第五部『物的証拠と知りたくなかった事実。』
学校で虐められても
ボイスレコーダーとかあれば無敵だと思う。
「『まるで』ではなく実際そうなんですよ。
以前彼女に呼び出されて突き落とされたんです。」
「どうせ嘘だろ。何を根拠に」
「証拠ならありますよ?」
『…は?』
私はスカートのポケットから
小型のボイスレコーダーを取り出し
再生ボタンを押す。
………
『何のようですか?こんな人気の無い所に呼び出すなんて…』
『アンタ転生者でしょ!よくも私の邪魔してくれたわね!』
『…転生者?仰っている意味がよく解らないのですが…』
『とぼけんじゃないわよ!アンタのせいで春担当の春谷春太くん攻略出来ないんだから!』
『春担当…?…攻略?一体何のことでしょうか?』
『…もしかして記憶無し転生者?なんでこんな女がヒロインで私がライバルキャラなの!まさか悪役転生キャラが転生ヒロインざまぁなテンプレなの?ということは私が主人公?なんだそーゆーこと。女神様が誤って自殺者の魂がヒロインに入っちゃったから私がライバルキャラに転生したこと納得出来なかったけど、私がライバルキャラとして転生ヒロインの魔の手から攻略者を守ればいいのね!』
『あ、あの…大丈夫?』
『アンタが記憶無し転生者でも記憶ありでもこの際関係ないわ!私がアンタから攻略者を守る!!』
『ぇ、ちょ、きゃぁぁ!』
ガラガラガシャンッ)
『…これで邪魔はいなくなった!俺様生徒会長と生真面目風紀委員は攻略したし、あとはこの女の幼なじみキャラ春谷春太くんを攻略すれば隠しキャラが攻略できる!公式でも姿さえシークレットなんて探すの大変だったけど、多分担任の先生で生徒会顧問の風紀委員のお兄さんの柊木雪夜先生が隠しキャラだと思うんだよねぇ。全員攻略しないと攻略出来ないから頑張って春太くんを堕とさなきゃ!シークレットキャラはヤンデレらしいし全キャラ攻略に嫉妬して登場するなんて萌えるぅ!あの親しみやすいお兄ちゃんみたいな先生がヤンデレなんて…うふふやる気出てきたぁ!転生ヒロインの影響でなんか春太くんワンコ系のはずが私には冷たくなっちゃって好感度低いみたいだけど頑張んなきゃ!』………
静まり返る教室とは裏腹に
顔を赤くさせこちらを睨む彼女。
「晦がこんなキチガイみたいなことすれわけないだろ。」
「わざわざ証拠を偽造するなんて…そこまでして僕達に気に入られたいのですか?」
「このボイスレコーダーは特殊で探偵や警察などが実際に使う為、
確たる物的証拠となるよう加工及び偽造工作が
出来ないものなのですが…そう言うと思ったのでこちらを用意しました。」
このボイスレコーダーが
偽造されていないことを証明する。
と書かれた証明書を彼等に叩きつける。
「貴方の想い人は
どうやらキチガイのようですね?萩原秋人会長?」
「どうせその紙も偽造したんだろう。」
「まぁ、そう言うと思ってましたよ。
なんだったら確認して下さっても良いのですよ?
ねぇ?十二月三十一日晦さん?」
確認されて困るのは貴女でしょ。
と彼女に目で語る。
『…ぁ、確かあの時ぶつかっちゃったけどっ
まさか階段から落ちちゃうと思わなかったんだもん!』
「晦…?」
「そうですか…怖かったでしょう。
確かに突き落とされたことは事故だとしても
晦の私物が無くなったのは事実です。」
私もまさかここまで明らかな証拠を見せても
彼等が信じないと思わなかったので
彼女が認めてくれて助かった。
生徒会長は彼女に小さな不信感を感じてるようだし
…風紀委員はまだダメか……
小さな不信感を与えればあとは簡単。
だって勝手に崩れてくれるから。
「十二月三十一日晦さん。
私が貴女の私物を盗む所を一度でも目撃しましたか?」
『そんなのしてないわよ!アンタに決まっ…
…私が嫌いだから私のもの盗んだんでしょ?……ひどい…
私、閏ちゃんと友達になれると思ってたのにっ!』
いや今更、言い変えても遅いよ。
現に生徒会長の不信感を抱いてる。
「私が貴女を嫌っている?別に嫌いではなかったですよ?
友達になりたいとは思いませんが。」
寧ろ好きですよ貴女のように面白い滑稽な人。
友達にはしたくないけど、
遠目から観察する分は楽しいし。
「話しを逸らさないで下さい。
あなたが晦の私物を盗んだんでしょう?」
「いいえ。盗んでませんよ?」
私だったら物を盗む幼稚な嫌がらせなんかじゃなくて、
じわじわと相手の首を締めるように
精神を蝕むような嫌がらせをします。
第一なんで私が
この女(ぶりっ子)の物なんて盗まなきゃならないんだ。
盗るんなら若菜の私物を…げふん
……なんでもありません。
『じゃあ誰がやったって言うのよ!』
「…一応誰が盗んだか知ってますが」
「なんで知ってるんですか?あなたが盗ませたんじゃ…」
「いえ、彼は自らの意思で盗みに働いてました。
私が知っているのは…偶然現場を目撃してしまたんですよ…
…一応その時、止めるように言ったので
それ以降は物がなくなったことはないかと…」
「自らの意思で?」
「えぇ。ある少年…実名を出すわけにもいかないので少年Aとでも言いましょう。少年Aは学園のマドンナである少女のファンの1人だった。ある日少年Aは彼女の落とした消しゴムを拾った。憧れの彼女の物が欲しくなってしまってそのまま消しゴムをポケットに隠した。盗んだことがバレるかと最初は怯えていたがバレなかった。…それから彼女の私物を盗んでは家に持ち帰った。私が目撃したのは少年Aが教室で彼女の体操着に顔を疼くめ……
『いやぁぁぁぁあぁああ!!!』」
狂ったように叫び出す十二月三十一日晦。
彼女に注目して皆、
田中君が顔を青ざめているのに気づかない。
聡明な方はもうお気づきかも知れません
少年Aは田中君のことです。
【(十二月三十一日晦(被害者)にとって)
知りたくなかった事実。】