第28話 執務室へ
「今から執務室に来てくれるか」
エドヴァルドはそれだけ言って、先を歩いていった。
私はミレイを振り返った。ミレイが「行ってきてください」と言って、少し不安そうな顔をしていた。
「先に部屋に戻って休んでいてください。少し時間がかかるかもしれないので」
「……何かあったんでしょうか」
「分かりません」
「夫人、大丈夫ですか?」
「大丈夫です」と答えて、先を歩いた。
廊下を歩きながら、頭の中で考えた。何の用だろう。帳簿のことか。流行病の件でハルネット氏から何か伝わったのか。それとも——勝手なことをしすぎたという指摘か。
後者の可能性は、低くはない。私は侯爵夫人の職分の範囲で動いてきたつもりだが、実際には相当広い範囲に手を入れた。薬品庫、食糧倉、帳簿、封鎖の提案。全部について何か言われても、おかしくない。
廊下の曲がり角でカルルに会った。
「夫人、緊張していますか?」
「いいえ」
「……嘘が下手ですね」
カルルが小声でそう言ってから、歩き去った。
私は少しだけ足を止めた。嘘が下手、か。表情には出していないつもりだったが——カルルにはバレていたらしい。
執務室の前に着いた。重厚な木の扉。廊下の先から、窓の明かりがかすかに見える。
深く息を吸った。
問題があれば放置できない性分だった。それがたまたま城のいくつかの問題に当てはまった。それだけのことだ。何かを言われるとしても、やったことに間違いはない。
記録は残した。数字は正確だった。封鎖は結果として機能した。それは事実だ。
扉を開けた。
エドヴァルドが机の前に立っていた。書類ではなく、立ったまま私が来るのを待っていたようだった。
私は部屋に入って、礼をした。
「閉めてくれ」
扉を閉めた。
二人だけになった。エドヴァルドが机の前から少し動いて、窓の近くに立った。
「座ってくれ」
「はい」
椅子に座った。エドヴァルドは立ったまま、窓の外を少し見てから、こちらを向いた。
何を言われるのか、表情からは読み取れない。いつも通りの、冷静な目だ。
「この半年——」
エドヴァルドが口を開いた。
「薬品庫から始まり、食糧倉の管理、帳簿の照合、そして流行病の封鎖まで」
私は黙って聞いた。
「……あなたがやったのか」
問いかけだった。確認するような、でも確信があるような声で。
廊下の外で、誰かが歩く音がした。それが遠ざかってから、私は答えた。




