11
レイヴンの力強い言葉に、イリオは今度こそ観念した。
――良いだろう。お前を、俺の従者にしてやる。契約だ
イリオがそう言うと、イリオの足元に蒼白い光の魔法陣が浮かび上がる。同時に、レイヴンの足元にも同じ魔法陣が蒼白く光輝いた。
――汝、神獣イリオの従者となりてその命を我とこの森に捧げよ
イリオがそう言うと、レイヴンの足元の魔法陣がより一層強く光輝く。レイヴンの周囲に小さな竜巻のようなものが巻き起こり、レイヴンは光と風に包まれて見えなくなった。そして、その光と風が止むと、カラスだったレイヴンはいつの間にか人間の姿になっていた。
風に靡くと光を反射して青や紫色に変化する艶やかな黒髪に、濃い紺色の瞳、スラリとした体は真っ黒な服に身を包んでいた。
「これが、俺?」
――そうやって、自由に人間の姿に変身することもできる。一通りの魔法も使えるし、身体能力も強化されている。お前はもう、ただのカラスではない。神獣の従者であり、この森を守る者だ
レイヴンは驚きながら自分の体をきょろきょろと見渡し、それからハッとしてその場にひざまずく。
「イリオ様、ありがたき幸せにございます。誠心誠意、あなたとこの森に尽くさせていただきます」
*
――そうして、あいつは俺の従者となったわけだ
「レイヴンさんの根気にイリオは負けたのね。レイヴンさん、すごい」
ふふっとエリスが笑うと、イリオはワフッと小さく唸った。それから、ふっと空を見上げる。
――来たか
バサッとカラスが降り立ち、黒い煙と共にそれは人の姿になった。
「イリオ様、戻りました」
――ああ、無事に蹴散らしてきたようだな。だが、簡単に諦めてくれるような相手ではないだろう。警戒はおこたるなよ
「はっ!」
レイヴンはそう言って胸に手を当てると、エリスをチラリと見て眉を顰めた。
「おい。お前、いつまでイリオ様の背中でくつろいでいるんだ」
「え、あ、そっか!ごめんなさい!」
エリスが慌ててイリオから離れると、イリオはポンッと人の姿に変化してからエリスを背中から抱きしめる。
「いいんだよ、俺がそうするように言ったんだ」
それを見て、レイヴンはハイハイそうですか、と肩をすくめた。
「エリス、休めたか?」
「え、うん。とってもよく休めたよ。ありがとう!」
エリスが嬉しそうに微笑みながらイリオの方を向くと、イリオは満足そうに笑った。
「それならよかった。よし、もう少しで目的地に着く。先を急ごう」
「俺は空から偵察します。それでは」
レイヴンはそう言ってまた黒い煙からカラスになると、空高く飛んで行った。
*
どのくらい歩いただろうか。イリオに手をひかれ、エリスは森の奥深くまで足を運んでいた。森の奥は木々がうっそうと茂り歩きずらそうに見えたが、イリオが歩く方向の木々がなぜか次々に消えて道ができていく。そして、イリオとエリスが歩き終わった道にはいつの間にかまた木々が生えて茂っていた。
(これも、イリオの力なのかな。すごい)
森の中は薄暗いはずなのに、なぜかイリオたちの周囲は明るく感じる。怖い感じもなく、なぜか安心感すら覚えてエリスはイリオをジッと見つめた。
「どうした?疲れたのか?」
「ううん、こんなに森の奥まで来たことが無かったから怖いかなと思ったけど、イリオと一緒だと不思議と安心するの。これもイリオの力なの?」
エリスが首をかしげて聞くと、イリオはフッと笑ってそうかもしれないな、と頷いた。
「さて、到着だ」
イリオが足を止めると、目の前に大きな大きな一本の木がある。その木には人が一人入れるほどの大きなうろのような穴が開いていた。
「ここが、神獣が住まう世界とこちらの世界を行き来できる入口だ」
「世界の、入り口……?」
エリスが驚いていると、イリオは木に空いた穴へ手をかざす。すると、穴の中がゆらゆらと揺らめいて、そこには違う景色が現れていた。
「俺たち神獣はこちらの世界で命を落としても元の世界で生きることができる。だから、エリスに出会う前にはあのまま命が尽きてもいいと思っていた。だが、今はお前を守り一緒に生きていくために、お前をあちらの世界へ連れていく必要がある」
イリオはエリスを見ながらエリスに片手を差し伸べる。
「あちらの世界に行ったら、こちらにもう戻るつもりはない。俺はエリスを安全な場所で守りながら一生一緒に生きていくと決めている。だが、エリスがこちらの世界に未練があれば話は別だ。エリスの嫌がることはしたくない。エリスの意思を尊重したい。エリスは、どうしたい?」




