表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰の役にも立たないと言われて嫁いだ先で、私はようやく普通に仕事ができるようになりました  作者: ヲワ・おわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/15

第4話 ミレイが気づく

「夫人、毎日同じ場所に通っているのですね」


 薬品庫の入口で、ミレイが言った。三日目の午前中。私は棚の前にしゃがみ込み、薬瓶を一つずつ持ち上げて数を確認しているところだった。


「はい」


「……何をなさっているのですか、本当のところ」


 本当のところ、という言葉が少し面白かった。建前ではなく本当のことを聞く、という意図が見えている。正直な娘だ。


「在庫の整理をしているだけです」


「在庫の整理……」


 ミレイがそっと近づいてきて、私が持っている羊皮紙を覗き込んだ。そこには三日分の数字が並んでいる。最初に確認した数量、今日改めて確認した数量、その差。差が出ているものには、小さく印をつけてある。


 しばらくの沈黙の後、ミレイが言った。


「……夫人は、何者なんですか」


「どういう意味ですか」


「いえ、失礼でしたが……こんな表をするすると作れる方だとは思っていなかったので」


 私は羊皮紙を一度置いて、ミレイを見た。


「前世でこういう仕事をしていたので」


「前世、と言いますと」


「生まれ変わりの話です。前の人生で、記録を管理する仕事をしていました」


 ミレイは「ぜんせ」という言葉を口の中で繰り返したような顔をしてから、「……信じていいですか、それ」と言った。


「信じても信じなくても構いません。ただ、記録を管理したことがあるのは本当のことです」


 私はまた数を確認し始めた。ミレイが何か言うかと思ったが、彼女はしばらく黙って私の手元を見ていた。


 三日間の確認で、おおよその全数が把握できた。最初に確認した数と今日の数に差が出ているものが六種類ある。補充が必要なものが二種類、理由不明の消費が一種類。有効期限切れの可能性があるものが三種類。


 有効期限の管理ができていないのは想定内だった。この世界にも薬草の効能が落ちるという概念はある。ただし「いつ作ったか」を記録する習慣がなければ、いつから古いかが分からない。


「夫人」


「なんですか」


「……これを全部一人でやっているのですか」


「ミレイが手伝ってくれているでしょう」


「でも私は棚から取るだけで……」


「そのほうが速くなるので、充分助かっています」


 ミレイがまた黙った。窓の外で鳥が鳴いていた。


「気づいて黙っていてくれるなら助かります」


 私は言葉を足した。ミレイが「え?」と声を上げた。


「私がここで作業していることを、他の方に特に話さなくてよいということです。城の内務確認は私の職分ですから、言いふらす必要もありませんが」


「……それはつまり、ガストン様とか、侯爵様とか、ですか」


「侯爵様にはいずれ報告しますが、今は整理の途中ですので。ガストン様は……できれば、必要があるまで」


 ミレイは少し考えるような顔をしてから「分かりました」と言った。


「気になることがあれば聞いていただければ、私が知ってることは答えます。ガストン様のことも、城のことも」


「ありがとうございます」


「あと、夫人」


 ミレイが少し背を伸ばして言った。


「夕食を抜くのは、やめてください。昨日も前日も、食堂に来なかったじゃないですか。こっそり持ってきますけど、ちゃんと食べてください」


「……すみません」


「謝らなくていいですから、食べてください」


 強い。そう思った。この娘は、見た目よりずっと強い。


 記録の確認を続けながら、昨日の食事のことを考えた。確かに作業が終わったら夜になっていた。夕食のことを失念していた。前世でも同じことをよくやっていた。仕事に集中すると、他のことが頭から抜ける。


「では」と私は言った。「もし何か必要なものがあれば言いますので」


「はい!」


「羊皮紙を少し余分に用意してもらえますか。記録帳に転記するためのものが必要で」


 ミレイが「分かりました!」と元気よく答えた。


 薬品庫の作業は、着実に進んでいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ