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 エリスの胸元の赤紫色に光る楔がパキィン!と音を立てて砕け散った。


「はっ!?なっ……楔、が!?どうして!?なぜだ!なぜ砕けた!」


 ファシウスは驚愕し絶望した顔でエリスを見つめる。イリオもレイヴンも驚いた視線をエリスへ向けている。


「私は、あなたに屈したりなんかしない!情けも、哀れみも向けたりしない。それはリーリアがずっとあなたに向けてきたもので、それでもあなたはそれを無視して来たんだもの。こんな楔、私には必要ない!」


 エリスがそうはっきりと言い切った瞬間、エリスの背後に漂っていたリーリアの瞳が開かれる。その表情は慈悲深く微笑んでいた。


「リーリア!」


 ファシウスが目を大きく見開いてリーリアに懇願する様に名前を呼ぶ。だが、リーリアは両手を広げて上を向くと、リーリアの体が発光しその光はどんどんと粒になってエリスの中へ入っていった。


「リーリア!どうして!俺を見捨てるのか!リーリア!」


 ファシウスが膝から崩れ落ち叫び声をあげると、リーリアの光の粒は完全にエリスの中に入っていった。


「イリオ、これであちらの世界に拒否されることはもうないと思う」


 ――ああ、そうだな。行こうか、エリス


 エリスの言葉にイリオは深く頷くと、エリスを先導するように大樹に開いている大きな穴へ向かって歩き出した。


「待ってくれリーリア!だめだリーリア!行かないでくれ!」


 ファシウスから赤紫色のどす黒い光がエリスへ向かって放たれるが、レイヴンの黒羽根がそれを弾き飛ばした。そのまま大量の黒羽根がファシウスの周りへ集まり、それはまるで牢獄のようにファシウスを囲んでいる。


「だからしつこい男は嫌われるって言ってんだろ。ああ、そうか、あんたはそもそも嫌われてるんだったな」


 イリオとエリスの前へ庇うようにして立ち、レイヴンは腰に手をあてて小気味良さそうに口角を上げる。


「リーリア!リーリア!」


 ファシウスは懇願するようにエリスへ呼びかける。その呼びかけにエリスが振り返ってファシウスを見るが、そのエリスの表情を見てファシウスは凍り付いた。


「私はリーリアじゃない、エリスです。あなたにとってはリーリアのままなのかもしれませんが、私は今、人間として生をうけ、エリスとして命を全うしています。その人生に、あなたは必要ない」


 意思の強い、だが冷え切った瞳のエリスに、ファシウスは今度こそその場に崩れ落ち、言葉を失った。


 大樹に大きく開いた穴、世界の入り口の前で、イリオはファシウスを見る。そして、ポンッとイリオは人の姿になり、口を開いた。


「お前は父親である国王を動かし俺を殺させようとした。だが、俺はこうしてエリスと出会い、もう一度力を得ることができた。神獣という存在が人々から忘れられているとしても、その存在が個体として在る無しでこの国の力のバランスに大きく影響を及ぼす。俺はこの世界からいなくなる。それはこの国から存在自体が無くなる、ということだ」


 風が吹いて、イリオの美しい白銀の髪の毛がサラサラと揺れる。サファイア色の瞳は、ファシウスをしっかりととらえて離さない。


「神獣という存在が無くなるということは、この国の衰退、果ては滅亡を意味する。お前も、国王も、この国も、すべて無くなるんだ。お前の居場所はどこにもない。せいぜい悔やんでも悔やみきれない思いを噛みしめて、数少ない残りの余生を生きるんだな」


 イリオはそう言うと、エリスの手を取って世界の入口へ足を運ぶ。エリスもイリオの後を追って、世界の入口へ足を踏み入れた。


 二人の姿が無くなったあと、レイヴンはファシウスを見てニヤリ、と笑うと、左手を前にして腹部に当て、右手は後ろに回し優雅にお辞儀をする。そしてレイヴンも世界の入り口へ足を進めた。


 レイヴンの姿が見えなくなると、世界の入り口はゆらゆらと揺れ、消えた。それと同時に、ファシウスを囲んでいたレイヴンの黒羽根も消える。


「あ、ああ、あああ……あああああ!」


 ファシウスの絶望の声だけが、森の中に鳴り響いた。



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