「私はガムを噛んでいる。」
気分で書き進めています。一話完結の話がほとんどです。気軽に読んでやってください。
「私はガムを噛んでいる。」短編小説 舘 ひつじ
「私はガムを噛んでいる。」
この響きを聞いても、あなたは何も感じないだろう。だって、それはとても無機質な言葉であって、世の中にありふれた言葉の1つであるからだ。誰も拾い上げて注意深く確認しようなんて思わない。しかし、私がこれから話す物語を聞けば、この言葉に込められた、心が染められた紙のように、手にとって色が判別できるだろう。少し、わくわくしないかい?
私は、教室と呼ばれる学校における半強制的収容所で、自主的に勉学に励む放課後をいつものように送っていた。開放的な窓からは、部活に励む生徒達の力ある声が聞こえる。流石、元男子校である。そんな生徒達を横目に私は机と睨めっこ。
しばらく1人で集中してると、誰かが教室に向かってくる足音がピタピタと聞こえる。私は、クラスというお互いが内心では無関心である集団の中に、これといって仲の良い友達と呼ばれる関係の人間がいなかったため、特に廊下にいる人物に気を配ろうとも思わなかった。
廊下の人物は、何やらゴソゴソしている。先ほど私はカッコつけてはいたが、実は誰がいるのか、とても気になっていたら。女子だったら嬉しいな、と淡い期待とともに、ふとそちらを見つめていたのだ。まったく、思春期の男子らしい理由である。人影が1つ、ふと教室の入り口を通過して、黒板の前に躍り出た。その姿は麗しき姫であった。その表現は誇張し過ぎかもしれないが、仕方がないのだ。私が想いを寄せる、唯一の女性と目が合ってしまったのだから。
彼女は、なにか世間話を切り出すでもなく、
「また明日ね!」そう、私に告げると、また帰る支度を始めてしまった。
「お疲れ様!」部活帰りの彼女に、そう声をかけるのが精一杯だった。私は、好きになった女性のことは気に留めておく性である。そのため、この数ヶ月の間に、彼女がテニス部であることは、私にとって周知の事実であった。それ故に、彼女が部活帰りだということもたやすく想像できたのだ。
ここで逃げては男の恥だ。と訳のわからぬ理由をつけて、私は重い腰を上げた。廊下へピタピタと向かう。彼女の顔が僕に近づく。彼女の前まで来ると、私は、たわいもない話を彼女に持ちかけてみた。部活帰りで疲れているだろうに、私に優しく返事をしてくれる彼女の笑顔に、僕は命をも捧げることができるだろうか(いや、実際はそんなことできません)。僕はウルトラマンのタイマーのように、心臓に制限時間があることを思い出す。僕が好きな女性の前で3分以上も2人っきりになったら、頭が溶けてしまうのだ。それでは困るので、僕は、良いところで話を区切り、さよならと彼女に告げようとした。
去ろうとする彼女は、バックからおもむろにケースを取り出した。それは、ピンクのケースで、可愛らしいものだった。そこから出したピンクの固形物に、私の脳の海馬が反応を示した。彼女は言う。
「食べる?」
「いいの?」
「うん」
「ありがとう」
この会話が私にとって数分にも感じられたのは説明するまでもない。恋の力である。私は彼女の小さな手から、ピンク色の硬めの固形物を受け取り、躊躇なく口に放り込む。甘く、優しいその味は、噛めば噛むほど体に染み渡る。桃の風味が、僕と彼女の青春を後押しする。彼女の優しさもプラスαで相乗効果をかもし出す。
その後のことは覚えていない(実際は覚えているが、そう言った方がロマンチックだろう?)。1つ言えることは、家に帰るまでも、帰ってからも、私は彼女の温かさを思い出しながら、ずっとそのガムを噛んでいたことである。想像してみるんだ。彼女から手渡されたガムのことを。1、彼女は部活終わりだったこと。2、彼女は手渡しでガムをくれたこと。この2点から、彼女のくれたガムに彼女の手汗が混入している事実は明白であり、私がそのピンクのエキスを体内に摂取したことに異議を唱えられる者は存在しないだろうと考えられる。私がもっと変態であったのなら、きっとそのガムを大切に部屋に飾っていただろうか(いや、それは気持ち悪過ぎるので、今の言葉は宇宙の彼方へ放り飛ばしてワスレテクダサイ)。
私がそのガムを紙に出そうとした時にはもう手遅れだった。私が顎を酷使し過ぎだせいで、そのガムは見るも無残に、私の口の中で跡形もなく溶けていた。ガムも、愛の力があれば溶けるのだ。愛は偉大である。そういうことだろ?
どうであろう。「私はガムを噛んでいる。」に込められた、主人公の意志がつかみとれたであろうか?愛は偉大である。このバカバカしい主人公の自分勝手な受身の文章を「愛は偉大である。」などという、どこかの偉人が語りそうな、なんとも立派で抽象的な言葉へと結びつけた私は、褒められるべきであろう。一方、馬鹿げた発想ばかりに頭を使う私は、少し自分を恥じるべきであろうか(いいや、そんなことはない)。
作 舘 ひつじ
※この文章は華の無いただの小説家のバカげた空想上の世界で行われたことであり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。
お疲れ様でした。
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