第十二話
裏街は派手なところだ。
派手な明かり。中には、きらきらとしたドレスを着た女性たちが歩いている。
女性たちはただの娼婦であり、昼間のうちはただのぼんやりとどこか水の中から眩しいものを見上げるような顔で歩いている魚のようなものだ。
彼女たちも魚人である。
しかし、彼女たちは他の魚人と違い、えらがあったりするわけではない。うろこが残っていたりする程度だ。
裏街ではいたるところに魔法ランタンが置いてある。
そのランタンの色は、どことなく毒々しい。
赤や緑、紫の明かりは俺たちの宿にあるものよりもずっと毒々しい派手な色合いをしていた。
昼間なのに薄暗いその街ではどこかがらの悪い男たちが歩いている。裏街の自警団も中にはいるのだろう。
その男たちの姿をみたロレッタは、俺の服の裾をぎゅっと強く握った。
「大丈夫だ、ロレッタ。俺が守る」
「はい…カナメ様…」
ふたりで道を歩くうちに、何人かのでっぷりと太ってこの街に似合わない豪奢な服を身にまとった男がロレッタを見ていた。
大方、あれが奴隷商人たちなのだろう。
ロレッタの方を見る奴らの目があまりにも汚らわしいので、俺は強引にロレッタの手をとった。
「か、カナメ様…?」
「どこかに連れていかれては敵わないからな」
適当な言い訳をして握ったロレッタの指はふにふにと柔らかい。
暖かいパンのような柔らかさをしているし、なんとなく、ケーキのスポンジのような柔らかさだとおもった。
昨日密着してしまったときもおもったが、ロレッタはどこもかしこも柔らかくて甘い匂いがする。
しばらく道を進んでいくと、一件の大きな館があった。
ここはこの街で一番大きな奴隷商人の店だ。
他の奴隷商人はどこも夕方から夜中にかけてひっそりと道端で店を開くのに対して、ここは昼間からでも店をやっている。
「ここに入ろう」
「ここですかぁ?」
「ああ。ここなら館の中で奴隷を見れる」
そういいながら俺は館の中に入る。
中には筋肉質な体をした人間がいた。
なかなかの美青年だ。
「何の御用で?」
「奴隷を買いにきた」
そういえば、受付らしいその男は階下に進む階段を指差した。
「どうぞ。地下に展示してあります」
館の主である奴隷商人は、ここには出てこない。
ほとんど受付の男との会話で奴隷を買えることも、この館を選んだ理由だった。
フードを深くかぶった男とメイド服の女なんて目立って仕方ない。
顔を覚えられるのは、最小限にしたかった。
俺たちは無言で階下に降りていく。
地下はガラスケースがいくつも並んでいて、その中には着飾った奴隷たちがいる。
どれも死んだような目をしながら、俺たちを見ていた。
彼女たちの額には奴隷特有の紋章が刻まれている。数字を飾り文字にしたような感じだ。
それを受付の男にいって、そして契約をする。そのときにまた額の紋章は変わるらしい。
「どれがいい?ロレッタ」
「そうですね…ううん…」
ロレッタは俺から手を離すことなく歩き出す。ガラスケースを覗きながら歩いていると、ふとロレッタが足を止めた。
「これは…魔族…?」
そのガラスケースの中にいたのは褐色の少女だった。
短い手足は露出されている。他の奴隷は着飾っているにもかかわらず、この魔族の少女だけは薄手のTシャツのようなもの一枚だった。
ボロ布のような服をまとった少女の髪の毛は鮮やかな赤色をしている。
その少女は身動きひとつしない。
魔族が奴隷にされていることに驚いたロレッタがそっとガラスに触れた瞬間、少女の瞳がかっと開いた。




