18
世界の入り口に足を踏み入れた時、エリスはひんやりとした感触と共に言葉にはできない、何とも不思議な感覚に襲われた。そして一瞬、目を開けていられないほどの眩しさの後に、目を開けるとそこにはエリスの知らない、全くの別世界が広がっていた。
「う、わあ……!」
どこまでも遠く突き抜けしまうような青空、流れる雲、すがすがしいほどの気持ちいい風。
「う、ええっ!?」
突然、頭上に大きな影ができて上を見上げると、そこには大きなドラゴンが優雅に空を泳いでいる。一匹だけではなく、空を何匹も飛んでいるのだ。
「えっ!?ド、ドラゴン!?」
「ははは、こっちの世界ではドラゴンが飛んでいるのなんて普通だ。ペガサスもグリフォンもいる。他にもあちらの世界では魔物とか魔法動物とか言われている生き物がこちらの世界では当然のように暮らしている。争いはない、平和な世界だ。ああ、魔物や魔法動物だけでなく、普通の動物も当然暮らしているよ」
イリオは驚くエリスを見ながら楽しそうに笑っている。
(ここが、神獣の住まう世界……!)
明らかに空気感が違う、とエリスは思った。自分が暮らしていた世界と比べ、心も体もなぜか軽い。身の回りに漂う空気そのものが清らかで美しいのが、肌でわかるのだ。
エリスは目をキラキラと輝かせ鳥肌が立ち、興奮で頬を赤らめる。
「さ、俺たちの暮らす場所へ行こう。まだ何も創っていないが、すぐに創りだせるから問題ない」
そう言ってイリオはエリスに手を差し出す。その手を、エリスは迷うことなく掴んだ。
*
(ここが、私たちの暮らす場所……?)
イリオに連れられた場所は、見晴らしのいい草原で、何もなかった。ぼんやりと周辺を眺めていると、イリオは片手を目の前にかざした。イリオの両目が美しく青色に輝く。するとイリオの片手の前に魔法陣が浮かびあがり、イリオたちの目の前に突然大きな屋敷が現れた。
「えっ!?ええっ!?」
幻ではなく、きちんと実在している屋敷だ。突然現れた屋敷に驚いていると、イリオは楽しそうにエリスを見ている。
「言っただろう、なんでも創り出せるって」
「う、うん……」
(お屋敷まで創り出せちゃうんだ、神獣の力ってすごすぎる!)
イリオに手をひかれ、エリスは屋敷に入る。まだ殺風景ながら美しい屋敷内にエリスは目を輝かせた。
「内装や必要な物はこれから追々付け足して行くとして、最低限のものは全てそろってる。生活するには不自由ないはずだ。それから、レイヴンにはこの屋敷の執事長として統括をしてもらう」
「おまかせください」
そう言って、レイヴンはにっこりと微笑んだ。
(レイヴンさん、執事までできるの?カラスなのにすごいな)
「メイドも必要だな……ルルー」
――お呼びですか
イリオの言葉に、どこからともなく声がしてふわり、と風が吹く。そしていつの間にか目の前に見知らぬ女性の姿があった。
(あ、れ?私、この人知ってる気がする)
若草色の髪の毛に濃い緑色の瞳、白く透き通るような肌。人のようで人ではないその女性を見た瞬間、エリスはそう思った。そして、その女性はエリスを見て嬉しそうに微笑む。
「リーリア様。無事に戻ってこれたのですね。本当によかった。ああ、そういえば、今はリーリア様ではないのでしたね」
「ああ、エリスと言う。エリス、ルルーはリーリアと同じ精霊だ。リーリアは精霊の中でも力が強かったから、他の精霊たちをまとめる役目をしていたんだ。ルルー、これからはこの屋敷のメイドとしてエリスの世話をしてほしい」
紹介されたエリスは小さくお辞儀をしてから、ルルーを見て微笑む。
「なんとなく、懐かしい気がします」
「それはよかった。これからはエリス様のために力を尽くしますね」
ルルーはそう言ってくるりと回ると、ルルーの来ていた服がメイド服に変わる。それを見てレイヴンはひゅーと口笛を吹いた。
「ルルー、この屋敷の執事長になるレイヴンだ。仲良くしてやってくれ」
「……カラスですか?でもこの世界に来れたと言うことはイリオ様に認められたということですね。わかりました。不服ですがよろしくお願いします」
「不服って……精霊様は差別するのか?まぁいいや、よろしくな」
「精霊全部が差別するわけではありません。リーリア様は差別とは無縁の方でした。私は好き嫌いが多いので」
「へいへい、そうですか」
ルルーとレイヴンの掛け合いを見て、エリスとイリオは目を合わせて微笑む。
「息がぴったりみたいだな。よし、これからよろしく頼むぞ」




