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第36話『知的なバトルで勝利をおさめたぜ。』






 バルバトスとクレマンスが了承し、その他の冒険者も異論を唱えず。

 全会一致で俺に指揮を任せることが決まりかけていたその時だった。



「待て待て! なぜそいつを中心にして戦うことになっているんだ!」


 

 唯一納得をしなかった男がいた。

 ビーフストロガノフである。

 彼は机を強く叩きながら異議を申し立ててきた。



「そんなどこの馬の骨とも知れない平民の冒険者に任せておけるか! 宰相ヘルハウンドを倒したのだって何かの間違いに決まっている!」



 ほとんど言いがかりに近いことをグダグダ喚き、



「ヒザマ程度ならそいつでもなんとかなるかもしれん。だが、魔王がもし出てきたらどうするつもりだ!? そうなったら貴様ではどうにもならんだろう!」



 上級魔物も一人で倒せない男が何を言っているんだ……。

 部屋にいる全員の表情が白けていることにも関わらず、ホットドッグは続ける。



「このような非常事態では、僕のような勇者のパーティ候補にも選ばれた優れた人間が兵を動かすのが最善の策というものだ。分をわきまえろ!」


 やっぱりベルナデットを連れてこなくてよかったな。

 最近のあいつだと本当にハムエッグのウィンナーを斬り落としかねない。


「魔王はこの戦いに出てこねえよ」


 いい加減うざったくなっていた俺は早めにまくっていくことにした。

 こいつの説得に時間を費やすのはバカバカしい。


「適当なことを! どうせヒザマを倒せるというのも口から出まかせなのだろう!?」


「……ああ、そうだな。九割で倒せるって言ったのは嘘だ」


 売り言葉に買い言葉。俺は自重しないで行くことにした。

 どうせこの戦いが終わったら王都に向かい、すべてを明らかにするつもりなのだ。

 遅いか早いかだけでしかない。


「ヒ、ヒロオカ殿!?」


「ジロー、何言ってるの!?」


 エレンとデルフィーヌが俺の態度に戸惑いの声を上げる。

 ブラッド氏や冒険者たちは厳しい視線を俺に送ってきていた。


 ふふ、場は上々。整ったな。

 遺恨を残して戦闘中に足を引っ張られたら困るし。

 ここで徹底的に白黒つけておこう。



「そう……九割じゃねえ。俺ならヒザマを確実に倒すことができる。魔王を倒した、勇者である俺ならな!」



 俺はバッグから魔王の死体を引っ張り出した。

 今回は全体を惜しみなくテーブルの上に放り出してやった。


 どすん。



 どないや!



「むむっ!? 折れた片角に赤い髪……! ヒロオカ殿! これは魔王スザクかっ!」


 ブラッド氏が大きく目を見張る。大の字に投げ出された魔王の死体。

 重さでテーブルの脚がギシギシいっている。

 いやぁ、さすがにこうやって明るいところで見ると壮観……じゃねえ、禍々しいな。


 普通に気持ち悪い。

 エレンやデルフィーヌなんて前にも見せたのに気分悪そうにしてるし。

 なんかこう、死んでるのに邪気みたいなのが漂ってるもんな、コレ。


 気持ちはわかる。



「う、うわああああああっ!!!! 魔王があああああああっ!!!! ひぎゃあああああああああああっ!!!!」



 ジョバジョバァ――ッ!

 ドライソーセージは腰を抜かして椅子から転げ落ち、小水で床を濡らした。

 うわ、こいつ、お漏らしがくせになってるよ……。


 この気持ちはさすがにわからんわ。



「バ、バルバトス……あれは本当に魔王スザクなのかい?」


「あの風貌……オレが斬り落とした角……間違いない……」



 バルバトスとクレマンスは動揺しつつも、そこまで取り乱してはいない。

 他の冒険者たちも口をパクパクさせて青い顔だが、粗相までは至ってないようだ。

 きっとそれが普通なんだよなぁ……。


 てか、魔王の角はバルバトスが折ったものだったのか。



「ま、まさか……そんな……ありえん……!」

 


 なんとか立ち上がろうとジタバタするシャウエッセン。

 しかし、抜けた腰はそう簡単には立ち直らないようで、自分で濡らした床の上でタップダンスを踊るだけだった。



「いいか、お前は勇者のパーティ候補だったらしいが、俺は勇者そのものなんだよ。今回の戦いの指揮は俺が取る。お前に余計な邪魔はさせない」



「勇者? あいつ勇者なのか?」

「どういうことだ? 召喚は失敗したんじゃねーのか?」

「でも魔王を倒せるのなんて勇者しか……よその国の勇者ってことか?」



 モブ冒険者たちが困惑しながら囁き合ってる。



「俺はこの国……ハルン公国の魔導士によって召喚された勇者だ。訳あって正しい儀式の場には現れなかったが、きちんとこの世界に召喚されて役目を果たした。そう……この国の召喚は失敗していなかったんだよ!」



 ざわめきが沈黙に変わる。


 幾人かの冒険者たちはデルフィーヌにもちらちら視線を送っていた。

 これで流れは俺のものになっただろう。

 勇者である俺の実力を疑える者などいるわけがない。


 ま、ぶっちゃけ、指揮権とかそんな欲しくないんだけどね。

 チートがあっても統率能力は別だし。

 範囲攻撃とか使うのに味方を前に出されたら戦いにくいからもらっておいて損はないけど。


 いざとなったらベルナデットに丸投げしてしまおう。

 今のあいつなら普通にこなせるような気がする。



「お、お前が勇者など……絶対に認めないッ……! 認めるものかッ……! 実に不愉快だ! 僕は今回の戦いは参加を辞退させてもらう!」



 フランクは捨て台詞を吐き、ヨロヨロと部屋を出て行った。

 高級そうなズボンの股座を濡らしたまま……。

 フッ、勝った。


 暴力ではない知的なバトルで勝利をおさめたぜ。



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