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黒毛和牛召喚記  作者: 卯堂 成隆
第一話:生贄の乙女と消えた守護神
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エピローグ:乙女の行方と【黒毛和牛】彼の貞操

 かつて鉱毒で滅亡寸前まで追い込まれたドヴアーラカーの街に、本来の守護神が帰って来てから三日。

 街は歓喜とも困惑ともつかぬ興奮に包まれていた。


 ミノルによる神殿主体の恐怖政治に辟易していた街の領主は、感極まって泣きながらラメシュワールを迎えたが、聞いた話では……その場で張り倒された上に足蹴にされたらしい。


 かくして、街では再び金属加工の職人達が幅を利かせるようになったが、なぜかカルコス鉱山の領主は行方不明となり、さらに還ってきた守護神の強い意向により、経営していた銅の鉱山は閉鎖されてしまった。


 かわりに建てられたのが、精霊モルディーナの祠。

 守護神ゴース(ミノルの守護神である牛頭天王のインド名)の忘れ形見であり、金属を司る精霊である彼女は、祈りを捧げるものに土塊から様々な金属を作り出すという世にも珍しい秘蹟を授けるといわれ、彼女の祠のあるカルコス山の山麓は、金やプラチナ、その二つよりさらに貴重なオリハルコン等を求める人々で終日ごった返しているという。


 ちなみにその精霊、貢物には化粧品がいいらしい。


挿絵(By みてみん)


 さて、そんな今話題の精霊モルディーナの祠に忍び寄る影が一つ。

 時刻はまだ夜が明けるまえの早朝だ。

 薄暗い周囲には霧が立ちこめ、木々の葉をシットリと湿らせている。


 その巨大な影は、足音を立てずにそっと露に濡れた庭を通り、祠の奥にある宿泊施設の窓へと歩みを進めた。

 低い姿勢で左右を確認し、人目が無いのを確認すると、息を潜めながら囁いた。


「シアナ。 起きてるか?」


 返事のかわりに、中で誰かが体を起こす衣擦れの音がする。


 つっ……

 明かり用のランプの油を潤滑油がわりに窓の金具に()し、部屋の中にいた人物が音もなく扉を開く。


 ばさっ。

 そんな音を立てて、窓の外にいた影の首に、荷物の詰まったリュックが掛けられる。


 続いて、小さな子供のような人影が、窓の手すりを越えてヒラリと外に控えた影の背中に舞い降りた。


「おまたせ。 行こうか、ミノ君」

 小柄な人影が、そっと小さな声で囁く。

 臥待月の淡い光に照らされたのは、旅装束のシアナと、牛の姿のミノルだった。


 ミノルの蹄には、音を立てないようにタオルまで巻いてある念の入れようだ。


 一人と一匹は、そのまま足音を立てないように、そっと祠の外へと向かう。

 やがて、祠から十分に離れると、ミノルは蹄に巻いたタオルを口で噛み千切り、軽快なスピードで走り出した。

 東から上り始めた太陽に照らされ、周囲の景色が黒一色の平地から、色鮮やかに春の花が咲き乱れる花畑へと変化する。


「ねぇ、ミノ君。 どっちにゆくの?」

 夜明けの光に、(まぶ)しそうにしながらシアナが笑うと、ミノルは耳をピクビクさせながら考え込み、

「そうだなー とりあえず西に行ったらドミニオの奴やヨシュアの兄さんに色々と勧誘されそうだからパス」

 苦笑いをしながらそんな答えを口にする。


「北はまだ雪深いし、わたしの実家が近いからダメよー?」

 両親や故郷の人たちとあまり顔をあわせたくない理由があるのか、シアナは渋い顔で北行きを却下した。


「じゃあ、東か南だな」

 ミノルがそう頷くと、

「あ、南がいい! わたし海が見たい!!」

 シアナは、目をキラキラさせながら叫んだ。


「よし、海か! そうと決まれば、飛ばすぞ!」

「やーん、やさしく走ってくれないとお尻痛くなっちゃう!」

 気合を入れるミノルにシアナがそんな苦情をつけると、ミノルは憮然として、

「次の街までぐらいガマンしろ!」

 シアナに構わずスピードを上げようとする。


「ダメー! 言うことを聞かないなら、実力行使あるのみ!!」

 そのまま、ミノルの首をよじ登って、弱点である耳に手を伸ばす。


「やめろ、シアナ! 危ない!!」

「ふふふ……ミノ君。 大人しくスピードを落としなさい。 今から誰がご主人様かたっぷりと教えてあげます」

 シアナのSっ気前回の台詞に、

「むろん主人は俺だろ! うわっ、やめろ! 耳はよせぇーっ!?」

 ミノルの悲痛な絶叫が響き渡る。


 どすっ。


 朝日に照らされた花畑に、何か重いものが倒れる音が木霊した。


「やめろ! シアナ! 俺たちにはまだそんなことは早い! こら、パンツに手をかけるな!!」


 清々しい朝の風景に、なにか不謹慎な音が響き渡る。


 そんな一人と一匹の上を、渡り鳥が奇妙なものを見る目を向けて通り過ぎた。


 時は夜明け

 花は盛り

 旅する人は南を目指す

 春告げ鳥が名乗り上げ

 乙女は一人、牛を()

 彼の貞操知る人ぞ無し。

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