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銀河戦國史 (アウター“ファング” 閃く)  作者: 歳越 宇宙 (ときごえ そら)
第2章 準備
32/93

第30話 反軍政の首脳会談

「しかし、その管理者って言うのも、無責任な奴だな。」

 カビルが、憤慨の鼻息と共に口を差し挟む。「自分がいなくなったら、生きて行けなくなる奴が大勢いるって分かってて、集落を放り出して行っちまうなんてよ。」

「今の管理者は、30年ほど前に、『シックエブ』からここの集落に派遣されて来た者の子息なのです。それ以前の管理者は、彼らよりはだいぶマシでした。それでも、税の取り立てや労務使役などは厳しいものでしたが、集落の者が飢えや過労で命を落とす、などという惨劇は滅多にありませんでした。暴動や逃散(ちょうさん)なども、この集落では無縁のものでした。逆に言えば、餓死や過労死をさせず、暴動や逃散が起こらない程度の、ぎりぎりの絶妙な搾取や酷使をしていた、という見方もできますが。それでも、命の危険だけでも少なかったので、今の管理者よりは相当マシだった、と言えるでしょう。」

「ってことは、今の管理者のもとじゃ、餓死や過労死が続出してた、って事か?」

「はい。数百人しかいない集落で、月に2・3人くらいのペースで、餓死や過労死が発生しておりました。事故死も含めれば、もっと多くの者が死んで行っておりました。暴動や逃散も何度か起こり、それで命を失った者、行方不明になった者も、私の知る限りでも百人近くに上ります。」

「手加減ってものを、知らねえんだな。何も考えねえで、搾取も酷使もやりやがるんだろう、今の軍政が派遣して来る管理者って奴は。」

「そうです。集落に残る記録によると、軍事政権樹立以前までは、管理者というのは帝政貴族が任命するものだったそうです。この集落で古くから暮らして来た者の中から、選んでいたそうです。集落の中の有力者に、皇帝陛下の授けて下さった技術や知識を教え込み、設備を動かす為のカードキーなども託し、集落での資源採取や生産活動を管理させていたのです。より多くの税を帝政貴族に収めた方が、管理者も良い暮らしができましたから、課税も労役も厳しいものがありましたが、それでも長年共に暮らして来た間柄でしたから、命を奪う程の横暴は振るわなかったのです。」

「そこのところが、軍政が派遣して来た奴とは、決定的に違うところか。カードキーの継承や、知識と技術の伝承は成されているが、住民の命を尊重する意識は、全く伝えられていなかったんだな。」

「いえ、今の管理者は、知識や技術の伝承も、相当に不十分なものでした。帝政期の管理者と比べれば、相当にレベルの落ちる知識や技術しか、今の管理者は持っておりません。以前は管理者に任せていて良かった事の多くを、住民自身でやらなければならなくなりました。その分、住民の知識や技術の水準は上がりました。管理者がいなくても、人工彗星からの資源の取り出しくらいはできる、と思えるのも、生産活動は自分達だけでできそうだと思えるのも、管理者の知識や技術の水準が低かったおかげだ、とも言えるのです。」

「軍事政権樹立から、30年前に今の管理者が来るまでは、どんな奴が管理者だったんだ。」

「帝政時代のように、古くからのここの住民の中から選ばれる事は無くなり、見ず知らずの者が軍政に任命され、送り込まれて来るようになったのですが、知識や技術の水準はそれなりの者でした。古くからの住民から選ばれた管理者と比べれば、薄情で荒っぽい管理しかしてくれなくても、管理者として最低限の知識や技術を持っている分、まだ頼りにはなる存在でした。」

「それが今の管理者は、人命は尊重しねえし、知識も技術も無くて使い物にならねえしで、大変だったんだな。30年前って言えば、アクバル・ノースラインが軍政の総帥に就任したころだ。やはりその頃から、軍政は一気に腐って行ったんだな。」

「で、そのレベルの低い管理者は、ロクに仕事もせずにあんたらだけを働かせて、自分はのんびり暮らしてたのか?」

 カビルが呆れた顔で尋ねる。

「いいえ。管理者は、集落の中でも宇宙艇パイロット等の素質のある者を連れ出し、いつでも軍政の部隊に人材を提供できるように、軍事訓練などに励んでいました。」

「そうか。軍政が送り込んで来る人物なんてのは、結局、軍人崩れみたいなやつばかりなんだな。資源採取や生産より、戦争するのが本職なんだ。軍政に戦争で貢献すべく準備する方が主で、集落の管理者としての活動なんて、二の次だったんだな。」

「はい。ですから。『カフウッド』ファミリーへの征伐隊が編成された時には、速やかにそちらへ参陣して行きました。そこで手柄を立てれば、ここよりも生産性の高い集落の管理者に栄転できる、と息巻いておりました。」

「それで、その征伐隊が糧秣不足の窮地に陥ると、ここの食料を根こそぎ持って行く事を許したんだな。」

「はい。集落の住民が全員餓死しようとも、征伐隊の役に立てれば、彼等は栄転が叶うそうで、我々が今日明日食べる分まで根こそぎ、征伐隊に持って行かせようとしていました。さすがにそれだけは、我々としても我慢ならず、最低限の食料を残して行かないのなら、駐留部隊も諸共に、集落を爆破して自決してやる、と騒ぎ立てました。それを見て、征伐隊も管理者も逃げて行きましたが、カードキーまで持ち去られていて、我々だけでは資源の確保も生産も長くは続けて行けない状態だ、とはあなたに指摘されるまでは、気付いておりませんでした。」

「あんた達は、ぎりぎりの精神状態に追い詰められてたわけだから、それも無理からぬとも思えるが、その管理者ってのは、愚かな判断をしたものだ。あんな征伐隊に付いて行ったって、栄転なんかできるわけねえぜ。『バイリーフ』ファミリーなんぞ、結局、一戦もせずに、敵前逃亡したんだぜ。責任を問われて、厳罰に処されるんじゃねえか。その巻き添え食って、あんた達の管理者だった奴も、辛酸を舐めるハメになりそうだな。」

「そうですか・・しかし、自分達を売り飛ばした者の行く末より、とにかく我々には、この集落を復興する事が先決です。『ファング』の協力のもとに、管理者無くしても生活が成り立つように、全力で取り組まなければなりません。」

「そうだな。根拠地の連中に、そこらへんの事情も説明しておくぜ。」

「ありがとうございます。本当に、あなた方には感謝しております。」

「別に俺達は、慈善活動をやってるわけじゃねえさ。ただ、ここを『ファング』の拠点に使いてえだけだ。その為に、復興にも協力するんだ。」

 (うそぶ)くカイクハルドだが、その場を後にする足取りは軽やかだった。


 丸一日も経った頃、「ファング」の根拠地から、比較的大型の輸送船が送り込まれて来た。

 「シェルデフカ」領域にもある「ファング」根拠地が、「ルティシュチェボ」星系のエッジワース・カイパーベルトに座を占めている。そこからここまでの領域は、既に「カフウッド」ファミリーの勢力下にあり、徹底した敵残党の掃討も実施されていたので、安全は確認されていた。護衛の必要もなかったので、支援作業も素早く展開できる。

 「フロロボ」星系第3惑星の作り出すL4-ラグランジュ点の中に、集落は4個あった。「ファング」が最初に訪れた集落と、生活水準も被害状況もあまり変わりなく、同じ管理者によって経営されて来た。住民達の語るところでは、以前は6つあったらしいが、住民の逃散で、2つは十年程前に消滅した、との事だ。

 集落は星系の名前と通し番号の組み合わせで、領主には識別されており、L4-ラグランジュ点の集落は、「フロロボ第24」から「27集落」と命名されている。「ファング」が最初に訪れたのは、「第25」集落だった。

 1つの集落が「ファング」を受け入れたので、他の集落は、話の進展が早かった。近寄れば自爆する、などと脅される場面も勿論無く、「第25」集落の者達の口利きにより、「第24・26・27」集落も、管理者の喪失を、「ファング」を頼る事で補う決断をした。

 隠し集落の建設は、4つの集落が共同で使用するものを1つ建設する事になった。最低限飢え死にしない程度の極貧生活に耐えれば、2年くらいは、集落住民全員が避難していられる隠し集落にする予定だ。

 それの建設と並行して、資源採取用の人工彗星の処置も実施する。幸い、「ファング」の根拠地が派遣して来た技術者は、カードキーの複製に成功した。それのメンテナンスや細部にわたる操作方法等も、全て彼の知るところのようで、懇切丁寧な説明が住民に成され、知識や技術は余すところなく伝授されて行く事になった。

 根拠地派遣の技師にとってみれば、相当旧式の採取設備だという事だ。が、それもそのはずだ。数百年も前に、皇帝一族によってもたらされたシステムを、今も後生大事に使い続けているのだ。いずれは最新のものを、「ファング」根拠地の主導で順次導入して行く事になるだろうが、それはまだまだ先の課題だ。

 とりあえずは、当面の生活の目途が立った事で満足せねばならない。

 集落には、人手も不足していた。糧秣と共に、若い男女も大勢が征伐隊に徴発され、連れて行かれていた。征伐部隊は、兵士として、技師として、雑用や慰みものとして、奴隷や娼婦といった売り物として、集落の未来を担うべき若者達を大勢連れ去っていた。その分も補充してやらなければ、生活が成り立たない。

 「シェルデフカ」にある「ファング」の根拠地には、もと「シェルデフカ」の領民だった者やそれを親として生まれて来た者が大勢いる。

 「ファング」が直接、「シェルデフカ」の集落から連れて来たわけではないが、盗賊や似非支部が掠奪した若者達を大勢、「ファング」が横取りし、「根拠地」に連れて行っていた。根拠地での労働力となりながら、各設備の技師として、汎用の宇宙艇のパイロットとして、立派に成長を遂げている者達だった。「ファング」パイロットが領民の娘を囲い、孕ませた結果生まれて来た者も、大勢いる。

 そういった者達が、人手不足となった集落に補充要因として送り込まれた。何割かは、ここに永住するだろう。ここの集落から連れ去られていた者はいなかったが、同じ「シェルデフカ」領域の集落から連れ去られた者なので、ここで労働力になったり永住したりする事には、皆が一様に喜んでいた。

「ウチからも、ずいぶん大勢が隠し集落の建設に出向いておるんだな。」

 膝の上で少女を(もてあそ)びながら、カラフルなアロハシャツに包まれたトゥグルクがリゾート感満点で、カイクハルドに目を向けた。軍政は新たな、そしてより大規模な征伐隊を編成しているらしいが、まだ当分はやって来そうにも無いので、「シュヴァルツヴァール」は「シェルデフカ」領域の集落を幾つか見て回り、拠点として利用可能かどうかを確認していた。

 加速行程の「シュヴァルツヴァール」は航宙指揮室内にも重力をもたらしており、トゥグルクは少女の尻の感触を、その脚で存分に楽しんでいる。

「ああ、20人近くかな、エッジワース・カイパーベルトにまで出張して、作業に当たってやがるな。」

「ご苦労な事だ。俺達は盗賊兼傭兵なのにな、貧乏集落の為の慈善活動なんぞに精を出すなんてな。」

 トゥグルクは、人助けなどより我欲の追及が先決、と主張するかのように、少女の肌をその手に味わわせ続ける。

「まあ、拠点として利用したいって都合もあるから、一方的な慈善活動ってわけでもねえが、今エッジワース・カイパーベルトに行ってる連中は、貧乏集落が壊滅しちまったせいで『アウトサイダー』に身を(やつ)し、『ファング』に流れ着いたような連中だから、放っておけねえんだろう。」

「かしらのあんたの許可を得て行ってる分にゃ、俺にも異存はねえが、良くやるぜって感じだな。戦闘がねえときくらい、のんびりと女の肌でも味わって過ごせば良いものを。」

 そんな会話の数時間後、彼等は「フロロボ」星系第2惑星にまでやって来ていた。プラタープ・カフウッドに呼ばれていた。会わせたい者がいる、という事だった。


 惑星軌道上にある、その集落は、リング状の宙空人工建造物が4つ寄り集まって出来ていた。回転するリングは外周部に遠心力を生じており、住民に程良い重力を提供している。当然のごとく、リング部が居住エリアになる。

 リングの内側にはスポーク状のポールが幾つも走っており、リングの中心点を通っている。中心点では、幾つものポールが交差することになるが、回転中心でもあるので、遠心力は生じていない。港湾施設は、そこに造られている。

 リング上建造物に接近した「シュヴァルツヴァール」は、リングの回転に同調して艦を回転させることで、建造物との相対的な運動量をゼロに近づけ、安全な侵入を可能にした。

 スポークの中にはエレベーターが設えられており、リング状構造部へと移動できる。遠心力による疑似重力に対して下方向への移動なので、“降りる”という表現が適切かもしれない。

 カイクハルドは、エレベーターの加速重力と、回転によって生じるコリオリ(りょく)や重力勾配や遠心力との、幾つもの複雑に絡み合った力に、あっちこっちに引っ張られる、という苦難を乗り越え、リング状建造物の居住エリアに降り立った。

 そこからは適度な重力で床に押し付けられつつ、彼は通路を進む。何人かの「ファング」パイロットも後に従って歩いている。

 直径十数kmに及ぶ巨大なリング状構造物の外周部となると、コリオリ力や重力勾配の影響も無視できるほど小さく、不快感は生じない。そうでなければ人が永住する施設としては使えないから、住居としてのリング状宙空建造物は普通、少なくとも直径10kmくらいの大きさはある。

 彼が降り立った部分は、この4つの軌道上建造物から成る集落の住民統制を司る、役所的な機能を担当するセクションだが、違うスポークを伝ってリングの違う部分に降り立てば、一般の住居が並ぶセクションにたどり着くこともできる。

 ここの住民は、生活のほとんどの場面を重力のある場所で過ごす事ができる。ラグランジュ点にある集落と比べれば、それだけでも恵まれた環境と言える。第2惑星という資源の豊富なガス状天体や、衛星等という固形物が主成分の天体が近くに高密度に存在しているので、生活の質も安定感も、ラグランジュ点の集落より格段に良いだろう。

 同じ「シェルデフカ」領域の住民の間でも、ずいぶん生活には格差が開いている。当然人々は、より恵まれた環境の部分に集まって来る。だが、いざ戦争などが起こると、真っ先に軍の駐留先や物資の徴発の標的に選ばれるのは、こういった恵まれた集落だ。事実ここも、少し前まで軍政の派遣した征伐隊に駐留され、糧秣を根こそぎ徴発され、住民は全員が餓死しかねない程の苦境に陥れられた。

 今回の戦役では、L4-ラグランジュ点にある集落も標的にされたが、順番や確率から言えば、より恵まれた集落ほど、軍の駐留先や糧秣の徴発先に選ばれやすく、ラグランジュ点の集落などは後回しになる。

 どちらで暮らすのが良いのかは、状況によって移り変わって行くもので、それは、領民間の不和や抗争の原因にもなる。優れた統治者によって適切な利害調整や争論の裁定が成されなければ、領民に平穏な生活は無い。

 各集落の管理者も、本来は領主が選ぶ。領主による管理者の任命や監督・指導が不公正なものだったり無分別なものだったりすると、領民の暮らしはたちまちにして混乱や困窮に陥る。

 現状の「シェルデフカ」領域は、名目上の領主は皇帝となっているのだが、「シックエブ」という軍政の拠点要塞への補給支援領域に指定された事から、事実上は領主権の多くが皇帝一族から取り上げられ軍政に握られている。管理者も軍政が任命する場合が多く、能力も倫理観も欠落した者を押し付けられ、集落の者達は苦労が絶えない。

 領民同士の不和や抗争にも公正な裁定が下されるはずはなく、賄賂を沢山払って機嫌を取った者が得をする金権体質が蔓延している。「シックエブ」の役人も積極的にそれを利用して搾取に励むので、領民は貧困に加え、領民同士の軋轢(あつれき)にも苛まれて暮らすしかない。

 更に、反乱の鎮圧といった任務を課されると、領民の暮らしも命もそっちのけで、軍事的勝利のみを最優先に考える傾向が強いのが軍事政権というものだ。軍政への怨嗟の声も、自然(じねん)強くなる。

 その反動もあってか、ここの領民に帝政復活を待望する声が大きいのは、L4-ラグランジュ点の領民と少し話したカイクハルドも、強く実感していた。プラタープの勝利を願う声の高まりと共に「ファング」の活躍に期待する声も、彼は多く聞いた。

 帝政と言えど、それほど優れたものでもないのでは、とカイクハルドは思うのだが、やはり軍政よりはマシと言える。盗賊団兼傭兵団の「ファング」が国政の有り方などに、それほど深入りしても仕方がないが、とりあえず今は、プラタープの軍政打倒の戦いに加担するのがベストだ、との想いはカイクハルドの中で固まりつつあるようだ。

 そして、プラタープと共に軍政打倒の為に命を懸けようという者が、このリング状建造物に幾人か集まっていると聞かされた。プラタープは、その者達にカイクハルドを引き合わせたいらしい。

 通路を歩いて行くと、プラタープの配下と思われる兵士が視界に飛び込んで来た。見慣れたグレーの宇宙服が、それを印象付けている。こちらに気付くや否や、仰々しく敬礼して、彼らを引率する構えを見せる。

 挨拶を返すほどの愛想を示しもせず、カイクハルドは仲間を伴って兵士の後に続く。

案内された会議室には、何度も会った覚えのある顔と、会った覚えは無いが見た覚えはある顔と、見た覚えもない顔があった。

「よう来てくれたな、カイクハルド。」

 何度も見ている顔が、最初に声をかけて来た。「まあ、座れ。軍政打倒の連合軍の、首脳会議じゃ。同じ目的に命を捧げる者同士、友好を深めようではないか。」

「その首脳ってのに、俺も数えてくれてんじゃねえよ。ただの傭兵として、あんたから金で戦闘を請け負うだけだぜ、俺達は。」

「まだ、そんな憎まれ口を言うか。あんた達『ファング』のやっている戦いを見れば、もう軍政打倒にとっぷりと浸かってしまっている、としか考えられんぞ。」

 生真面目な顔に生真面目な笑みを浮かべ、プラタープの弟、クンワール・カフウッドがカイクハルドを見下ろす。椅子に座っている兄の背後に弟は立っているのだが、彼が立っている限り、たいていの者は彼に見下ろされる。

「あんたが、『ファング』のかしら、カイクハルドか。親父(おやじ)から話は聞いているぜ。あんたの『ファング』が、どこまで軍政打倒に深入りして来るかが、我ら『レドパイネ』ファミリーの態度決定の大きな指標になる、と親父は言っている。今日俺は、それを見届けに来た。」

 あどけなさの残る中にも鋭い眼光をぎらつかせた、二十歳(はたち)前後と見える若者が声を上げた。カイクハルドには、見覚えはあっても会った覚えは無い顔だ。

「お前、シヴァース・レドパイネだな。皇太子カジャのもとに、いたんじゃなかったのか?親父さんのもとに、戻っているのか?」

「いや、俺は3年ほど前から、カジャ様とずっと行動を共にしている。親父からカジャ様のもとに伝令が来て、俺を『カフウッド』やお前のもとに派遣するように、カジャ様に進言したそうだ。カジャ様もお前の、このところの目覚ましい働きぶりをお聞きになり、大変大きな期待をかけておられる。」

「働き、だと?そんな言い方されたら、俺達が皇帝にこき使われてるみたいじゃねえか。冗談じゃねえぜ。お俺達は、自分達の為だけに自由気ままに暴れてるんだ。気分一つで、いつでも軍政に寝返る可能性があるって事を、忘れるんじゃねえぞ。」

「へへっ、親父の言ってた通り、反骨心の強いやつのようだな。」

「反骨って言うんじゃねえよ。そりゃ、帝政の勢力下にあるのが前提の言い草だろう。俺達『ファング』は、誰の勢力下にもねえ、独立した戦闘艇団だぜ。」

「貴様、何という不敬な発言をしておるのだ。この『グレイガルディア』に住む者は皆、すべからく皇帝陛下の配下であらねばならぬのだ。皇帝陛下あってこその『グレイガルディア』であり、皇帝陛下に敬服せぬ者は、『グレイガルディア』で生きる事は許されぬのだぞ。」

 末広がりの丸みを帯びた顔立ちで、いかにも育ちの良さそうな雰囲気を醸し出している壮年の男が、抗議調に口を挟む。カイクハルドには、見覚えの無い顔だった。

「何だコイツは?」

 プラタープに目を向け、面倒臭そうに問いかけたカイクハルド。「軍政の追求からしぶとく逃げ延びた、皇帝側近貴族か何かか?」

「何という口の利き方じゃ、カイクハルド。その通り、皇帝陛下の近衛(このえ)兵団隊長の1人であらせられる、プーラナ・ミドホル様じゃ。陛下の御側近と気付いておるなら、少しは気を使った口を利かんか。」

「知るかよ。『アウトサイダー』に口の利き方の注文なんぞ、付けてくれるな。俺達には、皇帝も貴族も、関係ねえんだからよ。」

「何という奴だ。」

 呆れ果てたような顔で、プーラナ・ミドホルは嘆息した。「このような不逞(ふてい)の輩がおるのか、この『グレイガルディア』に。皇帝陛下の御威光に、全く服そうとせぬ奴が。」

「ああ、いるぜ。皇帝の権威なんてものはな、阿呆な貴族共の数百年の長きに渡る横暴な振る舞いのおかげで、すっかり地に落ちちまってるからな。」

「なんと、そんな事をほざきおるのか!我ら貴族まで侮辱しおって!確かに、貴族の中には不明な輩も数多くいるかもしれぬが、それしきの事で皇帝陛下の御威光が地に落ちるなど、あるはずがなかろう。」

「はあ?貴族が不明なせいで、体制から完全にはぐれて、己の力だけで生きて行くしか無くなった『アウトサイダー』が、何百年も前から大勢、『グレイガルディア』には溢れてるんだぜ。貴族の圧政で集落から逃散したり、集落が壊滅しちまったりして、帝政勢力の外側にしか居場所が無くなっちまったんだ。そんな者達が、どうやって皇帝を敬愛するんだ。」

「うぬぬ・・」

 プーラナは言葉に詰まった。

「まあ、まあ」

 慌てたように宥めに入るプラタープ。「とにかく今は、軍政を倒す方策を考えようではないか。帝政の方が軍政よりはマシである、とはおぬしも認めておるのじゃろ、カイクハルドよ。とりあえずもう一度、皇帝陛下の御親政にこの『グレイガルディア』の統治を託してみよう、と思ったから、わしの軍政打倒に参加してくれたのじゃろう。」

 カイクハルドからプラーナに体の向きを変え、プラタープは続ける。

「ミドホル様も、こやつの口の悪さは、大目に見てやって下され。ずっと、陛下の恩寵の外側で生きて来た奴なのですじゃ。それというのも、軍政が皇帝の親政を妨げておるせいでもある。軍政を倒し、皇帝の恩寵が『グレイガルディア』に遍く行き渡れば、こやつも考えを改めるでありましょう。」

「うむ、そうか。」

と、せっかくプーラナが収まりかかったところで、

「皇帝の恩寵ってのが出来損ないだったから、軍政に統治権を奪われるなんて間抜けな事態に、なったんじゃねえのか?」

と、カイクハルドが混ぜ返し、

「出来損ない、とな!何という不敬をほざきよる奴じゃ。」

と、プーラナもまた声を高くする。

「そう言うてくれるな、カイクハルド。」

 プラタープは、また一から宥め直しだ。「恩寵が国中に行き渡るのには、時間がかかるのじゃ。それが間に合わんで、軍政の進出を許したのじゃ。じゃが、その時代と今では、状況も違う。それに、皇帝陛下も貴族の方々も、かつての失敗に学んでもおられる。再び親政が始まれば、かつてとは違う結果になる可能性も、あるはずじゃ。」

と、カイクハルドに向かって話し、また向きを変え、プーラナも説得する。

「その事は、こやつも承知しております。もう一度、皇帝の御親政に、この『グレイガルディア』を託してみよう、という事にはこやつも同意しております。ミドホル様、今の時点では、それだけで納得してやって下さいませ。」

「む、確かに、我々貴族の不明が陛下の御威光に傷をつけた経緯はあるのだから、わしらも辛抱せねばならんか。」

「おお、さすがはミドホル様、お心がお広い。あなたのような方が側近として立ち、復権の成った皇帝陛下の御親政をお支えすれば、必ずや、こやつらも陛下の威光に服する世が、実現するでございましょう。」

 プラタープの必死の仲裁が実を結び、カイクハルドもプーラナも、深く椅子にもたれかかって、矛を収める姿勢を見せた。

 カイクハルドの背後に控えていた数人の「ファング」パイロットも、ある者は物足りなそうな、別の者はほっとしたような顔を浮かべた。彼等の中にも、皇帝シンパから帝政不信の徒まで、色々な連中がいる。

「それで、まずは軍政打倒を達成する為に、ここにいる誰が何をするんだ。」

 興味有り気に、カイクハルドとプーラナのやり取りを聞いていたシヴァース・レドパイネが、やり合いの終了を見て取って、問いかけて来た。

「まずは、できるだけ多くの軍政部隊を、わしの所領である『カウスナ』領域に引き付ておきたい。わしの築いた2大要塞『バーニークリフ』と『ギガファスト』が陥落せねば、軍政は次々に征伐隊を増強して来るとは思うが、より速やかに、より多くの部隊を、より長きに渡って引き付けるためには、軍政をビビらせる“看板”と要塞攻略を困難と思い知らせる後方攪乱が、あった方が助かる。」

「皇帝陛下の近衛兵である私と、皇太子カジャ様の名声が、“看板”となるのであるな。皇帝陛下ご自身が、『ニジン』星系などという辺境に蟄居(ちっきょ)あそばされている限りは、我々貴族や陛下の御曹司の名声こそが、軍政の心胆を寒からしめ得る、最も有効な看板になる。」

「そういう事でございます。わしの名声くらいでは、いくら頑丈な要塞を築いて、いくら獅子奮迅の戦いを見せようとも、今一つ軍政への印象が薄いのですじゃ。」

 プラタープは、貴族を持ち上げるのに懸命だ。彼の名声を看板として使う事を、かなり重要視しているのが分かる。持ち上げられたプーラナも、やたらと勝ち誇った顔で、カイクハルドに視線を送って来た。

「へっ、まあ、それは認めてやるぜ。」

 苦笑まじりに、カイクハルドは応じた。「近衛隊長と皇太子って看板を見せりゃ、軍政は、ありったけの兵を差し向けなきゃって気に、させられるだろうな。」

「うむ、うむ。そうであろう。」

 満足気に、プーラナは頷いた。嬉しそうに頷く様は、壮年にも関わらず幼さを感じさせる。カイクハルドの背後でも、皇帝シンパは納得顔、皇帝不信の徒は、口が“へ”の字だ。そこへ、

「軍政をビビらせると共に、その名声で、多くの兵を集められるぜ。カジャ様の下にも、既に1万に近い兵が馳せ参じている。この兵を使って後方攪乱を実施すれば、軍政は更なる大部隊の派遣を、決定せざるを得ないはずだ。」

と、割り込んだシヴァースの言葉にも、プーラナはすかさず付け加える。

「そうだ。名声とは、集兵にこそ最も役立つものだ。私のもとにも、既に数千の兵が馳せ参じておる。この兵を使って、1つでも多くの軍政部隊を、私がここで葬って見せよう。」

 胸を反り返らせて大言する様は、新しいおもちゃを買ってもらった子供のようだ。

「いや、『シェルデフカ』や『カウスナ』領での戦いには、あんたや皇太子カジャの集めた兵には、あまり参加してもらいたくなねえな。寄せ集めの兵じゃ、軍政の部隊を相手にするには、足手まといにしかならないどころか、余計な戦域の拡大を招く。その兵共に、領域内で掠奪なんぞをされた日には、せっかく俺やプラタープの旦那が苦労して築き上げた領民との信頼関係が、ぶち壊しになっちまいかねねえ。」

「なんと、せっかく多くの兵を集めたというのに、それを使うな、というのか?戦うな、と?」

 嬉しそうな表情は一変し、高級貴族は不満をその顔に露わにした。

今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は、'18/8/25 です。

リング状コロニーの、中心からリング状の部分に"降りて"行くシーンは、実際の経験がないから難しいです。死ぬまでに是非一度、経験してみたいと切に願うものでもあります。加速重力、コリオリの力、重力勾配、遠心力が、どんな風に作用してくるものなのか、その中に置かれた人間の体は、どんな感じになるのか。加速重力や遠心力は、まだ想像がつきやすいですが、コリオリ・・。今年は何度も日本を直撃して来る台風(この文を書いてる最中も、まさに直撃を食らっていて、窓外は暴風雨です)を左回りにする力ですが、宇宙の回転体の中心から外周部に移動するときに、どんな感覚をもたらすものなのか、経験してみないと、本当のところは分からないです。移動体に、見かけ上、回転方向とは反対向きへの力を加える、って理屈だけでは、細かい描写は無理です。重力勾配も難しい。地球だって丸いから、重力の方向は場所ごとに平行ではないですが、地球がでかすぎるから、人体には検知されない。けど、回転の中心から離れていく体には、遠心力の方向の違いは無視できないものになる。そんな理屈を知っていても、描写するには不十分でした。実体験してみない限り、描写できるほどの理解は得られない。だったら、そんなシーンは割愛すれば良いじゃないか、って話になってしまいますが、そこが作者の宇宙SFへのこだわりだから、仕方がない。従来の宇宙SFはどうも、宇宙が"からっぽ"な感じがしていて、"宇宙空間ならではの日常"みたいなもので小説を満たさないと、この"からっぽ"感が解消しないように思っているので。読者の皆様は、いかがお思いでしょうか?というわけで、

次回 第31話 反乱闘争の青写真 です。

5千の兵力で10万を撃退した「カフウッド」でしたが、それでも序の口に過ぎず、もっと大規模な敵を引き付け、釘付けにする戦いが今後に続くわけです。そして次回が、第2章の最終話になります。プラタープもクンワールもシヴァースも、全力の戦いを繰り広げる時が、その後には来るでしょう。(プーラナは、どうかわかりませんが・・)。そしてもちろん「ファング」にも、より厳しい戦いが訪れます。彼ら以外にも、ジャラール・レドパイネとか、軍政中枢にいる大規模軍閥とか、いろんな勢力の動きも重要になって来ます。是非、注目して頂きたいです。

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