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第五話


ロレッタという部下を手に入れた俺は、自分がどういう存在なのかを確認するところから始めなくてはならなかった。


あの女神さまは俺に対して「受け入れ先がある」といったが、それはがいったいどういうことなのかがわからない。

受け入れ先があると言われても、どうみてもこの体、この死霊使いの体は俺が死んだ瞬間に作られたものとは考えづらいのだ。体つきは細身で、いかにも少年といったものである。俺の死んだときの年齢と同じくらいのものだろうか。


受け入れ先、というからには赤ん坊からスタートだと思っていたのに本当に強くてニューゲームの状態だ。

これがいったいどういうことなのかもわからない。


そして、名前は「カナメ」というものになっているが、本当はこの体にも名前があったのではないだろうか。俺の名前ではない、何か別のものが。

そう考えると、おいそれと何かその元の体の持ち主と違ったことはできない。


とりあえず俺はロレッタにそのことを聞いてみることにした。


「ロレッタ」

「はい、なんでしょうか、魔眼様!」

「その魔眼様って呼び方はやめてくれないか。カナメでいい」

「はい、カナメ様!それで、何の御用ですか?」


ロレッタと俺は現在魔王城の中の、俺の私室として作られた部屋の中にいた。


広さは昔俺が現代日本で使っていた部屋を二つ並べてくっつけた程度の大きさだ。

大きなベッドに、壁一面の本。そして床にも本が積まれている。ちなみに、俺の部屋の位置は先ほど訪れていた玉座の間のすぐ隣の部屋である。玉座の間にすぐ駆けつけられるようなつくりになっているのは、魔王親衛隊の隊長だからだろうか。


ロレッタはおどおどとした手つきで俺に紅茶をいれてくれながら俺の呼びかけに応える。


「ロレッタ、俺はどういう人間だと思う?」

「人間…って。カナメ様は人間なんかじゃないですよぅ」

「いや、そういう意味じゃない。俺がどのような人柄をしているかという意味だ」


ロレッタは首を傾げた。

なぜこんな大事なことをロレッタに聞くのかというと、彼女の特性にあるのだ。


ゲーム内でもショゴスは出てくる。魔王側のキャラクターだったから仲間にすることはできないのだが。ショゴスは、敵として出てくると厄介なものだった。


物理攻撃は無効であり、炎といった属性攻撃も半減される。

そして、忠誠を誓う魔族には絶対的な信頼をおくのだ。それこそ、彼の命令を絶対に守るという性質がある。


だから俺は彼女に問いかけたのだった。

彼女は絶対に秘密を守るのだ。俺がどんなことを聞いたとしても真剣に答えてくれる上に、俺が口止めをすればほかの人間に漏らすことはない。


つまり、何かおかしいことを言っても何も問題はないということだ。


「勇者側につけこまれる危険性があるから秘密にしてほしいのだが」

「はい」

「俺は、お前に会う前の一部の記憶をなくしている」

「なっ…なぜですか…?」


ロレッタの顔が驚愕に染まる。

俺はそっと俯くようにして表情を隠した。

嘘を言っているわけではないのだが、それでも念のために表情は見られないようにする。


「どうしてかもわからない。しかし、一部の記憶が抜けているから確かめるためにお前に聞いたんだ」

「なるほど…そうですか…」


ロレッタはそう考え込んだあとに、市井の噂ですが、と前置きを置いて話し始めた。


「まず、カナメ様は天使族と悪魔族のハーフです」


うわ、すげえ王道設定きた。

そういうのに憧れていたから別にいいんだけどさ。


「そしてそのオッドアイは『傍えの魔眼』と呼ばれていて、異常な魔力を持つ魔族特有のものです。

 赤と金のオッドアイを持つ魔族といえば先代魔王様ですが、カナメ様の魔力は先代魔王以上といわれています」


俺は小さくうなずいて紅茶を啜った。


「しかし、魔眼様の情報というとそれくらいしか市井にはあがっていないのです…。ごめんなさい…」


ロレッタは申し訳なさそうに顔を伏せた。

俺はそっとその若草色の髪の毛を撫でてやる。彼女の短く、ボブカットにされた髪の毛は柔らかい。

敵として出てきたときのショゴスはスライムのような玉虫色の外見をしていたのに、こうして人間の形になっているとむしろかわいらしい。


「ありがとう、ロレッタ」

「…いえ…!お役に立てましたか?」

「ああ、すごく役に立った」


そういってやると、ロレッタは嬉しそうに笑った。

そうして、おかわりが必要ですねと嬉しそうに言いながらぱたぱたとお湯を取る為に部屋を出て行った。


俺はどうやらすごい人物らしい。

元いた世界のなかでは、俺はとるにたらない人間だった。きっと誰か代わりがいる。

俺なんかいなくても、絶対に誰か代わりはいるような人間だった。


それがこの世界にきてからは、先代魔王よりも強い力の持ち主だ。

俺は、あのバカみたいに退屈な世界から理想な世界にやってきた。

そう考えるとなんだかうきうきしてきて、俺は小さく微笑みを浮かべてしまった。


「カナメ様、お茶のおかわりを…!」


ロレッタが部屋に入って来ようとした瞬間、何もないところでつまずいた。

彼女の手から放り出されたティーポットが俺の上に降ってくる。俺はあわててそれを避けた。

がしゃん、という音がしてティーポットが砕け散る。先ほど俺がいたところには、熱湯が海を作っていた。


「っ、ご、ごめんなさいぃ!カナメ様!」


その声を聴きながら、ロレッタが割とドジだということを知る。

この世界は前の世界より潤っているけど、しばらくはこのドジなメイドと一緒に暮らすということを考えて、なかなか上手くはいかないなあと贅沢な幸せをかみしめた。



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