表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰の役にも立たないと言われて嫁いだ先で、私はようやく普通に仕事ができるようになりました  作者: ヲワ・おわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/65

第29話 あなたがやったのか

「……はい。問題があったので」


 答えてから、少し間を置いた。


「余計なことでしたか」


 エドヴァルドが少し動いた。窓の外から視線を私に戻す。


「なぜ俺に言わなかった」


「頼まれてはいなかったので」と私は答えた。「報告するほどのことかと思いませんでした」


「……報告するほどのことではない、と」


 エドヴァルドが繰り返した。少し言葉を失っているような、そういう沈黙があった。


「薬品庫の整備、食糧倉の管理計画、帳簿の三点照合書類、流行病の封鎖提案——これが「報告するほどのことではない」という判断か」


「侯爵夫人として、内務の確認は職分の範囲と認識していましたので。特別なことをしたわけではないと……」


「特別なことではない」


 エドヴァルドがもう一度繰り返した。繰り返すたびに少しずつ、何かが変わっていく声の質だった。


「問題があれば放置できない性分なので」と私は続けた。「ご迷惑でしたか」


「迷惑ではない」


 短い答えだった。


「ガストンが妨害していたと聞いた。それでも続けていたのか」


「帳簿室については迂回しました。入らなくても確認できる方法があったので」


「迂回、か」


 エドヴァルドが窓際から机の方向に動いた。立ったまま、机の上の書類——薬品庫の記録帳の写し、食糧倉の管理計画書、三点照合書類——を見た。


「これだけのことをして、なぜ黙っていたのか」


「言う必要があると思いませんでした」


「……」


「問題があって、解決策があって、実行できる権限がある。それだけのことです。誰かに報告する理由が分からなくて」


 エドヴァルドが私を見た。静かな黒い目だ。何を考えているのか、表情から読み取れない。


「褒められたくてやっていたわけではないのか」


「……はい」


「認めてもらいたくてやっていたわけでもない」


「認めていただければありがたいですが、それを期待して動いていたわけでは」


 また沈黙が続いた。


 私は手を膝の上で組んで、静かに待った。何を言われるにしても、冷静に聞こう。間違ったことはしていないから。


「……余計なことではない」


 エドヴァルドが言った。


 低く、静かな声だった。


「そうですか」と私は答えた。「ありがとうございます」


 立ち上がろうとした時、エドヴァルドがまだ言葉を続けた。


「一つ聞いていいか」


「はい」


「なぜ、城に来てから、それをやり始めたのか」


 私は少し考えた。


「薬品庫を見た時に、記録がないことに気づいたので」と答えた。「放置できなかっただけです。そういう性分なので」


「最初の日に気づいたのか」


「はい。着いてすぐに薬品庫に行って」


「……散歩で、か」


 エドヴァルドの声に、わずかに何かが混じった気がした。呆れとも、驚きとも違う何かが。


「散歩のついでです」


 沈黙。そして——。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ