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銀河戦國史 (アウター“ファング” 閃く)  作者: 歳越 宇宙 (ときごえ そら)
第4章  激突
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第48話 違背・急派・降服

 カイクハルドの問いかけに、バツの悪そうな返答をするシヴァース。

「悪い、カイクハルド。戦闘艇のパイロット連中は、さっき撃破した敵部隊の処理に追われていて、連れて来られなかったんだ。」

「処理って、敵部隊からの掠奪に夢中になってるんじゃねえのか?」

「う・・ああ・・な、何で知って・・、いや、良く分かったな。じ・・実は、そうだ。皆、血眼になってしまって、収拾がつかなくて・・・」

「そんな事だろうと思ったよ。」

 敵戦力を完全に粉砕したとしても、艦隊の残骸の中には有益なものが沢山残っているし、半壊状態で降伏した艦もあるから、人や物資など、掠奪すべきものはいくらでもある。そういったものへの掠奪を防ぐには相当に高度な統率が必要とされるが、シヴァースの部隊には、そこまでは望めなかったようだ。

「敵を撃破するまでは統率が取れていたが、撃破し終えて、目の前に掠奪すべき人や物資が溢れ返っていると、抑えが効かなくなっちまう、って事か。やっぱり、たった数年の訓練を施しただけの、(にわ)か仕立ての戦力ってのは、その程度だな。」

 カイクハルドは溜め息をついた。せめて戦闘が完全に終結してから掠奪に手を出して欲しいものだ、と思った。目の前の1つの戦闘が終わったとて、「ペアホス」との戦いが完全終結したわけではないのだから、まだ油断はできない、という当たり前の事も、俄か仕立ての兵士には理解できないのだ、と思い知らされた。

 苦戦を強いられた、とは言え味方に損害を生じる事も無く、次第に戦いは優勢になりつつあったので、カイクハルドとしても、良し、とするつもりにはなったが、シヴァースやバラーンの部隊に一抹の不安を覚えさせられる展開だった。

 徐々に優勢を手にしつつ、それでも楽では無い闘いを繰り広げている最中(さなか)、こんどはバラーンからカイクハルドに連絡が入る。かなり、切羽詰まった声だ。

「カ、カイクハルド。済まない。我が手勢の一部が、隠し集落への掠奪を企てているらしい。撃破した敵部隊の生き残りから、隠し集落に大量の物資があると教えられ、それを持ち逃げしようと目論んだ連中がいたのだ。」

「何だと!どれくらいの部隊だ?どんな装備だ。」

「100人程の部隊だ。『ヴィルトシュヴァイン』をタキオントンネルでの航行が可能な船に積んで、向かって行ったらしい。」

「主に帝政貴族が使う、旧式で攻撃タイプの戦闘艇だな。」

 カイクハルドは素早く目をディスプレイに走らせ、対応を検討する。2人乗りの戦闘艇を約100人の兵が駆っているから、50隻程の部隊という事になる。

「かしら、行かせてくれ!隠し集落の防衛に。頼む!」

 必死の声を轟かせたのは、第1戦隊第3単位のリーダー、ナジブだった。隠し集落の1つの建設に心血を注ぐ程、集落を守る事への想いが強いパイロットだ。故郷の集落を戦争の余波で壊滅させられた経験が、集落への想いを強くさせているらしい。

 カイクハルドは、「ファング」に属する全ての戦闘艇の位置関係から、4つの単位(ユニット)を選び出し、隠し集落の防衛に向かうよう指示を出した。旧式の戦闘艇50隻程度なら、それで十分なはずだった。

 キーボードに入力する事で、瞬時に指示は伝わる。集落防衛を指示された4単位だけでなく、「ファング」の全戦闘艇に情報は共有されている。

 各戦隊はバラバラになり、入り乱れて戦っているので、戦隊レベルでのまとまりで指示を出すより、全単位から適当なものを選んだ方が合理的だ、とのカイクハルドの瞬時の判断があった。

「おい、バラーン!ちゃんと訓練をして、統率はとれてる部隊だって、お前、言ってたよな!? 」

 指示の入力の為に指を忙しく動かしつつも、彼には珍しい程、カイクハルドは声を荒らげた。カジャの配下による「シェルデフカ」の集落への掠奪は、彼が最も恐れ、忌み嫌っていたものだった。

「じ、実は、俺が数年がかりで訓練を施した部隊とは別に、最近カジャ様のもとに馳せ参じたばかりの者の一部を、今回の戦いに参加させていたのだ。余りにも強硬に参戦を主張する奴等がいて、カジャ様も手を焼いておられると聞いたので、少しくらいならば、と参加を許してしまったのだが、判断が甘かったようだ。」

「ちっ、何をやってやがるんだ。俄かに馳せ参じた寄せ集めの兵なんてのは、言う事を聞かねえようなら直ぐに追い出すべきなんだ。反抗的な態度をとる奴は、容赦無くその場で銃殺に処す、ってくらいの対応しなきゃ、最低限の統率も維持できねえし、勝てる戦いも勝てなくなるんだよ。それを、強硬に主張されたから我儘(わがまま)を聞いてやった、なんて愚かにもほどがあるぜ。」

「あ・・ああ、そうだな。済まない。カジャ様の挙兵に呼応して馳せ参じて来た者達は、全て皇帝への尊崇の篤い、心の清い民だ、との思い込みが、俺の心のどこかにあったみたいだ。こうなってしまっては、自分でも愚かとしか思えないが・・・」

「・・ったく、これだから、カジャの手勢には静かにして欲しいんだ。おい、バラーン。掠奪に向かった奴等は、皆殺しにされても文句はねえな。見つけ次第、問答無用に撃破するように指示を出すが、良いよな。」

「あ・・う・・っ、しかし、生きていれば、カジャ様や帝政復活の為に、戦ってくれるかもしれぬ者達なのだが・・」

「馬鹿か、お前は。まだ、そな奴等を信じるつもりなのか?掠奪品を持ち去ったら、そのまま二度と帰って来ねえよ、そんな連中。カジャも帝政も興味ねえんだ、俄かに馳せ参じた連中なんてのは。掠奪や戦場泥棒などの、目先の手っ取り早い利益確保だけを期待してるような連中の集まりなんだ。万単位で寄せ集めて、その上にカジャの旗をはためかせて軍政への牽制に利用する、ってのが唯一の使い道だ。戦闘では使い物にならねえ。早く学習しやがれ。」

「う・・ああ、そうだな。分かった。」

「じゃあ、容赦なく皆殺しにするけど、良いな。」

「・・う、うむ。」

「ってわけだ、ナジブ。遠慮はいらん。隠し集落に手を出す奴は・・」

「一人残らず生かしちゃおかねえ!・・っく」

 カイクハルドが言い終える前に、ナジブは決然とした雄叫びを返して来た。既に、隠し集落への途上にあるだろう。言葉の後に聞こえた微かな呻き声が、いかに壮絶な加速を実施して急行しているかを物語っている。

 目の前の戦いにおいては、少し戦力を割いたとはいえ、「ファング」が優勢を失うはずはなかった。それどころか、徐々に敵を圧倒し始めた。戦闘艇を全て始末すると、また敵戦闘艦への攻撃に移る。もう残りわずかとなった「ヴァルヌス」や「ココスパルメ」を全て叩きつけ、継戦能力を奪って行く。

 敵も、ミサイル発射口はほとんど潰され、レーザー射撃くらいしか攻撃の手段が残っていない状態になったが、それでも果敢に突進して来た。お互いに、相手に致命傷を突き入れる手段を失った者同士の戦いなので、ダラダラと時間だけが長くかかる。

 そこへ、バラーンの部隊の1個の戦闘艦が、かなり強引に敵の傍をすり抜けて、「ファング」を狙う戦闘艦2艦への攻撃に打って出た。隠し集落への掠奪を配下に許してしまった事への、罪滅ぼしのつもりかもしれないが、なかなかに勇敢な闘い振りだった。

「統率力の不足を、勇猛さで挽回しようって言うのかね。」

 カビルは皮肉な声を上げたが、そのバラーンの活躍で、敵はとうとう戦闘も航行も不可能な状態になりつつあった。

 が、それでもまだ、敵はしぶとかった。一度沈黙したはずのミサイル発射口から、おかしな角度でミサイルが漂い出て来る。勢いよく発射される、というのではなく、ヘロヘロヘロ、と漂い出て来たところを見ると、破壊された発射口を応急修理し、何とかミサイルを外に押し出す事にだけ成功した、という感じだろう。

「もう、降参しろ。これは命令だ。」

 そう通信機越しに叫んで来たのは、「ペアホス」棟梁だった。「もうやめてくれ、『ファング』のかしらよ。降参する。我がファミリーの全財産でも提供するから、もうやめてやってくれ。」

 棟梁の声と共に、敵艦からの攻撃はピタリとやんだ。無意味な方角への散発的なレーザー照射などがあったのだが、棟梁の声に呼応して瞬時に停止した。掠奪を止められないバラーンの部隊よりはこちらの方が、余程統率はとれているかもしれない。

 敵の5個の戦闘艦は全て、ほとんど戦闘も航行も不可能な状態になり果ててしまっていたが、かろうじて大破は免れていた。乗員も、半分くらいは生き残っていそうだ。

 「ファング」も、シヴァースやバラーンの部隊も、敵の沈黙を確かめるや否や戦闘を停止した。この宙域に限っていれば、統率の無い部隊は存在しないようだ。

 降伏した敵への処遇は例の如くで、「ファング」のパイロット達が、敵艦に乗っている女達を選んで連れて行って囲う、という事が棟梁に告げられた。パイロット達が選ばなかった女と軍閥幹部達は、身代金と引き換えに彼等の本拠地に送り返される事になる。間にクンワールや仲介業者が携わる事になるのも例の如くだが、そんな事まで説明する義理は無かった。一般兵は、ここの集落に引き取られる。大した身代金を払えない庶民を、故郷に送り届けている余裕は無かった。

 「ペアホス」の棟梁は、それらを全て二つ返事で受け入れた。

「今生きている者を、誰一人殺さずにいてくれるのなら、もう何も望まん。好きなようにしてくれ。」

 ここまで覚悟を固められる権力者というのも珍しい。「お前達で囲う予定の女達にも、できれば、あまり手荒な扱いは、しないでやってくれ。」

「大丈夫だ。『ファング』では女への暴力は、即、銃殺刑だ。」

「・・お、おお、マジか。」

 シヴァースとバラーンの部隊には、掠奪は許さない事になった。掠奪を熱望する奴は先の戦闘宙域に居残っているから、わざわざ禁止するまでも無かったが、彼等の直下の兵達も掠奪したい気持ちが無いはずは無い。が、彼等の部隊が統率を欠き、戦況を不利に導いた責任はとらせる必要がある、とカイクハルドは考えた。

 敗残兵の処理にも目途が付き、ようやくカイクハルドが一息ついた時、赤い光の濁流が彼の全身を染めた。仲間の死を告げる光だ。それも、相当長く点灯し続ける。

「なにっ!・・な、ナジブの単位が、全滅・・。」

 カイクハルドが絶句したのに続き、カビルも疑問の声を上げた。

「何があったんだ?寄せ集め兵の駆っている旧式の『ヴィルトシュヴァイン』が相手だろ。それも、せいぜい50隻。ナジブ達の敵じゃないはずだ。」

「集落の住民が、もう戻って来てたらしいんだ。」

 低く重い声での、トゥグルクからの報告が入った。

「こんな早くにか?戦闘は、まだ終わってねえのに。」

 カビルが問い返す。

「隠し集落に残った老人達から、征伐隊の連中が出て行ったって聞くや否や、一目散に駆け戻って来たらしいな。住民としても、資源採取や生産活動の中断は、最小限にしたかったんだろうよ。そこへ、掠奪に来たバラーンの手の者と鉢合わせした。」

「ナジブ達は、非武装で無抵抗な住民を背負っての戦いを強いられたのか?」

「ああ、かしら。そんなところだ。住民のシャトルを散開弾から守るために、あいつの『ナースホルン』の流体艇首で盾になったらしいが、『ヴァルヌス』も残り僅かだったみたいで、防ぎ切れなかったんだな。他の単位が、掠奪組の殲滅には成功したのだけれどな。」

「・・そ、そうか。」

 低く、カイクハルドは呟いた。が、直後には、何に対するものなのかもよく分からない怒りが、胸の内に湧き上がって来る。右ひざあたりの鉄板に、その怒りは拳を介して叩き込まれた。

(判断ミスだったか?集落の保護に熱心じゃない奴を送り込んだ方が、犠牲が少なく澄んだのか?)

 一瞬そんな考えもよぎったが、ナジブ達だからこそ、命に代えてでも集落の住民を守り抜いてくれたのだ。

 今回の作戦だけを見てもそうだが、「シェルデフカ」での後方攪乱のゲリラ戦においては、住民の協力というのがこの上もなく重要になっている。

 「シェルデフカ」領域の至る所を神出鬼没に動き回り、どこでも補給の心配をする必要がない、という状態で「ファング」は戦っている。索敵用の無人探査機も、住民達がばら撒いているものが半分くらいを占めている。残りの半分は「カフウッド」がばら撒いたもので、「ファング」はほとんど、索敵の負担をしていない。データだけを、ただでもらっている状態だ。

 征伐隊に糧秣の現地調達を全く許さず、極度の飢餓状態に追い詰める事ができているのも、「ファング」が存分にゲリラ戦を繰り広げているからであり、それは、住民の協力無しにはあり得ない事だ。

 ナジブの身を挺しての住民救済は、更なる信頼と協力を「ファング」にもたらすだろう。もし、住民に犠牲が出ていたら、正反対の結果もあり得た。戦略上の都合だけを見れば、パイロット数人の命よりそちらの方が重要だ。

(ナジブの奴は、そこまで計算したわけじゃねえだろう。ただ、自分の故郷みたいに、集落の者が戦争に巻き込まれて死ぬのが、見るに堪えなかっただけだろう。だが、あいつの命を賭した働きのおかげで、まだまだ「ファング」は、「シェルデフカ」で暴れられる。)

 自分の判断を後悔しかけた気持ちを、カイクハルドはどうにか立て直した。

「済まない、カイクハルド。俺のせいで、『ファング』に人的損害を出してしまった。我が部隊には、あの掠奪に向かった連中以外に、損害は無かったのに。」

 通信機からはバラーンの、しょげ返った力ない言葉が響く。

「うるせえよ。『ファング』のパイロットは、俺以外の、誰の責任でも死なねえんだよ。お前など、関係あるか。ナジブ達の死は俺一人の責任だから、お前は気にせんで良い。だが、お前のとこの兵の統率は、もうちょっと何とかしやがれ。」

「そうだな。俺も、もう一度兵を引き締め直さないと。」

とシヴァースも、バラーンと同じ位、力の無い声を通信機に響かせた。

「言う事を聞かねえ兵は、連れてくるな。十分な統率をとれる兵だけで、できる事をやれ。」

「分かった。統率のとれない兵など、いくら居ても使い物にならない、って思い知ったぜ。あんたの言う通り、カジャ様の下で軍事政権を牽制する為の飾りとして置いておくのが、一番良いようだな。」

 集落の防衛に向かった「ファング」の戦闘艇からは、ナジブの単位の全滅を含めて6人の犠牲を出していた。味方の統率不足で思わぬ掠奪が生じた、という変事や、住民が戦闘終結前に帰還して来た、という予想外の出来事に対応し切れなかった。どれだけ経験を積んでも、戦場では何が起こるか分からない。カイクハルドも改めて、その事を想い知らされる戦いとなった。

 「ペアホス」の残りの5艦との闘いを決めた時に、多少の犠牲は覚悟していた。6隻の被害というのは、上出来の結果と言って良いものだ。だが、覚悟したのは「ペアホス」との戦いによる犠牲だった。それ以外の戦力によってもたらされた被害は、カイクハルドには後味の悪いものだった。


 公然の闇市は、その日も賑わっていた。宇宙に漂うリング状建造物から、シャトルがひっきりなしに出たり入ったりしている。

 戦乱の時代にこそ、こういった闇市の需要は高まる。敵対している勢力同士の間でも、やり取りすべき人や物は相当な量に上る。捕虜の引き渡しや身代金の引き取り等は、その代表的なものだった。

「驚く程、高値で引き取ってもらえたぞ、『ペアホス』棟梁達の身柄は。わしの部隊は、奴等との戦闘には全く関わらなかったのに、身代金収益の上前をはねる形になって、なんだか心苦しいな。」

 クンワールは、相変わらず生真面目だ。筋骨隆々の胸板が、恐縮を目いっぱい孕んだ息を吐き出した。

「あんた達『カフウッド』の名義で仲介業者に引き取ってもらった方が、高い値を付けてもらえるんだ。『アウトサイダー』の『ファング』名義じゃ、そうはいかねえんだ。だから、遠慮する事は無い。」

 無機的な声で返答したカイクハルド。頭の中では、別の事を考えていた。シャトルの窓から、外を行き交う数多(あまた)のシャトルを目で追いながら、クンワールの社交辞令を機械的に受け流していた。

「わしらも『ファング』に負けぬ手柄を上げたいところだが、このところ『シェルデフカ』や『カウスナ』に出没する敵は、かなり厳重な護衛を付けた『エッジャウス』からの輸送部隊ばかりだからな。なかなか手が出せん。」

「ああ、あんなのに手を出す事はねえ。プラタープの旦那に任せよう。」

「あれは、『エッジャウス』が拠出した糧秣なのか?」

 クンワールが、表情を改めて問いかける。「エッジャウス」がどこまで本気で「カフウッド」の征伐にのめり込んで来るかが、軍政打倒の戦いの要になる。

「いや、あれは周囲の軍閥の所領から、強引に徴発して来たやつみたいだな。」

「それも、『エッジャウス』に送り込んでいるスパイからの情報か。大したものだ。」

 探るようにカイクハルドを見たクンワールだが、直ぐに表情を改める。「だが、まだ『エッジャウス』は、自分達が蓄えた糧秣を吐き出す程には、この戦いに危機感を持ってはおらぬ、という事か。」

 やや切迫感を纏った、クンワールの言い回しだ。

「そんな事はねえさ。かなり手厳しい徴発で、糧秣を収奪して回っているって話だ。軍閥や領民の怨嗟は、生半可なものじゃ無くなって来ているそうだ。そこまでやるからには、軍事政権も本気だと見て良い。」

「それでも、自身の備蓄は吐き出さんのか。食えない連中だな、『エッジャウス』の住人は。」

「それが、ファル・ファリッジって男さ。自分とその周囲の保身のみを、常に考えている奴らしいぜ。」

 クンワールはファル・ファリッジの事より、ファル・ファリッジの人となりをそれほどまでに掴んでいるカイクハルドが気にかかる、と言いたげな目で彼を見詰めている。が、口からは、戦況の見通しに関する発言が紡がれる。

「いずれにせよ、補給部隊にあれだけの護衛を付けて送り込んだからには、征伐隊の更なる攻勢は間違いないな。」

「連中は未だ、プラタープの旦那が『バーニークリフ』から引き揚げた事には、気付いちゃいねえんだろ?」

「そうだ。兄上の『バーニークリフ』での最後の戦いで、相当手酷く叩かれたからな、奴等は。補給と補充を受けるまでは、身動き一つとる気になれんらしい。ほぼ無人の我が領民の集落に居座って、沈黙を守っておるわ。」

「軍政首脳も必死になって糧秣を掻き集めて、補給部隊を繰り出して来るわけだ。その護衛部隊を補充戦力として、征伐隊も態勢の立て直しができるだろう。直ぐに『バーニークリフ』がもぬけの殻である事にも気付き、『ギガファスト』に転戦して来るだろうな。」

「ああ、そうなれば、兄上が張り巡らした『ギガファスト』の罠が、征伐隊をきりきり舞いさせるだろう。楽しみだぞ、わしは。」

 兄の話になると、クンワールの表情はやたらと緩む。

「問題はそこだぜ。プラタープの旦那が、『ギガファスト』で『バーニークリフ』と同等以上の戦果を上げてくれねえと、軍政の戦力を引き付けておけねえからな。『レドパイネ』が進撃の決意を固めた今、旦那の働きでどこまで『シックエブ』を手薄にできているか、が如実に問われるぜ。」

「うむ。『エッジャウス』からの補給部隊の護衛には、『シックエブ』周辺の軍閥も駆り出されている。その分、有事に備える為の『シックエブ』の防衛戦力は削がれているわけだ。補給部隊は、次から次へと送られて来ている事が確認できている。『シックエブ』の周辺軍閥の兵が、どれくらい使われているか正確には分からんが、『レドパイネ』の突撃を支援し得るものになっている、とわしは信じている。」

 「グレイガルディア」各宙域から多くの軍閥が召集されて、「シェルデフカ」を経て「カウスナ」領域に送られて来ている事は、ここの闇市の賑わいを見ていても実感できた。

 行き交うシャトルは、外観ではどこの軍閥のものかは分からないが、その数や、やって来たり向かって行く方角の多様さを見れば、相当多くの軍閥の来場が察せられる。

 大軍を送り込んだ軍閥というのは、緊急に戦闘艦の特殊なデバイスが必要になったり、弾薬の積み忘れが今頃発覚したり、などという事態が起こりがちだから、こういう闇市の利用は避け得ぬものだ。だから、ここの往来を眺めているだけでも、プラタープの行動がどれ程軍政の戦力を引き付けられているか、おおよその見当をつけられる。彼等がここに来るのは、捕虜の処分だけが目的では無かった。


 その数日後、続々と送り込まれた補給部隊によってようやく態勢を立て直した征伐隊は、既に10回近く繰り返している「バーニークリフ」への侵攻をまた企て、ようやくにして、プラタープがそこを放棄した事に気付いた。

 「バーニークリフ」の陥落を受け、プラタープの探索に乗り出す部隊や、早々と帰り支度を始める部隊、様子を見ようと沈黙を決め込む部隊などが出て来る。

「こっちも、しばらくは様子を見るしかねえな。プラタープの旦那も、『ギガファスト』からの敵情視察に余念がねえだろう。敵の方で『ギガファスト』を見つけ出して、仕掛けて来ねえなら、旦那の方から仕掛ける動きも必要になる。それに呼応して、こっちもどう動くか決めなきゃいけねえ。『カウスナ』の様子を、注視してなきゃいけねえな。」

 トゥグルクが、相変わらず少女の肌を片手に楽しみながら、戦況の展望を述べた。

「まだまだ、補給に送られて来る部隊もあるんだろ?」

「ああ、続々とやって来てるぜ。」

 カイクハルドの問いに応える間も、トゥグルクの手は休む事を知らない。

「護衛の手薄な船団がねえかは、じっくり監視しておいてくれよ。そういうのは、見つけ次第襲撃を掛ける。それに、『バーニークリフ』から引き揚げようとする連中がいるようなら、そちらの監視も厳重にしてくれ。」

「そうだな。『レドパイネ』の『シックエブ』への進軍を支援するためにも、戦力を戻すわけには行かねえな。」

「ああ、それもあるが、戦場から故郷に戻る部隊っていうのは、油断の隙が生じやすいものだ。小規模部隊が本隊から遠くはぐれて行動する、って事も起こりがちだ。」

「なるほど、そんなのも見つけ次第、襲撃を仕掛けるんだな。」

 ヴァルダナが、真剣な顔で頷いた。ナワープの事は彼の中で、今どうなっているのだろう、などとカイクハルドは思った。

 バラーンの手勢の一部が隠し集落を襲う、という事件の直後には、「ファング」の根拠地の安全対策がどうなっているのか、などとトゥグルクに根掘り葉掘り聞いているヴァルダナの姿をカイクハルドは見かけた。安全なもの、と決め付けていた隠し集落や根拠地にも、危険の可能性はあるのだと思い知らされ、居ても立ってもいられない心境になったらしい。

 だが、バラーンの手勢の掠奪に関しては、こちらの方から「ペアホス」に隠し集落の場所を教えた事がそもそものきっかけだった。その「ペアホス」の敗残兵から隠し集落の場所を知らされ、バラーンの手勢は掠奪を思い立った。

 しかし、こちらから教えでもしない限り、隠し集落も「ファング」の根拠地も、まず見つかる心配は無い。詳しい位置情報を知らない者が見つけるには、宇宙は余りにも広大だった。

 もし、どこかからか位置情報を入手した者がいたとしても、「ファング」の敷いた監視体制ならば、根拠地に近付く者は、かなり早い段階から発見される。住民が即座に避難すれば、大きな被害は免れ得るはずだ。その為の避難訓練なども定期的に実施している、とトゥグルクに説明され、ヴァルダナも安心したようだった。

「襲撃するのに手頃な敵が見つからないようなら、根拠地に戻って『シュヴァルツヴァール』の念入りなメンテや補給をやっておいても、良いかもな。」

「え?こ、根拠地に行くのか?『シェルデフカ』領域にある根拠地って、一つだよな。」

 前のめりになったヴァルダナを見て、彼の中のナワープの存在状態を確かめられたと思い、カイクハルドは内心でほくそ笑んでいた。

「慌てるな。手頃な敵が見つからなかったら、って話だ。もうしばらく様子を見る。」

「あ、ああ、そうか。」

 からかわれた事にも気付かずに、ヴァルダナは心得顔で頷いた。

今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は、 '18/12/29 です。

ナジブが、隠し集落の建造に心血を注いで協力していた下りが、ずいぶん以前のことになってしまっているので、お忘れになっておられる読者も多いのかなと不安になっています。隠し集落建造から彼の死までを、もうすこし短くすべきだったのかもしれませんが、なかなか上手くいかないものです。こんなに離れていることに、今更のように気づいた次第です。ほかのパイロット達の、戦いにかける想いもいくつか書いています。そして、これからも「ファング」からは多くの血が流れていきます。宇宙に散っていくパイロットたちがどんな想いでいたのか、などにも注目してほしいので、面倒かもしれませんが、できるだけ、パイロット達の経歴や信条に関する記述も、頭の片隅に置いておいて頂ければ幸いです。「ファング」というのが、いろんな経歴の人間の寄せ集めであることも実感してほしいですし、それがこれほどに一致団結して戦っているということを、意識して頂きたいです。そういう書き方を自分ができていることを期待したいのですが、自分ではよく分からないのです。というわけで、

次回 第49話 皇太子の出撃 です。

物語の主人公が、こうなってほしくないと思っている、ということを繰り返し言及したということは、それが起きてしまうといことだ、というのが小説の性というものでしょう。カイクハルドが、首を突っ込んでほしくないと繰り返し言っていた時点で、それを予期していた読者様も多かったかもしれませんが、上記のタイトルが出てきてしまいました。物語に新たな展開が加わり、戦いの様相も、これまでとは違ったものになって来る・・かも。ご期待下さい。


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