第十六話
俺はあの後、ふたりが寝静まったタイミングで風呂に入った。
うん、良い感じだ。
日本の温泉とそこまで変わりはない。というか、まあ、硫黄の匂いが強いくらいで特にそれ以外は何もない。
むしろこの世界で温泉に入れるとは思わなくて、なんだか役得って感じだ。
硫黄の香りに身を任せながら、俺はぼんやりと考える。
先程の、リザレクション。
それに、文字を書くときの挙動。
これはいったいどういうことなのだろう。
あの女神は「受け入れ先」と言っていた。
もしかしてこの体の元の持ち主は…死んだのだろうか。
転生者、というものは死体に入るのだろうか。
あの声はきっと…この体の前の持ち主、つまり、「死霊使い」の声なのだろう。
あの少年のような、どことなく、寂しそうな声。
彼は死んでしまったのだろうか。
そして俺に協力してくれているのだろうか。
なんだか悲しいような不思議な気分だ。
あの声は、これから先も聞こえてくれるのだろうか。
何か困ったときには、助けてくれるといい。
そんなことを考えながら風呂から上がる。
部屋に戻り、ノックもなくドアをあけた。
今生活しているのはふたりの女性だというのに。
そこでは、メイド服に着替えようとするロレッタと、彼女とお揃いのメイド服をまとうために全裸になったフランカの姿があった。
「ッ…ご、ごめん」
「あ、す、すみませんカナメ様」
こんなよくあるラブコメ系主人公みたいなミスを犯すことになろうとは。
俺はそっと扉を閉めた。
数分後、なかからそっとロレッタが開けてくれる。
さっきは風呂で全裸を見てしまうし、今はこれだ。
でもロレッタはそこまで気にしてないらしい。
フランカもだ。
そういうものなのだろうか、奴隷やメイドというのは。
「さて、明日は一日休みにしようと思う」
「休みに、ですか?」
「ああ。夜になったら勇者たちの向かった村にいく予定だから、それまでは少しだけお休みにしようと思う」
昔何かの本で読んだが、適度な休日というものは人間を豊かにするらしい。
それにストレス発散にもなるしな。
「だから一日ゆっくりしてくれ」
「…本当に、カナメ様はやさしいです…ありがとうございます!」
そして俺はぼんやりと部屋に入った。
どうしようか。明日休みにしたのは、「死霊使い」という人物がどのような人物だったのか、というのを調べるためみたいなものだし。
そんなとき、俺の部屋の扉がきいっと開いた。
「…誰だ?」
「…カナメ様…ご主人様…」
「…フランカか」
フランカが暗がりの中俺に近づいてくる。
そして、ベッドの上にそっと、乗ってきた。
まだ幼い彼女と、俺の体重。それを受け止めて、きし、と古いベッドが軋む。
「ご主人様…一緒に、寝てもいい…?」
「…仕方ないな」
小さく頷くと、フランカはうすく微笑んで布団の中に潜り込んできた。
柔らかい体温。
女性特有の、柔らかいからだ。
あまり食べてなかったせいで体はがりがりなのだけど、それでも柔らかさがあるような感覚。
それに、風呂に入ったせいかいい匂いがする。
フランカが細い両腕を俺の身体に伸ばしてくる。
そのままの状態で、俺達は眠った。
フランカの鼓動が、呼吸音が聞こえるのが、ひどく心地よかった。




