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第48話『スキルの名は』



 謁見の間を出て王城の廊下を歩く俺たち。

 すっかり暗い空気が漂っている。

 帰り際で一発かましてやったくらいではこの敗戦感は拭えなかった。



「陛下はどうして我々の言葉を聞き入れてくれなかったのだ。裏切り者の件だけでなく、ヒロオカ殿が勇者であることまで……」


 ブラッド氏からガハハな勢いがなくなっている。

 まあ、王のために進言してあんな対応されたらへこむよなぁ。

 けど、ほら、これからは同じ辺境伯になるんだし? 仲良くやろうぜ。イェー!


 そう声をかけようとしたら横からぐいっと腕を掴まれた。


「ジロー! 何考えてるの! どうしてあなたが賠償金を払うなんて言い出したの!?」


 デルフィーヌが瞳に涙を溜め込んでそこにいた。

 彼女は責任感が強いからなぁ……。

 俺に賠償金の肩代わりを約束させてしまったことを気に病んでるっぽい。


 男に奢られて当然とか思ってるビッチどもはデルフィーヌの爪の垢を煎じて飲むべし。


「あたしは……あなたをそんな大きな重荷を背負わせるつもりなんてなかったのに……」


「お、おう……」


 俺はまあ払えるやろって感覚だったので彼女との齟齬が超気まずい。


「ぐすんぐすん」


 泣き出しちゃったデルフィーヌ。

 これどうすんべや……。

 とりあえずエアルドレッド家の屋敷に戻ろうぜ?


 ベルナデットも待ってるしさ。



 再び馬車に乗って揺られ、俺たちは城を後にした。





-エアルドレッド邸-


 屋敷に着いた俺たちは応接間に集まる。

 うーん、空気が暗い。



 コンコン。



「失礼します」


 留守番してたベルナデットが来た。

 よし、じゃあ話を始めるか。



 俺はコホンと咳払い。


「簡潔に言ってしまうとね、この国はもう駄目だ。終わっていると言っても過言ではない」


「「「……っ!?」」」


 デルフィーヌたち貴族組は唐突な終わってる発言に唖然とする。

 ベルナデットは動じず。

 さすがベルナデットさんだ……。


「お、終わっているとはどういうことだ! 確かに陛下の対応は些か疑問があったが、それでも公国を侮辱するようなことはヒロオカ殿でも許さんぞ!」


 エレンが前のめりになって凄んできた。

 こいつの怒った顔怖いな。

 ホントに年下かよって凄味がある。


 貴族や冒険者としての人生経験が表情に刻まれてるのかな……。

 いや、決して老けてるとかそういうんじゃなくてね?


「まあ、落ち着けって。俺は王に訊ねたとき、密かにスキルを発動させていたんだよ」


「スキル……だと?」


「ああ、そうだ」


 エレンを宥めながら俺は頷く。

 俺が使っていたスキルの名は【真偽判定LV5】。

 魔王城で初めて一覧を確認したときに見つけたスキルの一つである。


 この前まですっかり存在を忘れていたけど。


「こいつは鑑定スキルの一種で、物事の真偽を判定できるんだよ」


「し、真偽を判定……!?」


 エレンの目が驚愕に彩られた。

 デルフィーヌとブラッド氏も動揺を見せる。



「俺はこのスキルで王の発言を判定していた……」



 その結果――


『我が国に魔族と繋がっていた者などいるわけがない』


 ここで王の台詞に『偽』の判定が出た。

 さらに、


『この国に魔族と結託していた裏切り者はいないと思うか』


 という問いに対しては『いない』と『真実』の回答をした。



「…………」

「…………」

「…………」

「…………」



 沈黙して傾聴する一同。



「要するにまとめるとだな?」



・王は公国に魔族と通じていた者がいることを知っていた

・しかし、そいつは王にとって裏切り者ではない



 ここから導き出される結論はつまり――



「ハルン公国は裏で魔王と通じていた。魔法陣流出も王の知るところによって行われたとみて間違いないだろう」


 俺を勇者と認めなかったのは彼らに後ろめたいことがあったから。

 王は俺をただの冒険者ということで済ませればすべてを闇に葬れると考えたのだ。


「だから俺は王を説得するのをやめたの。黒幕にいくら訴えかけたって届くわけないからな」


「じゃあ父さんはなぜ処刑されたの? 召喚が成功しないことは初めからわかっていたはずなのに……」


 デルフィーヌが声を震えさせて俺に問う。


「勇者召喚失敗の責任を押し付けるためのスケープゴートにされたのか。あるいは最初から嵌めるつもりだったのか……」


「そ、そんなぁ!」


 しくしく……。

 ありえる可能性を呟くと、デルフィーヌは再び泣き出してしまった。

 あちゃ、余計なことを言ったかも。


 俺がオロオロしていると、


「ヒロオカ殿。そこまでわかっていてなぜ謁見の間で何も言わなかったのだ?」


 エレンが訝しそうに訊いてくる。


「あそこじゃどうにもならんかっただろ。証拠も俺の判定結果だけだし……」


「だが、ヒロオカ殿の力を以てすれば陛下に有無を言わさず事実を認めさせることができたのではないか?」


「エレン、それは俺に力ずくでどうにかしろと言ってるのか?」


「あ、いやそれは……」


 もし俺が仮にチートを使って王を脅し、肯定の言葉を引きだしたとしよう。


 だが、その後はどうなる……? 


 現状では第三者を納得させるような具体的な物証もなければ、被害の実態もない。


 そんな中で王が魔王軍と繋がっていたなどという荒唐無稽な話を誰が信じるのか?


 下手をすれば王に忠誠を誓う貴族たちが反感を示してくるかもしれん。


 力で脅した事実が漏れれれば、俺が虚偽の発言を強いたと見做される可能性だってある。


「今は何をするにも準備不足だ。情報も信頼も含めてな」


 それに力でなんでも従わせるんじゃ魔王と何ら変わらないだろ?


「ううっ、確かに……」


「戦い方はひとつじゃない。王を糾弾するやり方はいろいろあるさ」


「そうだな、ヒロオカ殿。すまなかった……」


 しゅんと項垂れるエレン。

 反省できるのはいい子の証や。

 猫だったら頭を撫でているところだ。


 ふう、久々に本物のネッコをもふもふしてえなぁ……なんて考えていると、


「つまり。ヒロオカ殿はこういうことが言いたいのだな?」


「ん?」


 エレンは瞳を輝かせ――


「ヒロオカ殿は受け賜わった辺境伯の地位を利用し、徐々に国内の貴族を取り込んで支持者を増やしていくつもりなのだろう!? 賛同を集めて情勢を覆し、外堀を埋めていけば周囲の同意を得ながら陛下……いや、ハルンケア8世の王位を簒奪できると……!」


 熱烈な口調で語ってきた。

 感激してるとこ悪いんだけど。


 ぶっちゃけ、そこまで考えてなかったわ……。


 けどまあ、勝手に評価が上がってるっぽいし、そういうことにしとこうかな。



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