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第79話『ゴルディオン・トマホーク』



『ひっくひょぅ! 馬鹿にしてんらぁ! 持ってこないなら取りに行ってやりゅよ!』


 呂律の回らない男性客の怒鳴り声が響く。

 どうやら自分から階段を下りてくるようだ。

 ドンッ、ドンッ、ガタッ。


『うわっ、なんじゃあっ!?』


 ドタバタッ、ガタンッ! ゴロゴロッ! ゴロロロッ! ズデーンッ!

 酔っていた男は足を滑らせて階段を転がり落ちてきた。

 トーマス氏の言った通り、男はかなりの大柄で落下の音も激しかった。


「うごごご……なんら、この階段はァ!? 階段までワシをいらないとゆうのかぁ!?」


 転がり落ちてきたのはブラッド氏より二回りほど歳がいってそうな老人だった。


 しかし、その体は年齢を感じさせない鍛え上げられた巨大な筋肉で覆われていた。


 丸太のように太い手足。分厚い胸板。

 二メートルはありそうな身長。

 ライオンのたてがみのような金色の髪とゴワゴワした口髭。


 確かにこんだけパワー系の見た目ならトーマス氏も警戒するよう言いたくなるわな……。


 さて、エレンはこの男を相手にどうするのか――



「あ、あなたは! まさか『剛金』ゴルディオン殿では!?」



 ジジイの姿を見たエレンはそんな声を出す。



「は? なに? エレンの知ってる人?」


「あ、ああ、私の父の旧知で、子供の頃に剣術の指導を受けたことが……」


 エレンが困惑したように言うと、ジジイのほうも気が付いたようで、


「もしや……エアルドレッド家のエレオノール嬢ですか……? あんなに小さかった少女が随分と大きくなって……立派な淑女になられたものだなぁ……」


 爺さんは虚ろな目をしながらしみじみ言葉を紡いた。


「エレン、この爺さんって何者なの? すごい人なの? 剛金とか言ってたけど」


「すごいどころではないぞ! この御方はミエルダ王国の騎士団長にして、魔王軍の侵攻を前線で幾度となく退けた武神ゴルディオン・トマホーク卿だ! 剛金はゴルディオン殿の髪の色と豪快な戦いぶりから名付けられた二つ名でな!?」


「ほう……」


 興奮気味に熱く語るエレンの言葉を聞き流しつつ。


 爺さんのステータスをちょろっと見てみる。



【名前:ゴルディオン・トマホーク】

【元ミエルダ王国騎士団長 元勇者パーティメンバー】

【スキル:剣術Lv4 槍術Lv3 弓術Lv3 格闘術Lv3 物理耐性Lv4 危機察知Lv4 魔力耐性Lv3 雷魔法Lv2】



 当然のことながらフランクとは天と地ほどの差があった。

 公国の騎士団長ってフランクと同等らしいけど……。

 いや、アカンでしょ。


 国の武力の違いがモロやないか。

 というか、アレ? 勇者のパーティメンバー?

 俺が首を傾げていると、


「そういえばゴルディオン殿は勇者のパーティメンバーに選ばれていたはずでは? なぜ一人でニコルコに? もしやミエルダ王国の魔王軍がこの町に……?」


 エレンが訊くと、ゴルディオン氏の太い筋肉がシュンと萎んだ。

 なにこれ風船? 

 人体の神秘ですね。


「ゴルディオン殿……?」


 エレンが心配して窺うと――



「ワ、ワシはァ……うおぉぉおぉぉぉおぉおおぉぉおおぉぉんっ!!!! まっほぉおおおぉおぉおぉぉおぉおぃぃいぃいぅんっ!? おぎゃあぁあぁあふぁあぁっ!? ああぁぁあぁぁっあふあぁぁたっあぁたたたたんっ!!!!」



 ゴルディオン氏は酒臭い息を撒き散らしながら泣き叫び始めた。

 ええ……? 

 駄々っ子みたいに喚くマッチョジジイとかやめてくれよ……。


「ど、どうされたのだゴルディオン殿!? ヒロオカ殿、どうしたらいい!? これって私のせいなのかなぁっ!?」


 エレンはムキムキ爺さんの幼児退行に困惑して俺に縋りついてきた。

 まあ、十代の少女には刺激が強すぎるよね。

 エレンが戸惑うのも仕方がない。


「事情を聞こうにも酔っぱらったままじゃ難しいな……」


 まったく、トーマス氏に続いて、何が悲しくて日に二度も筋肉達磨の号泣を見なければならんのだ。

 えいえいっ。

 スキルでビシュっと治してやりますよ。


 酔いはアルコールがもたらした状態異常。

 回復魔法で治るのだ。

 さあ、正気に返りなさい!


「はっ、ワシは一体何を……!?」


「目が覚めたか?」


「アッハイ……」


 我に返ったゴルディオン氏は恥ずかしそうに下を向いた。


 彼は酔い潰れても記憶が残るタイプなのね。







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