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「だからこうして出会うことができた!今度こそ離さない、その狼にも誰にも渡さない!未来永劫俺のものだ、リーリア!」
ファシウスがそう言うと、ファシウスから赤紫の光が四方八方から伸びてくる。だが、またレイヴンの黒い羽がそれを阻止した。
「ごちゃごちゃとわめきやがって。しつこい男は嫌われるって習わなかったのか?」
レイヴンが腕を組み、呆れたような顔でそう言うと、ファシウスはチッと気に食わなさそうに舌打ちをした。
「あ?カラス風情が邪魔するなよ。神獣にちょっと気に入られてたからって良い気なものだな。お前なんて俺が本気を出せば一瞬で黙らせることができるんだぞ」
ファシウスが鼻で笑いながらそう言うと、エリスを見る。
「リーリア、もしリーリアが自分の意思で俺の元にくるなら、その狼もカラスもこの森も見逃してあげよう。俺はリーリアさえ手に入れば他はどうだっていい。だけど」
そう言ってファシウスは目をギラリと見開く。
「君がまた俺を選ばないと言うのなら、狼もカラスもこの森も、全部跡形もなく消し去ろうじゃないか!まずはそうだな、そのカラスからだ。羽をむしり取りくちばしをもいでギタギタに斬り刻んでやろう、生意気な口をきいた報いだ。その後狼も首を跳ね、四肢を切り刻み心臓をえぐり出す。そして、この森は焼き尽くそう!」
ファシウスは禍々しい気を纏いながら、開いた瞳孔をエリスへ向けて嬉しそうに笑う。
「最後に君の魂ごと殺してあげるよ。君の魂に楔をつけたままだから君を殺したら俺も魂ごと消える。でもそれで良いんだ。君のいない世界なんて意味がない。もう終わりだ。魂ごと一緒に消えるなんて、とてもロマンチックじゃないか」
うっとりとしながらファシウスはそう言ってから、真顔になってエリスを見つめる。
「さぁ、選んで、リーリア」
ドロリとどす黒いものを垂れ流すかのような目でファシウスはエリスを見る。だが、エリスは怯むことなくファシウスを睨みつけた。
「何度でも言いますが、私はリーリアじゃありません、エリスです!たとえリーリアが前世の私でリーリアの記憶が戻ったとしても、それでも今私はエリスです!」
エリスがそう言った瞬間、エリスの体から光が放たれる。そして、エリスの背後に半透明に輝く一人の女性が瞳を閉じた状態で浮いていた。
リーリア!とイリオとファシウスが同時に言うが、リーリアは瞳を閉じたままだ。
「リーリアは優しく純粋な精霊だから、ファシウス様の前世の人を憎むことも怒ることもしなかった。ただただ、どうしてあんなことをしたのかと理解できず、今でもファシウス様の行動を理解できずに苦しんでいます。でも、私はリーリアとは違う」
キッ、とエリスは意思の強い瞳をファシウスに向けた。
「助けてくれた相手を一方的に慕い、思いを押し付けて拒否されたら殺すなんて最低な人間のすることです。自分のことしか考えていない、浅はかで最低な人。そんな人を誰が選ぶって言うんですか」
エリスの言葉に、ファシウスは怒りで顔を歪めている。
「リーリアは優しすぎるから、あなたの楔を砕くことができなかった。あなたがいつか改心して楔を解いてくれるんじゃないかって思っているんです。でも、私は違う。優しいだけじゃ、誰も救えない。そんなの、悲しい連鎖を生み出すだけ」
エリスは胸元をぎゅっと握りしめる。すると、エリスの片手から青白い光が煌々と光りだした。それは、エリスの胸元にある赤紫色の楔を覆っていく。
「間違ってることは間違ってるってちゃんと伝えるべきです。そして、どんなに伝えてもそれを全くわかろうとしない相手なら、もう断ち切るべきなんです。優しさに漬け込むだけの相手から搾取されるだけなんて、そんなの誰も幸せになんてなれない。だから、私はちゃんと私の意思で断ち切ります!」
エリスはそういうと、胸元の手をさらにキツく握りしめた。その瞬間、パキィン!と砕ける音がして、エリスの胸元の赤紫色に光る楔が砕け散った。




