第十七話
次の日起きると、目の前にフランカの安らかな寝顔があった。
奴隷としてしばらく生きていたわけだし、寝るときに悪夢とか見ていたらかわいそうだとおもっていたけど、無用の心配だったようだ。
布団にくるまり、穏やかに眠っている。
「おはようございますカナメ様!」
そっとフランカの頭を撫でたとき、ばたんと大きな音をたててロレッタが部屋に入ってきた。
フランカの頭を撫でる俺の姿をみて、静かにドアを閉めている。
待ってくれ。そうじゃないんだ。
「…ロレッタ?」
「あ、いえ…カナメ様は、あんな感じの子がお好きなのですね」
ロレッタがふくよかな胸に手をあてて悲しそうな顔をした。
違う。断じて違う。俺はフランカをそういう目的のために買ったわけでもないし、つるぺたフェチでもない。ロリコンの気は断じてないのだ。
ためいきをつきながら俺はロレッタを見つめる。
「昨晩、フランカが一緒に寝てもいいかと聞いてきたから一緒に眠っただけだ」
「そうなのですか?」
「ああ」
「よかった。私はドジだからカナメ様から寵愛を賜れないのだと思ってしまいました」
寵愛を賜るってなんだよ。
俺はベッドにフランカを残したまま、宿を出ることにした。
朝ごはんはフランカの寝顔で十分だ。
ーースス・ンマイ図書館。
特に大きなものではなく、あまり人もいない。人がいないということは別にデメリットでもなんでもない。
むしろメリットだ。もし死霊使いの噂が知れ渡っていて、そいつが死霊使いについて調べていたとしたらなんかイメージが崩れる気がする。
俺は適当に本を探しつつ書架の間をさまよう。
魔族の種類についての本があった。ぱらぱらと覗いてみると、割と幹部の魔族についての記述がある。
いいのか魔王様。情報漏洩しまくりだぞ。
本によると、魔王軍の幹部は四人。
"鬼神の戦陣"リディルド・エクス。
"魔性の天神"リリィ・アンベルグ。
"精緻の智神"エリリス・トーノ。
そして"闇神の魔眼"カナメ・カンザキ。
リディルドは鬼神と呼ばれるほどの怪力を持ち、大きな斧を振り回して戦う。
天神と呼ばれるリリィは見つめるだけで相手を操る力を持つらしい。
智神と呼ばれるエリリスは、この世の全ての知識を持っているといわれている。
そして、魔王の側近であり、魔王親衛隊の隊長を勤める"傍えの魔眼"を持った魔族が、俺だ。
正直よくわからない。
自分でも理解してない言葉を喋られてる気分だ。なんなんだこれ。
でもなんか、わくわくする。心の内側がもぞもぞして、緊張するような、そんな感じ。
心の中の厨二病が刺激される。
本によると、天使族と悪魔族のハーフのカナメ・カンザキは魔力では随一と言われていた先代魔王ですら凌ぐほどの魔力を持ち、剣技も優秀だった。
魔剣のことは書いていない。そんな情報はまだ出回ってないのか?
杖すら使わず、無詠唱の魔術を行使するほどの力を持っている。
しかしあまり表舞台に出ることは少なく、特徴的な容姿は知れ渡っているのだが、ほとんど誰も顔をみたことがないらしい。
顔知れ渡ってるのか、と思いつつ次のページに載っている似顔絵をみて笑ってしまった。筋骨粒々のバーサーカーみたいな男が描かれている。
にても似つかないな。これならまぁ、変装とかはいらないだろう。
それ以上の情報はなく、特に有益とも思えるものは手に入らなかった。
あの少年の声の正体は掴めない。
ため息をつきそうになったとき、ことん、と目の前の机に何かが置かれた。
「…ロレッタ?」
「牛乳を甘い果実で味付けたものです。カナメ様、お仕事のしすぎはよくありませんよ?」
玉虫色をした髪の毛を揺らして微笑むロレッタ。
女神かよ。
後光が差して見える。
「いただこう」
「カナメ様。調べ物なら次に行く街でしたほうがいいかもしれません。大図書館があるという話でしたし」
「そうか。ここでは大したものも見つからなかったし、今日は休むよ。ありがとう、ロレッタ」
そういえばロレッタは恥ずかしそうに顔を抑えてもだもだとしだした。
動作が女の子みたいで可愛いな。いや、女の子か。
「昼からは街にでて食い歩こうとおもう」
「フランカちゃんや私がご一緒しても?」
「ああ、構わんよ」
そういえばロレッタは、嬉しそうに笑ってフランカを呼びにいった。
次回は閑話を挟む予定です。




