第53話『ニコルコの地』
もはやお馴染みとなったベッドによる移動。
ベルナデット、デルフィーヌ、エレンたちを乗せてヒュンヒュンする。
俺たちが目指しているのは領主の館があるニコルコの町。
ニコルコの町は地名を示すときに使われるだけあって領内最大の町らしい。
ただ、最大と言っても人口は800人いるかどうかといったところ。
中世っぽい時代背景を基準にしたら立派な町なのか?
イマイチわからんな。
けど、領内の人口が全体で1500ちょいらしいから、およそ半数以上がそこに集まっていると考えたらやっぱり最大規模なんだろう。
「移動の際は領民に貨幣を落としていくのが貴族の務めなのに……。馬車だって貴族が積極的に使っていかないとそれに関わる者たちの仕事が……」
エレンがブツブツ言っている。
彼女はベッドでの移動に反対で、馬車を使って陸路で赴くべきだと主張していた。
理屈はわかる。
けど、そういうのはこっちに余裕ができてからな。
今は一刻も早く領地に着くことが大事だ。
今さらながら、ニコルコの地について説明しよう。
ニコルコは辺境伯に与えられるだけあって、国境沿いにある果ての地だ。
そして連邦、共和国、王国、大聖国といった複数の国々と隣接している唯一の地である。
そう聞くと辺境の領地で最も防衛に注意を払わなければならない重要な場所に思えるだろう。
だが、本当に重要な拠点なら王が俺に譲るわけがない。
実際、ニコルコは公国で最も多くの国と接していながら最も防衛にコストを割く必要のない土地だった。
ニコルコは足を踏み入れることも憚られる未開の魔境に囲まれている。
他国が乗り越えることの不可能な険しい山、強力な魔物が棲みつく深い森……。
これらが国境沿いにあり、自然の防壁となっているため、ニコルコは辺境でありながら他国の侵入を気にする必要がないのだった。
しかし、魔境に囲まれているせいで他国との貿易は一切できないし、鉱山などの収入になる資源も存在しない。
有り体に言えば、重要性の欠片もない隅っこの過疎地だった。
ここ数百年は爵位を持った貴族が治めていた記録もなく、永らく国の管理する土地となっていたそうだ。
誰だって田舎なだけで旨味のない土地なんかいらないもんな……。
あげるほうも報酬にしにくいだろう。
王はそんなところを魔王討伐の褒美として俺に寄越したのだから大したものだと思う。
やつらの内心を思えば妥当だが、取り繕うってことをしないのがいっそ清々しい。
邪魔者は貧しい領地に押し込んで閉じ込めておこうって魂胆が見え見えだ。
まあ、僻地のほうが目立たないから好き放題できて都合がいいかもしれんが。
とりあえず、向こうに着いたら魔境と言われている森に立ち入ってみよう。
ひょっとしたら手つかずの資源が眠っているかもしれない。
それにかけるしか希望がないんだけどな……。
ニコルコの町を目指して飛行中。
俺は空から領地を見てみようと思った。
ベッドから顔を出して地上の様子を窺ってみる。
ホッホッホッ、良い眺めじゃ~。
うねった街道沿いには小さな村が点在していた。
けど、どれも旅客を受け入れるほどの規模には見えない。
こんなんじゃ陸路でニコルコに来るやつは大変だろう。
絶対疲れるわ……。
温泉を見つけて観光地とか考えてたけど……。
街道を整備しないとそもそも誰も寄ってこねーな。
ニコルコは隔離された陸の孤島なのかもしれん。
前途多難そうで俺は少しだけ不安になった。
「ういーっす。領主になる男が来たよー」
ニコルコの町の門で衛兵に向かって挨拶した。
こんなとこでもしっかり門番はいるんだね。
「な、何者だ!」
「怪しいぞ!」
警戒されて槍を突き出される。
むむっ、さっき言ったことを忘れるとはこいつら痴呆か?
「だから領主になるジローだよ」
「りょ、領主様は本日王都を立たれる予定のはず……」
「だから王都を出てこうやってきたんじゃん?」
「ヒロオカ殿、常識的に考えれば数時間で着く距離ではないんだぞ……? ここは貴族の証の首飾りを見せるべきだ」
エレンのアドバイスに従ってチラッと紋章付きのペンダントを見せる。
なんか、これがヒョロイカ家の家紋らしいよ。
「貴族の紋章……た、確かに……! 失礼しました!」
「な、内政官を呼んできますので! しばらくお待ちください!」
慌てた様子で門番の一人が町の奥に走って行く。
どうでもいいからさっさと入れてほしいんだけどなぁ。
こんなことなら門の上も通り抜けていけばよかった。




