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黒毛和牛召喚記  作者: 卯堂 成隆
第二話:荒ぶる神に大地の安らぎを
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第一章:バカンスは【黒毛和牛】修羅場尽くし

 見上げれば抜けるような青空と綿の様な白い雲。

 視線を下ろせば目に入るのはエメラルドグリーンに輝く宝石のような海。

 白い砂浜が彼方まで続き、それを彩るようにオリーブの森が風に揺れる。

 それはまるで、神の宝箱を覗きこんだような美しい風景だった。


 そして波と木々の奏でるざわめき混じって聞こえてくるのは……むさい男の唸り声。

 なんか色々とごめんなさい。


 そんな不気味な唸り声に満ちたビーチに、今度は甲高い少女の声が木霊する。

「くーさーいー きーたーなーいー めーんーどーくーさーいぃぃぃぃぃ!」

 ビーチパラソルの下で容赦なく罵声を放つのは、ぱっと見て10歳前後の少女だった。

 いや、正確には美幼女……もとい美少女と言うべきか、実に表現に悩む容姿である。


 ……と言うのも、一見して妖精のような無垢な外見だが、見るうちに幼女にはありえない色香を放つ事に気付いてしまうからだ。

 清純にして魔性。

 その混沌たる美を彼女の姿の中に見出してしまった最後、その者は彼女から目が離せなくなる。

 一度虜になってしまえば、男女問わず心穏やかではいられない。

 彼女が仕草を変えるたびに、好みとか性癖とかを無視して瞬時に脳髄が沸騰する。

 人呼んで"傾世幼女"……とは、彼女の唯一無二である相方の言葉だ。

 点けられた本人は、後半の"幼女"を脳内で"妖女"と勝手に脳内変換し、酷くご満悦ではあったが、おそらく真実を知れば血の雨が降るであろう。


 この類稀な美幼女、その名をシアナ・サフィニア・ガッシェンドルフと言い、その長ったらしい名前から解るとおりかなり良い家の出なのだが、本人が実家のことを話したがらないので、詳細は不明である。


 ただ解っているのは、本人の年が16歳である事と、この都市にしてすでに神殿の秘蔵っ子である召喚師の一人だということだ。


 ちなみに、今日の装いは桜色パレオの隙間から際どいビキニのパーツが見え隠れする……見えないのに見えそうに思えてしまう、実に思わせぶりな衣装。

 普段は露出の少ないローブ姿の多い彼女にしては、異例の大胆さだ。

 そんな衣装を彼女が身につけている理由はただ一つ。

その少女の前にだらしなく寝そべるのは、水着姿の青年……に見える彼女の召喚獣のためである。


 この二人が寄り添う姿を見る者がいたならば、真っ先に"美女と野獣"と言う言葉を思い出し、次に"熊と金太郎"を思い出すだろう。


 と言うのも、召喚獣の姿があまりにも少女と対照的であるからだ。

 彼女の召喚獣……ウシジマ ミノルを一言で示すなら、『怖い』もしくは『ゴツい』の二択だろう。

 その鍛えられた体はギリシャ彫刻のように筋肉の束が浮き上がり、広い肩幅の上には地獄の鬼をも逃げ出す(いかめ)しい顔が乗っかっている。

 まともな人間ならば、目を合わせることすらできない……というか、その視線に触れただけで体に穴が空きそうな威圧感は、まさに歩く大量精神破壊兵器。


 さらに今は誰かに殴られた跡なのか、痛々しく晴れ上がった右の目蓋は半ば視界を閉ざしており、切れた唇からは血が流れ、正視に耐えないほど酷い有様になっていた。


 少女は、砂浜に横たわるその召喚獣のそばに跪き、盛大に文句を撒き散らしながら、彼の顔を濡れたタオルで綺麗にしているのだが、いくら拭いても綺麗にならないことに腹を立てたのか、次第にその拭き方が荒くたたきつけるようになりはじめる。


「い、痛いぞ、シアナ! もう少しやさしく拭いてくれ!!」

 召喚獣が手足をばたつかせて苦情を申し立てると、少女は傍らの瓶を手に取り、

「自分で望んだことでしょ? せっかくバカンスを楽しんでいるのに、そんな馬鹿なことをする人にはこうです! くらえ、オキシフル・ストライク!!」

 そのまま瓶の中身を青年の傷口にぶちまける。


「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」

 家畜を屠殺するような少年の低い悲鳴が、人の気配の無いビーチにこだました。

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