第1章ー② 『これだから……』
交差点には買い物客で人が溢れかえっていた。そんな中、派手に何かとぶつ
かって転倒したのだ。
当然周りからは注目の的だ。ハルは溜息をついた。
「いったぁーい! どこ見てんのよ!」
甲高い声で、誰かが叫んでいる。慌ててハルは体を起こし振り返った。
すごいお怒りでハルに声を荒げてくる彼女。
真白い肌、風に揺られる銀色の長髪。薄紫色の瞳が印象的な彼女が、見た目とは
裏腹にすごい剣幕だった。
ハルとぶつかったのは、すごい剣幕の美少女だった。
「――大丈夫?」
「はぁ? 人にぶつかっといてその態度は何? わざと? 人前で転んでいい笑い
者になればいいのに——とか思ってる?」
彼女は、指を突き付けながら顔を真っ赤にしている。
「えっ! そこまでは言ってな……」
ハルに弁解の余地はない。咄嗟に彼女の手を引き、逃げるようにその場を後にし
た。
近くの公園に着いたハルと彼女。周りには誰もおらず、閑散としている。ここまでくればと一先ず安堵するハル。
とりあえず彼女の手を離し、事情を説明することにしたハルは声を掛けること
にした。ハルにとって三次元の女子と話すのは、かなりの精神力を使うのだ。
「――さっきは、ごめん、痛かったよね? ケガはない?」
先程はかなりのお怒りのご様子だったので、細心の注意を払いながら恐る恐る彼女に声を掛けた。
――なんでこんな目に、天国から地獄とはこんな感じかな。
彼女はハルの予想とは逆に、すっきりとした顔でこちらをじっと見つめている。
どうやら彼女はもう怒っていない様子。暫くして彼女が口を開いた。
「無理やり、走らされたし、喉が渇いた」
「えっ! じゃあ、お詫びにジュースおごるよ?」
突然の発言に驚きながらも、公園の敷地内にある自動販売機で、二本ジュースを購入し、彼女に渡した。
暫くハルと彼女は無言でジュースを飲んで時を過ごす。ハルは3次元女子と2人きりでジュースを飲む。このシチュエーションは難易度が高すぎて、気を失いそうになるハル。
――やべぇ、気まずい、マジで。
「あのさ……」
その時、彼女のスマホから着信音が鳴った。
「いっけなーい! いかなきゃ! ジュースありがとね、バイバーイ!」
嵐のような彼女はハルの前から颯爽と居なくなった。
――名前ぐらい、聞けば良かったかな。まっいいか、三次元に興味ねぇーし。
ハルはふと思いながら、新刊を堪能すべく家へと急いで戻っていった。