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銀河戦國史 (アウター“ファング” 閃く)  作者: 歳越 宇宙 (ときごえ そら)
第2章 準備
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第22話 サンジャヤリスト

「まあ、そうなるだろうな。」

 ドゥンドゥーは、また頷く。さっきとは、意味が違い過ぎる頷きだ。

「じゃが、帝政貴族の専横は、軍政下の軍閥の圧政よりは、少しはマシじゃと思うぞ。」

 余り確信も無さそうな、プラタープの口ぶり。「軍閥共は、限度というものを知らん。領民がことごとく餓死したり、逃散を余儀なくするような搾取や酷使を、平気でやりよる。統治の歴史が浅い連中だから、加減というものを知らんのだ。」

「つまり帝政貴族の方が、領民を死なせたり逃げられたりしねえ程度に、上手に、要領良く、末永く、搾取したり酷使したりができる、って事か。反吐(へど)が出る程ムカつく理由だが、領民にとっては、帝政の方がマシって事にはなるか。」

 カイクハルドの言葉は、ため息まじりなものになった。「命を懸けて戦うには、得られるものの値打ちが低いな。」

「わしは、そうは思わん。色々問題があるにしろ、やはり、軍事政権を打倒し皇帝親政を復活させる事こそが、『グレイガルディア』の未来に繋がると信じておる。貴族の専横などの問題も、時間はかかるだろうが、皇帝一族を中心にした政府が、いずれは解決の道を見つけて下さるだろう。とにかくわしは、軍政打倒をやり遂げるまでだ。」

「あんたが、あんたの命を何に賭けようが、勝手だがな。」

 カイクハルドは、言葉に力が籠らない。「だが、あんた1人がどれだけ命懸けて戦おうが、共鳴して蜂起してくれる勢力が無けりゃ、何にもなんねえんだぜ。サンジャヤリストが期待外れなら、あんたは犬死だ。大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。2年前の挙兵でも、手応えはあった。お前が威力偵察と呼ぶあの挙兵で、軍政の出方だけでなく、味方になりそうな軍閥の目星も付いた。リストに載っている中の3割くらいは、あの短い挙兵期間にも同調の動きを見せておったから、もっと長く戦いを続ければ、リストの半分くらいは軍政打倒への蜂起を決断するじゃろう。それにサンジャヤ・ハロフィルドは、『グレイガルディア』中を回って、各宙域の軍閥棟梁と直に合って話をしただけでなく、その領民共の皇帝への敬愛の程を、身をもって確かめたのじゃ。領民からの突き上げというのも、領主が蜂起を決断する上で大きな要因じゃからな。」

 彼自身が、住民の嘆願を受けて挙兵したのだから、言葉には実感が籠っている。

「私も、彼は信用できると思う。直に会った事などないが、帝政貴族の間では評判の男だった。誠実で、見識が広く、頭の回転も速い、と誰もが認めていた。彼が、軍政打倒に賛同する可能性が高い順位に、軍閥の名を(つづ)った“サンジャヤリスト”は、十分に信頼に値する。」

 ドゥンドゥーも、カイクハルドを説得するような勢いで告げる。

「あの、青二才のボンボンがか?会った事もねえお前らが、会った事のある俺がこんなに危ぶんでる奴をそこまで信用してる、って言うのか?わけ分からんぜ。」

「おぬしが彼を悪し様に言うのも、志半(こころざしなか)ばで刑死した彼への、おぬしの無念の想いがさせるものじゃ、とわしは思っとるがな。」

 目の奥で笑いながら、プラタープは指摘した。

「はあ?何だよそれ。あんな奴が死刑になろうがどうなろうが、興味ねえよ。」

「興味の無い男を、この『シュヴァルツヴァール』に乗せて、あちこち連れて行ったりなど、するわけなかろう。おぬしが許可せねば、これには乗れぬのだろう?『グレイガルディア』中を、彼が軍事政権に気付かれずに巡るのに、この艦がいかに寄与したかくらいは、わしだって知っておるのじゃぞ。この艦がこんなに凄いものだとは知らなんだが。」

「私も、サンジャヤ・ハロフィルドが軍政に捕らわれ、死刑に処されたと聞いた時のかしらの顔、よく覚えておる。あんなに悔しそうな顔は、他では見たことが無い。」

「ああ?お前の勘違いだぜ、そんなもん。」

 ムキになって、カイクハルドは否定した。「傭兵として報酬を貰って雇われたから、奴を『シュヴァルツヴァール』に乗せて、『グレイラグディア』のあちこちに連れて行っただけで、個人的な思い入れなんぞ全くねえんだからな。」

「ここにもあるのだろう?サンジャヤリストは。と言うより、ここの端末で作ったはずだ、あのリストを、彼は。」

「ああ?・・ああ。」

 渋々のように、短い発声でカイクハルドは認めた。

「それを見ながら、話しをしようではないか。今後のおぬしらの行動計画にも、関わるであろう。サンジャヤリストに乗っている、どの軍閥が、どういう行動に出そうかを手始めに、軍政打倒の方策を語り合ってみようではないか。」

「ここじゃ見れねえ。俺の部屋に行かねえとな。お前、持ってねえんか、今。」

「持っておるわけなかろう。あんなもの、軽はずみに持ち歩けるか。万一軍政に知られれば、全てが水の泡になるわ。」

「ちっ、じゃあ面倒だが、俺の部屋に行くか。こんな髭もじゃのオッサンを俺の部屋に入れるのは、気が進まねえがな。」

「あっはっは、まあ、そう言うな。」

「じゃ、俺は、戦闘艇のメンテでもして来るか。」

 ドゥンドゥーは踵を返した。

 パイロット同士は基本的には、互いの部屋に入る事を遠慮する傾向にあった。特に禁じられている訳でもないが、他所の部屋に囲われている女を気に入ったり、気に入られたりするのは、パイロット間の関係のこじれを生じるかもしれない。

 強い結束を旨とする「ファング」なので、その種のいざこざは、極力回避すべきだった。食事を含めた各自の部屋での生活実態も、知らぬが仏だ、と認識している者が多い。

 減速による重力の為に、カツカツと床に靴音を響かせて艦内を移動して来たカイクハルドとプラタープは、スライド式で開いたドアを通って、カイクハルドの自室に踏み込んだ。ラーニーの姿は無く、扉が開きっぱなしの寝室からペクダが、笑顔で愛嬌を振りまいて来た。

 今は髪が固く結ばれていて、幼さを漂わせているペクダだったが、そこから繰り出される笑顔は、たまらなく愛くるしいものがあった。

 が、カイクハルドはそれを無視して、執務室に向かった。少しへそを曲げた顔になったペクダだったが、後に続いた髭もじゃを見て、目を丸くした。

 彼女にとっては、領主様の突如の御成りだ。ベッドの上で平伏しようとしたが、

「良い、良い。」

と、プラタープに苦笑まじりで言われ、ポカンと口を開けて領主様を見送った。

 執務室には、誰も居なかった。パチパチ、とカイクハルドは、卓上の端末のキーボードを叩いた。ディスプレイにリストが呼び出される。

「この端末で、彼はリストを作ったのか?」

「ああ、そうだ。ここに入ってるリストが、オリジナルって事になる。」

 感慨深げに、プラタープはディスプレイの縁に触れた。

「サンジャヤ殿が、ここで、これで、軍政打倒の大望を育んだのか。」

 最も強くその大望を受け継いだ、と自負しているであろうプラタープには、それは、ただの端末とは思えないと見える。

「感傷に浸ってる場合じゃねえぜ。ほら、出た。どの軍閥が、どう動きそうなんだ?」

 呟きながら、カイクハルドはリストをスクロールさせた。座席に付いて操作をしている彼の隣に、プラタープも腰を降ろし、ディスプレイを覗き込む。

「おお、これが、オリジナルのサンジャヤリストか。ここから、全てが始まったのじゃな、軍事政権打倒への動きは。」

 カイクハルドの言葉にも構わず、しばし感傷に浸っていたが、「むむむ、『トリコーヴ』、『ファットライス』、『レドパイネ』・・」

と、喉の奥で咀嚼(そしゃく)するように、プラタープは幾つかの名を唱えた。

「・・弱小軍閥ばかりじゃねえか。あんたのとこと変わらねえ規模の兵しが、集められねえぜ、こいつらじゃ。」

「だが、軍政への不満は強い連中じゃ。わしが十分に軍政の部隊を引き付けられれば、こやつらにも『シックエブ』や『エッジャウス』を突く余地は出て来るはずじゃ。数だけでは無いからな、戦争は。勢いやタイミングが良ければ、弱小軍閥が名門軍閥を蹴散らす可能性も、無くはないわい。」

「そうかな?軍事拠点を突く事はできても、突き破り、突き崩すところまで、行くかどうか。要塞を陥落させるってのは、ちょっとやそっとじゃ成し遂げられねえぜ。」

「・・そうじゃの。こやつらだけで、要塞攻略や軍政の転覆までは、やはりちょっと厳しいか。・・うぬぬ・・『ベネフット』『ヴィズトプラン』『ラストヤード』・・それと・・」

 更に名を上げるプラタープ。

「そいつらは、軍事政権の中枢じゃねえか。現体制で、甘い汁を吸ってる連中だろ?そんな奴等の離反なんて、期待する方がどうかしてねえか?」

「それが、そうでもないのじゃぞ、カイクハルドよ。権力の中枢ほど、暗闘の力は凄まじいものじゃ。そこで粗末な扱いを受け、不遇を託っている者の反抗心も、なかなかのものがある。」

 説明しながら老将は、カイクハルドの眼の奥に何かを見つけた。「ま、そんな事はわしに言われなくても、おぬしも分かっておるのだろうな。」

「さあな。俺は何も知らねえ。ただ、現政権内で不遇を託ち、反抗心を募らせているだけって奴等の力で、軍政を打倒できたとして、その後に、皇帝一族による政権が樹立されるとは思えねえぜ。俺には。」

「確かに、その通りじゃ。新たな政権を樹立するには、それなりのビジョンや権威というものを持った、核となり得る者の存在がなんとしても必要じゃ。そして現政権の打倒は、それを持つ者の手によって成し遂げられるべきだの。その方が、最も体制の転換がスムーズに行くじゃろう。軍政内部の不和を利用するだけの軍政打倒では、先が無いじゃろうのう。」

「あんたとしては、新たな統治は皇帝に託したいのだろうから、軍政中枢の不和を利用しつつも、やはり最後は皇帝を信奉する者の手で、軍政打倒を成し遂げたいんだろう?なら、サンジャヤリストに軍政中枢の軍閥ファミリーの名があったからって、そいつらに期待するのは、筋違いじゃねえのか?そいつらの力をあまり当てにせずに軍政打倒を成し遂げねえと、皇帝親政に繋がらねえぜ。下手すりゃ、別の軍閥を中枢にした、新たな軍事政権が樹立されるだけになっちまう。」

「うむ、その事も、分かっておるつもりじゃ。現政権の中枢における不和も利用するが、それは軍政の動きを鈍らせる程度にして、奴等へのとどめは、皇帝を信望する者の手で成し遂げたい。それが、皇帝親政の樹立には、最も合理的だ。が、カイクハルドよ、おぬしには別の考えが、あるのではないか?」

 カイクハルドを覗き込むプラタープの目に、更に力が籠る。

「考えなんかあるかよ。俺は何も知らねえ、って言ってるだろ。」

「そうかな?ここにこうして、サンジャヤリストがあるのじゃ。卓越した情報網を持つお前達が、ここに名の上がっている軍閥に対して、全く探索の手を伸ばしておらぬ、などという事はあり得ぬじゃろう。軍政中枢の軍閥の中で、誰がどんなタイミングで、どんな行動を起こすか。おぬしには予測がついておるのではないか?もしかしたら、既に接触し、何らかの言質(げんち)も得ておるのかも・・」

 カイクハルドは、ディスプレイを見詰めたままだ。リストに上がる名前の一つに、何かの想いを付き刺しているようでもあり、溢れ出ようとする想いを、懸命に抑え込んでいるようでもある。が、

「阿呆か。そんなジジイの妄想に、付き合ってられるか。『ファング』はただの盗賊団兼傭兵団だ。あんた達『カフウッド』が勝てそうと見れば、その征伐戦に参加してやるが、そうでなければ、軍政の側に付く。それだけだ。」

 口を突いたのは、そんな投げやりな言い草だった。

「そうじゃの。」

との言葉と共に、背もたれに体重を預けたプラタープ。「まずは、わしらが勝つことじゃの。そこから先は、正直わしも、どうなるかは分からん。具体的に誰が、どんな行動を起こして、どんな形で軍政が倒れ、次にどんな統治体制が『グレイガルディア』に訪れるのか。」

「そんなところだろうな。帝政復活を目指したいし、その為にはまず、軍政を倒さなきゃ何も始まらねえが、実際に軍政がどんな風に倒れ、どんな勢力がどんな権力を握る事になるか、など現段階で予測し切れるもんじゃねえ。」

「うむ、わしらは、とにかくここで暴れて、軍政の部隊をできる限り引き付けて、その後どうなるかは、成り行きに任せるしか無かろう。」

 覗き込む姿勢は崩しても、探るような眼差しは依然としてカイクハルドを捕えている。カイクハルドも、ディスプレイを見詰めたままの姿勢は変わらない。互いに何かを心底に秘めつつ、今はまだ、それは心底に閉じ込めておくつもりのようだ。

「とはいっても」

 気を取り直したように、プラタープは語り続けた。「『トリコーヴ』『ファットライス』『レドパイネ』・・、この辺りが何らかの動きを見せる事は、間違いないじゃろう。わしが軍政の大部隊を引き付け、ある程度の勝利を収めさえすれば。」

「そうだな。弱小軍閥だけに、名を上げる為に、一か八かの勝負に打って出る可能性は高い。軍政への不満も強い。血気盛んでもある。」

「この中に、『シックエブ』を突き得る程の勢いを持つ軍閥が、出て来るかどうかじゃ。」

「出て来ねえようなら、あんたの蜂起も空振りになっちまうだろうな。」

「そうなる。が、必ずやってくれるさ。この中の誰かが、必ず、わしが大部隊を引き付けておる隙を付いて、軍政の一大拠点、宇宙要塞『シックエブ』に攻撃を仕掛けるはずじゃ。」

「だと良いな。」

他人事(ひとごと)のように言うな。おぬしとて、その目途が立っておらぬのなら、『バーニークリフ』奪還に、あれほど命懸けで臨んだりせんかったじゃろう。サンジャヤリストの中に、わしに呼応して挙兵し『シックエブ』を突き得る、と確信できる者を見い出しておるのであろう?だからこそ、おぬしも動いたのだ、とわしは見ておるぞ。」

「さあな。一傭兵団として、手っ取り早く稼げる仕事だと思って、やっただけかもしれねえぜ。」

「阿呆ぬかせ。稼ぐだけが目的なら、灰汁(あく)どく荒稼ぎしておる“連邦支部”でも襲った方が、効率が良いわい。おぬしは軍政打倒の可能性に、それなりに見込みを付けておる。まあ、わしがどこまでやるかを見届けてから、最終的な判断は下すのじゃろうが、それでも、『シックエブ』を突く動きを見せそうな軍閥くらい、目星は付けておるはずじゃ。」

 ニヤリと笑うと同時に、ようやくにしてカイクハルドはディスプレイから眼を離し、プラタープへと視線を転じた。待ってました、と言わんばかりだ。

「そう言うからには、あんただって、『シックエブ』を突きそうな軍閥について、目算は立ててるんだろ?それで、自分の読みと俺の考えが一致しているかどうかを、気にしているじゃねえのか?俺達の考えが一致しているようなら、その軍閥を当てにできる確率が、相当に高まると思って。」

「全く、面倒臭い腹の探り合いなど、させおって。頼むから、それくらいは明かしてくれ。『シックエブ』を突きそうな軍閥として、おぬしが目星を付けておる者の名を。軍閥中枢に関しては、色々と微妙な問題もあって、軽はずみな事は言えんのだろうがな。」

「そっちから言えよ。リスト見ながら話そうって言ったのは、そっちだろう。『シックエブ』を突きそうな奴に対する胸算用を、伝え合うつもりだったんだろ?誰だ?誰が『シックエブ』に向かうんだ?」

「おぬしのう、わしの立場では名を上げにくい事くらい、分かるじゃろ?名を上げてしまったら、わしが挙兵を催促した形になってしまう。こんな、ファミリーの存亡をかける決断の催促なんぞ、したくないのじゃ。おぬしからの方が、気楽に名を上げられるじゃろう。それとも、テストされておるのか?わしは。現状認識の正しさを示さねば、味方には付けんと思っておるのか?」

「ま、そんな意味もあるかな。ここで頓珍漢(とんちんかん)な名を上げるようじゃ、あんたの戦略眼も大したもんじゃねえ、って事になるからな。ここでの会話を、誰かが聞いているわけでもねえんだからよ、名前くらい上げれば良いじゃねえか。」

「おぬしが聞いておるじゃろ。その軍閥に、わしが名を上げておった、と告げられてしまえば、それは、わしがその軍閥に挙兵を催促したようなものになってしまうのじゃ。今上げた3つのファミリー、『トリコーヴ』『ファットライス』『レドパイネ』、この中のどれかじゃ。それ以上は、言えんわい。」

「じゃあ、俺も言えねえな。その軍閥が動かねえ時には、『カフウッド』があんたに期待をかけていたぜ、って言ってやるつもりだったのにな。他人を強引にでも巻き込む覚悟がねえんじゃ、軍政打倒はおぼつかねえぜ。」

「催促せんでも、自分から挙兵する者だけで、軍政打倒は成る、と思っておるのじゃがの。まあよい、誰が『シックエブ』を突くのかは、結果を見てのお楽しみとしておくか。」

「なんだ、諦めるのか。ま、じゃあ、一つだけ教えといてやるよ。『レドパイネ』のとこの(せがれ)が、皇太子カジャのもとに送り込まれている。」

「何じゃとおぉっ!」

 プラタープは、跳ねるように立ち上がった。「こ・・皇太子様は、カジャ様は、生きておいでなのか?それに、『レドパイネ』が、カジャ様に接触しておるのか?ご子息を預けておられるとなると、相当密接な関係を築いておいで、という事になるではないか。で、カジャ様は、今、どちらにおいでになるのじゃ?」

「なんだよ。カジャの居場所も把握して無かったのかよ。これまで軍政を相手に、一番派手に暴れて来た奴の居場所も知らねえで、よく軍政打倒とか言ってるな。」

「そうじゃな、おぬしの言う通りじゃ。カジャ様が生きておいでなら、何としても連携を取らねばならぬ。2年前の皇帝陛下の挙兵の折に、カジャ様も行方知れずになられ、わしは不徳ながらも、生存は絶望視しておった。あの方は、ほれ、あの性格じゃ。向う見ずに、無茶をなさるお方じゃから。」

「そうだな。皇帝の息子だから、軍政にとっ捕まっても処刑もされず、何度も逃げ出しては、破壊活動を続けてやがった。皇太子じゃなかったら、何十回も死んでるはずの暴れっぷりだ。だが、カジャが暴れ続けている事で、帝政復活を求めるものは、望みを失わずに済んだ。その功績は、見逃せねえな。」

「うむ。サンジャヤ殿のように、冷静に計画的に、『グレイガルディア』中の軍閥の、軍政への気持ちを確かめて回る活動も貴重じゃが、カジャ様のように、とにかく暴れ回る事で、皇帝一族の政権奪還への意欲を示し続ける事も、軍政打倒には不可欠な事じゃった。無鉄砲に見えてカジャ様は、そんなご自分の役割を冷静に把握なされ、ひたむきに活動を続けて来られたのじゃ。皇太子という事で、軍政も簡単には処刑など、できぬところに付け込んでな。」

「確かに、ひたむきに活動を続けた事は間違いないが、やった仕事の実績と言えば、ただのテロ活動だぜ。それも、相当小規模で活動範囲も限定的だ。」

「そんな事は、どうでも良いのじゃ。皇太子という立場のお方が、軍政配下で横暴な軍閥への破壊活動を続けているという事実が、皇帝一族に政権奪還への確かな意志がある、と『グレイガルディア』中に知らしめる事になるのじゃ。」

「まあ、俺とあんたも、カジャの活動が無ければ、知り合う事も無かったものな。カジャが計画し、あんたが背後からお膳立てをし、『ファンング』が実行部隊になった軍閥への破壊活動が、俺達の最初の出会いだったっけな、そう言えば。何年前だ、ありゃ。」

「10年以上も前じゃな。ムーザッファール陛下が皇帝に即位なさった直後からじゃ。カジャ様が軍政への破壊活動を始め、軍政打倒の可能性を探る者がカジャ様のもとに馳せ参じ、わしもおぬしも、そこで顔を合わせる事になったのじゃろう。あそこから、軍政打倒の戦いは始まっておった、とも言える。サンジャヤ殿が軍政打倒の、現実面での支柱だとすれば、皇太子カジャ様は、精神面での支柱であらせられた。」

「そしてサンジャヤが処刑され、カジャも行方不明になって生存が絶望視され、軍政打倒は完全に頓挫したと思われた。おかげで軍政も油断をしてくれたから、あんたはまんまと再起を図る事ができた。」

「そうじゃ、そしてこれからは、わしと『ファング』が現実面での、軍政打倒の柱となるのじゃ。そこへカジャ様の生存が知れ渡り精神面の柱も再建されれば、軍政打倒は再び大きなうねりとなって『グレイガルディア』を飲み込む事になるぞ。」

 プラタープは、興奮に顔を赤らめている。

「なんで『ファング』を柱に加えてんだ。だが、カジャの生存が知れ渡れば、軍政打倒を目指す者が大勢、奴の旗の下に集まって来るだろうな。『アウトサイダー』中心の、寄せ集めの集団になるだろうから、戦力にはならねえだろうがな。」

「それでよい。戦力には、わしらが成ればよい。カジャ様には、ただ軍政打倒の旗を振っていただき、人心を集めて頂ければ。で、どこにおられる?カジャ様は。安全なところに、おられるのじゃろうな。」

「安全と言えば、安全かな。似非支部の力が強すぎて、どの軍閥も寄り付きたがらねえところだからな。『ピラツェルクバ』領域の『ポロギ』って星系のオールトの雲に、みすぼらしい要塞を(こしら)えて、立て籠もっているぜ。」

「そうか、『ピラツェルクバ』か。となると、連邦支部の支援を受けての籠城ということか。支部の中でも、古くから皇帝一族と繋がりの深いものが、あの領域には勢力を張っているからな。」

「ああ、連邦支部って言っても、今となっては“似非”のものばかりだがな。だがあの領域じゃ、似非支部の勢力が強くて軍政も手を出しづらい。そのおかげで、カジャが落ち延びて隠れ潜んだり立て籠もったりするのに、丁度良かったってわけだ。」

「そうか。そこなら、ひとまずは安心じゃのう。()の場所で、カジャ様が再び旗振り役を務めて下さるとなれば、軍政打倒は、いよいよ成功の可能性が高まったぞ。わしも気合が入るわい。それに、そこへ『レドパイネ』の息子が、入り込んでおるのか?」

「ああ、シヴァース・レドパイネが、カジャの勢力の軍事部門の総指揮をとっている。前までは寄せ集めの一団で、何の統制も連携も無い、見苦しいだけの破壊活動ばっかりをやってたが、弱小とは言え軍閥一門のシヴァースが加われば、少しは統制のとれた活動になるだろう。旗振り役には、それで十分だろうな。」

「うむうむ。」

 消えて無くなりそうな程に目を細め、髭もじゃのジジイが大きく頷く。「レドパイネの息子が参加しての破壊活動ならば、旗振り役としては十分なものになるだろう。派手に暴れて、多くの反軍政派の気持ちを引き付け、態度を決めかねておる者も多くが、反軍政への意志を強くするじゃろう。十分じゃ。カジャ様に置かれては、それだけして頂ければ十分に、軍政打倒の精神的支柱となる。そこからはわしらが、現実面の支柱として働くだけじゃ。」

「だから、わしらって、『ファング』も入れてんじゃねえよ。」

「入れて見せるわい。わしの戦いで、『ファング』も軍政打倒に加わり、先頭に立つ事になるわい。それに、『レドパイネ』がカジャ様と結んだ、と教えたという事は、『シックエブ』に突っ込んで行くのは、ジャラール・レドパイネだと明かしたようなものではないか。そうか。やはりそうか。『レドパイネ』ファミリーが、わしの戦いに呼応して『シックエブ』を突く急先鋒となるのか。思っておった通りじゃわい。」

「だったら初めから、『レドパイネ』ファミリーに期待してる、って言えば良かったじゃねえか。」

「良くないわい。わしから言い出して、催促する形になるのは、嫌なのじゃ。じゃが、わしが何も言う前から、『レドパイネ』がカジャ様と結ぶ動きをしとったのなら、わしが巻き込む形ではない。自ら積極的に、軍政打倒に打って出てくれたということじゃ、ジャラール・レドパイネ殿は。」

 嬉しそうに話すプラタープは、カイクハルドを押しのけるように端末に手を伸ばし、リストをディスプレイの中でスクロールさせた。

「やはり、サンジャヤ殿の目は確かであったの。こうしてリストに載っている者の中から、着実に軍政打倒の動きが活性化しておる。わしが『バーニークリフ』や『ギガファスト』で勝てば、『レドパイネ』が『シックエブ』を突く。そうなれば、ここに載っている他の者達も、じっとはしておるまい。軍政中枢にいる名門軍閥の中からも、何らかの動きは出て来る。それがどういうものか、おぬしは何らかの情報を持っていそうじゃが、それはもう良い。今は、そこまでは考えられぬ。」

 満足気に言いながら、リストをスクロールして行く。色々な名前が、ディスプレイの下から現れて、上へと流れ去って行く。一つ一つの名前に、いちいちに満足気に頷く髭もじゃのジジイだった。が、

「はて?」

と、リストが最下端に達したところで、プラタープは疑問の声を上げた。「どなたじゃな、この御令嬢は。」

 リストの後に続いてディスプレイ内にせり上がって来た少女の画像に、プラタープは目を奪われた。10代前半のあどけない少女が、眩しい笑顔を正面から見せている。

「・・美しいのう。今は失われつつある、古来からの『グレイガルディア』の女性の、品格のある(つや)というもを備えておられる。」

「あの、宜しければ、お茶でも。」

 不意に背後から、女の声が聞こえた。カイクハルドとプラタープが、同時に画面から背後へと首を巡らせ、視線を移す。

 ラーニーが、お盆に紅茶を乗せて立っていた。いつの間に戻ったのかも気付かなかったが、珍しく部屋に来客があったと知り、お茶を淹れて持って来たらしい。

「はあ?」

 ラーニーを見るなり、プラタープの顎ががくんと落ちた。驚きを露わにしている。

 無理も無い。たった今ディスプレイに映し出されたのと同じ顔が、少し成長した雰囲気で背後から、現物として登場したのだから。

「どういう事じゃ、何故、同じ顔が、ここに?」

「どういう事です、何故、私の顔が、そこに?」

今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は、'18/6/30 です。

「シュヴァルツヴァール」の艦内での生活を、どう設定しどう表現するか、にはずいぶん悩みました。命がけの戦いを繰り返す、"荒くれ者"の集まりであるパイロット達が、結束や秩序を守りながら心身を癒したり休めたりできる場、でなければならないわけで、それがどのようなものか、難しいところでした。女を巡っての男同士の争いや、男女間のもつれなどは、こういった組織の弱体化や機能不全の大きな要因になりそうですし。もしかしたら、そういった内容の重い人間ドラマや、ドロドロの愛憎劇みたいな展開を、本作品に期待されている読者もおられるかもしれませんが、一国の体制転換という壮大なテーマを描きながら、もう一方でそういうものを描き出すと、話が拡散し過ぎて手に負えなくなる、というわけで、本編のような設定になりました。囲われている女たちは、"あるじ"であるパイロット以外の男と、主のいないところで顔を合わせる機会は無い、ってことにして、男女間トラブルの防止に努めました。実際に、こんなルールだけでその目的が達成できるものなのかどうかは、読者各位のご判断にお任せ致します。女たちの扱われ方も、あまり酷過ぎるものになれば、それが原因で内部崩壊を起こしそうですし、と言って盗賊兼傭兵の一団に、それほど高い人権意識や女性尊重が見られるのも変だ、ということで、自分なりにバランスに腐心しながら、本編のような表現とあい成りました。違和感を覚えられる方、不自然に思われる方等、おられるかもしれませんが、宜しくご理解賜りたいと思っております。というわけで、

次回 第23話 「バーニークリフ」再び です。

ここまで、「グレイガルディア」の情勢や、「ファング」の背景等の、俯瞰的な内容が多く出てきましたが、次回あたりから、目の前の戦いにズームインしたような内容になって行きます。白熱のバトルまで、もうあと一息ですので、なにとぞ辛抱強く読み続けて頂きたいです。宜しくお願い致します。

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