第4話 ミレイが気づく
「夫人、毎日同じ場所に通っているのですね」
薬品庫の入口で、ミレイが言った。三日目の午前中。私は棚の前にしゃがみ込み、薬瓶を一つずつ持ち上げて数を確認しているところだった。
「はい」
「……何をなさっているのですか、本当のところ」
本当のところ、という言葉が少し面白かった。建前ではなく本当のことを聞く、という意図が見えている。正直な娘だ。
「在庫の整理をしているだけです」
「在庫の整理……」
ミレイがそっと近づいてきて、私が持っている羊皮紙を覗き込んだ。そこには三日分の数字が並んでいる。最初に確認した数量、今日改めて確認した数量、その差。差が出ているものには、小さく印をつけてある。
しばらくの沈黙の後、ミレイが言った。
「……夫人は、何者なんですか」
「どういう意味ですか」
「いえ、失礼でしたが……こんな表をするすると作れる方だとは思っていなかったので」
私は羊皮紙を一度置いて、ミレイを見た。
「前世でこういう仕事をしていたので」
「前世、と言いますと」
「生まれ変わりの話です。前の人生で、記録を管理する仕事をしていました」
ミレイは「ぜんせ」という言葉を口の中で繰り返したような顔をしてから、「……信じていいですか、それ」と言った。
「信じても信じなくても構いません。ただ、記録を管理したことがあるのは本当のことです」
私はまた数を確認し始めた。ミレイが何か言うかと思ったが、彼女はしばらく黙って私の手元を見ていた。
三日間の確認で、おおよその全数が把握できた。最初に確認した数と今日の数に差が出ているものが六種類ある。補充が必要なものが二種類、理由不明の消費が一種類。有効期限切れの可能性があるものが三種類。
有効期限の管理ができていないのは想定内だった。この世界にも薬草の効能が落ちるという概念はある。ただし「いつ作ったか」を記録する習慣がなければ、いつから古いかが分からない。
「夫人」
「なんですか」
「……これを全部一人でやっているのですか」
「ミレイが手伝ってくれているでしょう」
「でも私は棚から取るだけで……」
「そのほうが速くなるので、充分助かっています」
ミレイがまた黙った。窓の外で鳥が鳴いていた。
「気づいて黙っていてくれるなら助かります」
私は言葉を足した。ミレイが「え?」と声を上げた。
「私がここで作業していることを、他の方に特に話さなくてよいということです。城の内務確認は私の職分ですから、言いふらす必要もありませんが」
「……それはつまり、ガストン様とか、侯爵様とか、ですか」
「侯爵様にはいずれ報告しますが、今は整理の途中ですので。ガストン様は……できれば、必要があるまで」
ミレイは少し考えるような顔をしてから「分かりました」と言った。
「気になることがあれば聞いていただければ、私が知ってることは答えます。ガストン様のことも、城のことも」
「ありがとうございます」
「あと、夫人」
ミレイが少し背を伸ばして言った。
「夕食を抜くのは、やめてください。昨日も前日も、食堂に来なかったじゃないですか。こっそり持ってきますけど、ちゃんと食べてください」
「……すみません」
「謝らなくていいですから、食べてください」
強い。そう思った。この娘は、見た目よりずっと強い。
記録の確認を続けながら、昨日の食事のことを考えた。確かに作業が終わったら夜になっていた。夕食のことを失念していた。前世でも同じことをよくやっていた。仕事に集中すると、他のことが頭から抜ける。
「では」と私は言った。「もし何か必要なものがあれば言いますので」
「はい!」
「羊皮紙を少し余分に用意してもらえますか。記録帳に転記するためのものが必要で」
ミレイが「分かりました!」と元気よく答えた。
薬品庫の作業は、着実に進んでいる。




