第33話 ざまぁ①の完成
王都では、話が広まっていた。
ローレンシアが友人の令嬢から聞いたのは、お茶の席でのことだった。
「辺境侯爵夫人が、領地を変えているという話、ご存じ?」
「辺境の……ああ、クレアモント家の三女が嫁いだという」
「そうそう。なんでも薬品の管理から食糧倉の整備まで、一人でやってしまったとか。しかも流行病を封鎖した話まで広まっていて」
「……あの、地味な?」
「クレアモント家の三女でしょう? そうよ。意外でしょう?」
ローレンシアはお茶のカップを持ったまま、少し固まった。
レティシア。あの、いつも静かで、目立たなくて、姉たちの会話の端に座っていた末妹が。
「……本当に?」
「噂だから確かとは言えないけど、複数の人から聞いたわ。辺境の侯爵がとても信頼しているとか」
ローレンシアは何かを言おうとして、やめた。
* * *
クレアモント伯爵家では、伯爵が書斎に籠もっていた。返書を読んでから二日が経っていた。
「必要な人間、か」
独り言だった。
「役立たずだと思っていた。辺境侯爵に押しつければよいと思っていた。それが——必要な人間、だと」
娘の顔が浮かんだ。地味な亜麻色の髪。落ち着いたグレーの瞳。いつも静かで、感情を出さなくて、長姉や次姉の陰に隠れていた娘。
「……どういうことだ」
* * *
辺境では、私は次の仕事の準備を進めていた。
引き取りが断られた。ここにいていいと言われた。ならば、続けよう。それだけのことだ。
「夫人、最近侯爵様が声をかけてこられることが増えましたね」とミレイが言った。
「そうですか」
「廊下ですれ違う時も、前は何もおっしゃらなかったのに、最近は一言二言……」
「気のせいでは」
「気のせいじゃないと思いますよ」
私は手帳を閉じた。帳簿の複式への切り替えの準備を進めたい。エドヴァルドの許可が出たので、今度は全体の帳簿を見せてもらえる。そこから何が見えるか——。
「夫人」とミレイがもう一度呼んだ。「「ここにいていいのかもしれない」って、思いましたか?」
少し間があった。
「……そうかもしれません」と私は答えた。
「よかった」
ミレイが本当にそう思っているような顔で言った。私は少しだけ、笑いそうになった。
その夕方、エドヴァルドから「話がある。明日時間を取れるか」という伝言が届いた。




