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第17話『このケダモノ!』






「はい、おまちどうさま」


 運ばれてきたのはやはりソーセージだった。

 種類の違うソーセージの盛り合わせ。


「お、お肉……」


 ベルナデットは皿に盛られた料理を見て口元を押さえた。

 ……ああ、そういや何体かは臓物が腹から零れてたっけ。

 連想しちゃうよな。配慮が足りてなかったわ。


「ソーセージを見て吐き気を……やっぱり!」


 看板娘が俺を睨んだ。何がやっぱりなんだか。

 こいつの心は穢れている。

 無視しとこう。


「ベルナデット。無理して食べなくていいぞ? 別のを頼んでやるよ」


「食べます」


「は? いや、でも」


「食べます」


「…………」


 ベルナデットは頑なだった。


「……これは乗り越えなきゃいけないことなんです」


「はぁ?」


「ねー。乗り越えるって好き嫌いの話? ベルちゃん、ソーセージ嫌いだった?」


 看板娘が切なそうな口調で割り込んできた。

 ベルちゃんってなんだ。

 ちょっと黙ってろよ、頼むから……。


「ソーセージはどちらかというと好きですよ」


「そっか、よかったぁ」


 ベルナデットの返事に胸を撫で下ろす看板娘。

 そして俺に鋭い視線を送り、


「じゃあ、やっぱり……このケダモノ!」


 獣はお前らだろうが。


 面倒なので俺は看板娘に今日あったことを話した。

 すると看板娘は『ああ、なるほどねぇ』と頷いて納得したような顔になった。


 おや、思ったよりあっさりしてんのな。

 こんな子供に何をさせてるとか言われると思ったけど。

 異世界じゃ常識が違うからこんなもんか?


 生きるためなら子供でも働かなきゃいけない世界。

 生きていけないなら奴隷にもなってしまう、そんな世界。

 俺のいた世界と比べ、幼さはそこまで無力を許される理由にならないのかも。


「わたしは強くならないといけないんです。そうしないと生きていけないから……。今日、魔物を狩って、ご主人様に助けられて……理解したんです」


 ベルナデットは真剣な面持ちでそう言った。

 ……それはある種の開き直りなのかもしれない。


 奴隷に落ちて、自分は非力で。

 どうすればいいのかわからない。

 だけど、泣きべそをかいていても生きる糧は降ってこない。


 ならヤケクソでもいいから生きていけるように強くなろう。


 そうなれるように努力してみよう。


 彼女はそう決断し、前に進むことにしたのだ。

 ……ソーセージ食って何が変わるかは不明だが。


「だから、わたしはこんなところで弱音を吐いて逃げませんよ。ご主人様、見ていてください……ご主人様が教えてくれた、生きるために必要な……わたしの覚悟を!」


「お、おぅ……? 頑張れ?」


 日本でぬくぬく平和に暮らしてた俺が生きるための覚悟って、どの口が抜かしてたんだって今更思ったけどw



「やあああああっ――ッ!!!!」


 

 もう、そこには怯えて震えるだけの幼女はいなかった。

 ベルナデットはホカホカのソーセージにフォークをぶしゅっと突き刺さした。




 その後――


「うぐうぐっ……ひぐぅ……! ごくん、ぷはぁ――」


 ベルナデットは苦虫を噛み潰したような顔をしながらソーセージを食べ切った。

 看板娘は微妙な表情でその様子を見守っていた。

 まあ、自慢の料理を苦行のように食われたら複雑だよな。


 ごめりんこ。





 飯を食い終わって宿に戻る。

 本日の宿泊先も昨日と同じ高級宿だ。

 贅沢を癖にしたくはないんだが、やはり動いた後はシャワーを浴びたい。


 たとえ浄化魔法が使えるとしてもだ。

 こっちの感覚に慣れていかないといけないのはわかってるんだけどさ。

 やっぱり俺は綺麗好きなジャパニーズだし、多少はね?




「ご、ご主人様。今日は昨日の続きをしないんですか……?」


 後は寝るだけの時間となった。

 風呂上りの蒸気した肌でベルナデットが唐突に申し出てきた。

 昨日の続きってアレか。


 もふもふ未遂のことか。


「あんま嫌がることはしたくないんだけど……。泣かれても困るし」


 ぶっちゃけ俺の本音である。

 嫌々もふらせてもらってもちっとも癒されない。

 それは俺のもふもふへの想いを裏切ることになる行いだ。


「いえ、嫌ではないです。昨日はご主人様の奴隷として覚悟が足りていませんでした。しかし、もう覚悟は決めました。誠心誠意、尽させていただきます」


「お、おう……? いや、だけどなぁ」


 ベルナデットから圧力みたいなものを感じる。

 やっぱり性格変わってるよな。

 俺の奴隷の精神が急激に成長し過ぎてて怖い。


「さあ、ご主人様。しましょう?」


 おかしい、昨日とまるで逆じゃないか。

 断ることが許されない感じになってるぞ。


「じゃ、じゃあ……お願いしようかな?」


「はい。かしこまりました」

 威圧に負けて、俺はお願いしてしまった。

 あの目力は反則だろうがよ……。


「では……」


「うん、服は脱がなくていいから」


「わかりました。最初はそのほうがいいんですね?」


 わかってねえよ。最後まで着てろよ。

 お前にそういうのは求めてないんだって。


 そのうちきちんと誤解を解く必要があるな。




 消灯して一緒のベッドに潜り込む。

 今日は二人部屋にしたけど無駄になってしまったか。

 明日以降はどうしよう。


「くふふ。あはは!」


 目を閉じて尻尾のもふもふに鼻を埋めているとベルナデットがくすぐったそうに身を捩った。


「うひっ! きゃははっ!」


「…………」


 昨日と一転して今日は大爆笑。よくわからんやつだ。

 女心は秋の空。こいつには猫の目のほうが合ってるかな。


「きゃはは、くふふ」


「……すんすん」


 俺はいっぱいもふもふして寝た。

 シャンプーの匂いが目立つのがちょっと残念だと思った。

 やっぱりもふもふはお日様の匂いがいいよな。


 すんすん。



 就寝。



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