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第十話

「さて」

「どうするんですか?勇者を追いますか?」


ロレッタの言葉に俺は首を横に振った。

勇者を追いかけるわけではない。

しばらくここに滞在しようと、そう思ったのには理由があった。


この街の裏には、奴隷市場がある。

そこでひとり、奴隷を買おうと思ったのだ。

全員を解放することはできなくても。


ゲームの中ではできなかったことだが、俺がこの街にきて、きちんとやりたかったことのひとつ。

この世界で、ゲームで俺がやりたかったこと。

あの奴隷市場の奴隷を、ひとりでも開放してやりたかった。

ただの偽善に過ぎないとはわかっているのだけれども。


「奴隷を買いに行く」

「…なぜ?ロレッタだけでは不服ですか?」


そのことをロレッタに告げると、ロレッタは泣きそうな顔をした。そんな顔をさせるつもりはなかった俺は慌てて言い訳を考える。

彼女はじわじわと目に涙を溜めている。

柔らかそうな髪の毛をそっと撫でてやる。

さらさらとした、触り心地の良い髪の毛。


こうしてやると、ロレッタは落ち着くのだ。

短い間いっしょにいたけど、それは間違っていないはずだ。

その予想があたっていた通りに、ロレッタの涙がゆっくりと引っ込んで行く。


「お前を見限ったわけではない」

「ほ、本当ですか?カナメ様…」

「…勇者はこの街から去ったといっただろう。ならばなぜ、奴隷が残っている?」

「…勇者は奴隷の存在に気づいていなかったからでしょうかぁ…」


ロレッタは俺の腕の中から見上げてくる。

予想外に顔が近いということに気づいて思わずどきりとしてしまった。

ロレッタの甘い体臭が、近くにある。

香水のようなものではなく、自然のものなのだろうか。

彼女の体が密着している。

俺の心臓の鼓動までもが聞こえてしまうほどに。

そのどきどきを隠すようにひとつ咳払いをしてから俺は続きを話し始めた。


「俺が目指しているのは勇者という権威の失墜だ」

「ふぇ…それに、奴隷が関係あるのですか?」

「ああ。勇者が訪れた街なのに奴隷商人が残ってると知れたらどうする?」

「…なるほど。一部の人々には反感を買う、ということですね?」

「そういうことだ。ロレッタは頭がいいな」


ロレッタの頭をもう一度撫でてやる。

ロレッタは嬉しそうにへらりと笑った。先ほどの涙がなかったことのようにロレッタはわらう。

まぁ、俺のエゴのためでもあるんだけど、なんて言えはしない。


「それに、魔王様からもらった金があればひとりは買えるからな。それで証言してもらうんだ」

「なるほどぉ!」

「勇者はこの街の裏に気付かずにおいていったが魔王側の人間は気付いた、ということを証言させれば、勇者の権力失墜に繋がるさ」

「さすがカナメ様です!」


ロレッタが更に俺に密着してくる。

俺は慌てて二、三歩後ずさった。


「そ、そのために明日は奴隷市場に行く。早起きになるぞ。早く寝ろ、ロレッタ」

「了解しました、カナメ様。ロレッタは失礼させていただきます」


ぱっと俺から離れて、そして優雅にスカートを摘まんで一礼する。ロレッタは隣の部屋に消えていった。


俺はふう、と溜息を吐き出す。

さきほどのロレッタの暖かさが、まだ腕の中に残っていた。


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