第14話 見えてきた横領
三点の数字が揃った。
発注記録、業者の控え書、実際の在庫数。この三つを並べて照合すると、問題の構造が見えてくる。
発注記録では、先月の麦の購入量は百二十袋。業者の控えでは、実際に納品されたのは百袋。倉の在庫は八十袋。
発注量と納品量の差が二十袋。さらに、納品された百袋から倉の現在の在庫を引くと、二十袋が理由不明で減っている。
つまり帳簿上は百二十袋分の代金が支払われたことになっているが、実際に届いたのは百袋、そして倉にあるのは八十袋。消えた四十袋分のお金と物資がある。
前世での経験で、このパターンに見覚えがあった。定期的な横流し。金額は一度に大きくはない。しかし継続的に、目立たない形で続けられる。記録が単式でバラバラに管理されていれば、三点を同時に確認しない限り発覚しない。発覚しないから続けられる。
私は照合した数字を一枚の書類にまとめた。日付、物資の種類、発注記録の数字、業者控えの数字、実際の在庫数、差異の額。それを時系列に並べると、三か月にわたって同じパターンが繰り返されていることが分かった。
「これをどうするか」
部屋の机に向かいながら考えた。
侯爵に直接報告するのが筋だ。しかし私は一介の侯爵夫人で、家令の管轄に干渉してきた立場だ。「越権行為」と捉えられる可能性がある。
かといって黙っていることもできない。これは問題だ。
一番穏当な方法は——書類を、侯爵が確認できる場所に置くことだ。
私から「横領があります」と告発するのではなく、事実を数字として整理した書類が「そこにある」状態にする。誰かが確認すれば分かる。確認しなければ分からない。判断は相手に委ねる。
それが、一番私の立場にあった動き方だと思った。
翌日、食糧倉関係の書類を整えて、執務棟の書類提出口に正式に提出した。「侯爵夫人より、食糧倉管理に関する記録」という表紙をつけて。
担当の使用人が受け取って「お預かりします」と言った。
それだけだ。
後は何も言わなかった。書類がどこへ行くかも、誰が何を判断するかも、私の手を離れた。
「……夫人、本当にそれでいいんですか?」
隣を歩いていたミレイが、少し不安そうに言った。
「何が気になりますか」
「何かあったって報告したほうが、すぐ動いてもらえるんじゃないですか」
「そうかもしれません。でも証拠を揃えた書類を提出することで充分です。判断は侯爵がするものですから」
「夫人って……なんか、すごく落ち着いていますね」
「特に何もしていません」
「いや、してますよ絶対」
ミレイが苦笑した。私は少し歩みを速めた。
次の問題がある。診療記録の整備が、まだ手つかずだ。




