第20話 冬の余裕
十二月になった。
例年この時期には食糧の補充に城下の商人が呼ばれ、「今年も足りなくなった」という苦い話が出るはずだった。
今年は違った。
食糧倉の扉を開けると、棚の奥まで麦袋が積まれている。乾燥野菜の束も、先月の記録帳より少し増えていた。入庫と消費のバランスが取れているから、不足が起きない。
「今年は助かりました」
城下の商人——食糧倉との取引がある男性——が届け物のついでにそう言った。「いつも冬の終わりに急な注文が来て大変だったのに、今年は何の連絡もないから、逆に心配して来ました」
「今年は問題なく管理できているので、急な補充は必要ありません」
「それはよかった。侯爵家がしっかりされると、こちらも助かります」
男性は会釈して去っていった。私は記録帳の確認に戻った。
「夫人、城下でも話が広まってるみたいですよ」とミレイが言った。「今年の冬は食糧倉に余裕があるって。夫人のおかげだって」
「在庫管理をしただけです」
「夫人ー……もうちょっと喜んでくださいよ」
「喜んでいないわけではないですが」
「ぜんぜん分からないです!」
ミレイが小声で抗議した。
一方、執務室では。
「例年の食糧不足が、今年は発生しなかったという報告が来ている」
カルルが「はい。城下の商人からも、急な注文が来なかったと聞きました」と答えた。
「誰が計算した」
「夫人かと。秋のうちに在庫と消費ペースを計算して、備蓄計画を立てておられたようです」
エドヴァルドが少しの間、窓の外を見た。十二月の辺境は早い夕暮れだ。
「半年で、薬品庫、食糧倉、帳簿。全部変えたのか」
「……そうなります」
「そして誰にも言っていない」
「はい。使用人の間では噂になっていますが、夫人ご本人は何も言っていないようで」
エドヴァルドが椅子の背に体重を預けた。考えるような、確認するような、そういう顔をしていた。
「直接話す」
「……夫人と、ですか」
「今の話を直接聞く。俺が確認しないと分からないことがある」
カルルは「承知しました」と答えながら、内心で「ついに」と思った。
廊下でレティシアとすれ違った。彼女は何か考えながら歩いていた。一人で、手帳を持って。ミレイとは少し離れている。
何を考えているのだろう、と思った。たぶん次の問題だ。解決したことへの達成感より、解決していないことへの関心の方が大きい人なのだと、カルルにはもう分かっていた。
「夫人」
声をかけると、彼女が振り返った。
「診療記録の整備を考えておられるとか」
「はい。春から着手したいのですが、ヘルダさんとの連携をもう少し詰めておく必要があって」
「……城下でも、発熱の患者が少し増えているという話を聞きました。もし診療記録が整備されていれば、早期に動けるかもしれません」
レティシアがわずかに目を動かした。
「どの地区で、ということは分かりますか」
「確認してみます」
「……できればお願いします」
彼女はそれだけ言って、また歩き始めた。
カルルは「この方が来て、領地が変わった」という事実を、改めて確認した。




