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誰の役にも立たないと言われて嫁いだ先で、私はようやく普通に仕事ができるようになりました  作者: ヲワ・おわり


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第35話 初めての共同作業

 二日後の午後、私は計算表を持って執務室に向かった。


 前夜から作り始めた表だった。兵の数と訓練期間から一日あたりの消費量を算出し、輸送頻度と在庫の最低水準を出して、それを春の日程に当てはめた。帳簿を何度も確認しながら作ったので、数字への自信はある。


 扉を叩くと、「入れ」という声がした。


 エドヴァルドが机の前に座っていた。地図が広げてあった。軍の配置か、あるいは道路の図か——私には詳しくは分からない種類の地図だった。


「計算表を持参しました」


「見せろ」


 表を机の上に置いた。エドヴァルドがそれを引き寄せて、しばらく数字を見た。


「この兵数は冬季訓練の全人数か」


「はい。カルル様から伺った数字をもとにしています」


「ここの輸送頻度——三日に一度になっているが」


「倉庫の在庫水準を保つための最低頻度として算出しました。食糧の品目によっては腐敗を考慮して二日に一度の品目もあります、右の欄に分けて記載しています」


 エドヴァルドが右の欄を見た。


「……よく整理している」


「計算の条件を変えたい場合は、その欄に変数として書いてあります。例えば兵数が変わった場合は——」


「待て」


 エドヴァルドが地図の一点を指した。


「この道は、冬は凍る。雪が降れば輸送日数が変わる。三日ではなく、場合によっては四日から五日かかる」


 私は表を見た。


「……輸送日数が変わるなら、在庫水準の計算も変わりますね。補正が必要です」


「どうなる」


「少し計算させてください」


 持ってきた手帳を開いた。エドヴァルドが待った。声もなく、気配もなく、ただそこにいた。急かす感じがない。私は数字を書き込んだ。


「道路状況を最悪五日と仮定すると、在庫の最低水準をここからここまで引き上げる必要があります」と私は表の数字を指した。「ただし、その分を確保するには倉庫の現在の容量では——」


「足りないか」


「品目によっては。穀類は問題ありませんが、燃料と薪の保管場所が課題になります」


 エドヴァルドが少し考えた。


「東の副倉庫が空いている。冬の間はそこを使える」


「それであれば問題解決します。記録上は副倉庫分の在庫も管理対象に入れる形で表を修正します」


「修正できるか」


「今ここで数字だけ直します。清書は戻ってからします」


 私は表の余白に補正後の数字を書き込んだ。エドヴァルドが横から覗き込んだ。机を挟んでいるので少し遠い角度だったが、数字を追っているのが分かった。


「ここが変わると、この欄も変わりますね」と私は言いながら書き込んだ。「こうなります」


「……そうか」


 しばらく二人で表を眺めた。


「これで春の訓練期間中の物資は回る」とエドヴァルドが言った。


「はい。ただし二月頃に一度在庫を確認する機会を設けた方が安全です。道路状況によっては早めの補充が必要になるかもしれませんので」


「そうする。確認のタイミングはカルルを通じて連絡する」


「承知しました」


 私は修正を書き込んだ表を集めた。清書は部屋に戻ってからだ。


「助かった」


 エドヴァルドが言った。短い言葉だった。


「いえ。道路が凍るという情報がなければ、計算が不完全なまま終わっていました。ご指摘いただいて助かりました」


 エドヴァルドが少し黙った。


「……協力した、ということか」


「そうなります」


 何かを言おうとして、やめたような間があった。私は表を持って立ち上がった。


「清書が完成したらお届けします」


「頼む」


 礼をして、執務室を出た。


 廊下を歩きながら、少し考えた。仕事の話をしている間は、自然に動けた。数字と言葉だけのやりとりで、余分なことを考える必要がなかった。エドヴァルドが「これはどうなる」と聞いて、私が計算して答える。それだけのことが、なぜか——心地よかった。


 前世で働いていた時、上司は指示だけ出して確認はしなかった。数字を出しても「ありがとう」も「助かった」も一度もなかった気がする。


 違うのだと、思った。

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