐隊の動きを見てみない内には、何とも言えねえぞ。」

「そうだな。どれくらいの戦力が向かっているのかも、そやつらがどこまでの情報を掴んでいるのかも、現段階では分からないからな。ただ、征伐隊が『第14集落』に向かうというのなら、そこの住民をここに避難させてやりたい、とは思うのだが、どうだ?」

 指示に従う、と言った手前、強く主張もできないカジャは、伺うようにカイクハルドを見た。

「収容可能な状態なのか?」

「うむ。長期の居住は難しいが、数日から十数日くらい住民を受け入れるだけならば、何とかなるはずだ。バラーンの部下の出身集落だから、酷い目には合わせたくないのだ。」

 身近な者を大切に思うカジャの気持ちは、極めて自然なものなのだろうが、皇太子というものの権力の大きさを考えると、そちらの心配ばかりしていてもらっては困る、ともカイクハルドは思う。

 隠し集落を作って助けてやるべき者達は、「ピラツェルクバ」領域だけを考えても、もっと沢山いる。皇太子としての立場を上手く使えば、「ピラツェルクバ」領域の住民全てが戦争の犠牲にならないだけの隠し集落を作る事も、できるかもしれない。そこに想いが至らず、自分の身近な者の心配に終始しているところに、カジャの統治者候補としての限界のようなものを、カイクハルドは感じずにはいられない。

「まあ、シヴァースやバラーンの部隊と『シュヴァルツヴァール』がフル稼働すれば、『第14集落』の住民くらいなら、運び切れるかもな。そこの住民の中には、この隠し集落の場所を知っている奴もいるんだろう?」

「もちろん、集落の長とその周囲には、場所は伝えてある。場所も知らないでは、肝心な時に使えんからな。」

「だったら、そいつらの身柄が征伐隊に抑えられちまったら、ここの場所を聞き出されちまうかも知れねえ。と言って、(おさ)だけ連れて来ようとしても、承知しねえだろう。住民全員を避難させるしか、あんたの身の安全を保つ術はねえ。あんた1人が、ここからノコノコ逃げ出してくれるんなら良いがな。」

「いや、それは・・・。指示に従うとは言ったが、1人だけでここから逃げ出すのは、嫌だ。」

「ちっ、やっぱ皇太子ってのは、我儘だな。だが、俺としても、ここを放棄するのは気が進まねえ。せっかくここまで隠し集落を作ったんだ。住民の避難先を確保してやって、恩を売っておいて、あの集落もこの隠し集落も、拠点として使える状態にしておきてえ。」

「なるほど。住民の保護と拠点の確保。どっちが建前でどっちが本音なのかは知らないが、両方やれれば、それに越したことは無いな。」

 案外呑み込みが早い、とカイクハルドが、やや感心した目をカジャに注いでいる時に、腕の端末がトゥグルクからの通信を告げた。

「征伐隊の戦闘艦群が、索敵網に捕えられたぜ。大型7、中型26、小型61、空母25だ。今のところ、って限定詞は付くがな。」

「百艦以上か!膨大な戦力を送って来おったな。更に増強される可能性もある、という事か。要塞でも攻略できそうな部隊だ。」

「ああ、その通りだろうぜ。あんたが要塞に籠って闘う態勢になったとしても、討伐し得るだけの戦力を送って来てるんだろうよ。」

「本気で、わしの首を盗りに来たか。皇帝一族にそこまで牙を剥くというのは、それだけ軍政が追い詰められている、とも受け取れるが、正直、気分の良いものでもないな。」

「まともに戦って、どうにかなる戦力差じゃねえ。この前の戦闘も、後方からの奇襲攻撃が完全に成功したにも関わらず、あれだけしんどかったが、それでも相手は20艦程度だった。今回は、その5倍を上回る戦力だ。」

 カジャの顔も曇った。この戦力を相手に彼を生き延びさせる為には、やはり1人で逃げ出してもらうしかないかもしれない。千人規模の民を見殺しにする事になるが、彼が死ねば、軍政打倒に散って行った数多の命も無駄になる。軍政の横暴で犠牲になる命も、まだまだ増える事になる。

 目の前の数千人を見殺しにしてでも、自分1人が助かろうとする、そんな冷徹な判断も、権力者には求められる場面がある。優しいだけでは、権力者に与えられた責任や使命は果たせない。カジャには、優しさはあっても冷徹さは無いのかもしれない、とカイクハルドは思った。

「だがな、カイクハルド。」

 トゥグルクの報告は続いていた。「敵は10個以上の軍閥の混成部隊で、全く連携はとれておらん。日ごろから、所領や権限を巡って争い合っている連中だからな。バラバラに向かって来ておる。」

「そうか。それなら、付け入る隙は、いくらでもある、って事か。」

 カイクハルドの言葉に、カジャも表情を明るくした。

「お前達の得意な、敵を小分けに分断した上での各個撃破だな。今回は、わざわざ手間をかけて分断せんでも、初めからバラバラというわけだが。わしは、ここから逃げ出さなくても良さそうかの?」

「保証はできねえぜ。とにかく、せっかくバラバラに向かって来てるんだから、敵同士の距離がたっぷりである間に、ちょっかい掛けて見るとするか。それで、敵の出方を確かめた上で考えよう。が、まずは、住民の移送だな。おい、トゥグルク。敵の到着はいつ頃になりそうだ?」

「それがな、10個以上の軍閥が、それぞれにあっちこっちに寄り道して、領民集落や似非支部や盗賊のアジトなんかを、襲ったり冷やかしたりしながら向かっているからな。到着がいつになるか、さっぱり分からん。が、当分は来ねえだろう。」

「そうか。これまで糧秣の徴発が不調に終わってた分、ここで取り戻そうとしてやがるんだろうな。そうなれば取りあえず、住民を移送する時間くらいはありそうだな。トゥグルク、さっそく作業にかかってくれ。シヴァースやバラーンの部隊に『シュヴァルツヴァール』も協力して、速やかに住民をこっちの隠し集落に移すんだ。」

「しかし、征伐部隊の連中も不真面目だな。掠奪を働きながらの行軍か。」

と、呆れ気味のカジャの声。

「まあ、軍閥の進軍なんて、そんなもんだ。特に今は、連中は糧秣不足が深刻だ。少し補給を受けたとはいえ、艦内の備蓄も十分じゃねえし、フラストレーションもたまっているだろう。この『ピラツェルクバ』領域なら徴発も掠奪もやり放題だ、って喜び勇んでるだろうな。」

「普段は、この『ピラツェルクバ』領域には、軍閥の部隊など、滅多に踏み込んで来ないのだがな。」

 カジャは、少し首を傾げた。

「一応軍事政権は、この宙域にもどこぞの軍閥を封じて、名目上の領有はさせてはいるはずなんだ。だが、ここは歴史的に似非支部の勢力が根強いからな。1つの軍閥の戦力で踏み込もうとしても、似非支部の部隊に妨害されて追い返されちまう。それで事実上、ここは放置されて来た。だが、今は征伐部隊っていう、複数の軍閥で作った大軍を擁しているからな。この戦力なら、似非支部を蹴散らせられる。」

「そうか。普段は手出しできない領域だから、この機会に、盛大に徴発や掠奪をしてやろう、という魂胆か。似非支部の奴等には、災難だな。」

「そう言うあんたも、似非支部の協力を得たからこそ、この『ピラツェルクバ』領域に拠点を構える事ができたんだろ?」

「わしが協力を求めたのは、“似非”ではないはずの支部なのだぞ。少なくとも以前までは、確かに銀河連邦と繋がりがあった組織なのだ。組織内部での権力闘争や人の入れ替わりなどの果てに、知らぬうちに似非支部になり下がっていたかも知れないが。」

「そんなん、百年以上も前だぜ、この辺の連邦支部が“似非”に成り下がったのは。皇帝一族は、ずっと正統な支部だって思い込んで、付き合って来たんだろうが。」

「そうなのか?そんなに前から、皇帝一族に侍っている支部は、連邦との繋がりを失っていたのか。」

「ああ。現地採用のエージェントに裏切られたり、連邦から送られて来たエージェントが買収されたり、ってのが長年繰り返された。その結果、元々は銀河連邦の出先機関として住民への技術支援などをしていたはずの組織が、住民を奴隷化したり、掠奪をして回ったりする組織に変貌しちまった。もっとも、連邦と繋がりのない“似非”のものではありながら、真面目に人道支援活動をやっている支部なんてのも、あるにはある。色々と状況は複雑さ。」

「そうか。しかし、ずいぶん銀河連邦の事情に通じておるんだな、おぬし。」

 ニヤリと笑って睨み付けて来るカジャに、特に慌てる様子も無くカイクハルドは言い返した。

「おっと、うっかりしゃべり過ぎちまったか。情報源を明かすつもりはねえぜ。とにかく、あんたがここに要塞を築くのに協力したのも、連邦と繋がりのない似非支部だ。まあこの際、利用できるものは何でも利用してやれば良いとは思うが、皇帝が親政を回復した時に、そいつらの利害が統治に影響して来るような事は、ねえようにした方が良いぜ。」

「う・・む。し・・しかし、帝政復活に協力してくれた者を、それなりに優遇するのは、当然のようにも思える。それを約束せねば、なかなか支援など、得られんではないか。」

「統治権なんてのは、国の全ての人間の利害に影響を及ぼすんだぜ。それを、一部の協力者を優遇する、何て言ってたら、優遇されなかった連中の反発で、統治権を転覆させられたりするだろ。皇帝が軍政に統治権を奪われたのだって、協力的な取り巻きの貴族ばかり優遇してた事の結果だろ。優遇や利益供与を約束しなきゃ協力を得られねえってのは、権威がねえって事だ。権威がねえ奴には、初めから統治者になる資格はねえんだ。権威も資格もねえ奴が、それでも無理矢理統治者に成り(おお)せようとするから、優遇とか利益供与をちらつかせて、支援を取り付けようとしなきゃいけなくなるんだ。」

「・・そうか。利益供与などをちらつかせて得た支援は、紛い物だという事か。優遇など約束せずとも協力者が出て来るのが、本当の権威というものか。なかなかに厳しい話だな。」

 カジャは顔を伏せた。頭では理解できても、カイクハルドの意見に心から共感するのは、難しいようだ。

 カイクハルドは、まだまだ言いたい事がある気分だったが、カジャの伏せられた顔を見ると、それ以上は何かを言う気にもなれなかった。

 この様子では、皇帝が親政を回復したとしても、やはり権力に媚びへつらい、尻尾を振ってすり寄って行く連中のみが優遇される治政が行われるのではないか。それでは、ファル・ファリッジ等がやっている悪政と、大して変わりは無い。軍事政権を倒しても、「グレイガルディア」には平穏は訪れないかもしれない。

 それなら、また皇帝親政も倒して、新たな軍事政権を打ち立てれば良い、という発想にもなるが、それでは泥沼の抗争が、永遠に「グレイガルディア」で繰り返される事にもなりかねない。

(なんで、ただの盗賊兼傭兵の俺が、そんな問題に気を揉まなきゃいけねえんだ。)

 カイクハルドは首を振って考えを追い払った。(とにかく今は、軍政打倒だけを考えよう。皇帝親政が回復して、「グレイガルディア」がどんな国に成るかは分からねえが、それは、親政が実現してから考えるしかねえよな。)

今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は、 '19/2/2 です。

敵の規模を、単純に戦闘艦の数だけで表して、果たして読者様にその様相を実感して頂けているのだろうか、と不安になったりしています。今回の段階では、カイクハルドたちとしても数字でしか把握していない状況だから、文面でも数字でしか示しようがないところではあるのですが、とんでもない大規模な敵だということが、伝わっていることを願うばかりです。これまでも大規模だと表現した敵を、割と簡単に(?)撃破してきたから、敵が大規模でも大丈夫な感じで受け止めておられる読者様もいらっしゃるかもしれませんが、それは不意打ちが劇的な成功を収めた結果だということを、ご理解頂きたいです。そして、どれだけ不意打ちが成功しても、これまで撃破して来たくらいの敵が限界だというのも、念頭に置いて読み進めて頂きたいです。それをはるかに上回る敵が迫っているという切迫感を、ぜひ共有して頂きたいです。というわけで、

次回 第54話 分断・誘引・玩弄 です。

熟語三つが並んでいるので、「ファング」が暴れる説話になります。ばらばらに行動する軍閥部隊を、シヴァースやバラーンと共同で叩く展開になりそうです。例によって「ファング」が大軍を手玉に取りそうな気配ですが、それだけで済むかどうか・・・。カジャ、シヴァース、バラーン、ドゥンドゥー、クンワール、プラタープ、などなど、色んな人の都合や想いが一つの出来事の中で錯綜するので、細かく目を配りながら読み進めて頂きたいです。


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