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全マシ。チートを貰った俺の領地経営勇者伝 -いつかはもふもふの国-  作者: のみかん@遠野蜜柑
『領地経営』編

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第93話『受け入れよ……』




 カナンリハを迎え入れてから数日後。


 町を歩いていると、宿屋の前に一台の馬車が停止するところに出くわした。


「あ、領主様ではないですか! お久しぶりです!」


 御者台に座っていたおっさんが俺に挨拶をしてくる。

 確か水道インフラの工事を始める少し前に大聖国へ仕入れに行った商人のおっさんだっけ。

 王都付近の情報が知りたくて軽く世間話をしたんだよな。


「お帰り。商売のほうはどうだった? いいもんはあったか?」


「はい、ニコルコは積み荷に税をとらないので大量に仕入れてきましたよ」


 他の領地だと場所によっては通行や積み荷にやたら高い税を課しているところもあるらしいのだが、ニコルコはそれらを取らない方針にしてあった。


 まずは人を集めるのが一番の目的だからな。


 通行関連の税収入は得られない、しかし免税によって人の行き来が増え、結果的には領地の繁栄に繋がる……ということを狙っている。


 たぶん、そうなってくれるはず。


 理屈は曖昧だが。


「大聖国では何を仕入れてきたんだ?」


「もちろん聖水ですよ! 王都ではこれがまた高く売れるんです! 私のような小規模の商会が扱うには賭けに近い高級品だったのですが……。ニコルコ経由なら経費もあまりかからないので相場より安く売っても大きな利益になると見込んで勝負にでました!」


「え? 聖水を……わざわざ買ってきたのか?」


「はい! かなりの出費でしたよ。あ、ひょっとしてお買い上げになります?」


 それって値段どんくらいすんだ? は? マジで? そんなに高いの?

 王族や貴族くらいしか買わない貴重品だから?

 ええ……。


 ニコルコだと蛇口を捻ったら普通に出てくるやつなんですけど。

 ウチの領民はそいつで顔や身体をジャバジャバ洗ってるんですけど。

 何なら打ち水とかもやっちゃってるんですけど。


 王都近郊での聖水の価値は変わってないだろうから利益は出せると思うが、他国まで行って大金をつぎ込んできたおっさんには話しづらい事実である。


 いや、でも大聖国の聖水であることにブランドがあるのかもしれないし……。


 俺が行商人のおっさんに対して葛藤を抱いていると、



「うわ、すんごい! 何もないクソ田舎! 本当に公国と道が繋がってたのね!」


「ヘイスティ……スチル様、そんな大きい声で言ったら駄目ですって!」



 緑の髪をした緩い癖毛の少女と水色の髪をしたポニーテールの少女が、彼の馬車の幌の後ろから出てきた。


 二人とも、どうしてなかなか御目にかかれない美少女たちであった。


「なんだありゃ、騒がしいやつらだな」


「ハハハ……彼女たちは街道の途中で会いまして。ニコルコに行くと言ったら乗せてくれと頼まれたんですよ」


 ふーん? 旅行者かな? それとも移住者希望者?

 今のところ土地は余りまくってるから移民はいつでもウェルカムカモ~ンっすよ。

 分譲住宅の販売も始める予定なので、永住するつもりなら購入を検討してはいかがかな?


 今ならそこまで地価も高騰してないしお得です。



「おじさーん、乗せてくれて助かったわ! ありがとね!」



 緑髪の少女は軽いノリでおっさんに礼を言い、水色髪の少女と宿に向かって行く。



「ヘイ……スチル様、やはり聖都に戻りませんか? きっと皆も心配してますよ?」


「うっさい! あいつらが心配なんかしてるわけないでしょ! あたしはもう戒律に縛られない自由な生き方をするって決めたんじゃい!」


「そんなこと言わず、考え直してくださいよぉ……」


「しつこいわね! 何が偽だ! 元だ! 旧だ! 劣化だ! こんチクショォ! あんなとこ、絶対戻らないんだから!」



 よくわからない言い争いを繰り広げている少女たち。

 様付けしてるところから、水色髪の彼女は緑髪少女の従者か何かだろうか?

 剣や鎧を身に着けてるし護衛なのかもしれんね。


 ということは、緑のほうは割と高貴な身分だったりする?



 どっどっどっ。



 そんな彼女たちの横を一匹の猫が元気よく走り抜けた。



「え!? 猫ッ!? でか――っ!?」


「こ、これは魔獣ですか!?」



 悲鳴を上げる少女たち。


 こら、水色髪、剣を抜くんじゃない!

 まったく大げさなやつらだな……。

 たかが1メートルくらいの子猫じゃないか。


 別に騒ぐほどのサイズではないだろう。


 付近を歩いている領民たちも、何でもないことで慌てる少女たちに苦笑を禁じ得ない様子。



「どうして他の人たちは平然としてるの……? むしろあたしたちが変に思われてない?」


「我々がおかしいのでしょうか……? そんなはずは……」



 うんうん、常識とは多数派によって塗り替えられるものだからね。

 ウチじゃこれが普通なのよ。

 だから受け入れよ……。



「相変わらず、この町は立派な猫が多いですねぇ……」



 商人のおっさんは遠い目で達観したように言った。

 そういえばこのおっさんも最初に来たときは腰を抜かしてたっけ。

 立派なんて照れるじゃないか。


 自慢の猫たちですよ。






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