プロローグ
「ねーねー、あそぼー」
「やだ。どうせまたあのもりだろ?ぼくは『まほう』をししょうからおそわってるさいちゅうー」
「やだ!まえにもそういってた!」
「えー。ねえししょー」
「はいはい。君は少し外で遊んだ方がいいよ。君は若いのに根を詰め過ぎさ」
「ぼくはししょーみたいになりたいんだーー!」
「・・・君はいつか、私を越えられるわよ」
「ほんと!」
「だーかーら、一緒に遊んできなさい!少し頭を冷やしてくること」
「頭冷えないよー」
「体は鍛えてこそよ」
「筋トレよりつかないよー。それより『たいじゅつ』をもっとー!」
「・・・ほら、泣いちゃってるわよ」
「え・・・わあ?!ごめんあそぼー!」
「・・・うん・・・・・・ほら、あんたもきなさい!」
「・・・・・・わたしわ『いんどあは』なの」
「いいから!」
「えい!みちづれだー!」
「え、あ、ちょ」
「ほらせんせーも!」
「あら私も誘ってくれるのかい。有難いねー」
「せんせー、『としてき』にがんばんないとたるんじゃうよ?」
「・・・よーしみんな、今からサバイバル鬼ごっこしようかー。ルールは前に教えたねー?」
「「「わーーー!!!」」」
「私はまだ十代ダーーー!!!」
「「「キャーーーーーー!!!」」」
「キャーーーーーー・・・・・・イデッ!」
ベットから転げ落ちた
その音を合図に複数の使用人が中に入ってきた
「だ、大丈夫ですか魔王様!?」
「大丈夫ですから下がりなさい」
「ハッ!失礼しました!!」
そういって全員外に出て行った
「・・・はあ」
彼女、『元』魔王の娘、『現』魔王の「マオ」はため息が出てしまった。たかだかベットから転げ落ちただけでいきなり複数の使用人が中に入ってきたから
「・・・・・・あ!」
不意に今日のスケジュールを思い出した。そう、今日は『平和祭』だ
魔王と勇者の激戦が起きたのが数年前、その後に・・・・・・色々とあって、勇者と魔王、さらには天人や天界の者と魔族や魔獣の者と人間が手を取り合い、一つの敵を倒し、その三日後になったこの日、こうして祭りをするのだ。私とユウカは手を取り合い、共通の敵を倒した、と言うが実際は少し違ったりもするが・・・・・・
会場は、彼女らの世界『ミラヘイム』の人間界区域のとある広場。マオは黒ドレスで参加した
みんながみんな、もう魔族や魔獣への偏見がなくなって今では同盟以上の関係にもなった。それもこれも、先駆けてくれた者達の地盤があってこそだったが・・・
色々な所から求婚されるマオは、あしらうのに手間取った
あしらった先には、見知った人物が白ドレスでワインを飲んでいた
「あら、お酒は大丈夫なの?」
「・・・・・・こんなのお酒に入らないわ」
「いや待て待て待て。このワイン、結構泥酔するので有名な酒じゃん」
「・・・・・・飲む?」
「・・・いただく!」
私はグラスに注いでもらったものを飲む。確かにジュースかもしれない
こうして普通にちびちび飲むのが、『現』勇者の「ユウカ」である。ちなみに、私は一気飲みだ!
「さてさて、そろそろ前夜祭的な意味で、呼びに行く?」
「・・・・・・当たり前。てか遅いくらい」
「じゃ、行きますか!」
マオとユウカはこう見解の一致を確認し、ある場所を目指した
少し前、とある地下牢
ドサトサドサッ・・・・・・・・・・・・
「き、きさ・・・・・・ウッ」
「グハッ・・・・・・な・・・ぜ・・・・・・・・・・・・」
次々に看守、約10名近くが倒れる。全員、天界と魔界の選りすぐりであるが、そこに立っていたのは、二人のみ。もちろん侵入者だ
「・・・たく、看守がこれじゃあ誰でも侵入できるな」
一人は吐き捨てるように言う
「まったく、筋肉野郎が入れるくらいだからな」
一人はやれやれ、と首を振る
「なんだと細ヘタレ!」
「やりますか脳筋バカ!」
「やるか!」
「そちらこそ!」
「・・・あのー、そろそろ出してくれ」
口喧嘩がヒートアップ仕掛けた二人をタイミングよく止めたのは、柵に厳重に閉じ込められた、二人の来た理由の人物だった
「「だいたいお前がこいつを呼ぶから」」
「え、俺が悪いの?!」
「「そうだ(です)!」」
「即答!?」
囚人はショゲかけた。二人同時に言われるとは思わなかったから
「・・・まあいい。おい脳筋、柵を壊せ」
「言われなくとも・・・・・・そらよっと!」
柵は赤子を捻るかのように、ぐにゃんと曲がった。そして、厳重に固められた囚人の拘束衣を壊した。体が自由になった彼は、少し回ってみた
「いや〜、さすがは『勇者の右腕』の「ギンキ」だ!」
囚人はオーバーに豪腕の「ギンキ」を褒めた
「いや、お前には敵わねーよ」
「そうそう。脳筋と貴方様をお比べすること自体が恐れ多いこと。まして私にも勝てないでしょうし」
「いや、お前には勝てる」
「言いますね・・・・・・それでは、この私の完璧なプランを元に、貴方様を目的地までご案内します」
「ああ、おまえの計算高さは信用しているよ、『魔王の側近』だった「ルシファー」のことはな」
囚人は『黒と白の羽』の「ルシファー」を称えた
「お任せ下さいまし、マオ様の旦那様!」
「いやいやいや、こいつはユウカの夫だぞ?」
「何を言うか低俗。このお方に口数少な過ぎし人はお似合いではない」
「はあ?お前んとこのお騒がせ娘なんかよりは数十倍マシだし!」
「おい、魔王様を愚弄していると判断していいのだな低俗」
「あ?ウチの勇者を貶したろうが化け物!」
「「・・・・・・やるか?」」
「おい」
血がのぼる二人の心が冷めた。二人を止めたのは、すごいオーラの見えそうな囚人だ。彼はニコニコしている
「・・・・・・君ら、本人のいないところでいいように言うのを聞いてる人の気持ち、分かる?」
二人は青ざめた。もう極寒の地かと思いそうだ
「時間も限られているから、10分間説教ね。はい、正座」
『ミラヘイム』の反逆者にして、光の魔王、闇の勇者と呼ばれた、天性力(B)と魔力(D)を使いこなせる魔導師「ユウマ」は、怒ることは本当に滅多にないことだ。1年前に怒ったかすらわからないくらい・・・
だからこそ、怒った時の顔の怖さに、どんな人も天人も魔族も、皆が恐れるのだった
「ほら、セ・イ・ザ」
「・・・おおユウマ殿!お早いお着きで」
「いやドクター、どう考えても予定オーバーだぞ?」
祭壇に着いたユウマ一行を迎えたのは、魔王城の研究者「ドクター」だった
「いえいえ、そこのお二人にお迎えに行かせたら、多分口喧嘩でもっとかかるかと」
「「そんな信用ねーのか(ないのですか)?!」」
「実際そうなる前にブレイクしたがな」
「フォッフォ、さすがあの二人の伝説の仲介に入っていた時間が長いだけはありますね。あなた様には世界を滅ぼす命運までもありますしね」
「誉めんなよ、嘘なのは分かってる。俺自身が望まんしな」
「フォッフォ、またまた謙遜を」
俺は、この人を尊敬はしている。しかし、まだ少し信用してはいない。まあ、このぐらいの関係がいいのかもしれんが
「さ、始めようか」
同時刻、地下牢
「るんるんるーん♫ゆ・う・ま〜♫一緒に踊るための場所作ったから踊ろ〜・・・・・・あれ?」
意気揚々と入ってきたマオは、看守たちの倒れる光景にフリーズした
「・・・いきなり止まらないでマオ。何か––––」
遅れて入ってきたユウカも、この光景には驚いていた
看守たちは皆がS級。ユウカ一行や魔王の四天王もその位だ。ギンキやルシファーはその上のSS級、マオとユウマはSSS級であるけれど
いくら規格外の『Z級』認定されたユウマでも、今はA級の力まで押さえ込まれていたはずだから別の人がユウマを・・・
「・・・!ユウカ、祭壇に行くわ!」
「・・・・・・分かった」
S級を倒せるとすれば同格だが、S級集団を倒せるのは上のクラス、SSとSSSぐらい。それでユウマを知っていて、看守たちに対抗できる知人はあの二人しかいない
では理由は?多分ユウマの指示だろう
なら何故?それはユウマの性格を知る彼女らになら分かってしまう簡単なこと
「・・・ほい、終わりじゃ。いつでもいいぞよ」
ドクターは最後のキーとなるユウマの血を混ぜて、呪文を数十分にわたり唱えた
その頃、ギンキとルシファーは口論に熱を上げていたが、ドクターの一言で中断された
「・・・そろそろか」
「・・・寂しくなりますな」
二人はユウマを寂しそうに見る
「・・・ギンキ、ルシファー、そしてドクター、ありがとうな」
ユウマは頭を下げて言う
「・・・ギンキ」
「おう」
不意に呼ばれたギンキは、少し下がっていた頭を上げた
「ギンキ、次あったら勝負しよう。もちろん平和的にな!」
「おう!オレ様の実力を見せてやるぜ!」
「ルシファー」
「はい!」
ルシファーは跪いた
「ルシファー、今度おまえの計算について話してみたいな」
「はい!何時間でも!」
「ドクター」
「フォッフォ」
ドクターは歯を出している
「あんたはもっと長生きしろよ」
「フォッフォ、最近は生きるのが怖い歳だけど、まあ頑張るぞよ」
それぞれに言い終えたユウマは、ゲートを歩き始めた
「「ユウマ!!」」
「・・・何と無く予想はしてたよ」
言葉の通り、ユウマは冷静に静かに落ち着いて振りかえった
いるのはもちろん、マオとユウカだ
「何してるの?今日はまだ祭りの半ばよ?さ、踊りに行こう?」
「・・・ユウマ」
彼女らの顔はにこやかだが、「何してるの?」は少なくとも嘘だ。理由が分からなければここにいるとは思わないだろう。長年の付き合いって、両者を理解し合えるほどにまで絆が芽生えてしまう
ユウマはあえて、「何してるの?」に答える
「見てわからない?俺は逃げるんだよ」
流石の性格の変わり方に、ギンキとルシファーは察したようだった
「それは明日じゃ」
「ハハハ、君らって本当に優秀で馬鹿だな。俺が信用できたか?アホらしい・・・」
「・・・・・・ユウマ、あなたはそう思っていない」
「なあユウカ、そういうが、俺の何を知っている?」
「・・・なんで––––」
「知らないさ。俺はお前らに『劣等感』を抱いたんだからな」
「「?!」」
二人は固まった。そりゃ、好意寄せる人に言われればそうなるだろう。自分が『邪魔だ』『鬱陶しい』、もっと簡単に『嫌いだ』と言われたようなものだからだ
「おいおい、俺がそう思うのがそんなに驚愕か?俺がそう思ったからこそ『反逆者』になったんだぞ?俺はな、お前らがきら––––」
そこまで言いかけて、流石のギンキとルシファーもユウマを黙らせようと殴りに来る。しかし、ユウマはうまくかわし、代わりにギンキとルシファーが殴り合ってしまった
彼は内心申し訳なさそうに、戻れなくなった道を進む
「ハハハ、そもそもZ級の俺に歯が立つと思ってるのか?お前らSS級じゃ話にすらならない」
そう言い、ユウマはまたゲートを歩き出した
「・・・ユウマ!」
「待ってユウマ!」
二人は口々に彼の名を叫ぶ
あまりに叫ばれたユウマは、痺れをきたした
「・・・・・・なあ」
「「?」」
「俺は、お前らの何なんだ?」
その言葉を最後に、ユウマは『ミラヘイム』から消滅した
「『俺は、お前らの何なんだ?』か」
ユウマは、一体何を考えていたのだろうか?どう思っていたのか?どうなりたかったのか?
マオはただ、一緒にいて欲しいだけだった
マオは、顔をベッドに埋めた
「・・・・・・」
ユウカは考えていた
『俺はお前らに劣等感を抱いていた』
「・・・・・・嘘が下手。でも、嘘でも悲しい」
ユウカは彼の嘘を分かっていた
「・・・・・・だって、あなたが優秀じゃない・・・」
そう思いながら、ユウカは昔を思い出していた
ユウカはいつもやる事は何でもできた。しかし、魔物も人も殺す『勇気』だけはなかった
その事で悩んでたのを解決したのはユウマだった
「・・・・・・『俺は、お前らの何なんだ?』」
ユウカは瞼を閉じた
ユウマは、何を感じていたんだろうか?
『俺の何を知っている?』
「「・・・私には、分からない」」
そんなマオは翌日、ある森に来た。ユウマ達が初めて会った場所。
その森の奥にポツンと一軒の家がある
そこにはユウカもいた
彼女らは、主なき家に入った
ユウマは『反逆者』になる前まで、よくここを出入りしていた
彼女らは中に入ると、少し散らかった部屋を整理していた
ユウマはここにさらに木造なので腐敗抑制コーティングをしていた
整理していると、ある二冊の本を見つけた。『魔道書』と『格言集』と書いてあった
魔道書はユウマが愛用していた、魔法に必要なものだ。無いよりあるほうが発生しやすい、が師匠の教えだからだ
もう一つの格言集は、師匠の言ってた言葉を書いたものだった
「ユウマ、こんなの作ってたんだー」
「・・・ユウマって、師匠に憧れていたものね」
二人は懐かしむように本を読んでいった
「『勝負事とテストは、負けられない時以外は手を抜け』、これって格言?」
「・・・ユウマなら先生の言葉は格言」
「あ、納得」
ペラペラとめくる。二百ページはあるだろう
「『人は生き返らせてはいけない』。確かに命は一度きりなのよね」
「・・・『女や子供に手を出す輩、成敗せよ』。あの時は商店のど真ん中でやったわね」
「あーあの時は恥ずかしかったわ〜」
「・・・本当にね」
「えーと、『正義を貫けないルールはルールではない。無視すべし』。これってあの議会の時の?」
「・・・うん。私が議会の人に強引に連れて行かれそうになった時に、令状とか関係なく議会もろとも被害が出たわ」
「あの日は当分お泊まり会だったわね」
「『親がすべてを決めていいわけない。親に勝てないと言う決まりもない』。魔王だったお父さん青ざめたのは新鮮だったわ」
「・・・お父さんが青ざめたのってあれ以外ないかも」
そんな感じにめくっていき、ほぼ書いてないのを確認して閉じかけ、誤って落としてしまった
「あ、やばっ!って、あれ?」
ふと、マオは落ちた拍子に開いたページを見た
「・・・マオ?」
ユウカは静かになったマオを見た
「・・・プッ」
マオはふいた
「アハハハハハハ!馬鹿みたい!」
「・・・?」
「ほらユウカ、これ見なよ!」
マオはユウカにそのページを見せた
「・・・・・・プッ」
「ぷぷっ!」
「「アハハハハハハ!馬鹿みたい!!」」
二人は笑っていた
「アハハハハハハ・・・確かにそうね!」
「フフフ・・・・・・ユウマらしい」
「ねえユウカ、私決めたよ!」
「そうね、私もよ」
二人はスクっと立ち、二つの本を持って、外へ走った
『おれはまおもゆうかもししょうも、みんながえがおになれるまどうしになる!』
そんな、子供の字だった
魔王城に帰ったマオは、即急にルシファーや主力にいた者たちをかき集めて祭壇に来た
祭壇には、ユウカ一行と天人の主力何名かがいた
「あの、魔王様。これは一体?」
「お引越しよ!」
ユウカも同じ受け答えをした
「あのな、こんな戦闘家が揃った一行で引越しってな、ユウカ」
「理由はある」
マオも同じ受け答えをした
「「私たちは、もう争わない為にもあなた達と一緒にユウマを見つけに行く!!」」
『はあ?!』
「答えは聞きませーん!」
「ドクター」
「フォッフォ、そいや!」
ゲートを開けていたドクターが、反対から突風を出した
『え、ちょ、うわわわわわわわ!!!』
ドクターも含めて、みんなゲートに吸い込まれた