上編
皆様こんにちわ。
六興九十九です。
過去の投稿を読んでくださった方、お久しぶりです。
初めての方、初めまして。
久しぶりの投稿ですね。
くだらない話はさっさとやめて本編を読ませろ! と言う方もいらっしゃると思うので雑談はこの辺で切り上げて……。
それでは、本編をお楽しみください。
眩しすぎるほどの日光と、サウナの中にいるかのような熱気が全身を刺す夏の日の午後、僕は彼女と僕の家へと続く道を歩いていた。
「ねぇ、菫。もうすぐ祭りがあるんだけど良かったら一緒に行かない?」
僕は幼馴染の桜庭菫に言う。
言葉を吐くだけで口の中が水分を欲しがる。
「お祭り? 昔二人で行った西彩花神社のお祭り?」
「そう」
この街には東西南北の四か所にそれぞれ神社がある。なんでも、大昔、この街を訪れた巫女がこの土地の神様と共に悪霊を退治した際にこの街の結界として作らせたらしい。
「お祭りかぁ……久しぶりに行きたいな。いいよ、一緒に行こ」
菫がこっちを向いて微笑む。
彼女の笑顔を見ていると、こちらまで笑顔になってしまうのだから不思議なものだ。
「真継、聞いてよ! この街ね、いろんな妖が居るんだよ!」
「そうなの? 僕は視えないからな、菫がうらやましいよ。でも、気を付けてよ? 良い妖だけじゃないんだからさ」
菫は、昔から妖の類を見ることができた。感じることしかできない僕とは違い、彼女ははっきりと見え、触ることができた。僕は実家が神社なこともあり少しだけ霊力があるらしいのだ。
「この街にはその類の伝承は沢山あるからな全部まとめたら本を出せるんじゃないかな? じゃあ、気を付けてね」
「はーい、じゃあねー」
菫と別れ、自宅へと歩き出す。
真夏の太陽が影の色をさらに濃くして、日陰と日向の境界線をはっきりとさせた。
道をまっすぐ進むと、路肩に人影が見えた。
女性のようだった。
不思議に思ったが暑さのせいであまり頭が働いていなかった。
「どうぞ」
通りすぎ際にチラシを渡される。
紙には『陽夜祭』と書いてあった。
聞いたことがない。
「あの――」
訪ねようと思い振り返るがそこには誰もいなかった。
誰かがいた。という痕跡すら残っていなかった。
再びチラシへと視線を戻す。
開催日は八月一四日。西彩花神社のお祭りと同じ日だ。
「あれ……?」
場所が記されていない。忘れたのだろうか。
チラシを鞄へしまうとまた歩き出す。
少しだけ、僕の話をしよう。
僕の家族、日南家はこの街の西側にある神社の敷地内にある。
僕の名前である『真継』というのは祖父がつけてくれた名前で『真を継ぎ、繋いでいくもの』という意味らしい。少し響きが女の子みたいだが、僕自身は割と気に入っている。
僕の両親は八年前に他界し、今は叔父である慶真さんと暮らしている。
父は僕よりも妖の類が少し視えたらしい。
「真継くーん」
背後から男の声がする。
慶真さんだ。
買い物袋を両手に持ちこちらに歩み寄ってくる。
「帰りかい?」
「はい、そうですよ。慶真さんは夕飯の買い物の帰りですか」
「うん。今日は冷やし中華にしようと思ってるんだ。それで、彼女とのデートはどうだったんだい?」
慶真さんがニヤニヤしながら訪ねてくる。
「デートじゃないですよ。ただの買い物です。それに、菫は彼女じゃないですから」
「でも、好きなんだろ?」
「ち、違いますって!」
「素直じゃないなー」
慶真さんが笑う。
「気持ちを伝えないと誰かにとられちゃうぞ」
「それは……嫌です」
「まぁ、がんばれ少年」
慶真さんは今年の冬で三五歳だ。でも、まったくそんな年齢には見えない。せいぜい二十代後半くらいにしか見えない。
慶真さんに会いたいが為にお参りに来る人もいるほどだ。
慶真さんと話しているうちに神社へと着く。
日南神社。
僕が十七年間暮らしてきた家だ。
引き戸を開け、中へと入る。
古い木材の匂いと、室内にこもった熱気が一気に押し寄せる。
「ただいま」
誰もいない室内へと言い放つ。
「おかえりなさい」
背後で慶真さんが返事をする。
「俺は夕飯の支度をしてしまうから、真継君はのんびりテレビを見ているなりなんなりして時間をつぶしていてくれ」
そういって慶真さんは台所へと姿を消した。
僕は今に荷物を置きその中からさっきのチラシを出して、縁側から庭へと出る。そこに直径一メートルほどの陣を書く。
「古き時より我が御霊に使えし妖よ、契約に従いその姿を現世へと表せ。彼の者の名は、『朱月』」
陣の中に土煙が上がり始め、その中にそれは姿を現し出した。
「御呼びでしょうか、我が主様よ」
やがて土煙はおさまり、はっきりと姿を現した。
山伏姿に頭部に頭巾、斜めに顔を隠すようにつけられた天狗の面。手には錫杖を持ち、腰には法螺貝がつけられている。そして、背中からは大きな黒い翼が生えている。烏天狗だ。
「朱月、来てくれてありがとう」
「たいしたことではありませぬ。烏天狗の一族は、契約を重んじる一族。主の要望には必ず応じるのが一族の規律ですから」
「ところで、この催しごとに見覚えはない?」
朱月にチラシを見せる。
「陽夜祭? わかりません。力になれず申し訳ない。しかし、この紙からは微かに妖気を感じます。お気を付けくださいませ、何かありましたら、全力でお守りしますが、起きないことが一番ですからね」
「わかったよ、気をつける。それにしてもいつもいつも悪いね。こんな陣の中に呼び出して」
「しかたありませぬ。お父上が強すぎたのです。真継様は常人よりは遥かにお強いですよ」
朱月は烏天狗の中でもかなり第二位に入る実力の持ち主だ。少し強い者ですら多少の霊力を持つものなら呼び出すことはおろか、視ることすら難しいという。
「真継様は払う力がお強いのですから十分ではありませんか。誰にでも得手不得手はありますよ。それでは真継様、私は先ほどの陽夜祭について情報を集めてまいりますので、この辺で失礼させていただきます。
再び土埃が舞出し、朱月は姿を消した。
僕は居間へと戻り、夕飯が出来上がるのを待った。
そして、二十分ほどして慶真さんが得意げな顔で冷やし中華をトレイに乗せやってきた。