プロローグ
はるか紺碧の水底で、それは激怒していた。
彼は"海"を統べる神であり、かつては大地の伴侶として地に君臨していた神である。
だが、見よ! この大地を!!
はるかなる海こそ彼の領域ではあったが、この大地のどこにも彼を称える、彼のための国が無かった。
大地が欲しい。
自分を称える民が欲しい。
我が身をあがめる国が欲しい。
かつて、彼が同じように国を望んだとき、彼は姪と大地の一部の所有をかけて争ったが、人は姪をその地の神として選んだため、彼は人々に見捨てられて国を奪われた。
その後悔しさのあまり、海の只中に自分の国を作ったときは、最初こそ巧くいっていたものの次第に民は信仰を忘れ、あまりにも堕落したために彼はその国を海の底に沈めてしまった。
もしかしたら、自分は大地に生きる人々にあまり好かれないのだろうか?
神として、それはあまりにも寂しい。
自分のあまりにも激しい気性が、人々にとって過酷なのは理解できるが、それでも彼は人に愛されたかった。
ふと、彼はある人物のことを思い出す。
彼に良く似た性格をした少年で、彼の事を冗談交じりに親しみを込めて"叔父"と呼ぶ人物を。
人の身でありながら、すでに神の領域にまで魔術を極めた、愛すべき"甥っ子"を。
彼は、その少年がかつて土産代わりに持ってきた"携帯電話"なるものを取り出し、間違えないように慎重にダイヤルを押す。
2度ほどダイヤルがコールされた後に、ガチャリと音を立てて相手が通話に出る。
「もしもし、叔父貴か? どうしたんだよ、急に……」
「おお、ミノルか!? ワシじゃ! ポセイドンじゃ!! おぬしに折り入って頼みがあるんじゃが、もちろん聞いてくれるじゃろ!?」
まるで孫に甘える祖父のように切々と自らの想いを訴えるポセイドン。
すべてを聞き終えた、ミノルは一言……
「任せろ叔父貴。 俺があんたのために最高の国を作ってやる!」
そう力強く答えたと言う。
かくして遥かなる異世界の彼方、神無世界と呼ばれる世界の一角で波乱の物語が始まる。