第75話『不思議なことが立て続けに起こるよなぁ!?』
「せっかくジローをビックリさせるチャンスだと思ったのに……」
うぅ……と露骨に残念がるデルフィーヌ。
だって俺ってば異世界の常識とか知らんですもん。
無知ってある意味最強だね。
ちなみにどんだけすごいの?
「二週間で基礎をマスターして得意属性を見つけるなんて、魔術学院だったら神童扱いされるレベルよ。普通は一年以上かけてじっくりやっていくことだもの。このことが外に漏れたら間違いなく国中に波紋を呼ぶわ」
子供たちを弟子にしたいと魔導士が押し掛けてきたり。
貴族が養子に迎えようとしにきたり。
酷い場合は奴隷にして売り捌こうと攫いにくる輩だって現れるかもしれないとデルフィーヌは言った。
「単純にお前の教え方か上手かったんじゃないの? そういう感じで納得させられないか?」
「それは無理ね。言っておくけど、おかしいのは上達速度だけじゃないから」
「どういう意味だ?」
「そもそも魔導士には誰だってなれるわけじゃないのよ?」
デルフィーヌが重く息を吐きだしながら言う。
「ジローはよくわかってないみたいだけど、どれだけ高名な魔導士が指導したところで本人に資質がなければ魔導士として花開くことはないの。魔導士は魔導士の血筋の家に生まれるもので、平民の家にも素質のある子どもが生まれることはあるけどそれは滅多にあることじゃない。だからニコルコなんて辺境の領地に魔導士の素質を持つ子供が何人もいて、しかも全員が天才的な才能を秘めていたなんて、教え方が上手かったで済む話だと思う?」
そりゃ無理っぽいな。
この世界の常識に疎い俺でもわかるわ。
「えーと、つまりなんだ? 天才かどうか以前に、魔導士になれる子供がウジャウジャいる時点でもう騒がれるのは確定ってこと?」
「そういうことね」
「…………」
まるで魔導士のバーゲンセールだな。
いえ、ちょっと言ってみたかっただけです。
けど、参ったね。
領地の暮らしをよくするための政策で領民が危険に晒さられるんじゃ本末転倒だ。
せっかく育てた人材をよそにスカウトされるのも困るし。
どうしたらいいもんだろうか。また懸案事項が増えてしまった。
「ねえ、もしかしてなんだけど。ジローがまた何かしてたりしないわよね?」
「ま、またってなんだよ。人を頻繁にやらかしてるヤツみたいに言うなよ」
「うーん、じゃあ何か別の要因があるのかしら? この土地の気候が影響してるとか?」
…………。
そうさ、俺は何もやっていない。
あくまで俺の意思としては……。
けど、ベルナデットに効いてたように、成長補助スキルが子供たちにも自動で影響を与えてるとしたら?
ハハハ、さすがにそりゃないか。
領民もカウントされるとか仲間の範囲広すぎでしょ。
そんなん超人国家が生まれちゃうっての。
「けど、あたしの魔力もジローと会ってからグイグイ伸びてるのよね……。エレンも剣術の腕が最近やたら上達してるとか言ってたし――」
チラッ。疑惑の視線が向けられる。
こいつ、納得してねえ!
まあ、デルフィーヌの好きに分析させてやるとしよう……。
猫の聖獣化といい、不思議なことが立て続けに起こるよなぁ!?




