第60話 助けに来た
馬の蹄の音が近づいた。
路地の入り口に数騎が現れた。先頭の人間が馬を止めて飛び降りた。
エドヴァルドだった。
「無事か」
走ってきた。ほとんど叫ぶような声だった。
私は少し驚いた。
「はい。少し腕を——」
エドヴァルドが私の腕を見た。つかまれた場所が赤く残っている。目が止まった。
「……誰がやった」
低い声だった。温度がなかった。
「逃げていきました。顔はよく覚えていません。路地の奥へ」
エドヴァルドがそれを聞いて、少し息を吐いた。
膝をついた。
私の目線に合わせた。地面に膝をついて、こちらを見た。
「怪我は他にないか」
「……腕だけです。転びませんでしたし、打った場所もありません」
エドヴァルドが腕を確認した。赤みを見た。手が触れた。その手が——少し震えていた。
「大丈夫です、本当に」
声が少し揺れていた。自分でも気づかなかった。
「ミレイが助けてくれました」と続けた。「叫んでくれて、周りの方々が気づいてくださって——ミレイがいなければ」
「ミレイ」とエドヴァルドが言った。立ち上がって、少し後ろに立っているミレイを見た。「よくやった」
ミレイが頬に手を当てた。目が赤くなっていた。「……はい」と言った、声が細かった。
* * *
カルルが少し離れた場所から一部始終を見ていた。
侯爵の顔。
七年で見たことがない顔だった。怒りと安堵が混在した、制御しきれていない表情だった。
——来てみれば。腕に跡がある。
侯爵が何を思っているか、カルルには大体分かった。「また」という感情が底にある。そう思った。
* * *
「城へ戻ります」と私は言って立ち上がった。「歩けます」
「歩かせるわけにはいかない」
エドヴァルドが言い切った。
手が来た。腕ではなく、私の手を取った。引きながら、馬のそばへ連れていった。
「乗れるか」
「乗れますが——」
「乗れ」
有無を言わさない言い方だった。
エドヴァルドが先に乗り、手を差し伸べた。引き上げられた。馬の背に並んで、前後に座る形になった。エドヴァルドの腕が横から来た。落ちないように、という意味だろう。
馬が動き始めた。
城下の通りを進みながら、エドヴァルドが言った。
「……怖かったか」
静かな声だった。先ほどの低い怒りの声とは違う。
「……少し、です」と答えた。「でも冷静でした。不思議なほど」
「そうか」
しばらく沈黙があった。馬の蹄の音と、風の音だけがあった。
「……来てくれるとは、思っていませんでした」
声が出ていた。言おうと思っていたわけではなかった。
「来るに決まっている」
短く、でも確かに、エドヴァルドが言った。




