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第六話


勇者討伐のためにどうすればいいだろうか。

なんとなくそんなことを悩み始めたのは、あの後ロレッタを慰めたりしていたところ、魔王から呼び出しがかかり「勇者討伐隊」というものに命じられたからだった。


勇者を討伐する、といってもどうすればいいのかわからない。

俺は助けを求めるように、かいがいしく部屋の掃除をしているロレッタを見つめた。

彼女のストレートのボブヘアがさらさらと揺れている。


「どうかなさいましたか?カナメ様」

「いや…勇者を倒すためにはどうすればいいのかと思ってな」


ロレッタは手に持った雑巾で窓を拭き、俺のことを見つめてくる。

そしてその形の良い唇に指先をあてて考え込むようなそぶりを見せた。


「まずは勇者を探さないといけませんよね」

「そうだな。勇者の居所は、魔王様ですらわからないんだろう?」

「大体のことはわかります。だけど詳しく何しているかはわかりません」

「ふむ…ならそれを探すのが先決だな」


そんな話をしていると、嬉しそうにロレッタは微笑んだ。

そして指先をぴんっと立てる。


「なら、人間に紛れて暮らせばいいのではありませんか?

 勇者の情報も集まりますし!」


ロレッタの言ったそれは、名案ともいえるものだった。

俺はまたロレッタの頭を撫でてやる。

どうやらロレッタは俺に頭を撫でられるのが好きらしい。イヌに似ているなあ、なんてことを思った。ロレッタはどことなく甘えん坊で、舌足らずなしゃべり方をするせいで、昔飼っていたイヌを思い出して優しくしたくなってしまう。

まあ初めての部下なわけだし、優しくしても不具合はないだろう。


「よし…なら明日出発しよう。魔王様にはその旨を伝えておく」

「了解しましたぁ!旅支度は私が整えておきますね!」

「頼んだ」


俺は、足早に魔王の部屋に向かった。



――翌日。


魔王は快く俺たちのことを送り出してくれた。

生活の糧にしてくれといって渡されたのは、金貨200枚程度。

これは現代日本の金額に直すと200万程度だ。


バオムバベルオンラインの通貨はほとんど現実世界と変わらない。これは日本のユーザーが多いからだろう。金貨、銀貨、銅貨の三種類で構成されている。

金貨は大体一万円、銀貨は大体千円、銅貨は百円だ。


そんな200枚も金貨を持っていても入りきらない。

そう思っていたときに、ロレッタが笑顔で提案してきた。


「カナメ様、お金に関しては私が保管してもよろしいでしょうか?」

「ん?できるのか?」

「はい。私は回復魔法と生活魔法が使えるんです!」


生活魔法もバオムバベルオンラインの中のものだった。

大体バオムバベルオンラインの魔法は五種類にわけられる。

まず攻撃魔法。これは炎を出したりするものだ。

そして回復魔法。蘇生魔法もここに含んでいる。

サポート魔法は相手にバッドステータスを与えたり、自分にバフをかけたりするもの。

そして召喚魔法。これは俺のような死霊使い特有のもので、勇者側の人間だと召喚師しかマスターすることのできない魔法である。

最後に、生活魔法。これは、バオムバベルオンラインの中でも仲間になるNPCキャラが覚えていることの多い呪文である。たとえば、野営をするときに炎を起こしたり、回復薬の素材になる綺麗な水を作り出すことが出来るとかいうそういう魔法だ。


どうやらロレッタはその生活魔法の中でも収納系の魔法を覚えているらしい。

ロレッタは自分の小さな肩掛けバッグを開くと、そこに無造作に金貨の詰め込まれた袋を投げ込んだ。


「これで大丈夫ですよ、カナメ様」

「…そんなので本当に大丈夫なのか?盗まれる心配は…?」

「ありません。カナメ様、ご自分のポケットに手を入れてみてください」


俺は黒いコートのポケットに手を突っ込む。

最初に触ったときより、その中がずっと広くなっていた。指先でポケットの中を探ると、何か布のようなものに引っ掛かる。指先だけで持ち上げることが困難なほどにずっしりと重いそれは、どうやらさきほどロレッタが投げ込んだ金貨の袋のようだ。


「カナメ様のポケットと私のポシェットを共有のアイテムボックスの入り口にさせていただきました」

「ふむ」

「このアイテムボックスは私かカナメ様の生体反応がなければ扉が開きません。だから絶対に安心ですぅ!」


この世界は本当に便利だ。

元の世界ではそんなことが出来ないからこそ、泥棒なんかがたくさんあったわけだし。改めて元の世界はクソだったんだなあ、とそんなことを考えた。

俺たちはそのまま、魔王城の玉座の間に入る。


「待っておったぞ、カナメ」

「お待たせしてすいませんでした」

「現在勇者がいると思われる位置まで転移させてやろう。ローリーと一緒に魔法陣の中に座るんじゃ」


白い床に浮き上がる、青白い色をした細やかな魔法陣の中にロレッタと一緒に入る。

かつん、かつんとヒールの音を鳴らしながら、クロディヴァイツが玉座から下りて俺たちの方へ向かってくる。彼女の手には、一振りの黒い剣が握られていた。


「魔王様、その剣は?」

「これをおぬしに渡そう。妾からの信頼の証じゃ」


俺は今まで、杖しか持っていなかった。

あの黒い剣は未だにもらってなかったが、どうやら死霊使いはこうして剣を手に入れたらしい。

俺はその剣を魔王から受け取り、深く頭を垂れた。


「それは魔剣カルネテル。先代魔王の時代につかえていた鍛冶が作った希代の最高傑作じゃ」

「ありがとうございます、魔王様…!」

「その剣を使い、妾の為に勇者を倒してこい、カナメ」

「はいっ!」


俺はそのカルネテルの重みを感じながら顔を上げた。

俺よりも低い位置にあるクロディヴァイツの顔は誇らしげだ。

彼女が杖をふるう。世界がぼんやりと色を無くしていった。転移が始まるのだ。

世界がどんどんとモノクロに染められていき、そして、真っ暗に染まる。

次に目が覚めたときに俺がいたのは、どこか和やかな城下町の路地裏だった。


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