第29話 あなたがやったのか
「……はい。問題があったので」
答えてから、少し間を置いた。
「余計なことでしたか」
エドヴァルドが少し動いた。窓の外から視線を私に戻す。
「なぜ俺に言わなかった」
「頼まれてはいなかったので」と私は答えた。「報告するほどのことかと思いませんでした」
「……報告するほどのことではない、と」
エドヴァルドが繰り返した。少し言葉を失っているような、そういう沈黙があった。
「薬品庫の整備、食糧倉の管理計画、帳簿の三点照合書類、流行病の封鎖提案——これが「報告するほどのことではない」という判断か」
「侯爵夫人として、内務の確認は職分の範囲と認識していましたので。特別なことをしたわけではないと……」
「特別なことではない」
エドヴァルドがもう一度繰り返した。繰り返すたびに少しずつ、何かが変わっていく声の質だった。
「問題があれば放置できない性分なので」と私は続けた。「ご迷惑でしたか」
「迷惑ではない」
短い答えだった。
「ガストンが妨害していたと聞いた。それでも続けていたのか」
「帳簿室については迂回しました。入らなくても確認できる方法があったので」
「迂回、か」
エドヴァルドが窓際から机の方向に動いた。立ったまま、机の上の書類——薬品庫の記録帳の写し、食糧倉の管理計画書、三点照合書類——を見た。
「これだけのことをして、なぜ黙っていたのか」
「言う必要があると思いませんでした」
「……」
「問題があって、解決策があって、実行できる権限がある。それだけのことです。誰かに報告する理由が分からなくて」
エドヴァルドが私を見た。静かな黒い目だ。何を考えているのか、表情から読み取れない。
「褒められたくてやっていたわけではないのか」
「……はい」
「認めてもらいたくてやっていたわけでもない」
「認めていただければありがたいですが、それを期待して動いていたわけでは」
また沈黙が続いた。
私は手を膝の上で組んで、静かに待った。何を言われるにしても、冷静に聞こう。間違ったことはしていないから。
「……余計なことではない」
エドヴァルドが言った。
低く、静かな声だった。
「そうですか」と私は答えた。「ありがとうございます」
立ち上がろうとした時、エドヴァルドがまだ言葉を続けた。
「一つ聞いていいか」
「はい」
「なぜ、城に来てから、それをやり始めたのか」
私は少し考えた。
「薬品庫を見た時に、記録がないことに気づいたので」と答えた。「放置できなかっただけです。そういう性分なので」
「最初の日に気づいたのか」
「はい。着いてすぐに薬品庫に行って」
「……散歩で、か」
エドヴァルドの声に、わずかに何かが混じった気がした。呆れとも、驚きとも違う何かが。
「散歩のついでです」
沈黙。そして——。




