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第一話

目が覚めると、そこは真っ白い世界だった。

白と黒に塗りつぶされたその世界はまるで雪の日の夜のような対比を見せている。その緩やかな世界の色合いは、目に痛かった。

俺はどうしてこんなところにいるんだっけ?

俺は確かトラックに轢かれたんじゃなかったっけ。

そんなことを考えながら俺は雲の上のような場所を歩いていた。まっすぐ歩いていくには平衡感覚がなくなるような錯覚に陥る場所で、どこまで進んでも進めていないような気がした。

まっすぐ進んでいるはずなのに進んでいないような感じがするのだ。

床だけが白く、周りの壁は真っ黒だ。手で触れてもひんやりとした冷たい石の感覚が伝わってくるだけで、何が何だかわからない。

ここが死の世界なのかなぁと思いながら俺はのんびりと歩いて行った。


ふわりと冷たい空気が漂ってくる。

その空気に導かれるようにして俺は前に進み続ける。


廊下のような場所が終わった。

そこには、真っ白い着物を着た何かが立っている。

床に引きずるほど長い黒色の髪の毛は、夜を閉じ込めたような色をしていた。

顔は薄紫色のベールのようなものに隠されて見えない。

ただ、晒されている口元は異常なまでに整っていた。きっと美人さんなのだろう。


「こんにちは、神崎要くん」

「えっ。あ、はい、こんにちは」


鈴が転がるような声でその謎の美人さんが喋り出す。


「私は、神様と言ったらわかりやすいかしら」

「えっ…神様?」

「そう、神様」


白い巫女服のような服を着たお姉さん、神様は見えた口元だけで小さく笑う。

どうやら彼女がこの世界を作ったらしい。

だけど、閻魔大王でもない人がなんでこんな俺に会いに来てるのだろう。

まさか俺が選ばれたもの?なんて思考を頭を振って追い払う。選ばれたものだったら多分死ぬことはなかっただろう。現実世界で勇者になんかなれないのだけれど。


「で、俺に何の用ですか?」

「あなた死ぬ直前に猫を庇ったでしょう」


猫、と言われて、トラックに轢かれる瞬間のことを思いだす。恵利奈の猫を助けたな、ということを思いだした。だってあの猫を、恵利奈は大切にしていたのだから。

俺は彼女に向かって小さく頷く。確かに、俺はあの猫を助けたのだから。


「おめでとうございます。あなたは転生へのキップを手に入れました」

「…転生?」

「はい、そうです」


彼女はそういいながらよくわからない杖を取り出した。

それをとん、と床につく。真っ黒い床の上に、よくわからない魔方陣のようなものが展開した。

俺の口から感嘆の吐息が漏れる。

こういうのを目指していたんだよなぁと思いつつ俺の周りに展開した魔方陣を見ていた。


「前世で善行を積むと時々、転生させることが出来るんですよ」

「善行って言っても猫助けただけじゃ…」

「それでも、善行でしょう。それに受け入れ先もありますしね」


ふわりと神様が笑う。

その笑顔を見ながら俺はいろんなことを考えていた。

彼女が本当に神様でも悪魔でもなんでもいい。俺は、ほかの世界にいってみたかった。

受け入れ先、とかいうのが何なのかわからないけれど。


もし転生するなら、それこそダークヒーローみたいになりたい。

あのゲームの、死霊使いみたいな…。

銀色の髪にオッドアイ。赤色と金色の目。

黒いコートを羽織り、細くて黒い剣と大きな杖。

俺の中の理想をぼんやりと考えた。

それで、可愛い女の子と一緒に冒険したりして、勇者を倒すんだ。


「準備はできましたか?」

「うん…まあ、都合よくはならないだろうけど」

「大丈夫です、ご安心ください」


何が大丈夫か全くわからない。


「ねえ女神さま」

「はい?」

「どうせ転生するなら強くてニューゲームがいいな」


神様はこくんと小さく頷いて、満足そうに笑った。

もし俺が転生して強くてニューゲーム展開になったら、それはそれで俺の退屈な日常を壊してくれるだろう。そしたら思いっきり厨二病ロールプレイするのも悪くないと思ってしまった。

美形で強くて、そしてやさしいみたいな。

そういうキャラになりたいと思うのはいつだって同じだ。


魔方陣が美しく光り輝く。

ぞくぞくするような興奮と少しだけの恐怖の狭間で俺は目を閉じる。

世界が黒く、染まっていくような感覚だけがあった。


「いってらっしゃい。新しい人生、頑張ってくださいね」


神様の声がやさしく、耳の奥に響いて、俺の意識は閉じた。


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