Interlude【黒毛和牛】始まりはいつも牛
召喚獣の肉体は、奉仕者と呼ばれる術者の魂、器と呼ばれる肉体、そして神の能力が詰まった魄と呼ばれる3つの要素から成り立っている。
パソコンで言うならば、器がハードで、魄がソフト、魂がユーザーだ。
とうぜんながら、レベルの低いハードでは高度なソフトを処理できないし、ユーザーに知識がなければソフトをまともに動かすこともかなわない。
ちなみに、魄に関してはミノルたち奉仕者の管轄であるが、器に関しては召喚師にしか関与できない部分である。
召喚師の能力をパソコンに例えるなら、さしずめ経済力と言ったところだろうか?
実際、器の質は召喚師の捧げた代償によってランクが決まる。
そしてミノルは異世界に呼び出されるたびに思う。
……なにが悲しくて俺は牛にならねばならんのだろう。
目の前には、いつものように牛しか構成できない、実に慎ましい器の材料が用意されていた。
当然ながら、シアナからのリクエストは、いつもの黒牛である。
ミノルは、手持ちの魄の中から黒牛の魄を取り出すと、器に注ぐ。
器が黒牛の形になったのを確認してから、続けてその器の中に入り込んだ。
そしてミノルは黒牛という器の中で目を覚ます。
そこにいるのは、神をも狂わすと呼ばれた美しい乙女。
……べつに、顔に惚れたおぼえは無いんだがな。
心の中で呟くと、ミノルはゆっくりと起き上がり、いつもの台詞を口にする。
「いい加減にしろ、シアナ! また黒牛か!?」
「だってー 他の器用意するほどお金無いもん。 なにより出合ったときの思い出の姿って素敵じゃない? それとも、ちゃんと子牛って所まで指定したほうがいい?」
「いらんわ!!」
『おはよう』でも、『元気か?』でも、ましてや『会いたかった』でもない。
二人の挨拶はいつもこんな感じで始まる。