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第24話 玄天からの招待状

 小翠が危機を脱した翌日。蘭瑛ランエイは載淵の私宮へと召喚された。

 親友を襲った毒、そして父の不可解な死。拭いきれない不安を抱えて扉を開けた蘭瑛を待っていたのは、殺風景な書斎を埋め尽くす「異常な量の肉料理」だった。


「……遅い! 貴様のせいで、この肉の表面温度が最適解から1.5度も低下した。非合理的極まりない!」


 私宮に響き渡るいつもの怒鳴り声。見れば、載淵が山積みの皿の前に仁王立ちしている。


「……あの、載淵様。これは?」

「見て分からんか。肉だ。牛、羊、豚、鳥……あらゆるタンパク質の結晶だ。毒気にあてられた脳を回復させるには、咀嚼による刺激と栄養補給が必要だというデータがある。……さあ食え、全部だ。これは私の命令だ!」


「いや、確かにタンパク質は大事です……が、そういう問題じゃないんですよ、載淵様!」


 しかし載淵はそっぽを向き、耳まで真っ赤にしながら、自分では絶対に食べきれない量の豪華な皿を蘭瑛の前にガシャンと並べた。

 本当は、蘭瑛が憔悴しているのを見て「とにかく食わせて体力をつけさせねば」とパニック気味に料理人を急かした結果なのだが、口から出るのは相変わらずの理屈ばかりだ。


「あの、載淵様。それにしてもこれ……、量が多すぎやしませんか?」

「うるさい! 貴様が倒れると、私の計画に数日の遅滞が生じる。それを防ぐための『先行投資』だ!」


 蘭瑛は、彼の「全力の空回り」に、少しだけ心が軽くなるのを感じた。

 彼女が箸を取り、一口肉を口に運ぶと、載淵は満足そうに鼻を鳴らし、机の隅に置いてあった一通の「書簡」を差し出した。


「……それと、これだ。貴様宛てに届いた。……『招待状』だそうだ」


 金糸で縁取られた、禍々しいほどに美しい紅色の封筒。

 蘭瑛がそれを開いた瞬間、部屋の中に沈香の香りが立ち込めた。


『親愛なる幻術師の娘へ。

 先代の残した「ガラクタ」は、もはやこの後宮には存在しない。

 来る万寿節(皇帝の誕生日)、私は陛下に「究極の幻術」を献上する。

 これこそが真の奇跡であり、貴女の父が最後まで見ることのできなかった「神の領域」だ。

 貴女もその特等席で、絶望という名の種明かしを待つがいい。 ――玄天』


「……宣戦布告、ですね」

 蘭瑛の手が、わずかに震える。

 父が最後まで見ることができなかった、究極の幻術。その言葉が、蘭瑛の胸の奥にある「父の死の謎」を激しく揺さぶった。


「……玄天め、図に乗りおって」

 載淵が、蘭瑛の震える手を、不器用に……しかし力強く、自分の大きな手で上から押さえつけた。


「蘭瑛。奴の『奇跡』とやらが、貴様の『ペテン』より優れているはずがない。……万寿節まで、私がお前を『過保護』なまでに管理してやる。食事も、休息も、練習もだ。……文句は言わせん。これは私の『合理的判断』だ。わかったか!」


 載淵の顔は相変わらずツンツンしているが、その手からは、蘭瑛を一人にはさせないという強い意志が伝わってきた。


「……はい、載淵様。……マジシャンを怒らせたらどうなるか、玄天に教えてあげましょう」


 蘭瑛の瞳に、再び鋭い光が戻った。

 父の死に何が隠されているのか。その答えは、万寿節の舞台の上にある。



※宿敵・玄天からの宣戦布告。彼は蘭瑛の父を「ガラクタ」と呼び、自らの幻術が勝っていると挑発します。この招待状が蘭瑛を「父の汚名をそそぐための戦い」へと駆り立てます。載淵は彼女が壊れないよう、相変わらずの肉攻めで支え続けます。

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