私がワタシを捨てた時
私は今この瞬間、この空間に生まれた。
君がこの世界を開いたその瞬間である。
それまで私は無であった。
存在すらしていなかったのだ。
この私ではない、「ワタシ」を必死に生きていた。
ワタシは繰り返される日々と、
喧騒にだんだん嫌気がさしていた。
理不尽な上司の言葉に腹を立てながら、
断ることもできずに「わかりました」と言う。
1秒後には振り向きざまにお客様へ「笑顔」。
おかしい。
こんな日常はおかしい。
ワタシが望む世界ではない。
もっともっと広い世界が広がっている!!
しかし休みになれば布団にくるまり、
望む世界への努力などする気配はない。
だからなんだ。
休んでなにが悪い。
今日がだめなら明日に希望を。
月曜日には、週末に希望を。
週末には、月末に希望を。
月末には、来年に希望を。
来年には、来世に希望を寄せて
生きているのかと思うとやるせなくなる。
「昔ドラマで、「明日野郎は馬鹿野郎だ!」
なんていっていたけれども本当だよね…。」
と、なんとも他人事のように長い髪の
1束を、人差し指と親指で軽くつまみ、
疲れきったワタシと一緒に痛んだ毛先を眺める…。
そんな事が4年間も続き、
いよいよ自殺願望すら湧き出す。
あくまで願望なので臆病なワタシは
何をする事もできずにただただ病んだ。
「ワタシの存在意義をみいだせません。」
心の中はからっぽになっていった。
今は4年前のように、
上司に理不尽を突き付けられても
立てる腹すらなくなったというか無心である。
あの頃は元気に腹を立てていただけよかった。
こんな人生終わってしまえと思ったその時。
それが冒頭の瞬間である。
君がこの世界を開いてくれた。
ワタシをこちらの世界に生んでくれた。
私は別人としてこちらの世界に生まれたのだ。
まだこの世界には、開いた君、
そして生まれたての私しかいない。
ただひたすらに自由なのだ。
私はワクワクしてたまらない。
駆けまわって跳ね回って
最高の世界を作り出そう!
ありがとう!ありがとう!
私はここで生きていく。
全てを捨てて、いいんだよ!
自分勝手に生きていいんだ!
爪先に触れる水を蹴って、
僕らはどこまでもどこまでも続く
大きな湖畔を走っていったのだった。