第51話『シリウス・ドランスフィールド』
俺が叙勲を受けてから、一か月が経った。
一か月も経っていればもう領地に入っていろいろやってると思うじゃん?
……残念! まだ王都から一歩も動いてません!
いや、俺は領地を賜った日に速攻で乗り込んでやろうと思ってたんだよ?
なのに宰相とかが屁理屈をつけて出発を止めてきやがったのだ。
なんでも新領主を受け入れる準備が領地側に必要だとかなんとか……。
すげえ胡散臭いよな。ぜってーなんか企んでるだろ。
まあ、それは行ってみればわかることだ。
足止め期間中、俺はエアルドレッド家の屋敷で食客として世話になっていた。
ブラッド氏は魔王軍討伐で浮足立つ自領を放っておけないと先に帰ってしまったけど。
しかし、ニコルコの領地にはエレンもついてきてくれることになった。
どうやらブラッド氏にしばらく俺たちを支えてやるよう指示されたらしい。
ブラッド氏も信用のおける貴族たちと話をしてみるそうだ。
つまり、彼の決断はそういうことなのだ。
サンキューな、ブラッド氏。
散々待たされ、ようやく領地に出発を許される日がやって来た。
現在、デルフィーヌは王城で軟禁されている母親へ出立の挨拶をしに行っている。
デルフィーヌが帰ってきたら領地に向かうつもりだ。
デルフィーヌの母親はもともとデルフィーヌが逃げないように城で人質にされていた。
そして今回の件で賠償金に対する人質にジョブチェンジされた。
全額支払えば彼女の母親は解放されるらしい。
なら、なるべく早く返済してやりたいよな。
ふぁいと、おー! だ。
屋敷の部屋で一人、領地経営のビジョンを浮かべながら時間を潰す。
やっぱ、田舎の領地といえば温泉かな……。
「…………ん?」
コツンコツンと窓が叩かれる音がした。
何だ? 窓の外を見ると、青い鳥が窓の縁に止まってガラスを突いている。
なんとなく要求されてる気がしたので窓を開けてみた。
『やあ、ジロー・ヒョロイカ君。初めまして、僕の名前はシリウス・ドランスフィールド。デルフィーヌの父親さ』
窓の向こうにいた青い鳥はつぶらな瞳で俺を見つめ、朗らかにそう言ったのだった。
「おいおい、デルフィーヌって鳥とのハーフだったのか?」
窓の縁にとまっている青い鳥を見つめて俺は慄く。
さすが異世界。
痺れる設定だぜ。
異種間での交配が可能だったとは……。
『……冗談で言ってるんだよね? これは使い魔を通して会話をしてるだけだからね?』
「…………」
お、おう。モチロンワカッテルサ。
当たり前ジャン。
それよりも、
「……あんた処刑されたんじゃなかったの?」
そう、そこである。
スキルによると、この鳥は嘘を言ってるわけではなさそうだが……。
こいつがデルフィーヌの父親?
俄かに信じがたい。
死んだと言われてた人物が現れたら普通はそうなるよな?
『あはは、そんなの上手くダミーを拵えたに決まってるじゃないか? 僕は王宮筆頭魔導士――いや、大陸随一の魔法使い、そう簡単には殺されないよ!』
やっぱり嘘は言ってない。
マジで本物が生きてたのか……。
デルフィーヌの涙はなんだったんだよ。
『いや、しかし、さすがは僕の召喚した勇者だねぇ。どこの勇者よりも早く……そして簡単に魔王軍を壊滅させてくれた。僕も鼻が高い!』
自画自賛気味に鳥は喋る。
どこまでもマイペースだった。
『おっと、そうだった! 君にはお礼を言わないといけなかったね。僕の娘を助けてくれて本当にありがとう!』
コロコロ話が変わる。
この男は……。
「それは別にいいんだけど、生きてるなら俺のとこじゃなく、娘に顔見せてやれよ?」
俺が至極真っ当な意見を言うと、
『そうしたいのは山々なんだけどね。僕はまだ死んだことにして身を隠しておきたいんだ』
「……理由を聞いても?」
神妙に語るシリウス氏。
何か事情がありそうだ。
生きてるのを教えてやったらデルフィーヌは喜ぶと思うんだけどな……。
『実は――』




