十五夜の呪い
最近どうも落ち着きにかけている気がする。
なにかそわそわと、何かにおびえるような、そんな感覚すらも覚える。
自分自身の体になにが起きているのか、私自身にも全く分からない。
「・・・・・・・・」
「――――ヴェ、レーヴェ!!」
「は、はいぃ!?」
「どうしたんだよお前、さっきから何度も呼んだぞ俺。何かあったのか?そんな深刻な顔して」
「あ、いえ……」
主の声も届いていなかったなんて……
使い魔失格かもしれない。
「な、何でもありませ―――――!?」
何でもないように平然を装って笑顔を振りまこうとした途端、全視界が突然真っ暗になった。
そして、瞬く間に私の体が崩れ落ちていく感覚が体中を駆け巡った。
「レーヴェ!?」
主の声もむなしく、私はそのまま意識を暗闇の中に明け渡すことにした―――――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「―――っ」
気がつくとそこには真っ暗な世界が視界中に広がっていた。
ここはどこ?どうして私はこんなところにいるの―――?
「起きた?レーヴェ」
「……誰?」
その暗闇の先から、一人の…いや、一匹の少年が姿を現した。
「僕だよ、ウォルフ」
「な、なんであなたがここに――――?」
「ごめんねレーヴェ、君をこんなに苦しめているのは、僕なんだ」
突然何を言い出すのかと思ったら、凄く申し訳なさそうにそう呟いた。
どういうこと?あなたが悪いって―――――
「僕はキミといつも一緒だっただろう?生まれた時から、狼界にいた時から、ずっと。
僕は生まれつき、5感すべてが悪いんだ。特に嗅覚と視覚がね。だからあの、『紅月』の時に君のことを危機にさらしてしまったんだ。そして君に、ある本能的な恐怖感を植え付けてしまった。それが、今の君の不安を煽っているものそのもの。満月を迎えると、体全体がこわばって落ち着きを失い、本能がままに暴れ続ける、あの『紅月』の恐怖を忘れようとするために。
全ては僕が悪いんだ。本当に、ごめん―――――」
ウォルフは話している途中だと言うのに泣きだしてその場に崩れ落ちた。
罪悪感が彼のすべてにのしかかっているのだろうか。
「そ、そんなに―――――」
「僕はキミに一生の呪いを与えてしまったんだ!どうすることもできない、辛い記憶を!!
だから僕は、どうしたらいいか教えてほしい!どうしたら、僕のことを、こんな許されたことをしていない僕でも、どうしたら許してくれる?ねぇ、僕はどうしたらいいの―――――」
「そんなに、自分を責めないで」
「――――へ?」
その姿を見ているのがあまりにも辛くて、ココロが苦しくて。
私といつも一緒な彼がこんなに苦しんでいるからかな。私の心も苦しくなってきたんだ。
「あなただけが悪いんじゃない。あの全ての元凶は、私たちのお父様にあるわけじゃない。あなたは悪いわけじゃないの。『紅月』を起こした、お父様がすべて悪いんだから。
だからあなたは、そんなに責めないで。これからも私と一緒に、主を、猛を守っていきましょう?それが私とあなたにしかできない、最大の使命でもあるんだから」
「……そんなことで、いいのかな―――」
「何度も言わせないで?主猛を守ることができるのは、私たち二人しかいないのよ?他の人では、大天族を守ることは荷が重すぎるの。私たちはジャット・ルーの中でも1匹しかいない『二重狼』なのよ?そして猛は大天族の中でも逸脱した双剣の蒼瞳であり翼の魔導士。過去の大天族の中でもいないような人なのよ?それを守ることができるのは、私たちしかいないじゃない。だから―――――」
「私たちは、あの人を守り続けるの。自らの死を持ってしても、ね」
我ながら何をいっているのだろうと、自問自答したくなるようなセリフだ。
だけど、これも事実なんだから、仕方のないこと。
私たちは生まれた時から、普通『ではない』のだから。
そしてまた、私たちが守っている主も普通『ではない』。
こうして巡り合ったのも、また運命たるものなのかもしれない。
「……わかったよレーヴェ。僕は君と共に主を、猛を守り続ける。なにがあっても」
「そう、わかればいいの」
「なんか変だね、心の中でしか会話できないのに、その心の中で怒られてるなんてさ」
「ウォルフが変なこと言い始めるからじゃない。私はいつだってこんな感じだって、あなたが一番知ってるでしょ?」
「まぁね」
へへっと笑いあう私たち。さっきまでのおもぐるしい空気はどこかへ行ってしまったように二人揃って笑顔を浮かべる。
「それじゃあ、そろそろ時間だ」
「うん、そうみたいね」
「最後に言っておくね。近く、大きな満月が来る。それは、気をつけて」
「……うん、わかった」
「それじゃあね」
ウォルフの言葉を最後に、私の視界は急に歪み始め、同時に恐ろしい頭痛に襲われて意識をまた手放した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……か!大丈夫か!」
「……あ、主……?」
次に目を覚ますと、そこにはベットに横たわっている私と、私のことをずっと心配して看病をしてくれていたと思われる主の姿があった。
「よかった、死んだかと思った―――――」
私が目を覚ますと、ほっと安堵のため息をついて私に寄りかかってきた。
それはあのとき、主が倒れた時に私がしたようなことと同じような感じで。
「大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「よかった―――――」
にっこりとほほえむ主の顔は、私の心のどこかを跳ねあがらせるような感覚を覚えさせた。
なんだろう、この気持ちは。
「明日、十五夜の月見だけど、この容態だとしないほうがいいのかもな」
「十五…夜?」
「そう、日本で一番満月が光り輝いて大きく見えるんだ。でもお前のその様子だと、見ない方がいいのかもな」
「!!!」
「ん?どうした?」
「あ、いえ―――――」
「とりあえず見ない方向性にするか。今日はゆっくり休めよ?」
「は、はい―――――」
その年の十五夜は、近年まれにみる『赤い月』だったと、テレビで話をしていた。
そしてその日の私は、一日中うなされていたと、のちの話で主から聞いた。
紅い月、私は一生恨み続けて背負い続けなければならない呪い。
まだ終わってはないあの事件。
必ず終わらせるから、お父様。
仲間たちの、全ての思いを背負って。
いかがでしたか?
最後の方はなにやらおかしな話になっていますが、あんまり気にしないでください。
では、失礼いたします。