第十一話
朝起きると、ひどく光が眩しかった。
昨日は異世界というものに興奮しすぎてあまり思わなかったけど、日の光で目が焼けそうなほどに眩しい。
ひとりになってやっと気付いたそれにため息をつきながら俺は壁にかけてあった黒いコートを身に纏い、フードを深くかぶった。
もうロレッタは起きているらしい。
部屋の向こうから誰かがぱたぱたと動き回る気配がする。
どうやらリビングにあるテーブルの上に料理でも用意しているのだろうか。
ふわりとおいしそうな香りが漂ってきた。
ロレッタは俺よりも早く起きて、きっと用意をしていたのだろう。
市場に買い物にでもいっていたのかもしれない。
この奉仕種族とかいうものは本当に主人のために奉仕をするものなのだな、とそんなことを考えつつ俺は部屋をでた。
リビングのテーブルには、想像通り料理が置いてある。
「おはようロレッタ」
「おはようございますカナメ様!」
元気な声で挨拶をするロレッタの方を見ながら俺は席に着く。
どうやら朝ごはんは白身魚のお粥のようだ。
朝から揚げ物などではなく、消化しやすくお腹に優しいものを選んでくれたらしい。
他にも、昨日飲んだアイスティーもそこにあった。
「さて、食おうか。ロレッタも席につきなさい」
「はい、カナメ様!」
ロレッタといっしょに朝ごはんを食べる。
改めて、ここの食事の美味しさに驚いた。
白身魚の身は柔らかく、何かで味付けがされているのか薄く魚醤の風味がある。
全体的に柔らかい味をしていて、寝起きの腹にはぴったりだった。
「カナメ様、私わからないのですがぁ…奴隷って、魔王様が管轄してるのですかぁ?推奨してたりとか」
「違う。魔王様は関係していないさ」
「そうなのですか?」
びっくりしたような顔でロレッタがこちらを見つめる。彼女の瞳が吸い込まれそうなほどに近くにあった。
俺は咳払いをしながらアイスティーを飲む。
「ああ。人間側は原則的に奴隷を禁止している。だから奴隷商が捕まるという事件も何回かあったさ。だが魔王様はとくにそれを推奨することも禁止することもないんだ」
「何故?推奨したら良いのに」
「魔国ではいくつかの制限をつけた上で許可している。推奨することはあまりしていないようだな。それで儲かるとしてもたかが知れてる、ということなのだろう」
魔王の管理する国、魔国においては奴隷の売買は認められている。
奴隷に過剰な暴力を振るわない、無理にどこかから捕らえてこない、ということが絶対的な条件となっている。
魔国では資源が少なく、魔王のいる首都に関してはそこまでではないのだが、いくつかの小国は飢えに苦しむ地方もある。
そういう地方の助けになれるように、と魔王は奴隷制度というものを禁止している、という背景がゲーム時代にあったような記憶がある。
また、禁止すると酷くなるというのもあるだろう。
禁止することによってのデメリットがいくつかある。それは奴隷となるものを狩ってくる奴隷狩りであったり、奴隷を死なない程度ではあるものの過剰に痛めつけたりする行為だ。
そのような行為を、魔王は許容することができなかったらしい。
推奨していない理由としては、推奨したとしてそれがあまり利益にならないということがあげられるようだ。
どちらかというと損する部分もあるらしい。
そんなことをロレッタに説明しながら俺は内心首を傾げていた。
俺はゲームの世界の話しか知らない。
なのになぜ、こんなに詳しい話を知っているのだろう。
魔王から聞いてきたように、なぜかすらすらと魔国の奴隷事情が脳裏に浮かんでくる。
理由はわからないが、なぜか脳内にその記憶がうっすらと浮かんで来たのだ。
「なるほど、そういう理由があったんですね!」
「そのようだな。人間は禁止しているからひどい惨状なのだよ」
ロレッタが納得し終わる頃にはもう食事は終わっていた。
俺たちはそのゴミを片付けると、ふと一息つきながらアイスティーを飲む。
「これから行く裏街では、きちんと俺の後ろについてくること」
「私はいつでもカナメ様の後ろにおりますよ?」
「先程もいったが、あそこは奴隷を売るところだ。それと同時に、奴隷を集めるところでもある」
ロレッタの姿をみる。
綺麗な緑の髪。
すらりと伸びた足。
少し小さめではあるのだが整った形をした胸。
ぺたんこのお腹。
見目麗しい少女の姿をしている。
「お前が攫われてはかなわない」
「か、カナメ様は…私を心配してくださるのですか…?」
「お前は私の唯一の部下だからな」
そういうといまにも泣き出しそうな顔をしたロレッタが、俺の服をぎゅっとつかんだ。
「私、私は…死ぬまでカナメ様のおそばを離れません!」
「ああ。だからきちんと俺の服を掴んでついてくるんだぞ」
視線を交わす。
ロレッタの目は嬉しそうに輝いていた。
「さて、いくかロレッタ」
「はい!カナメ様!」
言われたとおりに俺の服の裾をぎゅっと掴んだロレッタと共に、俺は宿をでた。




